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表現の自由(象徴的言論)

食糧緊急措置令違反事件 最大判昭和24年5月18日

概要
食糧管理法所に基づく命令による主要食糧の政府に対する売渡に関し、これを為さざることを煽動することは、政府の政策を批判し、その失政を攻撃するに止るものではなく、国民として負担する法律上の重要な義務の不履行を慫慂し、「公共の福祉」(憲法12条)を害するものであるから、憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱し、社会生活において道義的に責むべきものであるから、これを犯罪として処罰する法規は憲法に違反しない。
判例
事案:「主要食糧ノ政府ニ対スル売渡ヲ為サザルコトヲ扇動」することを処罰する旨の食糧緊急措置令11条の憲法21条1項違反が問題となった。

判旨:「新憲法の保障する言論の自由は、旧憲法の下において、日本臣民が「法律の範囲内ニ於テ」有した言論の自由とは異なり、立法によつても妄りに制限されないものであることは言うまでもない。しかしながら国民はまた、新憲法が国民に保障する基本的人権を濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うのである(憲法12条)。それ故、新憲法下における言論の自由といえども、国民の無制約な恣意のまゝに許されるものではなく、常に公共の福祉によつて調整されなければならぬのである。所論のように、国民が政府の政策を批判し、その失政を攻撃することは、その方法が公安を害せざる限り、言論その他一切の表現の自由に属するであらう。しかしながら、現今における貧困なる食糧事情の下に国家が国民全体の主要食糧を確保するために制定した食糧管理法所期の目的の遂行を期するために定められたる同法の規定に基く命令による主要食糧の政府に対する売渡に関し、これを為さゞることを煽動するが如きは、所論のように、政府の政策を批判し、その失政を攻撃するに止るものではなく、国民として負担する法律上の重要な義務の不履行を慫慂し、公共の福祉を害するものである。されば、かゝる所為は、新憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱し、社会生活において道義的に責むべきものであるから、これを犯罪として処罰する法規は新憲法第21条の条規に反するものではない。」
過去問・解説
(H19 司法 第7問 小問2第1肢改題)
「主要食糧の政府に対する売渡を為さざることを煽動したる者」を処罰する食糧緊急措置令の規定が憲法21条に違反しないとした判決(最大判昭和24年5月18日 犯罪の扇動と表現の自由)の解釈手法は、泉佐野市市民会館事件判決(最判平成7年3月7日)の「このように限定して解する限り、当該規制は、他の基本的人権に対する侵害を回避し、防止するために必要かつ合理的なものとして、憲法第21条に違反するものではない。」と同様である。

(正答)  

(解説)
食糧緊急措置令違反事件判決(最大判昭24.5.18)は、「国民はまた、新憲法が国民に保障する基本的人権を濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うのである(憲法12条)。」とした上で、「食糧管理法…の規定に基く命令による主要食糧の政府に対する売渡に関し、これを為さゞることを煽動するが如きは、所論のように、政府の政策を批判し、その失政を攻撃するに止るものではなく、国民として負担する法律上の重要な義務の不履行を慫慂し、公共の福祉を害するものである。されば、かゝる所為は、新憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱し、社会生活において道義的に責むべきものであるから、これを犯罪として処罰する法規は新憲法第21条の条規に反するものではない。」としており、同法所定の「主要食糧ノ政府ニ対スル売渡ヲ為サザルコトヲ扇動」することは「言論…の自由」(憲法21条1項)の保護範囲外であると解している。したがって、本判決は、禁止の対象となっている同法所定の「主要食糧ノ政府ニ対スル売渡ヲ為サザルコトヲ扇動」することが「言論…の自由」(憲法21条1項)として保障されることを前提として、規制範囲を合憲限定解釈により絞り込むことにより食糧緊急措置令11条を合憲としているわけではない。
総合メモ

