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公訴提起
一罪の一部起訴 最一小決昭和59年1月27日
概要
①甲が、選挙運動者たる乙に対し、公職選挙法221条1項1号所定の目的をもって金銭等を交付したと認められるときは、たとえ、甲乙間で右金銭等を第三者に供与することの共謀があり乙が右共謀の趣旨に従いこれを第三者に供与した疑いがあったとしても、検察官は、立証の難易等諸般の事情を考慮して、甲を交付罪のみで起訴することが許される。
②甲が乙に対する金銭等の交付罪で起訴されたときは、たとえ、甲乙間で金銭等を第三者に供与することの共謀があり乙が右共謀の趣旨に従いこれを第三者に供与した疑いがあったとしても、裁判所は、訴因の制約のもとにおいて、甲についての交付罪の成否を判断すれば足り、訴因として掲げられていない乙との共謀による供与罪の成否につき審理したり、検察官に対し右供与罪の訴因の追加・変更を促したりする義務を負うものではない。
②甲が乙に対する金銭等の交付罪で起訴されたときは、たとえ、甲乙間で金銭等を第三者に供与することの共謀があり乙が右共謀の趣旨に従いこれを第三者に供与した疑いがあったとしても、裁判所は、訴因の制約のもとにおいて、甲についての交付罪の成否を判断すれば足り、訴因として掲げられていない乙との共謀による供与罪の成否につき審理したり、検察官に対し右供与罪の訴因の追加・変更を促したりする義務を負うものではない。
判例
事案:検察官は、選挙運動に際し、甲が乙に金銭を交付したとして甲を起訴した。甲が、甲乙間で金銭を第三者に供与する共謀があった以上、交付罪ではなく供与罪が成立すると争った事案において、①一罪の一部の事実のみを対象とする起訴の可否、及び、②かかる一部起訴がなされた場合の裁判所の審理方法が問題となった。
判旨:①「選挙運動者たる乙に対し、甲が公職選挙法221条1項1号所定の目的をもって金銭等を交付したと認められるときは、たとえ、甲乙間で右金銭等を第三者に供与することの共謀があり乙が右共謀の趣旨に従いこれを第三者に供与した疑いがあったとしても、検察官は、立証の難易等諸般の事情を考慮して、甲を交付罪のみで起訴することが許される...。」
②「このような場合、裁判所としては、訴因の制約のもとにおいて、甲についての交付罪の成否を判断すれば足り、訴因として掲げられていない乙との共謀による供与罪の成否につき審理したり、検察官に対し、右供与罪の訴因の追加・変更を促したりする義務はないというべきである。」
判旨:①「選挙運動者たる乙に対し、甲が公職選挙法221条1項1号所定の目的をもって金銭等を交付したと認められるときは、たとえ、甲乙間で右金銭等を第三者に供与することの共謀があり乙が右共謀の趣旨に従いこれを第三者に供与した疑いがあったとしても、検察官は、立証の難易等諸般の事情を考慮して、甲を交付罪のみで起訴することが許される...。」
②「このような場合、裁判所としては、訴因の制約のもとにおいて、甲についての交付罪の成否を判断すれば足り、訴因として掲げられていない乙との共謀による供与罪の成否につき審理したり、検察官に対し、右供与罪の訴因の追加・変更を促したりする義務はないというべきである。」
総合メモ
同種前科の記載 最大判昭和27年3月5日
概要
①公訴犯罪事実について裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項は、起訴状に記載することは許されないのであって、かかる事項を起訴状に記載したときは、これによってすでに生じた違法性は、その性質上もはや治癒することができないものと解するのを相当とする。
②詐欺罪の公訴事実について、起訴状の冒頭に「被告人は詐欺罪により既に2度処罰を受けたものであるが」と記載することは、公訴犯罪事実につき裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたる。
②詐欺罪の公訴事実について、起訴状の冒頭に「被告人は詐欺罪により既に2度処罰を受けたものであるが」と記載することは、公訴犯罪事実につき裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたる。
判例
事案:起訴状において、詐欺罪の公訴事実について、その冒頭に「被告人は詐欺罪により既に2度処罰を受けたものであるが」との記載があった事案において、①裁判官に予断を生じせしめるおそれのある事項を起訴状に記載することの可否、及び、②詐欺罪の公訴事実における詐欺罪の前科の記載が裁判官に予断を生じせしめるおそれのある事項か否かが問題となった。
