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憲法 レペタ事件 最大判平成元年3月8日 - 解答モード

概要
①憲法82条1項は、法廷で傍聴人がメモを取ることを権利として保障しているものではない。
②さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。
③筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないというべきである。
④法廷警察権の行使の要否及び執るべき措置についての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならない。
⑤報道の公共性、ひいては報道のための取材の自由に対する配慮に基づき、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することは、合理性を欠く措置ということはできず、憲法14条1項の規定に違反するものではない。
判例
事案:アメリカの弁護士Xは、日本における証券市場及びこれに関する法的規制に関する研究のために来日し、東京地方裁判所における所得税法違反被告事件の公判を傍聴し、各公判期日に先立ち担当裁判長にメモを取ることの許可を求めたところ、裁判長は傍聴人にメモを取ることを一般的に禁止していたため、Xに許可を与えなかった。なお、裁判長は、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してはメモを取ることを許可していた。
 Xは、裁判長が公判廷でメモを取ることを許可しなかった措置は憲法21条1項、82条、14条、国際人権規約B規約19条、刑事訴訟規則のそれぞれに違反するとして、国に対して国家賠償を求めて出訴した。以下では、憲法21条1項違反と憲法14条1項違反の問題についてのみ取り上げる。

判旨:①「憲法82条1項の規定は、裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定めているが、その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、各人は、裁判を傍聴することができることとなるが、右規定は、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでないことはもとより、傍聴人に対して法廷においてメモを取ることを権利として保障しているものではないことも、いうまでもないところである。」
 ②「憲法21条1項の規定は、表現の自由を保障している。そうして、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上において欠くことのできないものであり、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも必要であって、このような情報等に接し、これを摂取する自由は、右規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところである(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁参照)。市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「人権規約」という。)19条2項の規定も、同様の趣旨にほかならない。
 筆記行為は、一般的には人の生活活動の一つであり、生活のさまざまな場面において行われ、極めて広い範囲に及んでいるから、そのすべてが憲法の保障する自由に関係するものということはできないが、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。」
 ③「裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、傍聴人は法廷における裁判を見聞することができるのであるから、傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。もっとも、情報等の摂取を補助するためにする筆記行為の自由といえども、他者の人権と衝突する場合にはそれとの調整を図る上において、又はこれに優越する公共の利益が存在する場合にはそれを確保する必要から、一定の合理的制限を受けることがあることはやむを得ないところである。しかも、右の筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないというべきである。
 これを傍聴人のメモを取る行為についていえば、法廷は、事件を審理、裁判する場、すなわち、事実を審究し、法律を適用して、適正かつ迅速な裁判を実現すべく、裁判官及び訴訟関係人が全神経を集中すべき場であって、そこにおいて最も尊重されなければならないのは、適正かつ迅速な裁判を実現することである。傍聴人は、裁判官及び訴訟関係人と異なり、その活動を見聞する者であって、裁判に関与して何らかの積極的な活動をすることを予定されている者ではない。したがって、公正かつ円滑な訴訟の運営は、傍聴人がメモを取ることに比べれば、はるかに優越する法益であることは多言を要しないところである。してみれば、そのメモを取る行為がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然であるというべきである。適正な裁判の実現のためには、傍聴それ自体をも制限することができるとされているところでもある(刑訴規則202条、123条2項参照)。
 メモを取る行為が意を通じた傍聴人によって一斉に行われるなど、それがデモンストレーションの様相を呈する場合などは論外としても、当該事件の内容、証人、被告人の年齢や性格、傍聴人と事件との関係等の諸事情によっては、メモを取る行為そのものが、審理、裁判の場にふさわしくない雰囲気を醸し出したり、証人、被告人に不当な心理的圧迫などの影響を及ぼしたりすることがあり、ひいては公正かつ円滑な訴訟の運営が妨げられるおそれが生ずる場合のあり得ることは否定できない。しかしながら、それにもかかわらず、傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであって、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべきであり、それが憲法21条1項の規定の精神に合致するものということができる。」
 ④「法廷を主宰する裁判長(開廷をした一人の裁判官を含む。以下同じ。)には、裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対して、法廷の秩序を維持するため相当な処分をする権限が付与されている(裁判所法71条、刑訴法288条2項)。右の法廷警察権は、法廷における訴訟の運営に対する傍聴人等の妨害を抑制、排除し、適正かつ迅速な裁判の実現という憲法上の要請を満たすために裁判長に付与された権限である。しかも、裁判所の職務の執行を妨げたり、法廷の秩序を乱したりする行為は、裁判の各場面においてさまざまな形で現れ得るものであり、法廷警察権は、右の各場面において、その都度、これに即応して適切に行使されなければならないことにかんがみれば、その行使は、当該法廷の状況等を最も的確に把握し得る立場にあり、かつ、訴訟の進行に全責任をもつ裁判長の広範な裁量に委ねられて然るべきものというべきであるから、その行使の要否、執るべき措置についての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならないのである。」
 ⑤「憲法14条1項の規定は、各人に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、それぞれの事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではないと解すべきである…とともに、報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供するものであって、事実の報道の自由は、表現の自由を定めた憲法21条1項の規定の保障の下にあることはいうまでもなく、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由も、憲法21条の規定の精神に照らし、十分尊重に値するものである…。そうであってみれば、以上の趣旨が法廷警察権の行使に当たって配慮されることがあっても、裁判の報道の重要性に照らせば当然であり、報道の公共性、ひいては報道のための取材の自由に対する配慮に基づき、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することも、合理性を欠く措置ということはできないというべきである。本件裁判長において執った右の措置は、このような配慮に基づくものと思料されるから、合理性を欠くとまでいうことはできず、憲法14条1項の規定に違反するものではない。」
過去問・解説

