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財産権(財産権)

国有農地売払特措法事件 最大判昭和53年7月12日

概要
①法律でいったん定められた財産権の内容を事後の法律で変更することが「公共の福祉」(憲法29条2項)に適合するものであるか否かは、いったん定められた法律に基づく財産権の性質、その内容を変更する程度、及びこれを変更することによつて保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによって、判断すべきである。国有農地特別措置法2条、同法附則2項及び同法施行令1条は、財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであり、憲法29条に違反しない。
②憲法14条は、合理的理由のある差別的な取扱いまでをも禁止するものではないから、特別措置法の立法に前述のような合理的理由がある以上、国に対して当該買収農地の売払いを求める権利を取得した者について、同法の施行日前に売払いを受けた場合と同法の施行日以後に売払いを受ける場合との間において差別的な取扱いがされることになるとしても、これをもって憲法14条に違反するとはいえない。
判例
事案:農地法80条は、農林大臣は、管理する買収農地が、政令の定めるところにより、自作農の創設等の目的に供しないことを相当と認めたときは、買収対価の相当額で旧所有者に売り払わなければならない、と定めていた。その後、新たに制定された国有農地売払特措法・同法施行令により、旧所有者への売払対価が時価の7割と定められた。本件では、農地法80条に基づいて買収前の農地の所有者又はその一般承継人(以下「旧所有者」という。)が有していた、買収の対価に相当する額で買収農地の売払いを求めうるという民事上の財産権を侵害する点において、憲法29条に違反するものであり、また、既に売払いを受けた者と売払いを受けていない者とを売払いの対価の点で差別して取り扱うものであるから、憲法14条に違反するのではないかが問題となった。

