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憲法 日本テレビ事件 最二小判平成元年1月30日
概要
①捜査機関による報道機関の取材結果の差押えの可否を決するに当たっては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押えるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによつて報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきである。
②本件差押えは、適正迅速な捜査の遂行のためにやむを得ないものであり、憲法21条やその趣旨に反するものではない。
②本件差押えは、適正迅速な捜査の遂行のためにやむを得ないものであり、憲法21条やその趣旨に反するものではない。
判例
事案:検察事務官は、被疑者Aがいわゆるリクルート疑惑に関する国政調査権の行使等に手心を加えてもらいたいなどの趣旨で衆議院議員Bに対し3回にわたり多額の現金供与の申込をしたとされる贈賄被疑事件の搜査として、検察事務官がは、検察官の請求により発付された差押許可状に基づいて、日本テレビのテレビフィルム(ABの面談状況をありのままに収録したもの)について差押処分をした。
判旨:「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものであつて、表現の自由を保障した憲法21条の保障の下にあり、したがつて報道のための取材の自由もまた憲法21条の趣旨に照らし、十分尊重されるべきものであること、しかし他方、取材の自由も何らの制約をも受けないものではなく、例えば公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある場合には、ある程度の制約を受けることのあることも否定できないことは、いずれも博多駅事件決定が判示するとおりである。もつとも同決定は、付審判請求事件を審理する裁判所の提出命令に関する事案であるのに対し、本件は、検察官の請求によつて発付された裁判官の差押許可状に基づき検察事務官が行つた差押処分に関する事案であるが、国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異がないことは多言を要しないところである。同決定の趣旨に徴し、取材の自由が適正迅速な捜査のためにある程度の制約を受けることのあることも、またやむを得ないものというべきである。そして、この場合においても、差押の可否を決するに当たつては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押えるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによつて報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることはいうまでもない(同決定参照)。
右の見地から本件について検討すると、本件差押処分は、被疑者Aがいわゆるリクルート疑惑に関する国政調査権の行使等に手心を加えてもらいたいなどの趣旨で衆議院議員Bに対し3回にわたり多額の現金供与の申込をしたとされる贈賄被疑事件の捜査として行われたものである。同事件は、国民が関心を寄せていた重大な事犯であるが、その被疑事実の存否、内容等の解明は、事案の性質上当事者両名の供述に負う部分が大であるところ、本件差押前の段階においては、Aは現金提供の趣旨等を争つて被疑事実を否認しており、またBも事実関係の記憶が必ずしも明確ではないため、他に収集した証拠を合わせて検討してもなお事実認定上疑点が残り、その解明のため更に的確な証拠の収集を期待することが困難な状況にあつた。しかもAは、本件ビデオテープ中の未放映部分に自己の弁明を裏付ける内容が存在する旨強く主張していた。そうしてみると、AとBの面談状況をありのままに収録した本件ビデオテープは、証拠上極めて重要な価値を有し、事件の全容を解明し犯罪の成否を判断する上で、ほとんど不可欠のものであつたと認められる。他方、本件ビデオテープがすべて原本のいわゆるマザーテープであるとしても、申立人は、差押当時においては放映のための編集を了し、差押当日までにこれを放映しているのであつて、本件差押処分により申立人の受ける不利益は、本件ビデオテープの放映が不可能となり報道の機会が奪われるという不利益ではなく、将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるという不利益にとどまる。右のほか、本件ビデオテープは、その取材経緯が証拠の保全を意図したBからの情報提供と依頼に基づく特殊なものであること、当のBが本件贈賄被疑事件を告発するに当たり重要な証拠資料として本件ビデオテープの存在を挙げていること、差押に先立ち検察官が報道機関としての立場に配慮した事前折衝を申立人との間で行つていること、その他諸般の事情を総合して考えれば、報道機関の報道の自由、取材の自由が十分これを尊重すべきものであるとしても、前記不利益は、適正迅速な捜査を遂げるためになお忍受されなければならないものというべきであり、本件差押処分は、やむを得ないものと認められる。
以上のとおり、所論は、博多駅事件決定の趣旨に徴して理由がなく、これと同旨の原決定は相当である。」
