事案:全司法仙台支部が開催した集会が裁判所職員の勤務時間内に食い込んだことが、国家公務員である裁判官職員によるストライキにあたるとして、全司法仙台支部の組合役員が国家公務員法110条1項17号の争議行為のあおり行為を行ったとして起訴された事案において、国家公務員法98条5項及び同法110条1項17号の憲法適合性、同法110条1項17号でいう「そそのかし」「あおり」の明確性(限定解釈の可否)が問題となった。
判旨:①「国公法98条5項は、「職員は、政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。又、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない。」と規定し、同法110条1項17号は、「何人たるを問わず第98条第5項前段に規定する違法な行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり、又はこれらの行為を企てた者」は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金に処すべき旨を規定している。これらの規定が、文字どおりに、すべての国家公務員の一切の争議行為を禁止し、これらの争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、あおる等の行為(以下、あおり行為等という。)をすべて処罰する趣旨と解すべきものとすれば、公務員の労働基本権保障の趣旨に反し、必要やむをえない限度をこえて争議行為を禁止し、かつ、必要最少限度にとどめなければならないとの要請を無視して刑罰の対象としているものとして、これらの規定は、いずれも、違憲の疑いを免れない。しかし、法律の規定は、可能なかぎり、憲法の精神に即し、これと調和しうるよう合理的に解釈されるべきものであつて、この見地からすれば、これらの規定の表現にのみ拘泥して、直ちにこれを違憲と断定する見解は採ることができない。
右のように限定的に解釈するかぎり、前示国公法98条5項はもとより、同法110条1項17号も、憲法28条に違反するものということができず、また、憲法の前文、11条、97条、18条に違反するものともいえないことは、当裁判所大法廷の判例(とくに昭和39年(あ)第296号、同41年10月26日大法廷判決、刑集20巻8号901頁、昭和41年(あ)第401号、同44年4月2日大法廷判決参照)の趣旨に照らし、明らかであるから、これらの規定自体を違憲とする所論は、その理由がなく、したがつて、原判決が右国公法110条1項17号を適用したことを非難する論旨も、採用することができない。」
②「所論は、明白かつ現実の危険がないのに、あおり行為等を処罰することとしている国公法110条1項17号の規定は憲法21条に違反するという。
しかし、右罰則が憲法21条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和26年(あ)第3875号、同30年11月30日大法廷判決、刑集9巻12号2545頁)とするところであるのみならず、前に説示したとおり、右罰則はこれを限定的に解釈して適用するかぎりにおいて、右規定が憲法21条に違反するものでないことは、さらに明らかである。所論は、独自の見解のもとに違憲を主張するものであつて、採用しがたい。」
③「国公法110条1項17号は、公務員の争議行為そのものを処罰の対象としているものでないのみならず、右規定にいうあおり行為等を後に説示するような意味に解するかぎり、右規定が憲法18条に違反するものといえないことは、所論第一点について説示したとおりであつて、所論は採用のかぎりでない。」
④「所論は、国公法110条1項17号は、その規定する構成要件の内容が漠然としており、かつ、労働運動の実体を無視し、争議行為の前段階的行為であるあおり行為等のみを処罰の対象としたことは極度に不合理であるから、憲法31条に違反し、これを適用した原判決も違憲であるという。
しかし、国公法110条1項17号にいう「共謀」とは、二人以上の者が、同法98条5項に定める違法行為を行なうため、共同意思のもとに、一体となつて互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をすること(昭和29年(あ)第1056号、同33年5月28日大法廷判決、刑集12巻8号1718頁参照)、「そそのかし」とは、同法98条5項に定める違法行為を実行させる目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすること(昭和27年(あ)第5779号、同29年4月27日第三小法廷判決、刑集8巻4号555頁参照)、「あおり」とは、右の目的をもつて、他人に対し、その行為を実行する決意を生じさせるような、またはすでに生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与えること(昭和33年(あ)第1413号、同37年2月21日大法廷判決、刑集16巻2号107頁参照)を、それぞれ、指すものと解するのが相当である。してみれば、国公法110条1項17号に規定する犯罪構成要件が、所論のように、内容が漠然としているものとはいいがたく、所論違憲の主張は、理由がない。」