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憲法 都教組事件 最大判昭和44年4月2日

概要
①公務員の争議行為を禁止する地方公務員法37条1項、及び違法な争議行為のあおり行為等をした者を処罰対象とする同法61条4号は、憲法28条に違反しない。
②あおり行為等が処罰されるのは、争議行為自体の違法性が強いものであり、かつ、あおり行為等の違法性も強い場合に限られ、「争議行為に通常随伴して行われる行為」は処罰対象とならない(二重のしぼり論)。
判例
事案:東京都教職員組合は、加盟組合員に対して、年次有給休暇を一斉に請求して公立中学校の教職員の勤務評価制度に反する集会に参加するよう指示し、多数の教員が集会に参加することに至った。そして、東京都教職員組合の役員らは、地方公務員である教職員に対しストライキの遂行をあおったとして地方公務員法37条1項・61条4号違反で起訴された。

判旨:①「公務員の労働基本権について、当裁判所は、さきに、昭和41年10月26日の判決(いわゆる全逓中郵事件判決)において、つぎのとおり判示した。
 『憲法28条は、いわゆる労働基本権、すなわち、勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を保障している。この労働基本権の保障の狙いは、憲法25条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立ち、一方で、憲法27条の定めるところによつて、勤労の権利および勤労条件を保障するとともに、他方で、憲法28条の定めるところによつて、経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するための手段として、その団結権、団体交渉権、争議権等を保障しようとするものである。
 このように、憲法自体が労働基本権を保障している趣旨にそくして考えれば、実定法規によつて労働基本権の制限を定めている場合にも、労働基本権保障の根本精神にそくしてその制限の意味を考察すべきであり、ことに生存権の保障を基本理念とし、財産権の保障と並んで勤労者の労働権・団結権・団体交渉権・争議権の保障をしている法体制のもとでは、これら両者の間の調和と均衡が保たれるように、実定法規の適切妥当な法解釈をしなければならない。
 右に述べた労働基本権は、たんに私企業の労働者だけについて保障されるのではなく、公共企業体の職員はもとよりのこと、国家公務員や地方公務員も、憲法28条にいう勤労者にほかならない以上、原則的には、その保障を受けるべきものと解される。』
 右判決に示された基本的立場は、本件の判断にあたつても、当然の前提として、維持すべきものと考える。
 右のような見地に立つて考えれば、「公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」とする憲法15条を根拠として、公務員に対して右の労働基本権をすべて否定するようなことが許されないことは当然であるが、公務員の労働基本権については、公務員の職務の性質・内容に応じて、私企業における労働者と異なる制約を受けることのあるべきことも、また、否定することができない。ところで、公務員の職務の性質・内容は、きわめて多種多様であり、公務員の職務に固有の、公共性のきわめて強いものから、私企業のそれとほとんど変わるところがない、公共性の比較的弱いものに至るまで、きわめて多岐にわたつている。したがつて、ごく一般的な比較論として、公務員の職務が、私企業や公共企業体の職員の職務に比較して、より公共性が強いということができるとしても、公務員の職務の性質・内容を具体的に検討しその間に存する差異を顧みることなく、いちがいに、その公共性を理由として、これを一律に規制しようとする態度には、問題がないわけではない。ただ、公務員の職務には、多かれ少なかれ、直接または間接に、公共性が認められるとすれば、その見地から、公務員の労働基本権についても、その職務の公共性に対応する何らかの制約を当然の内在的制約として内包しているものと解釈しなければならない。しかし、公務員の労働基本権に具体的にどのような制約が許されるかについては、公務員にも労働基本権を保障している叙上の憲法の根本趣旨に照らし、慎重に決定する必要があるのであつて、その際考慮すべき要素は、前示全逓中郵事件判決において説示したとおりである(最高刑集20巻8号907頁から908頁まで)。地公法37条および61条4号が違憲であるかどうかの問題は、右の基準に照らし、ことに、労働基本権の制限違反に伴う法律効果、すなわち、違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度をこえないように十分な配慮がなされなければならず、とくに、勤労者の争議行為に対して刑事制裁を科することは、必要やむをえない場合に限られるべきであるとする点に十分な考慮を払いながら判断されなければならないのである。
