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民法 第509条 - 解答モード

条文
第509条(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。 
 一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
 二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
過去問・解説

(H19 司法 第29問 ウ)
双方の過失に起因する同一の交通事故によって生じた物的損害についての損害賠償債権相互間において、いずれの側からも相殺することは許されない。

(正答)  

(解説)
509条柱書本文は、相殺が禁止される受働債権に係る債務として、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」(1号)及び「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」(2号)を挙げているところ、過失に起因する交通事故によって生じた物的損害の損害賠償債務は、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」と「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」のいずれにも当たらない。したがって、509条は適用されないから、双方の過失に起因する同一の交通事故によって生じた物的損害についての損害賠償債権相互間において、いずれの側からも相殺することが許される。なお、交叉的不法行為の場合(自働債権と受働債権が同一不法行為から生じた損害賠償請求権である場合)について、平成29年改正前民法下の判例(最判昭49.6.28)は、「民法509条の趣旨は、不法行為の被害者に現実の弁済によって損害の填補を受けさせること等にあるから、およそ不法行為による損害賠償債務を負担している者は、被害者に対する不法行為による損害賠償債権を有している場合であつても、被害者に対しその債権をもつて対当額につき相殺により右債務を免れることは許されないものと解するのが、相当である…。したがつて、本件のように双方の被用者の過失に基因する同一交通事故によって生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、民法509条の規定により相殺が許されないというべきである。」として、被害者に現実の給付を得させるという趣旨が妥当することを理由に相殺を否定している。これに対し、多くの学説は、不法行為誘発防止という趣旨が妥当しないとの理由から、相殺を肯定すべきとする(潮見佳男「プラクティス民法 債権総論」第5版補訂435~436頁)。


(H21 司法 第30問 ウ)
Aが所有し運転するタクシーに、Bが所有し運転する自家用車が衝突する交通事故が発生し、AB所有の各車両が損傷するとともに歩行者Cが負傷した。当該交通事故により、Aには50万円の損害が、Bには80万円の損害が、Cには100万円の損害が、それぞれ生じ、当該交通事故及びCの負傷についての過失割合はAが2割で、Bが8割であり、また、Cの負傷にはCの過失が認められなかった。Bは、その損害額である80万円のうち16万円の損害賠償請求権を自働債権として、BのAに対する損害賠償債務と相殺することができる。

(正答)  

(解説)
509条柱書本文は、相殺が禁止される受働債権に係る債務として、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」(1号)及び「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」(2号)を挙げているところ、BのAに対する損害賠償債務は、過失に起因する交通事故によって生じた物的損害の損害賠償債務であり、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」と「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」のいずれにも当たらない。
したがって、509条は適用されないから、Bは、その損害額である80万円のうち16万円の損害賠償請求権を自働債権として、BのAに対する損害賠償債務と相殺することができる。


(H23 共通 第23問 ウ)
不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし、不法行為に基づく損害賠償債権以外の債権を受働債権とする相殺は、必ず許される。

(正答)  

(解説)
509条柱書本文は、相殺が禁止される受働債権に係る債務として、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」(1号)及び「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」(2号)を挙げているところ、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」(2号)には、不法行為に基づく損害賠償債務のみならず、債務不履行に基づく損害賠償債務も含まれる。したがって、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし、不法行為に基づく損害賠償債権以外の債権を受働債権とする相殺であっても、受働債権が「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」に当たる場合があるから、その限りにおいて、許されない。


(H29 予備 第9問 オ)
不法行為に基づく損害賠償債務を負う債務者であっても、自働債権と受働債権のいずれもが不法行為に基づく損害賠償債権である場合には、相殺をすることができる。

(正答)  

(解説)
509条柱書本文は、相殺が禁止される受働債権に係る債務として、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」(1号)及び「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」(2号)を挙げているところ、自働債権と受働債権のいずれもが不法行為に基づく損害賠償債権である場合における相殺は、受働債権が「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」又は「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」のいずれかに当たるときは、許されない。
なお、この結論は、交叉的不法行為の場合(自働債権と受働債権が同一不法行為から生じた損害賠償請求権である場合)においても同じです。平成29年改正前民法下の判例(最判昭49.6.28)は、交叉的不法行為の場合について、「民法509条の趣旨は、不法行為の被害者に現実の弁済によって損害の填補を受けさせること等にあるから、およそ不法行為による損害賠償債務を負担している者は、被害者に対する不法行為による損害賠償債権を有している場合であつても、被害者に対しその債権をもつて対当額につき相殺により右債務を免れることは許されないものと解するのが、相当である…。したがつて、本件のように双方の被用者の過失に基因する同一交通事故によって生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、民法509条の規定により相殺が許されないというべきである。」として、被害者に現実の給付を得させるという趣旨が妥当することを理由に相殺を否定している。これに対し、多くの学説は、不法行為誘発防止という趣旨が妥当しないとの理由から、相殺を肯定すべきとする(潮見佳男「プラクティス民法 債権総論」第5版補訂435~436頁)。


