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刑法 被害者の同意と抽象的事実の錯誤 名古屋地判平成7年6月6日 - 解答モード
概要
殺人罪で起訴された事案において、被害者の真意に基づく嘱託はないものの、被告人においてその嘱託があるものと誤信して殺害したものであるとして、嘱託殺人罪の成立を認めた。
判例
事案:被害者の真意に基づく嘱託はないものの、被告人においてその嘱託があるものと誤信して殺害したとされた事案において、嘱託殺人罪の成否が問題となった。
判旨:「被告人は、本件犯行直後から捜査段階、公判段階を通じて、本件殺害につき、『犯行直前にVが発した”僕が先だよ” ”刺してもいいよ”との言葉が呪文のように心の中によぎり、Vが本気で同意し依頼していると信じて殺害に及んだ』と、Vの真意に基づく嘱託があると信じていた旨一貫して供述している。
しかして、そのように信じた点は、一面、被告人のいわば思いこみの激しい性格によるところもあるものの、他面、被告人は、犯行当時巨額の借金の返済期日が目前に迫っており、Vにその返済への協力を求めたが、Aからはよい返事が得られず、精神的に追い詰められ疲弊していたこと、前記の九州旅行以来、Vから何度となく死を仄めかされ、Vの求めで睡眠薬や果物ナイフを購入したこと、犯行前日から当日にかけて、被告人の目にとまり易いベット横の木箱上に右果物ナイフが置かれていたこと(しかも、これはVが置いたものである)、寝るでもなく起きるでもなくの状態で一夜を過ごすことが一日にわたって続き、精神的にも肉体的にも疲労困ぱいし、前途を思って動揺していたさ中、Vから『僕が先だよ』『刺してもいいよ』と言われたことなどの事情も認められ、これらの事情にかんがみると、『僕が先だよ』『刺してもいいよ』との言葉が呪文のように心の中によぎり、Vが真摯に殺害に同意しているものと信じて犯行に及んだ被告人の心情は、当時の状況に照して通常人の立場からも納得でき、その供述は十分信用できる。
…被告人は、被害者Aの嘱託がないのにこれあるものと誤信して殺害行為に及んだことが明らかであるから、嘱託殺人の故意で殺人を犯したものとして、平成7年法律第91号による改正前の刑法38条2項により、同改正前の刑法202条嘱託殺人罪の罪責を負うことになる。」
判旨:「被告人は、本件犯行直後から捜査段階、公判段階を通じて、本件殺害につき、『犯行直前にVが発した”僕が先だよ” ”刺してもいいよ”との言葉が呪文のように心の中によぎり、Vが本気で同意し依頼していると信じて殺害に及んだ』と、Vの真意に基づく嘱託があると信じていた旨一貫して供述している。
しかして、そのように信じた点は、一面、被告人のいわば思いこみの激しい性格によるところもあるものの、他面、被告人は、犯行当時巨額の借金の返済期日が目前に迫っており、Vにその返済への協力を求めたが、Aからはよい返事が得られず、精神的に追い詰められ疲弊していたこと、前記の九州旅行以来、Vから何度となく死を仄めかされ、Vの求めで睡眠薬や果物ナイフを購入したこと、犯行前日から当日にかけて、被告人の目にとまり易いベット横の木箱上に右果物ナイフが置かれていたこと(しかも、これはVが置いたものである)、寝るでもなく起きるでもなくの状態で一夜を過ごすことが一日にわたって続き、精神的にも肉体的にも疲労困ぱいし、前途を思って動揺していたさ中、Vから『僕が先だよ』『刺してもいいよ』と言われたことなどの事情も認められ、これらの事情にかんがみると、『僕が先だよ』『刺してもいいよ』との言葉が呪文のように心の中によぎり、Vが真摯に殺害に同意しているものと信じて犯行に及んだ被告人の心情は、当時の状況に照して通常人の立場からも納得でき、その供述は十分信用できる。
…被告人は、被害者Aの嘱託がないのにこれあるものと誤信して殺害行為に及んだことが明らかであるから、嘱託殺人の故意で殺人を犯したものとして、平成7年法律第91号による改正前の刑法38条2項により、同改正前の刑法202条嘱託殺人罪の罪責を負うことになる。」
過去問・解説
(H19 司法 第16問 イ)
甲は、乙を殺害することについての乙の承諾がないのに、これがあると誤信して、乙の首をひもで絞めて殺害した。甲には同意殺人罪が成立する。
(正答)〇
(解説)
裁判例(名古屋地判平7.6.6)は、本肢と同種の事案において、「被告人は、被害者Aの嘱託がないのにこれあるものと誤信して殺害行為に及んだことが明らかであるから、嘱託殺人の故意で殺人を犯したものとして、平成7年法律第91号による改正前の刑法38条2項により、同改正前の刑法202条嘱託殺人罪の罪責を負うことになる。」として、同意殺人罪の成立を認めている。これは、軽い罪の認識で重い罪を実現した場合に関する判例の構成要件的符合説の立場から、同意殺人罪の成立を認めた裁判例であると理解されている。
したがって、乙を殺害することについての乙の承諾がないのに、これがあると誤信して乙を殺害した甲には、同意殺人罪が成立する。