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刑法 「現に人が居住に使用」する建造物の意義 最二小決平成9年10月21日

概要
競売手続の妨害目的で自己の経営する会社の従業員を交替で泊まり込ませていた家屋につき放火を実行する前に右従業員らを旅行に連れ出していても、同家屋に日常生活上必要な設備、備品があり、従業員らが犯行前の約1箇月半の間に10数回交替で宿泊し、旅行から帰れば再び交替で宿泊するものと認識していたなど判示の事実関係の下においては、右家屋は、現住建造物放火罪の「現に人が居住に使用」する建造物に当たる。
判例
事案:競売手続の妨害目的で従業員を交替で泊まり込ませていた家屋につき放火前に右従業員を旅行に連れ出していたという事案において、現住建造物放火罪の「現に人が居住に使用」する建造物に当たるかが問題となった。

判旨:「(1)本件家屋及びその敷地は、被告人が転売目的で取得したものであるが、風呂、洗面所、トイレ、台所等の設備があり、水道、電気、ガスが供給されていて、日常生活に最低限必要なベッド、布団等の寝具のほか、テーブル、椅子、冷蔵庫、テレビ等の家財道具が持ち込まれていた。
 (2)被告人は、本件家屋及びその敷地に対する競売手続の進行を妨げるため、人がそこで生活しているように装うとともに、防犯の意味も兼ねて、自己の経営する会社の従業員5名に指示して、休日以外は毎日交替で本件家屋に宿泊に行かせることとし、本件家屋の鍵を従業員2名にそれぞれ所持させたほか、会社の鍵置き場に鍵1個を掛けて、他の従業員らはこれを用いて本件家屋に自由に出入りできるようにした。
 (3)その結果、平成3年10月上旬ころから同年11月16日夜までの間に10数回にわたり、従業員5名が交替で本件家屋に宿泊して、近隣の住民の目から見ても本件家屋に人が住み着いたと感じ取れる状態になった。
 (4)他方、被告人は、本件家屋及びこれに持ち込んだ家財道具を焼燬して火災保険金を騙取しようと企て、Aが本件家屋に放火する予定日前の同年2月19日から従業員5名を2泊3日の沖縄旅行に連れ出すとともに、その出発前夜に宿泊予定の従業員には、宿泊しなくてもよいと伝え、留守番役の別の従業員には、被告人らの留守中の宿泊は不要であると伝えたが、これらの指示は、本件家屋への放火の準備や実行が従業員らに気付かれないようにするためであった。
 (5)また、被告人は、従業員らに対し、沖縄旅行から帰った後は本件家屋に宿泊しなくてもよいとは指示しておらず、従業員らは、旅行から帰れば再び本件家屋への交替の宿泊が継続されるものと認識していた。また、被告人は、旅行に出発する前に本件家屋の鍵を回収したことはなく、その1本は従業員が旅行に持参していた。 
 (6)Aは、被告人との共謀に基づき、被告人らが沖縄旅行中の同月21日午前0時40分ころ、本件家屋に火を放ち、これを全焼させて焼燬した。
 …本件家屋は、人の起居の場所として日常使用されていたものであり、右沖縄旅行中の本件犯行時においても、その使用形態に変更はなかったものと認められる。そうすると、本件家屋は、本件犯行時においても、平成7年法律第91号による改正前の刑法108条にいう『現ニ人ノ住居ニ使用』する建造物に当たると認めるのが相当であるから、これと同旨の見解に基づき現住建造物等放火罪の成立を認めた原判決の判断は正当である。」
過去問・解説
(H18 司法 第19問 ウ)
甲は、妻と二人で自宅に居住していたが、甲の意図を知らない妻の旅行中、火災保険金を詐取する目的で自宅に放火して全焼させた。甲は、隣家に延焼することは予期していなかったが、隣家も延焼した。甲に延焼罪が成立する。

(正答)

(解説)
判例(最決平9.10.21)は、本肢と同種の事案において、「本件家屋は、人の起居の場所として日常使用されていたものであり、右沖縄旅行中の本件犯行時においても、その使用形態に変更はなかったものと認められる。そうすると、本件家屋は、本件犯行時においても、…『現ニ人ノ住居ニ使用』する建造物に当たると認めるのが相当である…。」としている。
妻が旅行から帰ってきた場合、再び住居として自宅を使用すると考えられるため、使用形態に変更はなかったといえ、甲宅も現住建造物に該当する。
したがって、甲に現住建造物等放火罪が成立し、延焼罪は成立しない。

(H22 司法 第20問 ウ)
次の【事例】における甲の罪責を判例の立場に従って検討し、【罪名】に係る犯罪が成立するか。
【事例】
 甲は、乙及びその妻子全員が1週間の旅行に出ていて留守であると聞いていた乙宅に、窃盗の目的で侵入し、金庫を開けたところ、乙の妻子は旅行中だったものの、1人で在宅していた乙に発見され、「泥棒」と叫ばれた。甲は、捕まっては大変だと思い、乙にナイフを突き付け、「静かにしろ。」と言ったところ、乙は、慌てて逃げ出そうとして転倒し、暖炉の角に頭部をぶつけた結果、脳内出血を起こして死亡した。
 甲は、乙の死亡を確認した上、金庫の中にあった多量の宝石と多額の現金を奪った後、犯行の痕跡を消し去ろうと考えて乙宅に火を放ち、乙宅は全焼した。
 その後、甲は、上記宝石を丙に売却することとしたが、その際、上記事情を知る丁に依頼して、丁が運転する自動車に乗り、丁と一緒に同宝石を丙宅まで運搬した。
【罪名】
非現住建造物等放火罪

(正答)

(解説)
判例(最決平9.10.21)は、本肢と同種の事案において、「本件家屋は、人の起居の場所として日常使用されていたものであり、右沖縄旅行中の本件犯行時においても、その使用形態に変更はなかったものと認められる。そうすると、本件家屋は、本件犯行時においても、…『現ニ人ノ住居ニ使用』する建造物に当たると認めるのが相当である…。」としている。
乙自身は、放火行為時には既に死亡しているものの、乙の妻子が旅行から帰ってきた場合、再び住居として自宅を使用すると考えられるため、使用形態に変更はなかったといえ、乙宅も現住建造物に該当する。
したがって、甲に現住建造物等放火罪が成立し、非現住建造物等放火罪は成立しない。

(R5 司法 第8問 2)
甲は、Vがその家族と共に居住する木造家屋に放火してこれを焼損した。この場合、Vとその家族が1泊2日の旅行中で不在であり、甲がそのことを認識して放火したのであれば、甲に現住建造物等放火既遂罪が成立することはない。

(正答)

(解説)
判例(最決平9.10.21)は、本肢と同種の事案において、「本件家屋は、人の起居の場所として日常使用されていたものであり、右沖縄旅行中の本件犯行時においても、その使用形態に変更はなかったものと認められる。そうすると、本件家屋は、本件犯行時においても、…『現ニ人ノ住居ニ使用』する建造物に当たると認めるのが相当である…。」としている。
甲が放火した時点でVらは不在であったものの、Vとその家族が旅行から帰ってきた場合、再び住居として自宅を使用すると考えられるため、使用形態に変更はなかったといえ、V宅も現住建造物に当たる。
したがって、甲に現住建造物等放火罪が成立する。
総合メモ
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