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憲法 土地収用法71条に定める土地補償金の算定基準の合憲性 最三小判平成14年6月11日

概要
土地収用法71条は、憲法29条3項には違反しない。
判例
事案:土地収用法71条は、土地収用の補償額について、事業認定告示の時点における相当な価格を算定した上で、これに権利取得裁決までの物価変動率(法71条所定の修正率)を乗じるという算定方法を規定している(事業認定時主義、価格固定主義)。
 事業認定の告示があると、その時点から、被収用地及び近傍類地の地価が上昇するのが通常であるから、近傍類地の地価変動率が物価変動率を上回るのが通常である。これを開発利益という。
 昭和42年改正前の土地収用法が採用していた裁決時主義の下では、①この開発利益を起業者が得られず、これは不合理であること、②裁決が遅れるほど補償額が高くなるため、ゴネ得を助長することとなり、これが事業の円滑な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、改正土地収用法71条は、補償金額の算定方法について、「事業認定告示時の地価 × 物価変動率」と定めたのである。

判旨:「(1)憲法29条3項にいう「正当な補償」とは、その当時の経済状態において成立すると考えられる価格に基づき合理的に算出された相当な額をいうのであって、必ずしも常に上記の価格と完全に一致することを要するものではないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和25年(オ)第98号同28年12月23日大法廷判決・民集7巻13号1523頁)とするところである。土地収用法71条の規定が憲法29条3項に違反するかどうかも、この判例の趣旨に従って判断すべきものである。
(2)土地の収用に伴う補償は、収用によって土地所有者等が受ける損失に対してされるものである(土地収用法68条)ところ、収用されることが最終的に決定されるのは権利取得裁決によるのであり、その時に補償金の額が具体的に決定される(同法48条1項)のであるから、補償金の額は、同裁決の時を基準にして算定されるべきである。その具体的方法として、同法71条は、事業の認定の告示の時における相当な価格を近傍類地の取引価格等を考慮して算定した上で、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて、権利取得裁決の時における補償金の額を決定することとしている。 
(3)事業認定の告示の時から権利取得裁決の時までには、近傍類地の取引価格に変動が生ずることがあり、その変動率は必ずしも上記の修正率と一致するとはいえない。しかしながら、上記の近傍類地の取引価格の変動は、一般的に当該事業による影響を受けたものであると考えられるところ、事業により近傍類地に付加されることとなった価値と同等の価値を収用地の所有者等が当然に享受し得る理由はないし、事業の影響により生ずる収用地そのものの価値の変動は、起業者に帰属し、又は起業者が負担すべきものである。また、土地が収用されることが最終的に決定されるのは権利取得裁決によるのであるが、事業認定が告示されることにより、当該土地については、任意買収に応じない限り、起業者の申立てにより権利取得裁決がされて収用されることが確定するのであり、その後は、これが一般の取引の対象となることはないから、その取引価格が一般の土地と同様に変動するものとはいえない。そして、任意買収においては、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業認定の告示の時における相当な価格を基準として契約が締結されることが予定されているということができる。
 なお、土地収用法は、事業認定の告示があった後は、権利取得裁決がされる前であっても、土地所有者等が起業者に対し補償金の支払を請求することができ、請求を受けた起業者は原則として4月以内に補償金の見積額を支払わなければならないものとしている(同法46条の2、46条の4)から、この制度を利用することにより、所有者が近傍において被収用地と見合う代替地を取得することは可能である。
 これらのことにかんがみれば、土地収用法71条が補償金の額について前記のように規定したことには、十分な合理性があり、これにより、被収用者は、収用の前後を通じて被収用者の有する財産価値を等しくさせるような補償を受けられるものというべきである。
(4)以上のとおりであるから、土地収用法71条の規定は憲法29条3項に違反するものではない。そのように解すべきことは、前記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。論旨は、採用することができない。」
過去問・解説
(R3 共通 第8問 ウ)
財産上の権利の行使を制限する法律に補償規定が置かれている場合であっても、その法律は、補償の内容が憲法第29条第3項の要求する水準にあるか否かについて、憲法適合性の審査の対象となる。

(正答)  

(解説)
財産上の権利の行使を制限する法律に補償規定が置かれていないことが憲法29条3項に違反するかと、補償規定が置かれている場合においてその補償内容が憲法29条3項でいう「正当な補償」に当たるかは、理論上別の問題であるから、財産上の権利の行使を制限する法律に補償規定が置かれている場合であっても、その法律は、補償の内容が憲法第29条第3項の要求する水準にあるか否かについて、憲法適合性の審査の対象となる。
例えば、平成14年判決(最判平14.6.11)は、土地収用法71条が補償金の額が憲法29条3項にいう「正当な補償」に当たるか否かを審査し、「土地収用法71条の規定は憲法29条3項に違反するものではない」と結論付けている。
総合メモ
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