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憲法 NHK番組改編訴訟 最一小判平成20年6月12日

概要
放送事業者又は制作業者から素材収集のための取材を受けた取材対象者が、取材担当者の言動等によって、当該取材で得られた素材が一定の内容、方法により放送に使用されるものと期待し、あるいは信頼したとしても、その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならないというべきである。
もっとも、当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において、取材担当者が、そのことを認識した上で、取材対象者に対し、取材で得た素材について、必ず一定の内容、方法により番組中で取り上げる旨説明し、その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは、取材対象者が同人に対する取材で得られた素材が上記一定の内容、方法で当該番組において取り上げられるものと期待し、信頼したことが法律上保護される利益となり得るものというべきである。
判例
事案:番組のための取材を受け、これに協力したXが、放送内容が取材時に説明したことと異なっていたことについて、取材通りの内容の放送がなされる期待・信頼が侵害されたとして、番組を制作したYに対して、債務不履行又は不法行為を理由として損害賠償を請求した事案において、取材通りの放送がなされることに対する期待・信頼が法的な保護に値するかが問題となった。

判旨:「放送法は、『放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること』等の原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的として制定されたものである(同法1条)が、同法3条は、『放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。』と規定し、同法3条の2第1項は、『放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。一 公安及び善良な風俗を害しないこと。二 政治的に公平であること。三 報道は事実をまげないですること。四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。』と規定し、同法3条の3第1項は、『放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準(以下”番組基準”という。)を定め、これに従って放送番組の編集をしなければならない。』と規定している。これらの放送法の条項は、放送事業者による放送は、国民の知る権利に奉仕するものとして表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあることを法律上明らかにするとともに、放送事業者による放送が公共の福祉に適合するように番組の編集に当たって遵守すべき事項を定め、これに基づいて放送事業者が自ら定めた番組基準に従って番組の編集が行われるという番組編集の自律性について規定したものと解される。
 このように、法律上、放送事業者がどのような内容の放送をするか、すなわち、どのように番組の編集をするかは、表現の自由の保障の下、公共の福祉の適合性に配慮した放送事業者の自律的判断にゆだねられているが、これは放送事業者による放送の性質上当然のことということもでき、国民一般に認識されていることでもあると考えられる。
 そして、放送事業者の制作した番組として放送されるものである以上、番組の編集に当たっては、放送事業者の内部で、様々な立場、様々な観点から検討され、意見が述べられるのは、当然のことであり、その結果、最終的な放送の内容が編集の段階で当初企画されたものとは異なるものになったり、企画された番組自体が放送に至らない可能性があることも当然のことと国民一般に認識されているものと考えられる。
 …放送事業者が番組を制作し、これを放送する場合には、放送事業者は、自ら、あるいは、制作に協力を依頼した関係業者(以下『制作業者』という。)と共に、取材によって放送に使用される可能性のある素材を広く収集した上で、自らの判断により素材を取捨選択し、意見、論評等を付加するなどの編集作業を経て、番組としてこれを外部に公表することになるものと考えられるが、上記のとおり、放送事業者がどのように番組の編集をするかは、放送事業者の自律的判断にゆだねられており、番組の編集段階における検討により最終的な放送の内容が当初企画されたものとは異なるものになったり、企画された番組自体放送に至らない可能性があることも当然のことと認識されているものと考えられることからすれば、放送事業者又は制作業者から素材収集のための取材を受けた取材対象者が、取材担当者の言動等によって、当該取材で得られた素材が一定の内容、方法により放送に使用されるものと期待し、あるいは信頼したとしても、その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならないというべきである。
 もっとも、取材対象者は、取材担当者から取材の目的、趣旨等に関する説明を受けて、その自由な判断で取材に応ずるかどうかの意思決定をするものであるから、取材対象者が抱いた上記のような期待、信頼がどのような場合でもおよそ法的保護の対象とはなり得ないということもできない。すなわち、当該取材に応ずることにより必然的に取材対象者に格段の負担が生ずる場合において、取材担当者が、そのことを認識した上で、取材対象者に対し、取材で得た素材について、必ず一定の内容、方法により番組中で取り上げる旨説明し、その説明が客観的に見ても取材対象者に取材に応ずるという意思決定をさせる原因となるようなものであったときは、取材対象者が同人に対する取材で得られた素材が上記一定の内容、方法で当該番組において取り上げられるものと期待し、信頼したことが法律上保護される利益となり得るものというべきである。そして、そのような場合に、結果として放送された番組の内容が取材担当者の説明と異なるものとなった場合には、当該番組の種類、性質やその後の事情の変化等の諸般の事情により、当該番組において上記素材が上記説明のとおりに取り上げられなかったこともやむを得ないといえるようなときは別として、取材対象者の上記期待、信頼を不当に損なうものとして、放送事業者や制作業者に不法行為責任が認められる余地があるものというべきである。」
過去問・解説
(R7 司法 第6問 イ)
最高裁判所は、放送法上、放送事業者がどのように番組の編集をするかは、表現の自由の保障の下、公共の福祉の適合性に配慮した放送事業者の自律的判断に委ねられているから、放送事業者から取材を受けた者が、当該取材で得られた素材が一定の内容、方法により放送に使用されると期待し、あるいは信頼したとしても、その期待や信頼は、原則として法的保護の対象とはならないとした。

(正答)

(解説)
判例(最判平20.6.12)は、「放送事業者がどのように番組の編集をするかは、放送事業者の自律的判断にゆだねられており…放送事業 者又は制作業者から素材収集のための取材を受けた取材対象者が、取材担当者の言動等によって、当該取材で得られた素材が一定の内容、方法により放送に使用されるものと期待し、あるいは信頼したとしても、その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならないというべきである。」としている。
総合メモ
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