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刑法 被害者側の落度が介在した場合における因果関係 最一小判昭和63年5月11日
概要
医師の資格のない柔道整復師が風邪の症状を訴える患者に対して誤った治療法を繰り返し指示し、これに忠実に従った患者が病状を悪化させて死亡するに至った場合には、患者側に医師の診察治療を受けることなく右指示に従った落度があったとしても、右指示と患者の死亡との間には因果関係がある。
判例
事案:医師の資格のない柔道整復師が風邪の症状を訴える患者に対して誤った治療法を繰り返し指示し、これに忠実に従った患者が病状を悪化させて死亡するに至った事案において、被告人の指導と被害者の死亡との間の因果関係が問題となった。
判旨:「被告人は、県知事の免許を受けて柔道整復業を営む一方、風邪等の症状を訴える患者に対しては、医師の資格がないにもかかわらず反復継続して治療としての施術等を行っていたものであるが、本件被害者から風邪ぎみであるとして診察治療を依頼されるや、これを承諾し、熱が上がれば体温により雑菌を殺す効果があって風邪は治るとの誤った考えから、熱を上げること、水分や食事を控えること、閉め切った部屋で布団をしっかり掛け汗を出すことなどを指示し、その後被害者の病状が次第に悪化しても、格別医師の診察治療を受けるよう勧めもしないまま、再三往診するなどして引き続き前同様の指示を繰り返していたところ、被害者は、これに忠実に従ったためその病状が悪化の一途をたどり、当初37度前後だった体温が5日目には42度にも昇ってけいれんを起こすなどし、その時点で初めて医師の手当てを受けたものの、既に脱水症状に陥って危篤状態にあり、まもなく気管支肺炎に起因する心不全により死亡するに至ったというのである。右事実関係のもとにおいては、被告人の行為は、それ自体が被害者の病状を悪化させ、ひいては死亡の結果をも引き起こしかねない危険性を有していたものであるから、医師の診察治療を受けることなく被告人だけに依存した被害者側にも落度があったことは否定できないとしても、被告人の行為と被害者の死亡との間には因果関係があるというべきであり、これと同旨の見解のもとに、被告人につき業務上過失致死罪の成立を肯定した原判断は、正当である。」
判旨:「被告人は、県知事の免許を受けて柔道整復業を営む一方、風邪等の症状を訴える患者に対しては、医師の資格がないにもかかわらず反復継続して治療としての施術等を行っていたものであるが、本件被害者から風邪ぎみであるとして診察治療を依頼されるや、これを承諾し、熱が上がれば体温により雑菌を殺す効果があって風邪は治るとの誤った考えから、熱を上げること、水分や食事を控えること、閉め切った部屋で布団をしっかり掛け汗を出すことなどを指示し、その後被害者の病状が次第に悪化しても、格別医師の診察治療を受けるよう勧めもしないまま、再三往診するなどして引き続き前同様の指示を繰り返していたところ、被害者は、これに忠実に従ったためその病状が悪化の一途をたどり、当初37度前後だった体温が5日目には42度にも昇ってけいれんを起こすなどし、その時点で初めて医師の手当てを受けたものの、既に脱水症状に陥って危篤状態にあり、まもなく気管支肺炎に起因する心不全により死亡するに至ったというのである。右事実関係のもとにおいては、被告人の行為は、それ自体が被害者の病状を悪化させ、ひいては死亡の結果をも引き起こしかねない危険性を有していたものであるから、医師の診察治療を受けることなく被告人だけに依存した被害者側にも落度があったことは否定できないとしても、被告人の行為と被害者の死亡との間には因果関係があるというべきであり、これと同旨の見解のもとに、被告人につき業務上過失致死罪の成立を肯定した原判断は、正当である。」
過去問・解説
(R3 予備 第11問 エ)
甲は、医師資格のない柔道整復師であるところ、自己に全幅の信頼を寄せるVから、風邪の治療について相談を持ち掛けられた際に、Vに対し、食事や水分補給を控える一方、発汗を促すという医学的に明らかに誤った治療法を繰り返して指示し、これに忠実に従ったVが症状を悪化させ、脱水症状に陥り、死亡した。この場合、甲の上記指示行為とVの死亡との間に、因果関係はない。
甲は、医師資格のない柔道整復師であるところ、自己に全幅の信頼を寄せるVから、風邪の治療について相談を持ち掛けられた際に、Vに対し、食事や水分補給を控える一方、発汗を促すという医学的に明らかに誤った治療法を繰り返して指示し、これに忠実に従ったVが症状を悪化させ、脱水症状に陥り、死亡した。この場合、甲の上記指示行為とVの死亡との間に、因果関係はない。
(正答)✕
(解説)
判例(最判昭63.5.11)は、本肢と同種の事案において、「被告人の行為は、それ自体が被害者の病状を悪化させ、ひいては死亡の結果をも引き起こしかねない危険性を有していたものであるから、医師の診察治療を受けることなく被告人だけに依存した被害者側にも落度があったことは否定できないとしても、被告人の行為と被害者の死亡との間には因果関係がある…。」としている。
したがって、甲に全幅の信頼を寄せるVに落ち度があったとしても、甲の指示がVの不適切な対処を誘発しているから、甲の指示とVの死亡との間に因果関係が認められる。
判例(最判昭63.5.11)は、本肢と同種の事案において、「被告人の行為は、それ自体が被害者の病状を悪化させ、ひいては死亡の結果をも引き起こしかねない危険性を有していたものであるから、医師の診察治療を受けることなく被告人だけに依存した被害者側にも落度があったことは否定できないとしても、被告人の行為と被害者の死亡との間には因果関係がある…。」としている。
したがって、甲に全幅の信頼を寄せるVに落ち度があったとしても、甲の指示がVの不適切な対処を誘発しているから、甲の指示とVの死亡との間に因果関係が認められる。