反対意見:「一 本件は、「公正な刑事裁判の実現」と「報道の自由」との接点における重要な問題を提供する。この点については、先例として当審大法廷のいわゆる博多駅事件決定(昭和44年(し)第68号同年11月26日大法廷決定・刑集23巻11号1490頁)が存在する。同決定の判示は今日なお踏襲すべきものであり、検察事務官による差押が問題となる本件においても同決定の判示が基本的に妥当すると考える点においては、私も、多数意見と立場を異にするものではない。しかし、多数意見が本件ビデオテープの差押が許されるとの結論を導いている点については、たやすく賛同することができない。
二 博多駅事件決定は、取材結果を刑事裁判のために押収することの可否に関し、「一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合においても、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなければならない。」と判示し、一般的な判断基準を示している。そこで、以下、右の基準に即して本件につき検討を加えることとする。
三 まず、公正な刑事裁判を実現するための必要性の点であるが、博多駅事件決定においては、事件当日同駅に集合した多数の学生と警備のための多数の警察官のなかから、付審判請求事件の被疑者とされる警察官及び被害者である学生を特定することすら困難であつたため、現場の模様を撮影したフイルムにつき提出命令を発することが許容されたのであつて、右フイルムは、事案の解明のためにほとんど必須のものであつたと考えられるが、これに対し、本件贈賄被疑事件においては、既に金員の提供者とその相手方及び行為の日時、場所、態様は特定しており、ただ金員提供の趣旨等について争いがあつたというのにすぎないのであつて、本件ビデオテープ差押の必要性は、博多駅事件決定の場合に比べ、格段の差異があるのである。
次に、報道の自由、取材の自由に対する弊害の点であるが、報道機関が取材結果を報道目的以外に使用するときは、将来における取材活動に他者の協力を得難くなるおそれがあり、場合によつては妨害を受けるおそれさえなしとしないであろう。取材結果が捜査機関によつて差し押えられ捜査目的に使用されることも、また同様の契機をはらむものであり、将来の取材活動に支障を来すおそれを生ぜしめることは、見やすい道理である。確かに、取材活動への支障は、将来の問題であつて眼前に差し迫つた不利益ではないかもしれない。
しかし、憲法21条に基礎を置く取材の自由の本質に照らし、この点を過小評価することは、相当ではないと思われる。また、本件ビデオテープの取材経緯には、原決定指摘のような特殊な事情があるようであるが、しかし、報道機関の取材結果を押収することによる弊害は、個々的な事案の特殊性を超えたところに生ずるものであり、本件ビデオテープの押収がもたらす弊害を取材経緯の特殊性のゆえに軽視することも、適当ではないように思われるのである。更に、本件ビデオテープには未放映部分が含まれているが、右部分は、記者の取材メモに近い性格を帯びており、その押収が前記弊害をいつそう増幅する傾向を有することにも十分留意する必要がある。
このように、本件における公正な刑事裁判の実現のための必要性と報道の自由に対する弊害とを比較衡量するとき、博多駅事件の場合とは異なり、必ずしも前者を優先せしめるべきであるとは考えられない。
四 公正な刑事裁判の実現とそのための適正迅速な捜査処理が国家の基本的な要請であることは、いうまでもない。しかし、その要請も、報道の自由、取材の自由の保障との関係において、時には抑制されなければならない場合が存在するのであつて、本件は、まさにそのような場合である。博多駅事件決定が示した判断基準は、厳格に運用すべきものと考える。」(島谷六郎裁判官の反対意見)
判旨:「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものであつて、表現の自由を保障した憲法21条の保障の下にあり、したがつて報道のための取材の自由もまた憲法21条の趣旨に照らし、十分尊重されるべきものであること、しかし他方、取材の自由も何らの制約をも受けないものではなく、例えば公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある場合には、ある程度の制約を受けることのあることも否定できないことは、いずれも博多駅事件決定が判示するとおりである。もつとも同決定は、付審判請求事件を審理する裁判所の提出命令に関する事案であるのに対し、本件は、検察官の請求によつて発付された裁判官の差押許可状に基づき検察事務官が行つた差押処分に関する事案であるが、国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異がないことは多言を要しないところである。同決定の趣旨に徴し、取材の自由が適正迅速な捜査のためにある程度の制約を受けることのあることも、またやむを得ないものというべきである。そして、この場合においても、差押の可否を決するに当たつては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押えるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによつて報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることはいうまでもない(同決定参照)。