判旨:①「刑訴256条が、起訴状に記載すべき要件を定めるとともに、その6項に、『起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない』と定めているのは、裁判官が、あらかじめ事件についてなんらの先入的心証を抱くことなく、白紙の状態において、第1回の公判期日に臨み、その後の審理の進行に従い、証拠によって事案の真相を明らかにし、もって公正な判決に到達するという手続の段階を示したものであって、直接審理主義及び公判中心主義の精神を実現するとともに裁判官の公正を訴訟手続上より確保し、よって公平な裁判所の性格を客観的にも保障しようとする重要な目的をもっているのである。すなわち、公訴犯罪事実について、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項は、起訴状に記載することは許されないのであって、かかる事項を起訴状に記載したときは、これによってすでに生じた違法性は、その性質上もはや治癒することができないものと解するを相当とする。
②「本件起訴状によれば、詐欺罪の公訴事実について、その冐頭に、『被告人は詐欺罪により既に2度処罰を受けたものであるが』と記載しているのであるが、このように詐欺の公訴について、詐欺の前科を記載することは、両者の関係からいって、公訴犯罪事実につき、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたると解しなければならない。所論は、本件被告人の前科は、公訴による犯罪に対し、累犯加重の原由たる場合であって、検察官は、裁判官の適正な法令の適用を促す意味において、起訴状の記載要件となっている罰条の摘示をなすと同じ趣旨の下に、これを起訴状に記載したものであると主張するが、前科が、累犯加重の原由たる事実である場合は、量刑に関係のある事項でもあるから、正規の手続に従い(刑訴296条参照)、証拠調の段階においてこれを明らかにすれば足りるのであって、特にこれを起訴状に記載しなければ、論旨のいう目的を達することができないという理由はなく、従って、これを罰条の摘示と同じ趣旨と解することはできない。もっとも被告人の前科であっても、それが、公訴犯罪事実の構成要件となっている場合(例えば常習累犯窃盗)又は公訴犯罪事実の内容となっている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)等は、公訴犯罪事実を示すのに必要であって、これを一般の前科と同様に解することはできないからこれを記載することはもとより適法である。」
判旨:①「刑訴256条が、起訴状に記載すべき要件を定めるとともに、その6項に、『起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない』と定めているのは、裁判官が、あらかじめ事件についてなんらの先入的心証を抱くことなく、白紙の状態において、第1回の公判期日に臨み、その後の審理の進行に従い、証拠によって事案の真相を明らかにし、もって公正な判決に到達するという手続の段階を示したものであって、直接審理主義及び公判中心主義の精神を実現するとともに裁判官の公正を訴訟手続上より確保し、よって公平な裁判所の性格を客観的にも保障しようとする重要な目的をもっているのである。すなわち、公訴犯罪事実について、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項は、起訴状に記載することは許されないのであって、かかる事項を起訴状に記載したときは、これによってすでに生じた違法性は、その性質上もはや治癒することができないものと解するを相当とする。
②「本件起訴状によれば、詐欺罪の公訴事実について、その冐頭に、『被告人は詐欺罪により既に2度処罰を受けたものであるが』と記載しているのであるが、このように詐欺の公訴について、詐欺の前科を記載することは、両者の関係からいって、公訴犯罪事実につき、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたると解しなければならない。所論は、本件被告人の前科は、公訴による犯罪に対し、累犯加重の原由たる場合であって、検察官は、裁判官の適正な法令の適用を促す意味において、起訴状の記載要件となっている罰条の摘示をなすと同じ趣旨の下に、これを起訴状に記載したものであると主張するが、前科が、累犯加重の原由たる事実である場合は、量刑に関係のある事項でもあるから、正規の手続に従い(刑訴296条参照)、証拠調の段階においてこれを明らかにすれば足りるのであって、特にこれを起訴状に記載しなければ、論旨のいう目的を達することができないという理由はなく、従って、これを罰条の摘示と同じ趣旨と解することはできない。もっとも被告人の前科であっても、それが、公訴犯罪事実の構成要件となっている場合(例えば常習累犯窃盗)又は公訴犯罪事実の内容となっている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)等は、公訴犯罪事実を示すのに必要であって、これを一般の前科と同様に解することはできないからこれを記載することはもとより適法である。」
