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刑法 2項強盗の成否 最一小判昭和61年11月18日 - 解答モード
概要
判例
判旨:「右事実につき、原判決は、(1)甲は丙の意思に基づく財産的処分行為を介して本件覚せい剤の占有を取得したとはいえず、これを奪取したものとみるべきであること、(2)あらかじめ殺人と金品奪取の意図をもって、殺害と奪取が同時に行われるときはもとより、これと同視できる程度に日時場所が極めて密着してなされた場合も強盗殺人罪の成立を認めるべきであること、(3)このように解することは、強盗殺人(ないし強盗致死傷)罪が財産犯罪と殺傷犯罪のいわゆる結合犯であることや、法が事後強盗の規定を設けている趣旨にも合致すること、(4)本件の場合、もともと丙を殺害して覚せい剤を奪取する計画であったところ、後に計画を一部変更して覚せい剤を奪取した直後に丙を殺害することにしたが、殺害と奪取を同一機会に行うことに変わりはなく、右計画に従って実行していること、などの理由を説示して、被告人(乙)(及び甲)に対しいわゆる1項強盗による強盗殺人未遂罪の成立を認め、これと結論を同じくする第一審判決を支持している。
しかしながら、まず、右(1)についてみると、前記一、二審認定事実のみを前提とする限りにおいては、甲らが丙の財産的処分行為によって本件覚せい剤の占有を取得したものとみて、被告人(乙)らによる本件覚せい剤の取得行為はそれ自体としては詐欺罪に当たると解することもできないわけではないが(本件覚せい剤の売買契約が成立したことになっていないことは、右財産的処分行為を肯認する妨げにはならない。)、他方、本件覚せい剤に対する丙の占有は、甲らにこれを渡したことによっては未だ失われず、その後甲らが丙の意思に反して持ち逃げしたことによって失われたものとみて、本件覚せい剤の取得行為は、それだけをみれば窃盗罪に当たると解する余地もあり、以上のいずれかに断を下すためには、なお事実関係につき検討を重ねる必要がある。ところで、仮に右の点について後者の見解に立つとしても、原判決が(2)において、殺害が財物奪取の手段になっているといえるか否かというような点に触れないで、両者の時間的場所的密着性のみを根拠に強盗殺人罪の成立を認めるべきであるというのは、それ自体支持しがたいというほかないし、(3)で挙げられている結合犯のことや、事後強盗のことが、(2)のような解釈を採る根拠になるとは、到底考えられない。また、(4)で、もともとの計画が殺害して奪取するというものであったと指摘している点も、現に実行された右計画とは異なる行為がどのような犯罪を構成するのかという問題の解決に影響するとは思われない。本件においては、被告人(乙)が303号室に赴き拳銃発射に及んだ時点では、甲らは本件覚せい剤を手中にして何ら追跡を受けることなく逃走しており、すでにタクシーに乗車して遠ざかりつつあったかも知れないというのであるから、その占有をすでに確保していたというべきであり、拳銃発射が本件覚せい剤の占有奪取の手段となっているとみることは困難であり、被告人(乙)らが本件覚せい剤を強取したと評価することはできないというべきである。したがって、前記のような理由により本件につき強盗殺人未遂罪の成立を認めた原判決は、法令の解釈適用を誤ったものといわなければならない。
しかし、前記の本件事実関係自体から、被告人(乙)による拳銃発射行為は、丙を殺害して同人に対する本件覚せい剤の返還ないし買主が支払うべきものとされていたその代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るためになされたことが明らかであるから、右行為はいわゆる2項強盗による強盗殺人未遂罪に当たるというべきであり(暴力団抗争の関係も右行為の動機となっており、被告人(乙)についてはこちらの動機の方が強いと認められるが、このことは、右結論を左右するものではない。)、先行する本件覚せい剤取得行為がそれ自体としては、窃盗罪又は詐欺罪のいずれに当たるにせよ、前記事実関係にかんがみ、
本件は、その罪と(2項)強盗殺人未遂罪のいわゆる包括一罪として重い後者の刑で処断すべきものと解するのが相当である。したがって、前記違法をもって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。」
過去問・解説
(H21 司法 第19問 5)
甲は、覚せい剤の密売人乙から覚せい剤を受け取った後、その代金を請求されるや、代金支払債務を免れるため、乙を殺害した。この場合、甲には強盗殺人罪が成立する。
(H22 司法 第18問 ウ)
甲が、乙から財物をだまし取って財物の占有を確保した後に、だまされたことに気付いた乙から上記財物の返還を要求され、その返還を免れるため、乙に対し、暴行を加えて財物の取戻し行為を抑圧した場合、強盗既遂罪(刑法第236条第1項)が成立する。
(H25 司法 第12問 5)
甲は、飲食店において、代金を支払う意思及び能力がないのに、店長乙をだまして酒食を注文し、飲食した後、代金の支払いを免れるために、乙に対し、反抗を抑圧するに足りる程度の暴行を加え、その反抗を抑圧して逃走し、代金請求を免れた。甲には強盗既遂罪が成立する。
(H29 共通 第20問 3)
甲は、ホテルの部屋で乙と会い、乙に対し、100万円相当の覚せい剤(以下「本件覚せい剤」という。)の代金として、偽造した1万円札100枚を渡した。乙は、甲から渡された1万円札が偽札であることに気付かずに、甲に対し、本件覚せい剤を渡し、甲は、これを持って同部屋を出た。
甲は、本件覚せい剤をホテルの駐車場に駐車中の自己の自動車内に置いたところ、甲が乙に渡した1万円札が偽札であることに気付いて追い掛けてきた乙から、本件覚せい剤を返還するように求められた。甲は、本件覚せい剤の返還を免れるため、殺意をもって乙の首を両手で絞めて乙を殺害した。
覚せい剤は、法定の除外事由なく所持することが禁じられた物であるが、甲は、本件覚せい剤の返還を免れるために乙を殺害していることから、甲には強盗殺人罪が成立する。
(R1 司法 第2問 イ)
甲及び乙は、宝石商の丙から宝石を奪うことを計画した。その計画は、甲が、宝石取引のあっせんにかこつけてホテルの一室に丙を呼び出し、別室の顧客に見せる必要があるとうそを言って丙から宝石を受領し、甲の退室後に、乙が同室に入って丙を殺害するという内容であった。
甲は、計画に従って、ホテルの一室で丙から宝石を受領して退室し、それと入れ替わりに同室に立ち入った乙が丙の腹部を包丁で刺し、丙に重傷を負わせたが、殺害には至らなかった。
甲が丙から宝石を受領した行為について詐欺罪が成立すると考えた場合、同一の被害を二重に評価することはできないため、甲及び乙が、丙から宝石の代金相当額の支払を免れる意図を持っていたとしても、甲及び乙に、殺人未遂罪が成立するにとどまり、いわゆる2項強盗による強盗殺人未遂罪が成立することはない。