右の見地から本件について検討すると、本件差押処分は、被疑者Aがいわゆるリクルート疑惑に関する国政調査権の行使等に手心を加えてもらいたいなどの趣旨で衆議院議員Bに対し3回にわたり多額の現金供与の申込をしたとされる贈賄被疑事件の捜査として行われたものである。同事件は、国民が関心を寄せていた重大な事犯であるが、その被疑事実の存否、内容等の解明は、事案の性質上当事者両名の供述に負う部分が大であるところ、本件差押前の段階においては、Aは現金提供の趣旨等を争つて被疑事実を否認しており、またBも事実関係の記憶が必ずしも明確ではないため、他に収集した証拠を合わせて検討してもなお事実認定上疑点が残り、その解明のため更に的確な証拠の収集を期待することが困難な状況にあつた。しかもAは、本件ビデオテープ中の未放映部分に自己の弁明を裏付ける内容が存在する旨強く主張していた。そうしてみると、AとBの面談状況をありのままに収録した本件ビデオテープは、証拠上極めて重要な価値を有し、事件の全容を解明し犯罪の成否を判断する上で、ほとんど不可欠のものであつたと認められる。他方、本件ビデオテープがすべて原本のいわゆるマザーテープであるとしても、申立人は、差押当時においては放映のための編集を了し、差押当日までにこれを放映しているのであつて、本件差押処分により申立人の受ける不利益は、本件ビデオテープの放映が不可能となり報道の機会が奪われるという不利益ではなく、将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるという不利益にとどまる。右のほか、本件ビデオテープは、その取材経緯が証拠の保全を意図したBからの情報提供と依頼に基づく特殊なものであること、当のBが本件贈賄被疑事件を告発するに当たり重要な証拠資料として本件ビデオテープの存在を挙げていること、差押に先立ち検察官が報道機関としての立場に配慮した事前折衝を申立人との間で行つていること、その他諸般の事情を総合して考えれば、報道機関の報道の自由、取材の自由が十分これを尊重すべきものであるとしても、前記不利益は、適正迅速な捜査を遂げるためになお忍受されなければならないものというべきであり、本件差押処分は、やむを得ないものと認められる。
以上のとおり、所論は、博多駅事件決定の趣旨に徴して理由がなく、これと同旨の原決定は相当である。」
反対意見:「一 本件は、「公正な刑事裁判の実現」と「報道の自由」との接点における重要な問題を提供する。この点については、先例として当審大法廷のいわゆる博多駅事件決定(昭和44年(し)第68号同年11月26日大法廷決定・刑集23巻11号1490頁)が存在する。同決定の判示は今日なお踏襲すべきものであり、検察事務官による差押が問題となる本件においても同決定の判示が基本的に妥当すると考える点においては、私も、多数意見と立場を異にするものではない。しかし、多数意見が本件ビデオテープの差押が許されるとの結論を導いている点については、たやすく賛同することができない。
二 博多駅事件決定は、取材結果を刑事裁判のために押収することの可否に関し、「一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合においても、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなければならない。」と判示し、一般的な判断基準を示している。そこで、以下、右の基準に即して本件につき検討を加えることとする。
三 まず、公正な刑事裁判を実現するための必要性の点であるが、博多駅事件決定においては、事件当日同駅に集合した多数の学生と警備のための多数の警察官のなかから、付審判請求事件の被疑者とされる警察官及び被害者である学生を特定することすら困難であつたため、現場の模様を撮影したフイルムにつき提出命令を発することが許容されたのであつて、右フイルムは、事案の解明のためにほとんど必須のものであつたと考えられるが、これに対し、本件贈賄被疑事件においては、既に金員の提供者とその相手方及び行為の日時、場所、態様は特定しており、ただ金員提供の趣旨等について争いがあつたというのにすぎないのであつて、本件ビデオテープ差押の必要性は、博多駅事件決定の場合に比べ、格段の差異があるのである。
次に、報道の自由、取材の自由に対する弊害の点であるが、報道機関が取材結果を報道目的以外に使用するときは、将来における取材活動に他者の協力を得難くなるおそれがあり、場合によつては妨害を受けるおそれさえなしとしないであろう。取材結果が捜査機関によつて差し押えられ捜査目的に使用されることも、また同様の契機をはらむものであり、将来の取材活動に支障を来すおそれを生ぜしめることは、見やすい道理である。確かに、取材活動への支障は、将来の問題であつて眼前に差し迫つた不利益ではないかもしれない。
しかし、憲法21条に基礎を置く取材の自由の本質に照らし、この点を過小評価することは、相当ではないと思われる。また、本件ビデオテープの取材経緯には、原決定指摘のような特殊な事情があるようであるが、しかし、報道機関の取材結果を押収することによる弊害は、個々的な事案の特殊性を超えたところに生ずるものであり、本件ビデオテープの押収がもたらす弊害を取材経緯の特殊性のゆえに軽視することも、適当ではないように思われるのである。更に、本件ビデオテープには未放映部分が含まれているが、右部分は、記者の取材メモに近い性格を帯びており、その押収が前記弊害をいつそう増幅する傾向を有することにも十分留意する必要がある。
このように、本件における公正な刑事裁判の実現のための必要性と報道の自由に対する弊害とを比較衡量するとき、博多駅事件の場合とは異なり、必ずしも前者を優先せしめるべきであるとは考えられない。
四 公正な刑事裁判の実現とそのための適正迅速な捜査処理が国家の基本的な要請であることは、いうまでもない。しかし、その要請も、報道の自由、取材の自由の保障との関係において、時には抑制されなければならない場合が存在するのであつて、本件は、まさにそのような場合である。博多駅事件決定が示した判断基準は、厳格に運用すべきものと考える。」(島谷六郎裁判官の反対意見)