過去問・解説
(H19 司法 第26問 イ)
公訴事実中の被告人の前科の記載は、裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある事項に該当するので、前科を誇示してした恐喝などのように前科が犯罪の実行行為の一部となっている場合であっても、公訴事実中に前科を記載することは許されない。
公訴事実中の被告人の前科の記載は、裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある事項に該当するので、前科を誇示してした恐喝などのように前科が犯罪の実行行為の一部となっている場合であっても、公訴事実中に前科を記載することは許されない。
(正答)✕
(解説)
256条6項は、「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある...内容を引用してはならない。」と規定している。
これについて、判例(最大判昭27.3.5)は、「前科を記載することは、...公訴犯罪事実につき、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたると解しなければならない。」とした上で、「被告人の前科であっても、それが、...公訴犯罪事実の内容となっている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)...は、公訴犯罪事実を示すのに必要であって、これを一般の前科と同様に解することはできないからこれを記載することはもとより適法である。」としている。
したがって、公訴事実中の被告人の前科の記載は、裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある事項に該当するが、前科を誇示してした恐喝などのように前科が犯罪の実行行為の一部となっている場合には、公訴事実中に前科を記載することも許される。
256条6項は、「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある...内容を引用してはならない。」と規定している。
これについて、判例(最大判昭27.3.5)は、「前科を記載することは、...公訴犯罪事実につき、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたると解しなければならない。」とした上で、「被告人の前科であっても、それが、...公訴犯罪事実の内容となっている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)...は、公訴犯罪事実を示すのに必要であって、これを一般の前科と同様に解することはできないからこれを記載することはもとより適法である。」としている。
したがって、公訴事実中の被告人の前科の記載は、裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある事項に該当するが、前科を誇示してした恐喝などのように前科が犯罪の実行行為の一部となっている場合には、公訴事実中に前科を記載することも許される。
(H22 司法 第38問 エ)
起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある内容を引用してはならないから、常習累犯窃盗罪のように前科が構成要件の一部を構成している場合でなければ、起訴状に被告人の前科を記載することは許されない。
起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある内容を引用してはならないから、常習累犯窃盗罪のように前科が構成要件の一部を構成している場合でなければ、起訴状に被告人の前科を記載することは許されない。
(正答)✕
(解説)
256条6項は、「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある...内容を引用してはならない。」と規定している。
これについて、判例(最大判昭27.3.5)は、「前科を記載することは、...公訴犯罪事実につき、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたると解しなければならない。」とした上で、「公訴犯罪事実の内容となっている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)等は、公訴犯罪事実を示すのに必要であって、これを一般の前科と同様に解することはできないからこれを記載することはもとより適法である。」としている。
