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民法 第536条 - 解答モード
条文
① 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
② 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
過去問・解説
(H23 司法 第24問 1)
Aは、Bから「自分の肖像画を描いてほしい。完成した肖像画と引換えに報酬100万円を払う」と頼まれて請け負い、その後、Bの肖像画を完成させ、A宅に保管していたところ、引渡期日前に、この肖像画は隣人の失火によって焼失した。この場合、Bは、Aに対して、報酬100万円を支払わなければならない。
(正答) ✕
(解説)
536条1項は、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定している。
本肢の事例では、完成した仕事の目的物である肖像画が隣人の失火により焼失しており、請負人Aの仕事完成債務が「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったとき」に当たる。したがって、「債権者」Bは、「反対給付」である報酬100万円の支払いを拒むことができる。
なお、平成29年改正民法は、利益帰属者危険負担の原則・所有者危険負担の原則を実質的根拠として「特定物であること・種類物の特定」により対価危険が移転すること(債権者主義)を定めていた改正前民法534条・535条を削除した上で、物の滅失・損傷に関する危険が「目的物の引渡し」により売主から買主に移転するという新ルールを定めている(567条1項)。これは、目的物の引渡しにより目的物の支配が売主から買主への移転することに着目したものである(潮見佳男「民法(債権関係)改正法の概要」初版247頁、268~270頁)。567条1項は、売買以外の有償契約にも準用される(559条)ところ、本肢の事例では、「目的物の引渡し」前における履行不能であるから、567条1項ではなく、一般規定である536条1項が適用される。他の選択肢についても同様である。
(H23 司法 第24問 3)
Aは、Bとの間で、「Bが大学を卒業した際には、Aは、A所有の特定の自動車を10万円でBに売り渡す」という契約をしたが、A宅敷地内の車庫に保管されていたこの自動車は、隣人の失火によって焼失し、その後、Bは、大学を卒業した。この場合、Bは、Aに対して、代金10万円を支払わなければならない。
(H25 司法 第17問 イ)
建物を目的物とする売買契約が締結された後、その引渡期日が到来する前に売主の占有下で当該建物の全部が滅失した場合、当該建物の滅失が買主の責めに帰すべき事由による場合、売主は、買主に対して代金の支払を請求することはできない。
(正答) ✕
(解説)
536条は、1項において「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定する一方で、2項前段において「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」と規定している。
本肢の事例では、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」に当たるから、「債権者」である買主は、「反対給付」である代金支払債務の履行を拒むことができない。したがって、売主は、買主に対して代金の支払を請求することができる。
(H25 司法 第17問 エ)
建物を目的物とする売買契約が締結された後、その引渡期日が到来する前に売主の占有下で当該建物の全部が滅失した場合、当該建物の滅失が買主の責めに帰すべき事由による場合、買主は、既に売主に代金を支払っているときでも、その返還を請求することはできない。
(正答) 〇
(解説)
536条は、1項において「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定する一方で、2項前段において「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」と規定している。本肢の事例では、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」に当たるから、「債権者」である買主は、「反対給付」である代金支払債務の履行を拒むことができない。この意味において、売主は、買主に対して代金の支払を請求することができる。
もっとも、本肢の事例では、買主は、既に売主に代金を支払っており、支払済みの代金の返還を請求することの可否が問われているところ、平成29年改正民法により、危険負担の法律効果は、反対債務の消滅ではなく、反対債務の履行拒絶に変更されている。したがって、仮に536条1項が適用される場合であっても、「債権者」である買主は、「反対給付」である代金支払債務の履行を拒むことができるにとどまり、代金支払債務が消滅するわけではないから、買主が代金を支払っている場合には、不当利得(703条、704条)として代金の返還を求めることができるわけではない。買主が売主の引渡債務の履行不能を理由に代金の返還を求めるためには、履行不能を理由に売買契約を解除(542条1項1号)した上で原状回復請求権(545条1項本文)する必要がある。
(H26 司法 第16問 ウ)
売主が債務の本旨に従って買主の住所にワインを持参したが、買主がその受領を拒んだ場合において、その後そのワインが買主の過失により滅失したときは、買主は、ワインの代金債務を免れない。
(正答) 〇
(解説)
536条は、1項において「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定する一方で、2項前段において「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」と規定している。
本肢の事例では、売主が債務の本旨に従って買主の住所にワインを持参したが、買主がその受領を拒んでいるから、ワインが滅失した時点では、売主の引渡債務は履行されていない。そして、そのワインが買主の過失により滅失したことにより、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」に当たるから、「債権者」である買主は、「反対給付」である代金債務の履行を拒むことができない。