過去問・解説
(H24 司法 第4問 イ)
報道機関が専ら報道目的で撮影したビデオテープを、裁判所の提出命令によって提出させる場合よりも裁判官が発付した令状に基づき検察事務官が差し押さえる場合の方が、取材の自由に対する制約の許否に関して、より慎重な審査を必要とする。
報道機関が専ら報道目的で撮影したビデオテープを、裁判所の提出命令によって提出させる場合よりも裁判官が発付した令状に基づき検察事務官が差し押さえる場合の方が、取材の自由に対する制約の許否に関して、より慎重な審査を必要とする。
(正答) ✕
(解説)
博多駅事件判決(最大決昭44.11.26)は、報道機関の取材結果に対する裁判所の提出命令に関する事案において、「一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであ…る。」と述べている。
日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)は、検察官事務官による取材結果の差押えに関する事案において、博多駅事件判決(最大決昭44.11.26)を参照し、「博多駅事件決定…は、付審判請求事件を審理する裁判所の提出命令に関する事案であるのに対し、本件は、検察官の請求によつて発付された裁判官の差押許可状に基づき検察事務官が行つた差押処分に関する事案であるが、国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異がないことは多言を要しないところである。同決定の趣旨に徴し、取材の自由が適正迅速な捜査のためにある程度の制約を受けることのあることも、またやむを得ないものというべきである。そして、この場合においても、差押の可否を決するに当たつては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押えるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによつて報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることはいうまでもない(同決定参照)。」としている。
博多駅事件判決(最大決昭44.11.26)は、報道機関の取材結果に対する裁判所の提出命令に関する事案において、「一面において、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、ひいては、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、他面において取材したものを証拠として提出させられることによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度およびこれが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであ…る。」と述べている。
日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)は、検察官事務官による取材結果の差押えに関する事案において、博多駅事件判決(最大決昭44.11.26)を参照し、「博多駅事件決定…は、付審判請求事件を審理する裁判所の提出命令に関する事案であるのに対し、本件は、検察官の請求によつて発付された裁判官の差押許可状に基づき検察事務官が行つた差押処分に関する事案であるが、国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異がないことは多言を要しないところである。同決定の趣旨に徴し、取材の自由が適正迅速な捜査のためにある程度の制約を受けることのあることも、またやむを得ないものというべきである。そして、この場合においても、差押の可否を決するに当たつては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押えるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによつて報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることはいうまでもない(同決定参照)。」としている。
(H24 司法 第4問 ウ)
編集の上、既に放映されたビデオテープのマザーテープの差押えにより報道機関が受ける不利益は、このビデオテープの放映が不可能となり報道の機会が奪われるという不利益ではなく、将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるという不利益にとどまる。
編集の上、既に放映されたビデオテープのマザーテープの差押えにより報道機関が受ける不利益は、このビデオテープの放映が不可能となり報道の機会が奪われるという不利益ではなく、将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるという不利益にとどまる。
(正答) 〇
(解説)
日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)は、「本件ビデオテープがすべて原本のいわゆるマザーテープであるとしても、申立人は…差押当日までにこれを放映しているのであつて、本件差押処分により申立人の受ける不利益は、本件ビデオテープの放映が不可能となり報道の機会が奪われるという不利益ではなく、将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるという不利益にとどまる」としている。
