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裁判所(司法権の概念)

板まんだら事件 最三小判昭和56年4月7日

概要
①裁判所法3条にいう「法律上の争訟」は、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。
②訴訟が具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとつており、その結果信仰の対象の価値又は宗教上の教義に関する判断は請求の当否を決するについての前提問題であるにとどまる場合であっても、訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものと認められ、かつ、訴訟の争点及び当事者の主張立証も右の判断に関するものがその核心となっているときは、その訴訟は、その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであって、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらない。
判例
事案:Xらは、Yの会員であったが、Yが寺の境内に「日蓮聖人の弘安1年10月11日に御建立遊ばされた一閻浮提総与の御本尊」すなわち俗称「板まんだら」を安置する「事の戒壇」たる正本堂を建立する資金を募金し、それに応じて一人あたり280円ないし2000万円を寄付した。Xらは、正本堂に安置した「板まんだら」は日蓮が弘安1年10月11日に建立した本尊」と定められた本尊ではないこと、募金時には、正本堂完成時が広宣流布の時にあたり正本堂は事の戒壇になると称していたが、正本堂が完成すると、広宣流布はまだ達成されていないことを主張し、寄付金は無効であるとして、不当利得返還請求を求めた。

判旨「裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であつて、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる(最高裁昭和39年(行ツ)第61号同41年2月8日第三小法廷判決・民集20巻2号196頁参照)。したがつて、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であつても、法令の適用により解決するのに適しないものは裁判所の審判の対象となりえない、というべきである。
 これを本件についてみるのに、錯誤による贈与の無効を原因とする本件不当利得返還請求訴訟においてXらが主張する錯誤の内容は、(1)Yは、戒壇の本尊を安置するための正本堂建立の建設費用に充てると称して本件寄付金を募金したのであるが、Yが正本堂に安置した本尊のいわゆる「板まんだら」は、日蓮正宗において「日蓮が弘安2年10月12日に建立した本尊」と定められた本尊ではないことが本件寄付の後に判明した、(2)Yは、募金時には、正本堂完成時が広宣流布の時にあたり正本堂は事の戒壇になると称していたが、正本堂が完成すると、正本堂はまだ三大秘法抄、一期弘法抄の戒壇の完結ではなく広宣流布はまだ達成されていないと言明した、というのである。要素の錯誤があつたか否かについての判断に際しては、右(1)の点については信仰の対象についての宗教上の価値に関する判断が、また、右(2)の点についても「戒壇の完結」、「広宣流布の達成」等宗教上の教義に関する判断が、それぞれ必要であり、いずれもことがらの性質上、法令を適用することによつては解決することのできない問題である。本件訴訟は、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとつており、その結果信仰の対象の価値又は宗教上の教義に関する判断は請求の当否を決するについての前提問題であるにとどまるものとされてはいるが、本件訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものと認められ、また、記録にあらわれた本件訴訟の経過に徴すると、本件訴訟の争点及び当事者の主張立証も右の判断に関するものがその核心となつていると認められることからすれば、結局本件訴訟は、その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであつて、裁判所法3条にいう法律上の争訟にあたらないものといわなければならない。」
過去問・解説
(H24 司法 第17問 ア)
「板まんだら」事件判決(最判昭和56年4月7日)は、宗教上の教義や信仰に関わる紛争について裁判所は厳に中立を保つべきであるとして、これらの事項が訴訟の前提問題に含まれている場合には、当該訴訟は法律上の争訟に当たらないとしたものである。

(正答)  

(解説)
板まんだら事件判決(最判昭56.4.7)は、「本件訴訟は、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとつており、その結果信仰の対象の価値又は宗教上の教義に関する判断は請求の当否を決するについての前提問題であるにとどまるものとされてはいるが、本件訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものと認められ、また、…本件訴訟の争点及び当事者の主張立証も右の判断に関するものがその核心となっていると認められることからすれば、結局本件訴訟は、その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであつて、裁判所法3条にいう法律上の争訟にあたらないものといわなければならない。」としており、「宗教上の教義や信仰に関わる事項が訴訟の前提問題に含まれている場合に当然に法律上の争訟性が否定されるわけではない。

(R5 司法 第16問 ア)
裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法第3条にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。したがって、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であっても、法令の適用による終局的解決に適しないものは裁判所の司法審査の対象になり得ない。

(正答)  

(解説)
板まんだら事件判決(最判昭56.4.7)は、「裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であつて、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる…。したがつて、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争であつても、法令の適用により解決するのに適しないものは裁判所の審判の対象となりえない」としている。
総合メモ

厚木基地公害訴訟 最一小判平成5年2月25日

概要
自衛隊機の離着陸等の差止め及びその他の時間帯における航空機騒音の規制を民事上の請求として求めることは、不適法である。
判例
事案:厚木基地の周辺住民が、米軍機の離着陸から生じる騒音等に晒されているとして、毎日午後8時から午前8時までの自衛隊機及び米軍機の離着陸等の差止めとその他の時間の音量規制、過去及び差止実現までの損害賠償を求めた事案において、差止請求における訴えの適法性が問題となった。