判旨:①「憲法29条1項は、「財産権は、これを侵してはならない。」と規定しているが、同条2項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と規定している。したがつて、法律でいつたん定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福祉に適合するようにされたものである限り、これをもつて違憲の立法ということができないことは明らかである。そして、右の変更が公共の福祉に適合するようにされたものであるかどうかは、いつたん定められた法律に基づく財産権の性質、その内容を変更する程度、及びこれを変更することによつて保護される公益の性質などを総合的に勘案し、その変更が当該財産権に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかによつて、判断すべきである。
 本件についてこれをみると、改正前の農地法80条によれば、国が買収によつて取得し農林大臣が管理する農地について、自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする事実が生じた場合には、当該農地の旧所有者は国に対して同条2項後段に定める買収の対価相当額をもつてその農地の売払いを求める権利を取得するものと解するのが相当である(最高裁昭和四42年(行ツ)第52号同46年1月20日大法廷判決・民集25巻1号1参照)。ところで、昭和46年4月26日公布され同年5月25日施行された特別措置法は、その附則4項において、右農地法80条2項後段を削り、その2条において、売払いの対価は適正な価額によるものとし、政令で定めるところにより算出した額とする旨を規定し、これを承けて、特別措置法施行令1条1項は,同法2条の売払いの対価はその売払いに係る土地等の時価に10分の7を乗じて算出するものとする旨を定め、更に同法附則2項は、同法はその施行の日以後に農地法80条2項の規定により売払いを受けた土地等について適用する旨を規定している。したがつて、特別措置法2条、同法施行令1条、同法附則2項は、旧所有者が農地法80条2項により国に対し買収農地の売払いを求める場合の売払いの対価を、買収の対価相当額から当該土地の時価の7割に相当する額に変更したものであることは明らかである。
 そこで、以下、右のような売払いの対価の変更が権利の性質等前述した観点からみて旧所有者の売払いを求める権利に対する合理的な制約として容認されるべきものであるかどうかについて、判断する。 
 思うに、本件農地の買収について適用された自作農創設特別措置法(以下「自創法」という。)は、主として自作農を創設することにより、農業生産力の発展と農村における前近代的な地主的農地所有関係の解消を図ることを目的とするものである(同法1条参照)から、自創法によつていつたん国に買収された農地が、その後の事情の変化により、自作農の創設等の目的に供しないことを相当とするようになつたとしても、その買収が本来すべきでなかつたものになるわけではなく、また、右買収農地が正当な補償の下に国の所有となつたものである以上、当然にこれを旧所有者に返還しなければならないこととなるものでないことも明らかである。しかし、もともと、自創法に基づく農地の買収は前記のように自作農の創設による農業生産力の発展等を目的としてされるものであるから、買収農地が自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする事実が生じたときは旧所有者に買収農地を回復する権利を与えることが立法政策上当を得たものであるとして、その趣旨で農地法80条の買収農地売払制度が設けられたものと解される(前掲大法廷判決参照)。
 そこで、買収農地売払いの対価の点について考えると、買収農地売払制度が右のようなものである以上、その対価は、当然に買収の対価に相当する額でなければならないものではなく、その額をいかに定めるかは、右に述べた農地買収制度及び買収農地売払制度の趣旨・目的のほか、これらの制度の基礎をなす社会・経済全般の事情等を考慮して決定されるべき立法政策上の問題であつて、昭和27年に制定された改正前の農地法80条2項後段が売払いの対価を買収の対価相当額と定めたのは、農地買収制度の施行後さほど時を経ず、また、地価もさほど騰貴していなかつた当時の情勢にかんがみ妥当であるとされたからにすぎない。
 ところで、農地法施行後における社会的・経済的事情の変化は当初の予想をはるかに超えるものがあり、特に地価の騰貴、なかんずく都市及びその周辺におけるそれが著しいことは公知の事実である。このような事態が生じたのちに、買収の対価相当額で売払いを求める旧所有者の権利をそのまま認めておくとすれば、一般の土地取引の場合に比較してあまりにも均衡を失し、社会経済秩序に好ましくない影響を及ぼすものであることは明らかであり、しかも国有財産は適正な対価で処分されるべきものである(財政法九条一項参照)から、現に地価が著しく騰貴したのちにおいて売払いの対価を買収の対価相当額のままとすることは極めて不合理であり適正を欠くといわざるをえないのである。のみならず、右のような事情の変化が生じたのちにおいてもなお、買収の対価相当額での売払いを認めておくことは、その騰貴による利益のすべてを旧所有者に収得させる結果をきたし、一般国民の納得を得がたい不合理なものとなつたというべきである。他方、改正前の農地法80条による旧所有者の権利になんらの配慮を払わないことも、また、妥当とはいえない。特別措置法及び同法施行令が売払いの対価を時価そのものではなくその7割相当額に変更したことは、前記の社会経済秩序の保持及び国有財産の処分の適正という公益上の要請と旧所有者の前述の権利との調和を図つたものであり旧所有者の権利に対する合理的な制約として容認されるべき性質のものであつて、公共の福祉に適合するものといわなければならない。
 このように特別措置法による売払いの対価の変更は公共の福祉に適合するものであるが、同法の施行前において既に自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする事実の生じていた農地について国に対し売払いを求める旨の申込みをしていた旧所有者は、特別措置法施行の結果、時価の七割相当額の対価でなければ売払いを受けることができなくなり、その限度で買収の対価相当額で売払いを受けうる権利が害されることになることは、否定することができない。しかしながら、右の権利は当該農地について既に成立した売買契約に基づく権利ではなくて、その契約が成立するためには更に国の売払いの意思表示又はこれに代わる裁判を必要とするような権利なのであり、その権利が害されるといつても、それは売払いを求める権利自体が剥奪されるようなものではなく、権利の内容である売払いの対価が旧所有者の不利益に変更されるにとどまるものであつて、前述のとおり右変更が公共の福祉に適合するものと認められる以上、右の程度に権利が害されることは憲法上当然容認されるものといわなければならない。
 なお、論旨は、特別措置法2条にいわゆる適正な価額は、買収の対価相当額に年5分の法定利息を付した額又は農林大臣の認定義務が生じた時期における当該土地の農地価格によるべき旨を主張するものであるが、前述した買収農地売払制度の趣旨及び農地法施行後における地価の著しい騰貴の事実にかんがみると、同条にいう適正な価額を右のように解すべき理由はない。
 以上の次第であつて、特別措置法2条、同法附則2項及び同法施行令1条は、なんら憲法29条に違反するものではなく、論旨は、採用することができない。
 ②「憲法14条は、もとより合理的理由のある差別的な取扱いまでをも禁止するものではないから、特別措置法の立法に前述のような合理的理由がある以上、たとえ前記のように国に対して当該買収農地の売払いを求める権利を取得した者について、同法の施行日前に売払いを受けた場合と同法の施行日以後に売払いを受ける場合との間において差別的な取扱いがされることになるとしても、これをもつて違憲であるとすることができないことは明らかである。論旨は、採用することができない。」
過去問・解説
(R2 司法 第8問 イ)
法律で一旦定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福祉に適合するようにされたものである限り、違憲とはいえない。