したがって、常習累犯窃盗罪のように前科が構成要件の一部を構成している場合に加え、公訴犯罪事実の内容となっている場合にも、起訴状に前科を記載することが許される。
256条6項は、「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある...内容を引用してはならない。」と規定している。
これについて、判例(最大判昭27.3.5)は、「前科を記載することは、...公訴犯罪事実につき、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたると解しなければならない。」とした上で、「公訴犯罪事実の内容となっている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)等は、公訴犯罪事実を示すのに必要であって、これを一般の前科と同様に解することはできないからこれを記載することはもとより適法である。」としている。
したがって、常習累犯窃盗罪のように前科が構成要件の一部を構成している場合に加え、公訴犯罪事実の内容となっている場合にも、起訴状に前科を記載することが許される。
(R6 予備 第25問 イ)
前科の事実を手段・方法として恐喝したという事実で公訴を提起する場合には、公訴事実中に被告人の前科を記載することも許される。
前科の事実を手段・方法として恐喝したという事実で公訴を提起する場合には、公訴事実中に被告人の前科を記載することも許される。
(正答)〇
(解説)
256条6項は、「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある...内容を引用してはならない。」と規定している。
これについて、判例(最大判昭27.3.5)は、「前科を記載することは、...公訴犯罪事実につき、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたると解しなければならない。」とした上で、「被告人の前科であっても、それが、...公訴犯罪事実の内容となっている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)...は、公訴犯罪事実を示すのに必要であって、これを一般の前科と同様に解することはできないからこれを記載することはもとより適法である。」としている。
したがって、前科の事実を手段・方法として恐喝したという事実で公訴を提起する場合には、公訴事実中に被告人の前科を記載することも許される。
256条6項は、「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある...内容を引用してはならない。」と規定している。
これについて、判例(最大判昭27.3.5)は、「前科を記載することは、...公訴犯罪事実につき、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項にあたると解しなければならない。」とした上で、「被告人の前科であっても、それが、...公訴犯罪事実の内容となっている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)...は、公訴犯罪事実を示すのに必要であって、これを一般の前科と同様に解することはできないからこれを記載することはもとより適法である。」としている。
したがって、前科の事実を手段・方法として恐喝したという事実で公訴を提起する場合には、公訴事実中に被告人の前科を記載することも許される。
総合メモ
脅迫文書の全文とほとんど同様の記載 最三小判昭和33年5月20日
概要
恐喝の手段として被害者に郵送された脅迫文書の趣旨が婉曲暗示的であって、起訴状にこれを要約摘示するには相当詳細にわたるのでなければその文書の趣旨が判明し難いような場合には、起訴状にその文書の全文と殆んど同様の記載がなされても、その起訴状は256条6項に違反しないものと解すべきである。
判例
事案:起訴状に恐喝の手段として利用された脅迫文書の全文とほとんど同様の記載がなされた事案において、恐喝の手段である脅迫文書のほとんど全文を起訴状に記載することが、256条6項に反しないかが問題となった。