(H27 司法 第22問 3)
建物の建築を目的とする請負契約において、当事者双方の責めに帰することができない事由により建築途中の建物が滅失した場合であっても、請負人は、新たに建物を建築し、これを完成させなければ、注文者に対し、請負代金全額の支払を請求することはできない。
(正答) 〇
(解説)
平成29年改正民法により、危険負担の法律効果は、反対債務の消滅ではなく、反対債務の履行拒絶に変更されている。したがって、仮に536条1項が適用される場合であっても、「債権者」は、「反対給付の履行を拒む」ことができるにとどまり、「反対給付」に係る債務が消滅するわけではない。
本肢の事例では、建物の建築を目的とする請負契約において、当事者双方の責めに帰することができない事由により建築途中の建物が滅失しており、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったとき」に当たるから、「債権者」である注文者は、「反対給付」である請負代金債務の履行を拒むことができる。もっとも、請負人の仕事完成債務は存続しているから、請負人は、新たに建物を建築し、これを完成させれば、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったとき」という状態は解消されるから、注文者は、536条1項に基づいて請負代金債務の履行を拒むことができなくなり、かつ、同時履行の抗弁権(533条本文)も主張できなくなるから、請負代金債務の履行を拒むことができなくなる。この意味において、請負人は、新たに建物を建築し、これを完成させなければ、注文者に対し、請負代金全額の支払を請求することはできない、といえる。
(R1 司法 第24問 ア)
AとBは、平成31年4月1日、A所有の中古自転車(以下「甲」という。)を、同月10日引渡し、同月20日代金支払の約定でBに売却する旨の売買契約を締結した。甲は、平成31年4月8日、Bの責めに帰すべき事由により滅失した。この場合において、AがBに対して同月20日に代金の支払を請求したときは、Bは、この請求を拒むことができない。
(正答) 〇
(解説)
536条は、1項において「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定する一方で、2項前段において「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」と規定している。
本肢の事例では、甲が買主Bの責めに帰すべき事由により滅失しており、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」に当たるから、「債権者」である買主は、「反対給付」である代金支払債務の履行を拒むことができない。
(R2 司法 第15問 エ)
AとBは、Aが所有する骨董品甲をBに100万円で売却する旨の売買契約を締結した。売買契約の締結後、Aが甲をBに引き渡す前に、甲が第三者の失火により焼失したときは、Bの代金支払債務は当然に消滅する。
(R5 司法 第26問 イ)
注文者の責めに帰すべき事由によって請負人が仕事を完成することができなくなったときは、注文者は、報酬の支払を拒むことができない。
(正答) 〇
(解説)
536条は、1項において「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定する一方で、2項前段において「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」と規定している。
本肢の事例では、注文者の責めに帰すべき事由によって請負人が仕事を完成することができなくなっており、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」に当たるから、「債権者」である注文者は、「反対給付」である報酬支払債務の履行を拒むことができない。
(R6 司法 第25問 ア)
特定物甲の売主Aが買主Bから代金の支払を受けるまでに、甲は、ABいずれの責めにも帰することができない事由によって滅失又は損傷した。
甲の滅失がBへの引渡し前に生じた場合において、AがBに対し代金の支払を求めて訴えを提起したときは、Bの危険負担の抗弁は、BがAに対し代金の支払を拒絶することを主張して行使しなければならない。
(R6 司法 第25問 イ)
特定物甲の売主Aが買主Bから代金の支払を受けるまでに、甲は、ABいずれの責めにも帰することができない事由によって滅失又は損傷した。
甲の滅失がBへの引渡し前に生じた場合において、AがBに対し代金の支払を求めて訴えを提起し、Bの危険負担の抗弁の主張が認められるときは、請求棄却の判決がされる。
(R6 司法 第25問 ウ)
特定物甲の売主Aが買主Bから代金の支払を受けるまでに、甲は、ABいずれの責めにも帰することができない事由によって滅失又は損傷した。
甲の損傷がBへの引渡し前に生じた場合には、過分の費用を要することなく甲を契約の内容に適合した状態に修復して引き渡すことができるときであっても、Bは、危険負担の抗弁を主張して、代金の一部の支払を拒むことができる。
(正答) ✕
(解説)
536条は、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定おり、412条の2第1項は、履行不能について「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるとき」と定義している。
本肢の事例では、特定物甲がABいずれの責めにも帰することができない事由によって損傷しているが、過分の費用を要することなく甲を契約の内容に適合した状態に修復して引き渡すことができるため、売主Aが「債務を履行することができなくなったとき」に当たらない。したがって、Bは、危険負担の抗弁(536条1項)を主張して、代金の一部の支払を拒むこともできない。もっとも、Bは、同時履行の抗弁(533条本文)を主張して、代金の一部の支払を拒むことはできる。