日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)は、「本件ビデオテープがすべて原本のいわゆるマザーテープであるとしても、申立人は…差押当日までにこれを放映しているのであつて、本件差押処分により申立人の受ける不利益は、本件ビデオテープの放映が不可能となり報道の機会が奪われるという不利益ではなく、将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるという不利益にとどまる」としている。
(H29 司法 第7問 イ)
適正迅速な捜査は公正な刑事裁判の不可欠の前提であることから、取材の自由に対する制約の許否に関しては捜査と公判とで本質的な差異はなく、したがって、差押えの主体にかかわらず、報道機関の取材結果に対する差押えの可否を判断する際の基本的な考え方は変わらない。
適正迅速な捜査は公正な刑事裁判の不可欠の前提であることから、取材の自由に対する制約の許否に関しては捜査と公判とで本質的な差異はなく、したがって、差押えの主体にかかわらず、報道機関の取材結果に対する差押えの可否を判断する際の基本的な考え方は変わらない。
(正答) 〇
(解説)
日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)は、検察官事務官による取材結果の差押えに関する事案において、公正な裁判の実現のために裁判所が報道機関の取材結果を提出を命じた事案に関する博多駅事件判決(最大決昭44.11.26)を参照し、「博多駅事件決定…は、付審判請求事件を審理する裁判所の提出命令に関する事案であるのに対し、本件は、検察官の請求によつて発付された裁判官の差押許可状に基づき検察事務官が行つた差押処分に関する事案であるが、国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異がないことは多言を要しないところである。同決定の趣旨に徴し、取材の自由が適正迅速な捜査のためにある程度の制約を受けることのあることも、またやむを得ないものというべきである。そして、この場合においても、差押の可否を決するに当たつては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押えるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによつて報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることはいうまでもない(同決定参照)。」としている。
日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)は、検察官事務官による取材結果の差押えに関する事案において、公正な裁判の実現のために裁判所が報道機関の取材結果を提出を命じた事案に関する博多駅事件判決(最大決昭44.11.26)を参照し、「博多駅事件決定…は、付審判請求事件を審理する裁判所の提出命令に関する事案であるのに対し、本件は、検察官の請求によつて発付された裁判官の差押許可状に基づき検察事務官が行つた差押処分に関する事案であるが、国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異がないことは多言を要しないところである。同決定の趣旨に徴し、取材の自由が適正迅速な捜査のためにある程度の制約を受けることのあることも、またやむを得ないものというべきである。そして、この場合においても、差押の可否を決するに当たつては、捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び差し押えるべき取材結果の証拠としての価値、ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、取材結果を証拠として押収されることによつて報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を比較衡量すべきであることはいうまでもない(同決定参照)。」としている。
(H30 予備 第4問 ア)
「博多駅事件決定」は、裁判所の提出命令について適法としたが、「日本テレビ事件決定」と「TBS事件決定」は、公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠であるとして、検察事務官や司法警察職員がした差押えについても、適法と認められる場合があるとした。
「博多駅事件決定」は、裁判所の提出命令について適法としたが、「日本テレビ事件決定」と「TBS事件決定」は、公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠であるとして、検察事務官や司法警察職員がした差押えについても、適法と認められる場合があるとした。
(正答) 〇
(解説)
博多駅事件決定(最大決昭44.11.26)は、個別事情を踏まえた比較衡量の結果、公正な裁判を実現する要請を優先し、「本件フィルムの提出命令は、憲法21条に違反するものでないことはもちろん、その趣旨に反するものでもな…い」としている。