(H22 司法 第6問 イ)
一般人の筆記行為の自由は、報道機関の取材の自由と同様に、憲法21条の精神に照らして十分尊重に値する。したがって、一般の傍聴者が法廷でメモを取る行為と司法記者クラブ所属の報道機関の記者が法廷でメモを取る行為とを区別することには、合理的理由を見出すことはできない。

(正答)  

(解説)
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである」とするにとどまり、博多駅事件決定(最大決昭44.11.26)のように「憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値いする」とまでは述べていない。したがって、本肢前段は、「一般人の筆記行為の自由は、報道機関の取材の自由と同様に、憲法21条の精神に照らして十分尊重に値する。」としている点において、誤っている。
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「報道機関の…事実の報道の自由は、表現の自由を定めた憲法21条1項の規定の保障の下にあることはいうまでもなく、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由も、憲法21条の規定の精神に照らし、十分尊重に値するものである…。」との理由から、「以上の趣旨が法廷警察権の行使に当たって配慮されることがあっても、裁判の報道の重要性に照らせば当然であり、報道の公共性、ひいては報道のための取材の自由に対する配慮に基づき、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することも、合理性を欠く措置ということはできないというべきである。」としている。したがって、本肢後段は、「一般の傍聴者が法廷でメモを取る行為と司法記者クラブ所属の報道機関の記者が法廷でメモを取る行為とを区別することには、合理的理由を見出すことはできない。」としている点において、誤っている。


(H28 予備 第3問 ウ)
法廷における筆記行為の自由は憲法21条の規定の精神に照らして尊重されるべきであるが、その制限は表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準までは要求されず、メモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には制限される。

(正答)  

(解説)
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。…傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。」とする一方で、「右の筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないというべきである。これを傍聴人のメモを取る行為についていえば、…そのメモを取る行為がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然であるというべきである。」としている。


(H29 予備 第3問 イ)
裁判の傍聴人が法廷においてメモを取ることについては、憲法21条1項の規定により憲法上の権利として保障されており、法廷警察権によってこれを制限又は禁止することは、公正かつ円滑な訴訟の運営の妨げとなるおそれがあるにとどまらず、訴訟の運営に具体的な支障が現実に生じている場合でなければ許されない。

(正答)  

(解説)
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。…傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。」と述べており、裁判の傍聴人が法廷においてメモを取ることについて、憲法21条1項の規定により憲法上の権利として保障されているとは解していない。したがって、本肢前段は、「裁判の傍聴人が法廷においてメモを取ることについては、憲法21条1項の規定により憲法上の権利として保障されており」としている点において、誤っている。
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「傍聴人のメモを取る行為…がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然であるというべきである。」としており、訴訟の運営に具体的な支障が現実に生じていることまでは要求していない。したがって、本肢後段も誤っている。


(R5 司法 第3問 ア)
情報摂取のためになされる筆記行為の自由は、憲法21条1項の精神に照らして尊重されるべきであって、傍聴人が法廷でメモを取る自由は、そこで見聞する裁判を認識、記憶するためになされる限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないから、その制限又は禁止に対する審査に当たっては、表現の自由に制約を加える場合に一般的に必要とされる厳格な基準が要求される。

(正答)  

(解説)
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。…傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。」とする一方で、「右の筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないというべきである。これを傍聴人のメモを取る行為についていえば、…そのメモを取る行為がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然であるというべきである。」としている。

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