 ところで、地公法37条、61条4号の各規定が所論のように憲法に違反するものであるかどうかについてみると、地公法37条1項には、「職員は、地方公共団体の機関が代表する使用者としての住民に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をし、又は地方公共団体の機関の活動能力を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又は遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。」と規定し、同法61条4号には、「何人たるを問わず、第37条第1項前段に規定する違法な行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者」は3年以下の懲役または10万円以下の罰金に処すべき旨を規定している。これらの規定が、文字どおりに、すべての地方公務員の一切の争議行為を禁止し、これらの争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、あおる等の行為(以下、あおり行為等という。)をすべて処罰する趣旨と解すべきものとすれば、それは、前叙の公務員の労働基本権を保障した憲法の趣旨に反し、必要やむをえない限度をこえて争議行為を禁止し、かつ、必要最小限度にとどめなければならないとの要請を無視し、その限度をこえて刑罰の対象としているものとして、これらの規定は、いずれも、違憲の疑を免れないであろう。
 しかし、法律の規定は、可能なかぎり、憲法の精神にそくし、これと調和しうるよう、合理的に解釈されるべきものであつて、この見地からすれば、これらの規定の表現にのみ拘泥して、直ちに違憲と断定する見解は採ることができない。すなわち、地公法は地方公務員の争議行為を一般的に禁止し、かつ、あおり行為等を一律的に処罰すべきものと定めているのであるが、これらの規定についても、その元来の狙いを洞察し労働基本権を尊重し保障している憲法の趣旨と調和しうるように解釈するときは、これらの規定の表現にかかわらず、禁止されるべき争議行為の種類や態様についても、さらにまた、処罰の対象とされるべきあおり行為等の態様や範囲についても、おのずから合理的な限界の存することが承認されるはずである。」
 かように、一見、一切の争議行為を禁止し、一切のあおり行為等を処罰の対象としているように見える地公法の前示各規定も、右のような合理的な解釈によつて、規制の限界が認められるのであるから、その規定の表現のみをみて、直ちにこれを違憲無効の規定であるとする所論主張は採用することができない。」
②「つぎに、地方公務員の争議行為についてみるに、地公法37条1項は、すべての地方公務員の一切の争議行為を禁止しているから、これに違反してした争議行為は、右条項の法文にそくして解釈するかぎり、違法といわざるをえないであろう。しかし、右条項の元来の趣旨は、地方公務員の職務の公共性にかんがみ、地方公務員の争議行為が公共性の強い公務の停廃をきたし、ひいては国民生活全体の利益を害し、国民生活にも重大な支障をもたらすおそれがあるので、これを避けるためのやむをえない措置として、地方公務員の争議行為を禁止したものにほかならない。ところが、地方公務員の職務は、一般的にいえば、多かれ少なかれ、公共性を有するとはいえ、さきに説示したとおり、公共性の程度は強弱さまざまで、その争議行為が常に直ちに公務の停廃をきたし、ひいて国民生活全体の利益を害するとはいえないのみならず、ひとしく争議行為といつても、種々の態様のものがあり、きわめて短時間の同盟罷業または怠業のような単純な不作為のごときは、直ちに国民全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがあるとは必ずしもいえない。地方公務員の具体的な行為が禁止の対象たる争議行為に該当するかどうかは、争議行為を禁止することによつて保護しようとする法益と、労働基本権を尊重し保障することによつて実現しようとする法益との比較較量により、両者の要請を適切に調整する見地から判断することが必要である。そして、その結果は、地方公務員の行為が地公法37条1項に禁止する争議行為に該当し、しかも、その違法性の強い場合も勿論あるであろうが、争議行為の態様からいつて、違法性の比較的弱い場合もあり、また、実質的には、右条項にいう争議行為に該当しないと判断すべき場合もあるであろう。
 また、地方公務員の行為が地公法37条1項の禁止する争議行為に該当する違法な行為と解される場合であつても、それが直ちに刑事罰をもつてのぞむ違法性につながるものでないことは、同法61条4号が地方公務員の争議行為そのものを処罰の対象とすることなく、もつぱら争議行為のあおり行為等、特定の行為のみを処罰の対象としていることからいつて、きわめて明瞭である。かえつて、同法37条2項は、職員で同条1項に違反する行為をしたものは、地方公共団体に対して保有する任命上または雇用上の権利をもつて対抗することができないという不利益を課しているにすぎないことを注意すべきである。したがつて、地方公務員のする争議行為については、それが違法な行為である場合に、公務員としての義務違反を理由として、当該職員を懲戒処分の対象者とし、またはその職員に民事上の責任を負わせることは、もとよりありうべきところであるが、争議行為をしたことそのことを理由として刑事制裁を科することは、同法の認めないところといわなければならない。
