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刑法 窃盗罪の実行の着手 大判大正6年10月11日
概要
他人の財物を領得する意思に出た行為といえども未だ他人の事実上の支配を侵すにつき密接な程度に達していない場合は窃盗罪に着手したものということはできない。他人の財物がある衣装に手を差し入れ金品を窃取しようとしてそれを遂げなかったときは他人の事実上の支配を侵し窃盗行為に着手し遂げなかった事実に該当するものであるから窃盗未遂罪をもって論ずべきである。
判例
事案:他人の財物がある衣装に手を差し入れ金品を窃取しようとしてそれを遂げなかった事案において、窃盗罪の実行の着手が認められるかが問題となった。
判旨:「他人ノ財物ヲ領得スル意思ニ出ツル行為ト雖モ未タ他人ノ事実上ノ支配ヲ侵スニ付キ密接ノ程度ニ達セサル場合ハ窃盗罪ニ著手シタルモノト謂フヲ得ス
他人ノ財物在中ノ衣嚢ニ手ヲ差入レ金品ヲ窃取セントシテ遂ケサリシトキハ他人ノ事実上ノ支配ヲ侵シ窃盗行為ニ著手シ遂ケサリシ事実ニ該当スルモノナレハ窃盗未遂罪ヲ以テ論スヘキモノトス」
判旨:「他人ノ財物ヲ領得スル意思ニ出ツル行為ト雖モ未タ他人ノ事実上ノ支配ヲ侵スニ付キ密接ノ程度ニ達セサル場合ハ窃盗罪ニ著手シタルモノト謂フヲ得ス
他人ノ財物在中ノ衣嚢ニ手ヲ差入レ金品ヲ窃取セントシテ遂ケサリシトキハ他人ノ事実上ノ支配ヲ侵シ窃盗行為ニ著手シ遂ケサリシ事実ニ該当スルモノナレハ窃盗未遂罪ヲ以テ論スヘキモノトス」
過去問・解説
(H22 司法 第8問 イ)
甲の罪責について、判例の立場に従って検討し、窃盗罪が既遂になる場合には1を、未遂にとどまる場合には2を、既遂にも未遂にもならない場合には3を選びなさい。
甲は、乙方応接間で乙と雑談中、乙が部屋を出たすきに隣室にある金目の物を探して窃取しようと思い立ち、乙に対し、「お茶が欲しい。」と言って、乙を台所に行かせたが、乙の娘が応接間に入ってきたため、隣室に行くことができなかった。
甲の罪責について、判例の立場に従って検討し、窃盗罪が既遂になる場合には1を、未遂にとどまる場合には2を、既遂にも未遂にもならない場合には3を選びなさい。
甲は、乙方応接間で乙と雑談中、乙が部屋を出たすきに隣室にある金目の物を探して窃取しようと思い立ち、乙に対し、「お茶が欲しい。」と言って、乙を台所に行かせたが、乙の娘が応接間に入ってきたため、隣室に行くことができなかった。
(正答)3
(解説)
判例(大判大6.10.11)は、「他人ノ財物ヲ領得スル意思ニ出ツル行為ト雖モ未タ他人ノ事実上ノ支配ヲ侵スニ付キ密接ノ程度ニ達セサル場合ハ窃盗罪ニ著手シタルモノト謂フヲ得ス」として、占有者の事実上の支配を侵すのに密接な行為を開始しなければ窃盗罪の実行の着手が認められないことを示している。
また、その後の判例(最決昭40.3.9)は、「窃盗罪が成立するには他人の事実上の支配内に在る他人の財物を自己の支配内に移すことを要する。したがって他人の財物を領得する意思に出たとしても行為が未だ他人の事実上の支配を侵すに付き密接に至る程度に達していない場合においては窃盗罪に着手したとはいえない。…他人の財物がある衣装に手を差し入れ金品を窃取しようとしてそれを遂げなかったときは他人の事実上の支配を侵し窃盗行為に着手し遂げなかった事実に該当するものであるから窃盗未遂罪をもって論ずべきである。」としている。
甲は、乙が応接間を離れたすきに、隣室で金目の物を盗ろうとしたが、応接間に乙の娘が入ってきたため、隣室に行くこと自体を断念しているから、他人の事実上の支配を侵すに付き密接に至る程度に達しておらず、いまだ結果発生の現実的危険が生じているとはいえない。
したがって、甲に窃盗の実行の着手は認められず、甲の窃盗罪は未遂にもならない。
判例(大判大6.10.11)は、「他人ノ財物ヲ領得スル意思ニ出ツル行為ト雖モ未タ他人ノ事実上ノ支配ヲ侵スニ付キ密接ノ程度ニ達セサル場合ハ窃盗罪ニ著手シタルモノト謂フヲ得ス」として、占有者の事実上の支配を侵すのに密接な行為を開始しなければ窃盗罪の実行の着手が認められないことを示している。
また、その後の判例(最決昭40.3.9)は、「窃盗罪が成立するには他人の事実上の支配内に在る他人の財物を自己の支配内に移すことを要する。したがって他人の財物を領得する意思に出たとしても行為が未だ他人の事実上の支配を侵すに付き密接に至る程度に達していない場合においては窃盗罪に着手したとはいえない。…他人の財物がある衣装に手を差し入れ金品を窃取しようとしてそれを遂げなかったときは他人の事実上の支配を侵し窃盗行為に着手し遂げなかった事実に該当するものであるから窃盗未遂罪をもって論ずべきである。」としている。
甲は、乙が応接間を離れたすきに、隣室で金目の物を盗ろうとしたが、応接間に乙の娘が入ってきたため、隣室に行くこと自体を断念しているから、他人の事実上の支配を侵すに付き密接に至る程度に達しておらず、いまだ結果発生の現実的危険が生じているとはいえない。
したがって、甲に窃盗の実行の着手は認められず、甲の窃盗罪は未遂にもならない。