現在お使いのブラウザのバージョンでは、本サービスの機能をご利用いただけない可能性があります
バージョンアップを試すか、Google ChromeやMozilla Firefoxなどの最新ブラウザをお試しください
憲法 岩教組学テ事件 最大判昭和51年5月21日 - 解答モード
概要
②あおり行為等を処罰対象とする同法61条4号は、憲法18条、憲法28条に違反しない。
③同法61条4号の規定の解釈につき、争議行為に違法性の強いものと弱いものとを区別して、前者のみが同条同号にいう争議行為にあたるものとし、更にまた、右争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、又はあおる等の行為についても、いわゆる争議行為に通常随伴する行為は単なる争議参加行為と同じく可罰性を有しないものとして右規定の適用外に置かれるべきであるとの限定解釈を是認することはできない
④被告人らの行為は、同法61条4号で言う「あおり」行為又は「そそのかし」行為に、それぞれ該当する。
判例
判旨:①「地方公務員も憲法28条の勤労者として同条による労働基本権の保障を受けるが、地方公共団体の住民全体の奉仕者として、実質的にはこれに対して労務提供義務を負うという特殊な地位を有し、かつ、その労務の内容は、公務の遂行すなわち直接公共の利益のための活動の一環をなすという公共的性質を有するものであつて、地方公務員が争議行為に及ぶことは、右のようなその地位の特殊性と職務の公共性と相容れず、また、そのために公務の停廃を生じ、地方住民全体ないしは国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがある点において、国家公務員の場合と選ぶところはない。そして、地方公務員の勤務条件が、法律及び地方公共団体の議会の制定する条例によつて定められ、また、その給与が地方公共団体の税収等の財源によつてまかなわれるところから、専ら当該地方公共団体における政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮によつて決定されるべきものである点においても、地方公務員は国家公務員と同様の立場に置かれており、したがつてこの場合には、私企業における労働者の場合のように団体交渉による労働条件の決定という方式が当然には妥当せず、争議権も、団体交渉の裏づけとしての本来の機能を発揮する余地に乏しく、かえつて議会における民主的な手続によつてされるべき勤務条件の決定に対して不当な圧力を加え、これをゆがめるおそれがあることも、前記大法廷判決が国家公務員の場合について指摘するとおりである。それ故、地方公務員の労働基本権は、地方公務員を含む地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のために、これと調和するように制限されることも、やむをえないところといわなければならない。
ところで、他方、右大法廷判決は、国家公務員の労働基本権が国民全体の共同利益のために制約を受ける場合においても、その間に均衡が保たれる必要があり、したがつて右制約に見合う代償措置が講じられなければならないとして、国家公務員の勤務関係における法制上の具体的措置を検討し、国家公務員につき、その身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についてその利益を保障するような定めがされていること、及び公務員による公正かつ妥当な勤務条件の亭受を保障する手段としての人事院の存在とその職務権限を指摘し、これを労働基本権制限の合憲性を肯定する一理由としているので、この点を地方公務員の場合についてみると、地公法上、地方公務員にもまた国家公務員の場合とほぼ同様な勤務条件に関する利益を保障する定めがされている(殊に給与については、地公法24条ないし26条など)ほか、人事院制度に対応するものとして、これと類似の性格をもち、かつ、これと同様の、又はこれに近い職務権限を有する人事委員会又は公平委員会の制度(同法7条ないし12条)が設けられているのである。もつとも、詳細に両者を比較検討すると、人事委員会又は公平委員会、特に後者は、その構成及び職務権限上、公務員の勤務条件に関する利益の保護のための機構として、必ずしも常に人事院の場合ほど効果的な機能を実際に発揮しうるものと認められるかどうかにつき問題がないではないけれども、なお中立的な第三者的立場から公務員の勤務条件に関する利益を保障するための機構としての基本的構造をもち、かつ、必要な職務権限を与えられている(同法26条、47条、50条)点においては、人事院制度と本質的に異なるところはなく、その点において、制度上、地方公務員の労働基本権の制約に見合う代償措置としての一般的要件を満たしているものと認めることができるのである。
右の次第であるから、地公法37条1項前段において地方公務員の争議行為等を禁止し、かつ、同項後段が何人を問わずそれらの行為の遂行を共謀し、そそのかし、あおる等の行為をすることを禁止したとしても、地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のためのやむをえない措置として、それ自体としては憲法28条に違反するものではないといわなければならない。」