 ところで、地公法61条4号は、争議行為をした地方公務員自体を処罰の対象とすることなく、違法な争議行為のあおり行為等をした者にかぎつて、これを処罰することにしているのであるが、このような処罰規定の定め方も、立法政策としての当否は別として、一般的に許されないとは決していえない。ただ、それは、争議行為自体が違法性の強いものであることを前提とし、そのような違法な争議行為等のあおり行為等であつてはじめて、刑事罰をもつてのぞむ違法性を認めようとする趣旨と解すべきであつて、前叙のように、あおり行為等の対象となるべき違法な争議行為が存しない以上、地公法六一条四号が適用される余地はないと解すべきである。(もつとも、あおり行為等は、争議行為の前段階における行為であるから、違法な争議行為を想定して、あおり行為等をした場合には、仮りに予定の違法な争議行為が実行されなかつたからといつて、あおり行為等の刑責は免れえないものといわなければならない。)
 つぎに、あおり行為等の意義および要件については、意見の分かれるところであるが、一般に「あおり」の意義については、違法行為を実行させる目的で、文書、図画、言動により、他人に対し、その実行を決意させ、またはすでに生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与えることをいうと解してよいであろう(昭和33年(あ)第1413号、同37年2月21日大法廷判決、刑集16巻2号107頁参照)。しかし、地公法でいう争議行為等のあおり行為等がすべて一律に処罰の対象とされうべきものであるかどうかについては、慎重な考慮を要する。
 問題は、結局、公務員についても、その労働基本権を尊重し保障しようとする憲法上の要請と、公務員については、その職務の公共性にかんがみ、争議行為を禁止すべきものとする要請との二つの相矛盾する要請を、現行法の解釈のうえで、どのように調整すべきかの点にあり、労働基本権尊重の憲法の精神からいつて、争議行為禁止違反に対する制裁、とくに刑事罰をもつてする制裁は、極力限定されるべきであつて、この趣旨は、法律の解釈適用にあたつても、十分尊重されなければならない。そして、地公法自体は、地方公務員の争議行為そのものは禁止しながら、右禁止に違反して争議行為をした者を処罰の対象とすることなく、争議行為のあおり行為等にかぎつて、これを処罰すべきものとしているのであるが、これらの規定の中にも,すでに前叙の調整的な考え方が現われているということができる。しかし、さらに進んで考えると、争議行為そのものに種々の態様があり、その違法性が認められる場合にも、その強弱に程度の差があるように、あおり行為等にもさまざまの態様があり、その違法性が認められる場合にも、その違法性の程度には強弱さまざまのものがありうる。それにもかかわらず、これらのニユアンスを一切否定して一律にあおり行為等を刑事罰をもつてのぞむ違法性があるものと断定することは許されないというべきである。ことに、争議行為そのものを処罰の対象とすることなく、あおり行為等にかぎつて処罰すべきものとしている地公法61条4号の趣旨からいつても、争議行為に通常随伴して行なわれる行為のごときは、処罰の対象とされるべきものではない。それは、争議行為禁止に違反する意味において違法な行為であるということができるとしても、争議行為の一環としての行為にほかならず、これらのあおり行為等をすべて安易に処罰すべきものとすれば、争議行為者不処罰の建前をとる前示地公法の原則に矛盾することにならざるをえないからである。したがつて、職員団体の構成員たる職員のした行為が、たとえ、あおり行為的な要素をあわせもつとしても、それは、原則として、刑事罰をもつてのぞむ違法性を有するものとはいえないというべきである。」
 
過去問・解説
(H19 司法 第11問 ウ)
地方公務員法の規制をめぐる都教組事件判決(最大判昭和44年4月2日)と国家公務員法の規制をめぐる全司法仙台事件判決(最大判昭和44年4月2日)において、最高裁判所は、全逓東京中郵事件判決を継承しつつ、さらに、争議行為をあおる等の行為に対する刑事罰について、合憲限定解釈を行った。

(正答)  

(解説)
都教組事件判決(最大判昭44.4.2)は、全逓東京中郵事件判決(最大判昭41.10.26)を維持した上で、禁止される争議行為をあおる等の行為については、「おのずから合理的な限界の存することが承認されるはずである」とした。すなわち、あおり行為等が処罰されるのは、争議行為自体の違法性が強いものであり、かつ、あおり行為等の違法性が強い場合に限られ、争議行為に通常随伴して行われる行為は処罰の対象とならないとする二重のしぼり論を展開し、合憲限定解釈を行った。全司法仙台事件判決(最大判昭44.4.2)も、「全逓中郵事件判決、都教組事件判決の趣旨に照らして明らかである」として、国公法98条5項、110条1項17号の規定について合憲限定解釈を行っている。
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