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刑法 口裏合わせと「隠避させた」 最二小決平成29年3月27日
概要
道路交通法違反、自動車運転過失致死の各罪の犯人がAであると知りながら、Aとの間で、事故車両が盗まれたことにする旨口裏合わせをした上、参考人として警察官に対して前記口裏合わせに基づいた虚偽の供述をした本件行為は、犯人隠避罪にいう「隠避させた」に当たる。
判例
事案:参考人として警察官に対して犯人との間の口裏合わせに基づいた虚偽の供述をしたという事案において、犯人隠避罪にいう「隠避させた」に当たるかが問題となった。
判旨:「被告人は、前記道路交通法違反及び自動車運転過失致死の各罪の犯人がAであると知りながら、同人との間で、A車が盗まれたことにするという、Aを前記各罪の犯人として身柄の拘束を継続することに疑念を生じさせる内容の口裏合わせをした上、参考人として警察官に対して前記口裏合わせに基づいた虚偽の供述をしたものである。このような被告人の行為は、刑法103条にいう『罪を犯した者』をして現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為と認められるのであって、同条にいう『隠避させた』に当たると解するのが相当である(最高裁昭和63年(あ)第247号平成元年5月1日第一小法廷決定・刑集43巻5号405頁参照)。
隠避行為とは、法廷意見が説示するとおり、『犯人の身柄拘束を免れさせる性質の行為』をいうものと解するのが相当である。そして、虚偽供述がそのような行為に該当するというためには、客観的に刑事司法作用を誤らせる危険性を有するものであること、すなわち、当該虚偽供述が犯人の身柄拘束の継続に疑義を生じさせる性質のものであることを要するというべきである。
まず、『犯人の身柄拘束を免れさせる性質の行為』といえるためには、単に身柄拘束の可否を判断することに何らかの関連を有する供述というだけでは広範なものが含まれ、処罰の範囲を画することができないので、その可否判断に直接ないし密接に関連した供述内容でなければならない。
…本件は、虚偽供述にとどまるものではなく、Aと口裏合わせをした上で、前記虚偽供述をした事案である。参考人の供述は、関係者の供述や客観的証拠と整合性があるかどうかを確認して信用性判断がされるものであるが、口裏合わせはその有力な確認方法の1つをあらかじめ奪って、信用性チェックを困難にし、場合によっては虚偽供述の真実らしさを増幅させ、捜査の方向を誤らせる可能性もあり、客観的に刑事司法作用を誤らせる危険性を有するものということができる。その程度は、実務上犯人隠避罪に当たるとすることに異論をみない身代わり自白と差がないものと評価できよう。このような意味で、口裏合わせの事実は、虚偽供述が隠避に該当するというための重要な考慮要素というべきである。
以上によれば、口裏合わせを伴う本件虚偽供述は、『犯人の身柄の拘束を免れさせる性質の行為』とみることができ、刑法103条の隠避に該当する。」
判旨:「被告人は、前記道路交通法違反及び自動車運転過失致死の各罪の犯人がAであると知りながら、同人との間で、A車が盗まれたことにするという、Aを前記各罪の犯人として身柄の拘束を継続することに疑念を生じさせる内容の口裏合わせをした上、参考人として警察官に対して前記口裏合わせに基づいた虚偽の供述をしたものである。このような被告人の行為は、刑法103条にいう『罪を犯した者』をして現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為と認められるのであって、同条にいう『隠避させた』に当たると解するのが相当である(最高裁昭和63年(あ)第247号平成元年5月1日第一小法廷決定・刑集43巻5号405頁参照)。
隠避行為とは、法廷意見が説示するとおり、『犯人の身柄拘束を免れさせる性質の行為』をいうものと解するのが相当である。そして、虚偽供述がそのような行為に該当するというためには、客観的に刑事司法作用を誤らせる危険性を有するものであること、すなわち、当該虚偽供述が犯人の身柄拘束の継続に疑義を生じさせる性質のものであることを要するというべきである。
まず、『犯人の身柄拘束を免れさせる性質の行為』といえるためには、単に身柄拘束の可否を判断することに何らかの関連を有する供述というだけでは広範なものが含まれ、処罰の範囲を画することができないので、その可否判断に直接ないし密接に関連した供述内容でなければならない。
…本件は、虚偽供述にとどまるものではなく、Aと口裏合わせをした上で、前記虚偽供述をした事案である。参考人の供述は、関係者の供述や客観的証拠と整合性があるかどうかを確認して信用性判断がされるものであるが、口裏合わせはその有力な確認方法の1つをあらかじめ奪って、信用性チェックを困難にし、場合によっては虚偽供述の真実らしさを増幅させ、捜査の方向を誤らせる可能性もあり、客観的に刑事司法作用を誤らせる危険性を有するものということができる。その程度は、実務上犯人隠避罪に当たるとすることに異論をみない身代わり自白と差がないものと評価できよう。このような意味で、口裏合わせの事実は、虚偽供述が隠避に該当するというための重要な考慮要素というべきである。
以上によれば、口裏合わせを伴う本件虚偽供述は、『犯人の身柄の拘束を免れさせる性質の行為』とみることができ、刑法103条の隠避に該当する。」
過去問・解説
(R3 共通 第20問 オ)
【事例】