②「次に、地公法61条4号の罰則の合憲性についてみるのに、ここでも、国公法110条1項17号の罰則の合憲性について前記大法廷判決が述べているところが、そのまま妥当する。
原判決は、地公法の右規定が同法37条1項の争議行為の遂行それ自体を処罰の対象とせず、その共謀、そそのかし、あおり等の行為のみを処罰すべきものとしているのは、憲法上労働基本権に対して刑罰の制裁を伴う制約を課することは原則として許されないことを考慮した結果とみるべきものであるとの見地から、右の共謀等の行為の意義を限定的に解釈すべきものと論じているのであるが、しかし、公務員の争議行為が国民全体又は地方住民全体の共同利益のために制約されるのは、それが業務の正常な運営を阻害する集団的かつ組織的な労務不提供等の行為として反公共性をもつからであるところ、このような集団的かつ組織的な行為としての争議行為を成り立たせるものは、まさにその行為の遂行を共謀したり、そそのかしたり、あおつたりする行為であつて、これら共謀等の行為は、争議行為の原動力をなすもの、換言すれば、全体としての争議行為の中でもそれなくしては右の争議行為が成立しえないという意味においていわばその中核的地位を占めるものであり、このことは、争議行為がその都度集団行為として組織され、遂行される場合ばかりでなく、すでに組織体として存在する労働組合の内部においてあらかじめ定められた団体意思決定の過程を経て決定され、遂行される場合においても異なるところはないのである。それ故、法が、共謀、そそのかし、あおり等の行為のもつ右のような性格に着目してこれを社会的に責任の重いものと評価し、当該組合に所属する者であると否とを問わず、このような行為をした者に対して違法な争議行為の防止のために特に処罰の必要性を認め、罰則を設けることには十分合理性があり、これをもつて憲法18条、28条に違反するものとすることができないことは、前記大法廷判決の判示するとおりであるといわなければならない。」
③「また、原判決は、労働組合が行う争議行為は,組合幹部による闘争方針の企画、立案に始まり、民主的な組織内における自由な討議、討論を経て決定され、次いで上部機関から下部機関ないしは各組合員に対する指令、指示の発出、伝達となり、その間組合機関や組合員相互間のさまざまな行為が集積した結果として遂行されるのが通常であり、争議遂行過程におけるこれらの一連の行為は、集団的行為としての争議行為に不可欠か又は通常随伴する行為であるところ、これらの行為は多くは争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、又はあおる行為等に該当することとなるから、これらの行為者を罰することは、実質的には刑罰をもつて争議行為を全面的かつ一律に禁止することとなつて不当であると論じているが、国公法や地公法の上記各規定にいう争議行為の遂行の共謀、そそのかし、あおり等の行為は、将来における抽象的、不確定的な争議行為についてのそれではなく、具体的、現実的な争議行為に直接結びつき、このような争議行為の具体的危険性を生ぜしめるそれを指すのであつて、このような共謀、そそのかし、あおり等の行為こそが一般的に法の禁止する争議行為の遂行を現実化させる直接の働きをするものなのであるから、これを刑罰の制裁をもつて阻止することには、なんら原判決のいうような不当はないのである。
原判決は、更に、組合の執行役員等が、組合大会の決議等に従つて指令を発するような行為は、組合規約上の義務の遂行としてされるものにすぎず、争議行為に不可欠か又は通常随伴するものとして一般組合員の争議参加行為とその可罰的評価を異にすべきものではないとも論じているが、組合の内部規約上の義務の履行としてされているかどうかは、当然にはそそのかし、あおり等の行為者の刑事責任の有無に影響すべきものではなく、右の議論は、ひつきよう、労働組合という組織体における通常の意思決定手続に基づいて決定、遂行される違法な争議行為については、実際上、当該組合の何人に対しても個人的な責任を問うことができないということに帰着するのであつて、とうてい容認することのできないところといわなければならない。
したがつて、地公法61条4号の規定の解釈につき、争議行為に違法性の強いものと弱いものとを区別して、前者のみが同条同号にいう争議行為にあたるものとし、更にまた、右争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、又はあおる等の行為についても、いわゆる争議行為に通常随伴する行為は単なる争議参加行為と同じく可罰性を有しないものとして右規定の適用外に置かれるべきであると解しなければならない理由はなく、このような解釈を是認することはできないのである。いわゆる都教組事件についての当裁判所の判決(昭和41年(あ)第401号同44年4月2日大法廷判決・刑集23巻5号305頁)は、上記判示と抵触する限度において、変更すべきものである。そうすると、原判決の上記見解は、憲法18条、28条及び地公法61条4号の解釈を誤つたものといわなければならない。」