判旨:「自衛隊機の運航については、自衛隊法107条1項、4項の規定により、航空機の航行の安全又は航空機の航行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定の適用が大幅に除外され、同条五項の規定により、防衛庁長官は、自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準、その航空機に乗り組んで運航に従事する者の技能に関する基準並びに自衛隊が設置する飛行場及び航空保安施設の設置及び管理に関する基準を定め、その他航空機による災害を防止し、公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならないものとされている。このことは、自衛隊機の運航の特殊性に応じて、その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るための規制を行う権限が、防衛庁長官に与えられていることを示すものである。
 以上のように、防衛庁長官は、自衛隊に課せられた我が国の防衛等の任務の遂行のため自衛隊機の運航を統括し、その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るため必要な規制を行う権限を有するものとされているのであって、自衛隊機の運航は、このような防衛庁長官の権限の下において行われるものである。そして、自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音等の発生を伴うものであり、防衛庁長官は、右騒音等による周辺住民への影響にも配慮して自衛隊機の運航を規制し、統括すべきものである。しかし、自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であるから、自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使は、その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務づけるものといわなければならない。そうすると、右権限の行使は、右騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において、公権力の行使に当たる行為というべきである。
 上告人らの本件自衛隊機の差止請求は、被上告人に対し、本件飛行場における一定の時間帯(毎日午後8時から翌日午前8時まで)における自衛隊機の離着陸等の差止め及びその他の時間帯(毎日午前8時から午後8時まで)における航空機騒音の規制を民事上の請求として求めるものである。しかしながら、右に説示したところに照らせば、このような請求は、必然的に防衛庁長官にゆだねられた前記のような自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるものといわなければならないから、行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることができるかはともかくとして、右差止請求は不適法というべきである。以上のとおりであるから、上告人らの本件自衛隊機の差止請求に係る訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。」
過去問・解説
(H19 司法 第13問 イ)
最高裁判所は、自衛隊機の離着陸の差止めが求められた訴訟において、当該飛行場の設置及び航空機の配備・運用が違法か否かは、自衛隊の組織・活動の合法性に関する判断に左右されるのであるから、主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度に政治的な問題であり、純司法的な機能を使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまず、法律上の争訟に当たらないと判示した。

(正答)  

(解説)
厚木基地公害訴訟判決(最判平5.2.25)は、自衛隊機の離着陸の差止めが求められた訴訟について、「このような請求は、必然的に防衛庁長官にゆだねられた前記のような自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるものといわなければならない」との理由で不適法であると解しており、統治行為論には言及していない。
総合メモ

最高裁判所規則の取消訴訟 最二小判平成3年4月19日

概要
福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の各甘木支部を廃止する旨を定めた最高裁判所規則について、右支部の管轄区域内に居住する者が、具体的な紛争を離れ、抽象的に同規則の憲法違反を主張してその取消しを求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらない。
判例
事案:最高裁判所規則のうち福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の各甘木支部を廃止する部分の取消しを求める訴訟が「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に当たるかが問題となった。

判旨:「裁判所法3条1項の規定にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるのは,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に限られるところ、このような具体的な紛争を離れて、裁判所に対して抽象的に法令が憲法に適合するかしないかの判断を求めることはできないものというべきである…。
 これを本件についてみるに、本件各訴えは、地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則及び家庭裁判所出張所設置規則の一部を改正する規則(平成元年最高裁判所規則第5号。以下「本件改正規則」という。)のうち、福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の各甘木支部を廃止する部分について、これが憲法32条、14条1項、前文に違反するとし、また、本件改正規則の制定には同法77条1項所定の規則制定権の濫用の違法がある等として、上告人らが廃止に係る福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の各甘木支部の管轄区域内に居住する国民としての立場でその取消しを求めるというものであり、上告人らが、本件各訴えにおいて、裁判所に対し、右の立場以上に進んで上告人らにかかわる具体的な紛争についてその審判を求めるものでないことは、その主張自体から明らかである。そうすると、本件各訴えは、結局、裁判所に対して抽象的に最高裁判所規則が憲法に適合するかしないかの判断を求めるものに帰し、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないというほかはない。」
過去問・解説
(H22 司法 第18問 ア)
自分の居所から遠く不便となることから地方裁判所及び家庭裁判所の支部を廃止する最高裁判所規則が違憲であるとして、その支部の管轄区域内の居住者が取消しを求める訴えは、法律上の争訟に当たらない。

(正答)  

(解説)
判例(最判平3.4.19)は、最高裁判所規則のうち福岡地方裁判所及び福岡家庭裁判所の各甘木支部を廃止する部分の取消しを求める訴えについて、「結局、裁判所に対して抽象的に最高裁判所規則が憲法に適合するかしないかの判断を求めるものに帰し、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないというほかはない。」としている。
総合メモ