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刑法 211条1項における重過失 東京高判昭和62年10月6日 - 解答モード
概要
重過失失火罪及び重過失致死傷罪における「重大なる過失」とは、建物等の焼燬や人の死傷の結果がその具体的な状況下において通常人として容易に予見できたのに、これを怠り、あるいは、結果を予見しながら、その回避の措置をとることが同様容易であったのに、これを怠ったというような注意義務の懈怠の著しい場合を指すものである。
判例
事案:中華料理店から出火し、麻雀客ら12名が現在する同店2階の麻雀荘に延焼し、右2店のある被告人及びその妻の共有する木造瓦葺2階建店舗1棟が全焼したうえ、同建物の西側に隣接する3世帯12名の居住する木造瓦葺2階建共同住宅1棟も類焼してほぼ半焼したという事案において、業務上過失致死傷罪における「重大なる過失」の意義が問題となった。
判旨:「重過失失火罪及び重過失致死傷罪における『重大なる過失』とは、建物等の焼燬や人の死傷の結果がその具体的な状況下において通常人として容易に予見できたのに、これを怠り、あるいは、結果を予見しながら、その回避の措置をとることが同様容易であったのに、これを怠ったというような注意義務の懈怠の著しい場合を指すものと解するのが相当であり、いわゆる認識のある過失をもって重過失であるとする所論の見解を採ることはできない。けだし、法が重過失の場合を通常の過失の場合よりも重く処罰すべきものとしているのは、前者の方が後者よりも過失の程度がより重く、責任の程度がより重いと評価されるからであると解されるところ、結果についての予見がある場合がそうでない場合に比べて、一般的に過失の程度が重いということはできず、予見のない場合においても予見すべき義務の懈怠の著しいことがあり、また、予見のある場合においても結果の回避が必ずしも容易でないことがありうるからである。
本件についてみると、本件火災は前記1ないし5のような経過で発生するに至ったものであるところ、被告人は、当時本件ストーブのつまみを消火位置に回しても直ちに炎が消えないことを知っていたのであるから(被告人の検察官に対する昭和52年1月8日付供述調書)、給油にかかるときに、まだ右炎が残っていることを予見することが極めて容易であったうえ、本件サイフォンを使って本件灯油缶から三角カートリッジに灯油を給油するにあたり、適時にサイフォンの電源を切らなければ灯油が三角カートリッジから溢れ出て、その灯油に本件ストーブ内の残炎が何らかの経路を経て着火し、建物の焼燬、ひいては人の死傷等の大事に至ることになるかもしれないことを通常人として容易に予見することができ、また、サイフォンを引き抜くにあたっても、急激にこれをすればサイフォン内の灯油が飛び散り、これに本件ストーブ内の残炎が着火し、周囲の可燃物の状況のいかんによっては同様の大事に至ることになるかもしれないことも同様容易に予見することができたと考えられる。そして、そのような重大な結果を回避するためには、被告人として、本件ストーブが完全に消火したのを確認した後に給油作業をするか、あるいは、三角カートリッジへの給油中はこれを見守り、万が一にも灯油が床面に溢れ出るようなことのないように適時にサイフォンの電源を切り、これができなかったときは、内部の灯油が飛び散らないようにサイフォンを止めるべきであり、そのいずれもが極めて容易であったことが明らかである。そうすると、本件に際し、被告人が本件ストーブ内からの火気が消失したことを確認せずに、その付近で給油を始めたうえ、三角カートリッジへの給油中その監視を怠り床面に灯油を溢出させ、あまつさえそのような危険な状況下においてサイフォンを急激に引き抜いたため、本件ストーブ内の残炎がサイフォンから落ちた灯油を介して床面の灯油に着火するに至ったのであるから、この間の被告人の行為は全体として重過失に当たるということができる。」
判旨:「重過失失火罪及び重過失致死傷罪における『重大なる過失』とは、建物等の焼燬や人の死傷の結果がその具体的な状況下において通常人として容易に予見できたのに、これを怠り、あるいは、結果を予見しながら、その回避の措置をとることが同様容易であったのに、これを怠ったというような注意義務の懈怠の著しい場合を指すものと解するのが相当であり、いわゆる認識のある過失をもって重過失であるとする所論の見解を採ることはできない。けだし、法が重過失の場合を通常の過失の場合よりも重く処罰すべきものとしているのは、前者の方が後者よりも過失の程度がより重く、責任の程度がより重いと評価されるからであると解されるところ、結果についての予見がある場合がそうでない場合に比べて、一般的に過失の程度が重いということはできず、予見のない場合においても予見すべき義務の懈怠の著しいことがあり、また、予見のある場合においても結果の回避が必ずしも容易でないことがありうるからである。
本件についてみると、本件火災は前記1ないし5のような経過で発生するに至ったものであるところ、被告人は、当時本件ストーブのつまみを消火位置に回しても直ちに炎が消えないことを知っていたのであるから(被告人の検察官に対する昭和52年1月8日付供述調書)、給油にかかるときに、まだ右炎が残っていることを予見することが極めて容易であったうえ、本件サイフォンを使って本件灯油缶から三角カートリッジに灯油を給油するにあたり、適時にサイフォンの電源を切らなければ灯油が三角カートリッジから溢れ出て、その灯油に本件ストーブ内の残炎が何らかの経路を経て着火し、建物の焼燬、ひいては人の死傷等の大事に至ることになるかもしれないことを通常人として容易に予見することができ、また、サイフォンを引き抜くにあたっても、急激にこれをすればサイフォン内の灯油が飛び散り、これに本件ストーブ内の残炎が着火し、周囲の可燃物の状況のいかんによっては同様の大事に至ることになるかもしれないことも同様容易に予見することができたと考えられる。そして、そのような重大な結果を回避するためには、被告人として、本件ストーブが完全に消火したのを確認した後に給油作業をするか、あるいは、三角カートリッジへの給油中はこれを見守り、万が一にも灯油が床面に溢れ出るようなことのないように適時にサイフォンの電源を切り、これができなかったときは、内部の灯油が飛び散らないようにサイフォンを止めるべきであり、そのいずれもが極めて容易であったことが明らかである。そうすると、本件に際し、被告人が本件ストーブ内からの火気が消失したことを確認せずに、その付近で給油を始めたうえ、三角カートリッジへの給油中その監視を怠り床面に灯油を溢出させ、あまつさえそのような危険な状況下においてサイフォンを急激に引き抜いたため、本件ストーブ内の残炎がサイフォンから落ちた灯油を介して床面の灯油に着火するに至ったのであるから、この間の被告人の行為は全体として重過失に当たるということができる。」
過去問・解説
(H25 司法 第15問 3)
重過失致死傷罪の「重過失」とは、行為者としてわずかな注意を払えば、結果発生を予見することができ、結果の発生を回避できた場合をいう。