…前記認定事実によれば、被告人らが前記第一の一の指令、指示を発出伝達してその趣旨の実行方を慫慂した行為は、地公法37条1項違反の争議行為を実行させる目的をもつて、多数の職員に対し、その行為を実行する決意を生じさせるような、又はすでに生じている決意を助長させるような勢いのある刺戟を与えたものであつて、地公法61条4号にいう「あおり」行為に該当するものというべく、この点において、被告人らは、その余の前記中央執行委員らとともに共同正犯として同条同号による罪責を免れず、また、被告人千葉直、同態谷、同岩渕が、オルグとして組合員である各中学校長に対し前記指令、指示の実行方を慫慂した各行為は、公訴事実記載のごとき区別に従い、前同様「あおり」行為に、又は違法な争議行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りるような慫慂行為をしたものとして同条同号の「そそのかし」行為に、それぞれ該当するものといわなければならない。」
過去問・解説
(H25 予備 第1問 ウ)
国家公務員と異なり、地方公務員は、憲法の明文で「全体の奉仕者」とされていないことや、人事院制度に対応する代償措置も置かれていないことから、争議行為を企てる行為や、これをあおる行為に対して刑罰を科することは許されないと解されている。
(正答) ✕
(解説)
岩教組学テ事件判決(最大判昭51.5.21)は、「地方公務員も憲法28条の勤労者として同条による労働基本権の保障を受けるが、地方公共団体の住民全体の奉仕者として、実質的にはこれに対して労務提供義務を負うという特殊な地位を有し、かつ、その労務の内容は、公務の遂行すなわち直接公共の利益のための活動の一環をなすという公共的性質を有するものであつて、地方公務員が争議行為に及ぶことは、右のようなその地位の特殊性と職務の公共性と相容れず、また、そのために公務の停廃を生じ、地方住民全体ないしは国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがある点において、国家公務員の場合と選ぶところはない。」として、地方公務員も「地方公共団体の住民全体の奉仕者」であることを認めている。
また、「地方公務員の勤務条件が、法律及び地方公共団体の議会の制定する条例によつて定められ、また、その給与が地方公共団体の税収等の財源によつてまかなわれるところから、専ら当該地方公共団体における政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮によつて決定されるべきものである点においても、地方公務員は国家公務員と同様の立場に置かれており、したがつてこの場合には、私企業における労働者の場合のように団体交渉による労働条件の決定という方式が当然には妥当せず、争議権も、団体交渉の裏づけとしての本来の機能を発揮する余地に乏しく、かえつて議会における民主的な手続によつてされるべき勤務条件の決定に対して不当な圧力を加え、これをゆがめるおそれがあることも、前記大法廷判決が国家公務員の場合について指摘するとおりである。」として、地方公務員についても勤務条件法定主義を認めている。
さらに、「地公法上、地方公務員にもまた国家公務員の場合とほぼ同様な勤務条件に関する利益を保障する定めがされている(殊に給与については、地公法24条ないし26条など)ほか、人事院制度に対応するものとして、これと類似の性格をもち、かつ、これと同様の、又はこれに近い職務権限を有する人事委員会又は公平委員会の制度(同法7条ないし12条)が設けられているのである。もつとも、詳細に両者を比較検討すると、人事委員会又は公平委員会、特に後者は、その構成及び職務権限上、公務員の勤務条件に関する利益の保護のための機構として、必ずしも常に人事院の場合ほど効果的な機能を実際に発揮しうるものと認められるかどうかにつき問題がないではないけれども、なお中立的な第三者的立場から公務員の勤務条件に関する利益を保障するための機構としての基本的構造をもち、かつ、必要な職務権限を与えられている(同法26条、47条、50条)点においては、人事院制度と本質的に異なるところはなく、その点において、制度上、地方公務員の労働基本権の制約に見合う代償措置としての一般的要件を満たしているものと認めることができるのである。」として、地方公務員について人事院制度に対応する代償措置が置かれていることも認めている。
本判決は、これらの理由から、地方公務員の争議行為を企てる行為や、これをあおる行為に対して刑罰を科することについて、合憲であると判断している。
(H29 司法 第1問 ア)
公務員の労働基本権の制限に関し、全農林警職法事件判決(最大判昭和48年4月25日)以降の最高裁判所の判例は、職務の内容にかかわらず公務員の争議行為を一律に禁止することについて、合憲とする判断を維持している。