(H30 司法 第21問 エ)
車両同士の交通事故が双方の運転者の過失に基因して発生し、双方に物的損害のみが生じた場合、一方の運転者は、双方の損害賠償債権を対当額において相殺することができる。

(正答)  

(解説)
509条柱書本文は、相殺が禁止される受働債権に係る債務として、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」(1号)及び「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」(2号)を挙げているところ、過失に基因する交通事故によって生じた物的損害の損害賠償債務は、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」と「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」のいずれにも当たらない。したがって、509条は適用されないから、車両同士の交通事故が双方の運転者の過失に基因して発生し、双方に物的損害のみが生じた場合、一方の運転者は、双方の損害賠償債権を対当額において相殺することができる。


(R2 司法 第29問 ア)
金銭債権を有する者が、その債務者を負傷させたことにより不法行為に基づく損害賠償債務を負った場合、当該金銭債権を自働債権、損害賠償債権を受働債権とする相殺をもって債務者に対抗することはできない。

(正答)  

(解説)
509条柱書本文2号は、相殺が禁止される受働債権に係る債務として、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」(2号)を挙げている。
したがって、金銭債権を有する者が、その債務者を負傷させたことにより不法行為に基づく損害賠償債務を負った場合、当該金銭債権を自働債権、損害賠償債権を受働債権とする相殺は、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」を受働債権とする相殺として、禁止される。


(R3 共通 第21問 ウ)
AのBに対する金銭債権(甲債権)とBのAに対する金銭債権(乙債権)との相殺について、甲債権は、Bの悪意による不法行為に基づいて生じたEのBに対する損害賠償債権を、AがEから譲り受けたものであった。この場合、Bは、乙債権と甲債権との相殺をもってAに対抗することができる。

(正答)  

(解説)
509条柱書は、本文において「次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。」とする一方で、但書において「ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。」と規定している。
Bの悪意による不法行為に基づいて生じたEのBに対する損害賠償債権は、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」(1号)に当たるが、これはAがEから譲り受けたものであるから、「その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたとき」に当たる。したがって、Bは、乙債権と甲債権との相殺をもってAに対抗することができる。


(R4 司法 第22問 ア)
不法行為によって傷害を受けた被害者Aは、加害者Bに対する損害賠償債権を自働債権とし、BがAに対して有する貸金債権を受働債権とする相殺をすることができない。

(正答)  

(解説)
509条柱書本文2号は、債務者が相殺をもって対抗することができない債務として、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」を挙げており、被害者Aの加害者Bに対する損害賠償債権に係る債務はこれに当たる。
もっとも、同条が禁止しているのは、債務者(加害者)が不法行為等によって生じた損害賠償請求権を受働債権とする相殺であって、債権者(被害者)が不法行為等によって生じた損害賠償請求権を自働債権とする相殺は禁止されない(潮見佳男「プラクティス民法 債権総論」第5版補訂434頁)。したがって、不法行為によって傷害を受けた被害者Aは、加害者Bに対する損害賠償債権を自働債権とし、BがAに対して有する貸金債権を受働債権とする相殺をすることができる。


(R5 共通 第21問 ア)
AのBに対する金銭債権(甲債権)とBのAに対する金銭債権(乙債権)との相殺について、甲債権が売買代金債権であり、乙債権がBの所有するパソコンをAが過失によって損傷したことによる不法行為に基づく損害賠償債権であったときは、Aは、相殺をもってBに対抗することができる。

(正答)  

(解説)
509条柱書本文は、相殺が禁止される受働債権に係る債務として、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」(1号)及び「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」(2号)を挙げているところ、過失によって生じた物的損害の損害賠償債務は、「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」と「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」のいずれにも当たらない。したがって、509条は適用されないから、Aは、Bの所有するパソコンをAが過失によって損傷したことによる不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺をもってBに対抗することができる。

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