破防法違反事件 最二小判平成2年9月28日

概要
①破壊活動防止法39条及び40条のせん動罪は、せん動として外形に現れた客観的な行為を処罰の対象とするものであって、行為の基礎となった思想・信条を処罰するものでないから、憲法19条に違反しない。
②せん動は、公共の安全を脅かす現住建造物等放火罪、騒擾罪等の重大犯罪をひき起こす可能性のある社会的に危険な行為であるから、公共の福祉に反し、表現の自由の保護を受けるに値しないものとして、制限を受けるのはやむを得ないものであるから、せん動を処罰対象とする破壊活動防止法39条及び40条は憲法21条1項に違反しない。
③破壊活動防止法39条及び40条のせん動の概念は、同法4条2項の定義規定により明らかであるから、憲法31条にも違反しない。
判例
事案:破防法は39条・40条は、「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的をもって」なされる放火(刑法108条、109条)・殺人(刑法199条)・強盗(刑法236条1項)・騒乱(刑法106条)・往来危険(刑法125条)・警察官等に対して凶器等を携え多数共同してなす公務執行妨害罪などの予備・陰謀・教唆と、「これらの罪を実行させる目的をもってするその罪のせん動」を処罰する旨を規定している。本件では、①憲法19条、②憲法21条、③憲法31条(明確性の原則)への違反などが問題となった。

判旨:①「破壊活動防止法39条及び40条のせん動罪は、政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的(以下「政治目的」という。)をもって、各条所定の犯罪のせん動をすることを処罰するものであるが、せん動として外形に現れた客観的な行為を処罰の対象とするものであって、行為の基礎となった思想、信条を処罰するものでないことは、各条の規定自体から明らかであるから、所論は前提を欠き、適法な上告理由に当たらない。」
 ②「確かに、破壊活動防止法39条及び40条のせん動は、政治目的をもって、各条所定の犯罪を実行させる目的をもって、文書若しくは図画又は言動により、人に対し、その犯罪行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与える行為をすることであるから(同法4条2項参照)、表現活動としての性質を有している。しかしながら、表現活動といえども、絶対無制限に許容されるものではなく、公共の福祉に反し、表現の自由の限界を逸脱するときには、制限を受けるのはやむを得ないものであるところ、右のようなせん動は、公共の安全を脅かす現住建造物等放火罪、騒擾罪等の重大犯罪をひき起こす可能性のある社会的に危険な行為であるから、公共の福祉に反し、表現の自由の保護を受けるに値しないものとして、制限を受けるのはやむを得ないものというべきであり、右のようなせん動を処罰することが憲法21条1項に違反するものでないことは、当裁判所大法廷の判例…の趣旨に徴し明らかであり、所論は理由がない。」
 ③「破壊活動防止法39条及び40条のせん動の概念は、同法4条2項の定義規定により明らかであって、その犯罪構成要件が所論のようにあいまいであり、漠然としているものとはいい難いから、所論は前提を欠き、適法な上告理由に当たらない。」
過去問・解説
(H30 司法 第3問 ウ)
破壊活動防止法第39条及び第40条のせん動罪は、政治目的をもって、所定の犯罪のせん動をすることを処罰するものであるが、せん動として外形に現れた客観的な行為を処罰の対象とするもので、行為の基礎となった思想、信条を処罰するものではないから、せん動罪が政治思想を処罰するもので憲法第19条に違反するとの主張は前提を欠く。

(正答)  

(解説)
破防法違反事件判決(最判平2.9.28)は、「破壊活動防止法39条及び40条のせん動罪は、政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的…をもって、各条所定の犯罪のせん動をすることを処罰するものであるが、せん動として外形に現れた客観的な行為を処罰の対象とするものであって、行為の基礎となった思想、信条を処罰するものでないことは、各条の規定自体から明らかであるから、所論は前提を欠き、適法な上告理由に当たらない。」としている。

(R3 予備 第3問 イ)
犯罪ないし違法行為のせん動は、表現活動としての性質を有するが、具体的事情の下、そのせん動が重大な害悪を生じさせる蓋然性が高く、その害悪の発生が差し迫っていると認められる場合であれば、公共の福祉に反し、表現の自由の保護を受けるに値しないものとして、制限を受けるのはやむを得ない。

(正答)  

(解説)
破防法違反事件判決(最判平2.9.28)は、②「表現活動といえども、絶対無制限に許容されるものではなく、公共の福祉に反し、表現の自由の限界を逸脱するときには、制限を受けるのはやむを得ないものであるところ、右のようなせん動は、公共の安全を脅かす現住建造物等放火罪、騒擾罪等の重大犯罪をひき起こす可能性のある社会的に危険な行為であるから、公共の福祉に反し、表現の自由の保護を受けるに値しないものとして、制限を受けるのはやむを得ないものというべきであり、右のようなせん動を処罰することが憲法21条1項に違反するものでない…。」としている。
総合メモ