(正答)  

(解説)
国有農地売払特措法事件(最大判昭53.7.12)は、「憲法29条1項は、「財産権は、これを侵してはならない。」と規定しているが、同条2項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と規定している。したがって、法律でいつたん定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福祉に適合するようにされたものである限り、これをもって違憲の立法ということができないことは明らかである。」としている。
総合メモ

森林法事件 最大判昭和62年4月22日

概要
①憲法29条は、私有財産制度のみならず、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権も保障している。
②財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう「公共の福祉」に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によつて制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものであるが、裁判所としては、立法府がした右比較考量に基づく判断を尊重すべきものであるから、立法の規制目的が前示のような社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法29条2項に違背するものとして、その効力を否定することができる。
③森林法186条が共有森林につき持分価額2分の1以下の共有者に民法256条1項所定の分割請求権を否定しているのは、森林法186条の立法目的との関係において、合理性と必要性のいずれをも肯定することのできないことが明らかであつて、この点に関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を超えるものであり、憲法29条2項に違反する。
判例
事案:森林法186条1項は、持分価額2分の1以下の森林共有者について、民法256条1項の共有分割請求権を排除していた。これについて、憲法29条違反が問題となった。

判旨:①「憲法29条は、1項において「財産権は、これを侵してはならない。」と規定し、2項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と規定し、私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障するとともに、社会全体の利益を考慮して財産権に対し制約を加える必要性が増大するに至つたため、立法府は公共の福祉に適合する限り財産権について規制を加えることができる、としているのである。」
 ②「財産権は、それ自体に内在する制約があるほか、右のとおり立法府が社会全体の利益を図るために加える規制により制約を受けるものであるが、この規制は、財産権の種類、性質等が多種多様であり、また、財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的も、社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで多岐にわたるため、種々様々でありうるのである。したがつて、財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によつて制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものであるが、裁判所としては、立法府がした右比較考量に基づく判断を尊重すべきものであるから、立法の規制目的が前示のような社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであつても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであつて、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法29条2項に違背するものとして、その効力を否定することができるものと解するのが相当である…。」
 ③「森林法186条は、共有森林につき持分価額2分の1以下の共有者(持分価額の合計が2分の1以下の複数の共有者を含む。以下同じ。)に民法256条1項所定の分割請求権を否定している。そこでまず、民法256条の立法の趣旨・目的について考察することとする。共有とは、複数の者が目的物を共同して所有することをいい、共有者は各自、それ自体所有権の性質をもつ持分権を有しているにとどまり、共有関係にあるというだけでは、それ以上に相互に特定の目的の下に結合されているとはいえないものである。そして、共有の場合にあつては、持分権が共有の性質上互いに制約し合う関係に立つため、単独所有の場合に比し、物の利用又は改善等において十分配慮されない状態におかれることがあり、また、共有者間に共有物の管理、変更等をめぐつて、意見の対立、紛争が生じやすく、いつたんかかる意見の対立、紛争が生じたときは、共有物の管理、変更等に障害を来し、物の経済的価値が十分に実現されなくなるという事態となるので、同条は、かかる弊害を除去し、共有者に目的物を自由に支配させ、その経済的効用を十分に発揮させるため、各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができるものとし、しかも共有者の締結する共有物の不分割契約について期間の制限を設け、不分割契約は右制限を超えては効力を有しないとして、共有者に共有物の分割請求権を保障しているのである。このように、共有物分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ、右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、民法において認められるに至つたものである。したがつて、当該共有物がその性質上分割することのできないものでない限り、分割請求権を共有者に否定することは、憲法上、財産権の制限に該当し、かかる制限を設ける立法は、憲法29条2項にいう公共の福祉に適合することを要するものと解すべきところ、共有森林はその性質上分割することのできないものに該当しないから、共有森林につき持分価額2分の1以下の共有者に分割請求権を否定している森林法186条は、公共の福祉に適合するものといえないときは、違憲の規定として、その効力を有しないものというべきである。」
 森林法186条…の立法目的は、…森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図り、ひいては森林の保続培養と森林の生産力の増進を図り、もつて国民経済の発展に資することにあると解すべきである。同法186条の立法目的は、以上のように解される限り、公共の福祉に合致しないことが明らかであるとはいえない。
 森林が共有となることによつて、当然に、その共有者間に森林経営のための目的的団体が形成されることになるわけではなく、また、共有者が当該森林の経営につき相互に協力すべき権利義務を負うに至るものではないから、森林が共有であることと森林の共同経営とは直接関連するものとはいえない。したがつて、共有森林の共有者間の権利義務についての規制は、森林経営の安定を直接的目的とする前示の森林法186条の立法目的と関連性が全くないとはいえないまでも、合理的関連性があるとはいえない。…以上のとおり、森林法186条が共有森林につき持分価額2分の1以下の共有者に民法256条1項所定の分割請求権を否定しているのは、森林法186条の立法目的との関係において、合理性と必要性のいずれをも肯定することのできないことが明らかであつて、この点に関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を超えるものであるといわなければならない。したがつて、同条は、憲法29条2項に違反し、無効というべきであるから、共有森林につき持分価額2分の1以下の共有者についても民法256条1項本文の適用があるものというべきである。
過去問・解説
(H22 司法 第9問 ウ)
森林共有林事件判決(最大判昭62.4.22)及び証券取引法事件判決(最大判平14.2.13)は、いずれも、財産権に規制を加える立法について規制目的の正当性は認めている。その上で、規制手段の必要性及び合理性に関して、森林共有林事件判決はこれが認められないと判断したのに対し、証券取引法164条1項の合憲性について判断した判決はこれが認められると判断したものである。

