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憲法 徳島市公安条例事件 最大判昭和50年9月10日
概要
ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである。
判例
事案:道路交通法77条1項4号の委任に基づき、徳島県公安委員会は「集団行進」を管轄警察署長の許可の対象として指定しており、同条3項は、警察署長が許可に条件を付すことを認めており、条件違反に対する罰則として3月以下の懲役又は3万円以下の罰金が定められている(119条1項13号)。徳島市公安条例では、集団示威行進等について市公安委員会への届出制を定め、「公共の安寧を保持するため」集団示威行進を行う者が遵守すべき事項として「交通秩序を維持すること」を掲げ(3条3号)、それを遵守しない集団示威行進の「主催者、指導者又は扇動者」に対する罰則として「1年以下の懲役若しくは禁錮又は5万円以下の罰金」を定めていた。
事件では、①徳島市公安条例が道路交通法に抵触するものとして憲法94条に違反するか、②同条例が集団示威運動を行う者の遵守事項として定めている「交通秩序を維持すること」という文言の不明確性(憲法31条違反)が問題となった。①については、地方自治のカテゴリに属する徳島市公安条例事件の判旨として取り上げている(https://law-lib.jp/subjects/1/precedents/221)。
事件では、①徳島市公安条例が道路交通法に抵触するものとして憲法94条に違反するか、②同条例が集団示威運動を行う者の遵守事項として定めている「交通秩序を維持すること」という文言の不明確性(憲法31条違反)が問題となった。①については、地方自治のカテゴリに属する徳島市公安条例事件の判旨として取り上げている(https://law-lib.jp/subjects/1/precedents/221)。
判旨:「およそ、刑罰法規の定める犯罪構成要件があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反し無効であるとされるのは、その規定が通常の判断能力を有する一般人に対して、禁止される行為とそうでない行為とを識別するための基準を示すところがなく、そのため、その適用を受ける国民に対して刑罰の対象となる行為をあらかじめ告知する機能を果たさず、また、その運用がこれを適用する国又は地方公共団体の機関の主観的判断にゆだねられて恣意に流れる等、重大な弊害を生ずるからであると考えられる。しかし、一般に法規は、規定の文言の表現力に限界があるばかりでなく、その性質上多かれ少なかれ抽象性を有し、刑罰法規もその例外をなすものではないから、禁止される行為とそうでない行為との識別を可能ならしめる基準といつても、必ずしも常に絶対的なそれを要求することはできず、合理的な判断を必要とする場合があることを免れない。それゆえ、ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである。
…本条例3条が、集団行進等を行おうとする者が、集団行進等の秩序を保ち、公共の安寧を保持するために守らなければならない事項の一つとして、その3号に「交通秩序を維持すること」を掲げているのは、道路における集団行進等が一般的に秩序正しく平穏に行われる場合にこれに随伴する交通秩序阻害の程度を超えた、殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為を避止すべきことを命じているものと解されるのである。そして、通常の判断能力を有する一般人が、具体的場合において、自己がしようとする行為が右条項による禁止に触れるものであるかどうかを判断するにあたつては、その行為が秩序正しく平穏に行われる集団行進等に伴う交通秩序の阻害を生ずるにとどまるものか、あるいは殊更な交通秩序の阻害をもたらすようなものであるかを考えることにより、通常その判断にさほどの困難を感じることはないはずであり、例えば各地における道路上の集団行進等に際して往々みられるだ行進、うず巻行進、すわり込み、道路一杯を占拠するいわゆるフランスデモ等の行為が、秩序正しく平穏な集団行進等に随伴する交通秩序阻害の程度を超えて、殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為にあたるものと容易に想到することができるというべきである。
さらに、前述のように、このような殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為は、思想表現行為としての集団行進等に不可欠な要素ではなく、したがつて、これを禁止しても国民の憲法上の権利の正当な行使を制限することにはならず、また、殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為であるかどうかは、通常さほどの困難なしに判断しうることであるから、本条例3条3号の規定により、国民の憲法上の権利の正当な行使が阻害されるおそれがあるとか、国又は地方公共団体の機関による恣意的な運用を許すおそれがあるとは、ほとんど考えられないのである(なお、記録上あらわれた本条例の運用の実態をみても、本条例3条3号の規定が、国民の憲法上の権利の正当な行使を阻害したとか、国又は地方公共団体の機関の恣意的な運用を許したとかいう弊害を生じた形跡は、全く認められない。 )
このように見てくると、本条例3条3号の規定は、確かにその文言が抽象的であるとのそしりを免れないとはいえ、集団行進等における道路交通の秩序遵守についての基準を読みとることが可能であり、犯罪構成要件の内容をなすものとして明確性を欠き憲法31条に違反するものとはいえない…。」
