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刑法 偽造有印私文書行使罪と詐欺罪 東京高判平成7年3月14日
概要
被告人らが、ノンバンクから協力預金の資金名目で融資金を騙取し、右預金にノンバンクのために質権を設定するとしながら、これを行わずに質権設定承諾書を偽造して行使した行為は質権設定承諾書の交付が、融資金の入金(騙取)につき必要不可欠なものとして、これと同時的、一体的に行われることが予想されていたときは、両者の先後関係は必ずしも重要とは思われないため、偽造有印私文書行使罪と詐欺罪は包括一罪として処断するのが相当である。
判例
事案:融資金の詐欺のために書類を偽造し、その書類を用いて融資をだまし取った事案において、偽造有印私文書行使罪と詐欺罪の罪数関係が問題となった。
判旨:「一般的には有印私文書偽造、同行使、詐欺との間には順次手段結果の牽連関係があると認められるが、本件の事実関係においては、欺罔されたVの担当者から秋葉原支店のA名義の普通預金口座に約50億円が振込送金され、Bが同普通預金口座から50億円をA名義の通知預金に振り替えた後に同人において秋葉原支店長名義の質権設定承諾書を偽造してこれをVの担当者であるWに交付して行使しており、詐欺が既遂に達してから偽造質権設定承諾書を行使していることが認められるから、偽造有印私文書行使が詐欺の手段となっているとはいい難く、両者を牽連犯とするのは相当でない。ところで、一般に銀行預金を担保として第三者から融資を受ける場合には、当該第三者に質権設定承諾書を交付し、その後融資金の交付を受けるのが通常予想される形態と考えられる。ところが、本件においては、融資金が銀行預金の原資となっている関係で、まず融資金が入金されて預金に当てられてこれに関する質権設定承諾書が作成され、それが融資先に交付されているのである。しかし、元々(偽造)質権設定承諾書の交付は、融資金の入金(騙取)につき必要不可欠なものとして、これと同時的、一体的に行われることが予想されているのであって、両者の先後関係は必ずしも重要とは思われないところである。事実、本件と同様の不正融資事件において、事務処理の都合等から融資金の入金前に預金通帳等を作成して質権設定承諾書を偽造し、これを交付するのと引き換えに不正融資金が振込入金された事例もあることは当裁判所に顕著な事実であり、かつその場合には、当然のことながら、有印私文書偽造、同行使、詐欺とは順次手段結果の関係にあり結局一罪であるとして処断されているのである。そして、右の場合と偶々その担当者の事務処理の都合等から偽造質権設定承諾書の交付と振込入金との時間的先後が逆になった本件のような場合とで罪数処理に関する取扱いを異にすべき合理的な理由を見い出し難いことからすると、偽造有印私文書行使罪と詐欺罪との法益面での関連性が必ずしも強くないことを考慮に入れても、両者は包括一罪として処断するのが相当と解される。」
判旨:「一般的には有印私文書偽造、同行使、詐欺との間には順次手段結果の牽連関係があると認められるが、本件の事実関係においては、欺罔されたVの担当者から秋葉原支店のA名義の普通預金口座に約50億円が振込送金され、Bが同普通預金口座から50億円をA名義の通知預金に振り替えた後に同人において秋葉原支店長名義の質権設定承諾書を偽造してこれをVの担当者であるWに交付して行使しており、詐欺が既遂に達してから偽造質権設定承諾書を行使していることが認められるから、偽造有印私文書行使が詐欺の手段となっているとはいい難く、両者を牽連犯とするのは相当でない。ところで、一般に銀行預金を担保として第三者から融資を受ける場合には、当該第三者に質権設定承諾書を交付し、その後融資金の交付を受けるのが通常予想される形態と考えられる。ところが、本件においては、融資金が銀行預金の原資となっている関係で、まず融資金が入金されて預金に当てられてこれに関する質権設定承諾書が作成され、それが融資先に交付されているのである。しかし、元々(偽造)質権設定承諾書の交付は、融資金の入金(騙取)につき必要不可欠なものとして、これと同時的、一体的に行われることが予想されているのであって、両者の先後関係は必ずしも重要とは思われないところである。事実、本件と同様の不正融資事件において、事務処理の都合等から融資金の入金前に預金通帳等を作成して質権設定承諾書を偽造し、これを交付するのと引き換えに不正融資金が振込入金された事例もあることは当裁判所に顕著な事実であり、かつその場合には、当然のことながら、有印私文書偽造、同行使、詐欺とは順次手段結果の関係にあり結局一罪であるとして処断されているのである。そして、右の場合と偶々その担当者の事務処理の都合等から偽造質権設定承諾書の交付と振込入金との時間的先後が逆になった本件のような場合とで罪数処理に関する取扱いを異にすべき合理的な理由を見い出し難いことからすると、偽造有印私文書行使罪と詐欺罪との法益面での関連性が必ずしも強くないことを考慮に入れても、両者は包括一罪として処断するのが相当と解される。」
過去問・解説
(H23 司法 第6問 4)
甲は、真実は、自己の経営する会社の運転資金に使う目的で、質権を設定するつもりもないのに、乙に対して、「2000万円をA銀行の甲名義預金口座に振り込んでほしい。振り込まれた2000万円については、見せ金として使用するので、口座から引き出さないし、振込み後、質権も設定する。」などと嘘を言い、これを信じた乙は、A銀行の甲名義預金口座に2000万円を振り込んだ。その数日後、甲は、同預金に関するA銀行名義の質権設定承諾書1通を偽造し、乙に交付した。この場合、甲には詐欺罪、有印私文書偽造及び同行使罪が成立し、これらは牽連犯として一罪となる。
甲は、真実は、自己の経営する会社の運転資金に使う目的で、質権を設定するつもりもないのに、乙に対して、「2000万円をA銀行の甲名義預金口座に振り込んでほしい。振り込まれた2000万円については、見せ金として使用するので、口座から引き出さないし、振込み後、質権も設定する。」などと嘘を言い、これを信じた乙は、A銀行の甲名義預金口座に2000万円を振り込んだ。その数日後、甲は、同預金に関するA銀行名義の質権設定承諾書1通を偽造し、乙に交付した。この場合、甲には詐欺罪、有印私文書偽造及び同行使罪が成立し、これらは牽連犯として一罪となる。
(正答)✕
(解説)
裁判例(東京高判平7.3.14)は、本肢と同種の事案において、「偽造有印私文書行使罪と詐欺罪との法益面での関連性が必ずしも強くないことを考慮に入れても、両者は包括一罪として処断するのが相当と解される。」としている。
甲は、振り込み後に偽造の質権設定承諾書を交付しているから、詐欺罪のみが成立し、包括一罪となる。
裁判例(東京高判平7.3.14)は、本肢と同種の事案において、「偽造有印私文書行使罪と詐欺罪との法益面での関連性が必ずしも強くないことを考慮に入れても、両者は包括一罪として処断するのが相当と解される。」としている。
甲は、振り込み後に偽造の質権設定承諾書を交付しているから、詐欺罪のみが成立し、包括一罪となる。