(正答)  

(解説)
森林法事件判決(最大判昭62.4.22)は、規制目的について、「森林法186条…の立法目的は、…森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図り、ひいては森林の保続培養と森林の生産力の増進を図り、もつて国民経済の発展に資することにあると解すべきである。同法186条の立法目的は、以上のように解される限り、公共の福祉に合致しないことが明らかであるとはいえない。」として、正当性を認めている。また、証券取引法事件判決(最大判平14.2.13)も、規制目的について、「証券取引法…164条1項…は、上場会社等の役員又は主要株主がその職務又は地位により取得した秘密を不当に利用することを防止することによって、一般投資家が不利益を受けることのないようにし、国民経済上重要な役割を果たしている証券取引市場の公平性、公正性を維持するとともに、これに対する一般投資家の信頼を確保するという経済政策に基づく目的を達成するためのものと解することができるところ、このような目的が正当性を有し、公共の福祉に適合するものであることは明らかである。」として、正当性を認めている。
森林法事件判決(最大判昭62.4.22)は、規制手段の必要性及び合理性について、「森林法186条が共有森林につき持分価額2分の1以下の共有者に民法256条1項所定の分割請求権を否定しているのは、森林法186条の立法目的との関係において、合理性と必要性のいずれをも肯定することのできないことが明らかであつて、この点に関する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を超えるものであるといわなければならない。」として、否定している。これに対し、証券取引法事件判決(最大判平14.2.13)は、「そのような規制手段を採ることは、前記のような立法目的達成のための手段として必要性又は合理性に欠けるものであるとはいえない。」として、肯定している。

(H24 司法 第7問 ア)
憲法第29条は、私有財産制度を保障しているのみでなく、国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障しているが、それ自体に内在する制約があるほか、社会全体の利益を図るための規制により制約を受ける。

(正答)  

(解説)
森林法事件判決(最大判昭62.4.22)は、「憲法29条は、…私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障する」と述べる一方で、「社会全体の利益を考慮して財産権に対し制約を加える必要性が増大するに至つたため、立法府は公共の福祉に適合する限り財産権について規制を加えることができる」としている。

(H24 司法 第7問 イ)
財産権規制の目的には、社会政策及び経済政策上の積極的なものから、安全の保障や秩序の維持等の消極的なものまで種々様々なものがあり得るが、森林法の共有林分割請求権を制限する規定は積極目的による規制である。

(正答)  