さらに、前述のように、このような殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為は、思想表現行為としての集団行進等に不可欠な要素ではなく、したがつて、これを禁止しても国民の憲法上の権利の正当な行使を制限することにはならず、また、殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為であるかどうかは、通常さほどの困難なしに判断しうることであるから、本条例3条3号の規定により、国民の憲法上の権利の正当な行使が阻害されるおそれがあるとか、国又は地方公共団体の機関による恣意的な運用を許すおそれがあるとは、ほとんど考えられないのである(なお、記録上あらわれた本条例の運用の実態をみても、本条例3条3号の規定が、国民の憲法上の権利の正当な行使を阻害したとか、国又は地方公共団体の機関の恣意的な運用を許したとかいう弊害を生じた形跡は、全く認められない。 )
このように見てくると、本条例3条3号の規定は、確かにその文言が抽象的であるとのそしりを免れないとはいえ、集団行進等における道路交通の秩序遵守についての基準を読みとることが可能であり、犯罪構成要件の内容をなすものとして明確性を欠き憲法31条に違反するものとはいえない…。」
過去問・解説
(H25 予備 第3問 ウ)
殊更に交通秩序の阻害をもたらすような行為は、思想表現行為としての集団行進に不可欠な要素ではないから、道路における集団行進を許可するに際し、これを禁ずるという条件を付するとしても、憲法上の権利を不当に侵害するものではない。
殊更に交通秩序の阻害をもたらすような行為は、思想表現行為としての集団行進に不可欠な要素ではないから、道路における集団行進を許可するに際し、これを禁ずるという条件を付するとしても、憲法上の権利を不当に侵害するものではない。
(正答) 〇
(解説)
徳島市公安条例事件判決(最大判昭50.9.10)は、「このような殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為は、思想表現行為としての集団行進等に不可欠な要素ではなく、したがって、これを禁止しても国民の憲法上の権利の正当な行使を制限することにはならず、また、殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為であるかどうかは、通常さほどの困難なしに判断しうることであるから、本条例3条3号の規定により、国民の憲法上の権利の正当な行使が阻害されるおそれがあるとか、国又は地方公共団体の機関による恣意的な運用を許すおそれがあるとは、ほとんど考えられないのである…。」としている。
徳島市公安条例事件判決(最大判昭50.9.10)は、「このような殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為は、思想表現行為としての集団行進等に不可欠な要素ではなく、したがって、これを禁止しても国民の憲法上の権利の正当な行使を制限することにはならず、また、殊更な交通秩序の阻害をもたらすような行為であるかどうかは、通常さほどの困難なしに判断しうることであるから、本条例3条3号の規定により、国民の憲法上の権利の正当な行使が阻害されるおそれがあるとか、国又は地方公共団体の機関による恣意的な運用を許すおそれがあるとは、ほとんど考えられないのである…。」としている。
(R2 司法 第17問 ウ)
判例は、ある事項について国の法令中に明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、規定の欠如が当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、当該事項について条例で規律することが法令違反になり得るとしている。
判例は、ある事項について国の法令中に明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、規定の欠如が当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、当該事項について条例で規律することが法令違反になり得るとしている。
(正答) 〇
(解説)
徳島市公安条例事件判決(最大判昭50.9.10)は、「地方自治法14条1項は、普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて同法2条2項の事務に関し条例を制定することができる、と規定しているから、普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。」とした上で、「例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうる…。」としている。
徳島市公安条例事件判決(最大判昭50.9.10)は、「地方自治法14条1項は、普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて同法2条2項の事務に関し条例を制定することができる、と規定しているから、普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。」とした上で、「例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうる…。」としている。