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憲法 議員定数不均衡訴訟 最大判平成24年10月17日

概要
平成22年7月11日施行の参議院議員選挙の当時において議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対5.00の較差を生じさせていた参議院議員定数配分規定は、憲法に違反するに至っていたとはいえない。
判例
事案:平成22年7月11日施行の参議院議員選挙の当時、議員1人当たりの選挙人数の最大格差は1対5.00あった。

判旨:①「憲法は、…投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら、憲法は、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準となるものではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない。」
 ②「憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。前記…においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは、このような観点から、参議院議員について、全国選出議員と地方選出議員に分け、前者については全国の区域を通じて選挙するものとし、後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである…。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において、このような選挙制度の仕組みを定めたことが、国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果、投票価値の著しい不平等状態が生じ、かつ、それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが、国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には、当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
 以上は、昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり、後記…の点をおくとしても、基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
 もっとも、最大較差1対5前後が常態化する中で、…平成21年大法廷判決においては、投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって較差の縮小が求められること及びそのためには選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることが指摘されるに至っており、これらの大法廷判決においては、上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも、投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたところである。」
 ③「上記の見地に立って、本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。
 憲法は、二院制の下で、一定の事項について衆議院の優越を認め(59条ないし61条、67条、69条)、その反面、参議院議員の任期を6年の長期とし、解散(54条)もなく、選挙は3年ごとにその半数について行う(46条)ことを定めている。その趣旨は、議院内閣制の下で、限られた範囲について衆議院の優越を認め、機能的な国政の運営を図る一方、立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与え、参議院議員の任期をより長期とすることによって、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映し、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保しようとしたものと解される。いかなる具体的な選挙制度によって、上記の憲法の趣旨を実現し、投票価値の平等の要請と調和させていくかは、二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け、これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め、国会の合理的な裁量に委ねられているところであるが、その合理性を検討するに当たっては、参議院議員の選挙制度が設けられてから60年余、当裁判所大法廷において前記…の基本的な判断枠組みが最初に示されてからでも30年近くにわたる、制度と社会の状況の変化を考慮することが必要である。
 参議院議員の選挙制度の変遷は前記…のとおりであって、これを衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると、両議院とも、政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上、選挙の単位の区域に広狭の差はあるものの、いずれも、都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と、より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ、その結果として同質的な選挙制度となってきているということができる。このような選挙制度の変遷とともに、急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきているということができる。加えて、衆議院については、この間の改正を通じて、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められている。これらの事情に照らすと、参議院についても、二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に、更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。
 …さきに述べたような憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。…平成16年、同18年及び同21年の各大法廷判決において、前記…のとおり投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたのも、較差が5倍前後で推移する中で、前記…においてみたような長年にわたる制度と社会の状況の変化を反映したものにほかならない。
現行の選挙制度は、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に、都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組みを採っているが、人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で、このような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。…前回の平成19年選挙についても、投票価値の大きな不平等がある状態であって、選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは、平成21年大法廷判決において特に指摘されていたところである。それにもかかわらず、平成18年改正後は上記状態の解消に向けた法改正は行われることなく、本件選挙に至ったものである。これらの事情を総合考慮すると、本件選挙が平成18年改正による4増4減の措置後に実施された2回目の通常選挙であることを勘案しても、本件選挙当時、前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており、これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。
 もっとも、当裁判所が平成21年大法廷判決においてこうした参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性を指摘したのは本件選挙の約9か月前のことであり、その判示の中でも言及されているように、選挙制度の仕組み自体の見直しについては、参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど、事柄の性質上課題も多いためその検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないこと、参議院において、同判決の趣旨を踏まえ、参議院改革協議会の下に設置された専門委員会における協議がされるなど、選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていたこと…などを考慮すると、本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。」
 ④「参議院議員の選挙制度については、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて各選挙区の定数が偶数で設定されるという制約の下で、長期にわたり投票価値の大きな較差が続いてきた。しかしながら、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、さきに述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある。」
過去問・解説
(H27 司法 第12問 ウ)
参議院議員選挙に関して、判例は、半数改選という憲法上の要請、そして都道府県を単位とする参議院の選挙区選挙における地域代表的性格という特殊性を重視して、都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持することを是認し続けている。

(正答)  

(解説)
判例(最大判平24.10.17)は、「憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。」、「参議院議員の選挙制度については、限られた総定数の枠内で、半数改選という憲法上の要請を踏まえて各選挙区の定数が偶数で設定されるという制約の下で、長期にわたり投票価値の大きな較差が続いてきた。しかしながら、国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることや、さきに述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある。」としている。

(H30 共通 第13問 ア)
判例は、参議院議員選挙における定数不均衡の問題について、参議院の半数改選制の要請を踏まえれば投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められても憲法に違反するとはいえないとして、衆議院の場合よりも広い立法裁量を認めてきており、これまで違憲状態を認定したことはない。

(正答)  

(解説)
平成8年判決(最大判平8.9.11)及び平成24年判決(最大判平24.10.17)は、参議院議員選挙における定数不均衡の問題について、「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた。」と判示している。また、平成24年判決(最大判平24.10.17)は、「憲法の趣旨、参議院の役割等に照らすと、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。」としている。
総合メモ
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