(解説)
確かに、森林法事件判決(最大判昭62.4.22)は、「財産権は、それ自体に内在する制約があるほか、右のとおり立法府が社会全体の利益を図るために加える規制により制約を受けるものであるが、この規制は、財産権の種類、性質等が多種多様であり、また、財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的も、社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで多岐にわたるため、種々様々でありうるのである。」としており、財産権に対する規制には積極目的によるものと消極目的によるものとがあることを明示している。
しかし、本判決は、森林法の共有林分割請求権を制限する規定の目的について、「森林法186条…の立法目的は、…森林の細分化を防止することによつて森林経営の安定を図り、ひいては森林の保続培養と森林の生産力の増進を図り、もつて国民経済の発展に資することにあると解すべきである。」と述べるにとどまり、それが積的目的であるとまでは述べていない。

(H24 司法 第7問 ウ)
財産権規制の目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、規制手段が規制目的を達成する手段として必要性や合理性に欠けていることが明らかであって、立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法は違憲となる。

(正答)  

(解説)
森林法事件判決(最大判昭62.4.22)は、立法の規制目的が…社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであつても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法29条2項に違背するものとして、その効力を否定することができる」としている。

(H27 共通 第9問 ア)
憲法第29条第1項は財産権の不可侵性を規定しているが、同項が保障するのは、私有財産制ではなく、個人が現に有する財産を侵害されないということである。

(正答)  

(解説)
森林法事件判決(最大判昭62.4.22)は、「憲法29条は、1項において「財産権は、これを侵してはならない。」と規定し、2項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と規定し、私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障する…、としているのである。」と述べており、憲法29条によって私有財産制と国民の個々の財産権の双方が保障されるとしている。

(R2 司法 第8問 ア)
憲法第29条は、私有財産制度を制度として保障するものであり、国民の個々の財産権につき基本的人権として保障するものではない。

(正答)  

(解説)
森林法事件判決(最大判昭62.4.22)は、「憲法29条は、1項において「財産権は、これを侵してはならない。」と規定し、2項において「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と規定し、私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障する…、としているのである。」と述べており、憲法29条によって私有財産制と国民の個々の財産権の双方が保障されるとしている。
総合メモ

証券取引法事件 最大判平成14年2月13日

概要
証券取引法164条1項は、証券取引市場の公平性・公正性を維持するとともにこれに対する一般投資家の信頼を確保するという目的による規制を定めるものであるところ、その規制目的は正当であり、規制手段が必要性又は合理性に欠けることが明らかであるとはいえないのであるから、公共の福祉に適合する制限を定めたものであって、憲法29条に違反するものではない。
判例
事案:証券取引法(現:金融商品取引法)164条1項は、上場会社等の役員又は主要株主が、当該上場会社の株券等の買い付け後6カ月以内に売り付け、又は売り付け後6カ月以内に買い付けることによって利益を得た場合、当該上場会社等は、当該役員又は主要株主に対して、当該短期売買差益を会社に提供するよう請求できると定めている。