暴力団A組の組員甲は、クラブで飲酒していた際、たまたま入店してきた旧知の暴力団B組の組員乙に因縁を付けられて口論になり、乙に拳で殴りかかった。乙は、これを避けた上、更に殴りかかろうとしてきた甲の胸部を拳で数回強打した。その数分後、B組の組員丙は、乙と待ち合わせをしていた上記クラブに到着し、その直後に甲の態度に激高し、いきなり甲の胸部を拳で数回強打した。甲は、全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負ったが、同傷害が乙と丙のいずれの暴行によって生じたのかは不明であった。甲は、一旦帰宅したものの怒りが収まらず、何か嫌がらせをしてやろうと考え、金属バットを持ち、覆面で顔を隠してB組事務所に行き、その玄関ドアを同バットでたたいて凹損させた。その直後、甲は、A組事務所に行き、A組の組員丁に対し、B組組員から殴られた腹いせにB組事務所の玄関ドアを凹損させたことを話した。丁は、B組との関係悪化を避けるとともに、甲の刑事責任を免れさせるため、甲との間で、犯行時間帯に甲がA組事務所にいたことにする旨の口裏合わせをした。また、丁は、B組組員複数名による襲撃を受ける可能性もあると考え、万が一に備えて、着衣のポケットに護身用として果物ナイフを入れた。他方、乙及び丙は、上記ドアが凹損させられたとの連絡を受け、甲の仕業だろうと考え、A組事務所へ向かった。乙は、応対に出た丁に対し、「甲を出せ。」と言った。丁は、「何の話だ。」と応じたが、乙は、その態度に憤激し、「しらばっくれるな。」と言い、持っていた拳銃を取り出して丁に突き付けた。丁は、自己の身を守るため、上記ナイフで乙の腹部を1回突き刺し、乙に全治約1か月間を要する腹部刺創の傷害を負わせた。丁は、駆けつけた警察官に逮捕され、その後、逃走していた甲も上記ドアを凹損させた事実で逮捕された。丁は、甲の身柄拘束中、甲の犯行に関する参考人として取調べを受けた際、上記口裏合わせに従い、上記ドアが凹損させられた時間帯に甲がA組事務所にいた旨のうその供述をした。
【記述】
丁が、甲の犯行に関する参考人として取調べを受けた際、B組事務所の玄関ドアが凹損させられた時間帯に甲がA組事務所にいた旨のうその供述をした行為については、犯人隠避罪が成立する。
【事例】
暴力団A組の組員甲は、クラブで飲酒していた際、たまたま入店してきた旧知の暴力団B組の組員乙に因縁を付けられて口論になり、乙に拳で殴りかかった。乙は、これを避けた上、更に殴りかかろうとしてきた甲の胸部を拳で数回強打した。その数分後、B組の組員丙は、乙と待ち合わせをしていた上記クラブに到着し、その直後に甲の態度に激高し、いきなり甲の胸部を拳で数回強打した。甲は、全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負ったが、同傷害が乙と丙のいずれの暴行によって生じたのかは不明であった。甲は、一旦帰宅したものの怒りが収まらず、何か嫌がらせをしてやろうと考え、金属バットを持ち、覆面で顔を隠してB組事務所に行き、その玄関ドアを同バットでたたいて凹損させた。その直後、甲は、A組事務所に行き、A組の組員丁に対し、B組組員から殴られた腹いせにB組事務所の玄関ドアを凹損させたことを話した。丁は、B組との関係悪化を避けるとともに、甲の刑事責任を免れさせるため、甲との間で、犯行時間帯に甲がA組事務所にいたことにする旨の口裏合わせをした。また、丁は、B組組員複数名による襲撃を受ける可能性もあると考え、万が一に備えて、着衣のポケットに護身用として果物ナイフを入れた。他方、乙及び丙は、上記ドアが凹損させられたとの連絡を受け、甲の仕業だろうと考え、A組事務所へ向かった。乙は、応対に出た丁に対し、「甲を出せ。」と言った。丁は、「何の話だ。」と応じたが、乙は、その態度に憤激し、「しらばっくれるな。」と言い、持っていた拳銃を取り出して丁に突き付けた。丁は、自己の身を守るため、上記ナイフで乙の腹部を1回突き刺し、乙に全治約1か月間を要する腹部刺創の傷害を負わせた。丁は、駆けつけた警察官に逮捕され、その後、逃走していた甲も上記ドアを凹損させた事実で逮捕された。丁は、甲の身柄拘束中、甲の犯行に関する参考人として取調べを受けた際、上記口裏合わせに従い、上記ドアが凹損させられた時間帯に甲がA組事務所にいた旨のうその供述をした。
【記述】
丁が、甲の犯行に関する参考人として取調べを受けた際、B組事務所の玄関ドアが凹損させられた時間帯に甲がA組事務所にいた旨のうその供述をした行為については、犯人隠避罪が成立する。
(正答)〇
(解説)
判例(最決平29.3.27)は、「身柄の拘束を継続することに疑念を生じさせる内容の口裏合わせをした上、参考人として警察官に対して前記口裏合わせに基づいた虚偽の供述をした…行為は、103条にいう『罪を犯した者』をして現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為と認められるのであって、同条にいう『隠避させた』に当たる…。」としている。
B組事務所の玄関ドアが凹損させられた時間帯に甲がA組事務所にいた旨のうその供述は、甲のアリバイを示し犯人ではないことを内容とするから、身柄の拘束を免れさせるような性質の行為といえ、「隠避させた」に当たる。
したがって、丁に犯人隠避罪が成立する。
判例(最決平29.3.27)は、「身柄の拘束を継続することに疑念を生じさせる内容の口裏合わせをした上、参考人として警察官に対して前記口裏合わせに基づいた虚偽の供述をした…行為は、103条にいう『罪を犯した者』をして現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為と認められるのであって、同条にいう『隠避させた』に当たる…。」としている。
B組事務所の玄関ドアが凹損させられた時間帯に甲がA組事務所にいた旨のうその供述は、甲のアリバイを示し犯人ではないことを内容とするから、身柄の拘束を免れさせるような性質の行為といえ、「隠避させた」に当たる。
したがって、丁に犯人隠避罪が成立する。