日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)は、検察官の請求によつて発付された裁判官の差押許可状に基づき検察事務官が行った差押処分に関する事案において、「国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異がないことは多言を要しないところである。同決定の趣旨に徴し、取材の自由が適正迅速な捜査のためにある程度の制約を受けることのあることも、またやむを得ないものというべきである。」としている。
TBS事件決定(最決平2.7.9)は、司法警察員が裁判官の差押許可状に基づて行った差押処分に関する事案において、「公正な刑事裁判を実現するために不可欠である適正迅速な捜査の遂行という要請がある場合にも、同様に、取材の自由がある程度の制約を受ける場合がある…。」としている。
博多駅事件決定(最大決昭44.11.26)は、個別事情を踏まえた比較衡量の結果、公正な裁判を実現する要請を優先し、「本件フィルムの提出命令は、憲法21条に違反するものでないことはもちろん、その趣旨に反するものでもな…い」としている。
日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)は、検察官の請求によつて発付された裁判官の差押許可状に基づき検察事務官が行った差押処分に関する事案において、「国家の基本的要請である公正な刑事裁判を実現するためには、適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては両者の間に本質的な差異がないことは多言を要しないところである。同決定の趣旨に徴し、取材の自由が適正迅速な捜査のためにある程度の制約を受けることのあることも、またやむを得ないものというべきである。」としている。
TBS事件決定(最決平2.7.9)は、司法警察員が裁判官の差押許可状に基づて行った差押処分に関する事案において、「公正な刑事裁判を実現するために不可欠である適正迅速な捜査の遂行という要請がある場合にも、同様に、取材の自由がある程度の制約を受ける場合がある…。」としている。
(H30 予備 第4問 イ)
「日本テレビ事件決定」と「TBS事件決定」では、対象のビデオテープは、事件の全容を解明し犯罪の成否を判断する上でほとんど不可欠と認められるものであったのに対し、「博多駅事件決定」では、犯罪の成立は他の証拠上認められるが、事件の重要な部分の真相を明らかにする必要があるとして、取材フィルムの提出命令を適法とした。
「日本テレビ事件決定」と「TBS事件決定」では、対象のビデオテープは、事件の全容を解明し犯罪の成否を判断する上でほとんど不可欠と認められるものであったのに対し、「博多駅事件決定」では、犯罪の成立は他の証拠上認められるが、事件の重要な部分の真相を明らかにする必要があるとして、取材フィルムの提出命令を適法とした。
(正答) ✕
(解説)
日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)は、「本件ビデオテープは、証拠上極めて重要な価値を有し、事件の全容を解明し犯罪の成否を判断する上で、ほとんど不可欠のものであつたと認められる。」としている一方で、TBS事件決定(最決平2.7.9)は、「本件ビデオテープは事案の全容を解明し犯罪の成否を判断する上で、重要な証拠価値を持つものであったと認められる」と述べるにとどまり、「ほとんど不可欠」とまでは述べていない。したがって、本肢前段は誤っている。
また、博多駅事件決定(最大決昭44.11.26)は、取材フィルムの提出命令を適法としたものの、「現場を中立的な立場から撮影した報道機関の本件フイルムが証拠上きわめて重要な価値を有し、被疑者らの罪責の有無を判定するうえに、ほとんど必須のものと認められる状況にある。」としており、犯罪の成立は他の証拠上認められるとは述べていない。したがって、本肢後段も誤っている。
また、博多駅事件決定(最大決昭44.11.26)は、取材フィルムの提出命令を適法としたものの、「現場を中立的な立場から撮影した報道機関の本件フイルムが証拠上きわめて重要な価値を有し、被疑者らの罪責の有無を判定するうえに、ほとんど必須のものと認められる状況にある。」としており、犯罪の成立は他の証拠上認められるとは述べていない。したがって、本肢後段も誤っている。
(H30 予備 第4問 ウ)
「博多駅事件決定」「日本テレビ事件決定」「TBS事件決定」3事件いずれの決定においても、それぞれその対象となった取材フィルム又はビデオテープは、既にそれらが編集された上放映されており、提出命令又は差押えによって放映が不可能となって報道の機会が奪われたというものではなかった。
「博多駅事件決定」「日本テレビ事件決定」「TBS事件決定」3事件いずれの決定においても、それぞれその対象となった取材フィルム又はビデオテープは、既にそれらが編集された上放映されており、提出命令又は差押えによって放映が不可能となって報道の機会が奪われたというものではなかった。
(正答) 〇
(解説)
博多駅事件決定(最大決昭44.11.26)、日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)、TBS事件決定(最決平2.7.9)の3事件いずれにおいても、裁判所は、提出命令又は差押えの対象となった記録媒体はすでに放映されたものであり、報道の機会を奪われるというものではないとした。
博多駅事件決定(最大決昭44.11.26)、日本テレビ事件決定(最決平元.1.30)、TBS事件決定(最決平2.7.9)の3事件いずれにおいても、裁判所は、提出命令又は差押えの対象となった記録媒体はすでに放映されたものであり、報道の機会を奪われるというものではないとした。