判旨:①「164条1項は、上場会社等の役員又は主要株主がその職務又は地位により取得した秘密を不当に利用することを防止するため、同項所定の特定有価証券等の短期売買取引による利益を当該上場会社等に提供すべき旨を規定し…ている。…そして、個々の具体的な取引について秘密を不当に利用したか否かという事実の立証や認定は実際上極めて困難であるから、上記事実の有無を同項適用の積極要件又は消極要件とすることは、迅速かつ確実に同項の定める請求権が行使されることを妨げ、結局同項の目的を損なう結果となり兼ねない。このようなことを考慮すると、同項は、客観的な適用要件を定めて上場会社等の役員又は主要株主による秘密の不当利用を一般的に予防しようとする規定であって、上場会社等の役員又は主要株主が同項所定の有価証券等の短期売買取引をして利益を得た場合には、前記の除外例に該当しない限り、当該取引においてその者が秘密を不当に利用したか否か、その取引によって一般投資家の利益が現実に損なわれたか否かを問うことなく、当該上場会社等はその利益を提供すべきことを当該役員又は主要株主に対して請求することができるものとした規定であると解するのが相当である。」
 ②「財産権は、それ自体に内在する制約がある外、その性質上社会全体の利益を図るために立法府によって加えられる規制により制約を受けるものである。財産権の種類、性質等は多種多様であり、また、財産権に対する規制を必要とする社会的理由ないし目的も、社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策に基づくものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等を図るものまで多岐にわたるため、財産権に対する規制は、種々の態様のものがあり得る。このことからすれば、財産権に対する規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して判断すべきものである。」
 ③「そこでまず、法164条1項の規制の目的、必要性について検討するに、上場会社等の役員又は主要株主が一般投資家の知り得ない内部情報を不当に利用して当該上場会社等の特定有価証券等の売買取引をすることは、証券取引市場における公平性、公正性を著しく害し、一般投資家の利益と証券取引市場に対する信頼を損なうものであるから、これを防止する必要があるものといわなければならない。同項は、上場会社等の役員又は主要株主がその職務又は地位により取得した秘密を不当に利用することを防止することによって、一般投資家が不利益を受けることのないようにし、国民経済上重要な役割を果たしている証券取引市場の公平性、公正性を維持するとともに、これに対する一般投資家の信頼を確保するという経済政策に基づく目的を達成するためのものと解することができるところ、このような目的が正当性を有し、公共の福祉に適合するものであることは明らかである。
 次に、規制の内容等についてみると、同項は、外形的にみて上記秘密の不当利用のおそれのある取引による利益につき、個々の具体的な取引における秘密の不当利用や一般投資家の損害発生という事実の有無を問うことなく、その提供請求ができることとして、秘密を不当に利用する取引への誘因を排除しようとするものである。上記事実の有無を同項適用の積極要件又は消極要件とするとすれば、その立証や認定が実際上極めて困難であることから、同項の定める請求権の迅速かつ確実な行使を妨げ、結局その目的を損なう結果となり兼ねない。また、同項は、同条8項に基づく内閣府令で定める場合又は類型的にみて取引の態様自体から秘密を不当に利用することが認められない場合には適用されないと解すべきことは前記のとおりであるし、上場会社等の役員又は主要株主が行う当該上場会社等の特定有価証券等の売買取引を禁止するものではなく、その役員又は主要株主に対し、一定期間内に行われた取引から得た利益の提供請求を認めることによって当該利益の保持を制限するにすぎず、それ以上の財産上の不利益を課するものではない。これらの事情を考慮すると、そのような規制手段を採ることは、前記のような立法目的達成のための手段として必要性又は合理性に欠けるものであるとはいえない。
 以上のとおり、法164条1項は証券取引市場の公平性、公正性を維持するとともにこれに対する一般投資家の信頼を確保するという目的による規制を定めるものであるところ、その規制目的は正当であり、規制手段が必要性又は合理性に欠けることが明らかであるとはいえないのであるから、同項は、公共の福祉に適合する制限を定めたものであって、憲法29条に違反するものではない。」
過去問・解説
(H22 司法 第9問 ア)
森林共有林事件判決(最大判昭62.4.22)及び証券取引法事件判決(最大判平14.2.13)は、財産権に対して加えられる規制が憲法第29条第2項に適合するものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較衡量して判断すべきであるとする点で共通する。

(正答)  

(解説)
森林法事件判決(最大判昭62.4.22)は、「財産権に対して加えられる規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によつて制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきものである」としている。
証券取引法事件判決(最大判平14.2.13)も、「財産権に対する規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して判断すべきものである」としている。

(H22 司法 第9問 イ)
証券取引法事件判決(最大判平14.2.13)は、財産権に対する規制には積極的目的によるものと消極的目的によるものとがあることを明示した上、積極的目的による規制の合憲性をより緩やかに認める考え方を明確にしたものである点で、森林共有林事件判決(最大判昭62.4.22)と異なる。

(正答)  

(解説)
森林法事件判決(最大判昭62.4.22)は、「財産権は、それ自体に内在する制約があるほか、右のとおり立法府が社会全体の利益を図るために加える規制により制約を受けるものであるが、この規制は、財産権の種類、性質等が多種多様であり、また、財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的も、社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで多岐にわたるため、種々様々でありうるのである。」としており、財産権に対する規制には積極的目的によるものと消極的目的によるものとがあることを明示している。
これに対し、証券取引法事件判決(最大判平14.2.13)は、「財産権は、それ自体に内在する制約がある外、その性質上社会全体の利益を図るために立法府によって加えられる規制により制約を受けるものである。財産権の種類、性質等は多種多様であり、また、財産権に対する規制を必要とする社会的理由ないし目的も、社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策に基づくものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等を図るものまで多岐にわたるため、財産権に対する規制は、種々の態様のものがあり得る。」として、森林法事件判決に類似する判示をしているが、ここでは、積極的目的、消極的目的という文言が敢えて用いられていない。
総合メモ