判旨:「起訴状に記載された事実がその訴因を明示するため犯罪構成要件にあたる事実若くはこれと密接不可分の事実であって被告人の行為が罪名として記載された罰条にあたる所以を明らかにするため必要であるときはその記載は刑訴256条6項に違反しないこと当裁判所の判例とするところである(昭和25年(あ)992号同26年4月10日第三小法廷判決、集5巻5号842頁)。記録によると、本件起訴状(罪名は恐喝)には公訴事実第2(1)の記載として、『被告人甲は乙と共謀の上V等から金円を不法に領得せんことを企て、被告人甲に於て、昭和23年12月31日炭酸紙及び骨筆を使用し和罫紙3枚に宛 ”拝啓貴下がAに対し従来莫大なる数量の生糸の売買を為し本年下半期のみにても八百数十貫其の価格壱千万円に及び就中弐拾壱中の如き入手困難なるものもあり之等に関し各種脱税に対する第三者申告の対称たるのみならず近日中宇和島市に於て発行の予定なる新日本建設新聞の創刊号に所謂特種としての価値を発揮する次第なる処本件事案の重大性と業界に及ぼす影響不尠点に貴下の御迷惑を考慮し十分慎重なる態度を以て臨み度に付貴下の釈明をも参考に致し度く依って来る1月5日迄に何分の御書面相煩度得貴意候也昭和弐拾参年拾弐月参拾壱日、北宇和郡泉村出目高田克六方甲、宇和島市御殿町員外一、V殿” と複写し、以て同人をして釈明しなければ脱税に対する第三者申告を為し且つ新聞紙上に掲載して刑事処分をも受けしむべく依って同人の自由、名誉、財産に対し害を加るべきことを暗示し暗に之が揉消しのため相当額の金円を提供すべき旨の脅迫文3通を作成し、即日宇和島郵便局から内1通を書留内容証明郵便としてV宛郵送翌昭和24年1月1日同人をして受領畏怖せしめ』たものである、との記載があり、そして右起訴状に記載された右郵送脅迫書翰の記載は後に第1審公判廷に証拠として提出された郵送書翰(押収の証1号手紙1通)の記載と殆んど同様のものであること、しかし記載形式は両者互いに異っていることを認めることができる。
一般に、起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添付し、又はその内容を引用してはならないこと刑訴256条6項の明定するところであるから、本件起訴状において郵送脅迫書翰の記載内容を表示するには例えば第1審判決事実認定の部においてなされているように少しでもこれを要約して摘記すべきである。しかし、起訴状には訴因を明示して公訴事実を記載すべく、訴因を明示するにはできる限り犯罪の方法をも特定して記載しなければならないことも刑訴256条の規定するところであり、そして起訴状における公訴事実の記載は具体的になすべく、恐喝罪においては、被告人が財物の交付を受ける意図をもって他人に対し害を加えるべきことの通告をした事実は犯罪構成事実に属するから、具体的にこれを記載しなければならないこというまでもない。本件公訴事実によればいわゆる郵送脅迫文書は加害の通告の主要な方法であるとみられるのに、その趣旨は婉曲暗示的であって、被告人の右書状郵送が財産的利得の意図からの加害の通告に当るか或は単に平穏な社交的質問書に過ぎないかは主としてその書翰の記載内容の解釈によって判定されるという微妙な関係のあることを窺うことができる。かような関係があって、起訴状に脅迫文書の内容を具体的に真実に適合するように要約摘示しても相当詳細にわたるのでなければその文書の趣旨が判明し難いような場合には、起訴状に脅迫文書の全文と殆んど同様の記載をしたとしても、それは要約摘示と大差なく、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞もなく、刑訴256条6項に従い『裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物の内容を引用し』たものとして起訴を無効ならしめるものと解すべきではない。」
判旨:「起訴状に記載された事実がその訴因を明示するため犯罪構成要件にあたる事実若くはこれと密接不可分の事実であって被告人の行為が罪名として記載された罰条にあたる所以を明らかにするため必要であるときはその記載は刑訴256条6項に違反しないこと当裁判所の判例とするところである(昭和25年(あ)992号同26年4月10日第三小法廷判決、集5巻5号842頁)。記録によると、本件起訴状(罪名は恐喝)には公訴事実第2(1)の記載として、『被告人甲は乙と共謀の上V等から金円を不法に領得せんことを企て、被告人甲に於て、昭和23年12月31日炭酸紙及び骨筆を使用し和罫紙3枚に宛 ”拝啓貴下がAに対し従来莫大なる数量の生糸の売買を為し本年下半期のみにても八百数十貫其の価格壱千万円に及び就中弐拾壱中の如き入手困難なるものもあり之等に関し各種脱税に対する第三者申告の対称たるのみならず近日中宇和島市に於て発行の予定なる新日本建設新聞の創刊号に所謂特種としての価値を発揮する次第なる処本件事案の重大性と業界に及ぼす影響不尠点に貴下の御迷惑を考慮し十分慎重なる態度を以て臨み度に付貴下の釈明をも参考に致し度く依って来る1月5日迄に何分の御書面相煩度得貴意候也昭和弐拾参年拾弐月参拾壱日、北宇和郡泉村出目高田克六方甲、宇和島市御殿町員外一、V殿” と複写し、以て同人をして釈明しなければ脱税に対する第三者申告を為し且つ新聞紙上に掲載して刑事処分をも受けしむべく依って同人の自由、名誉、財産に対し害を加るべきことを暗示し暗に之が揉消しのため相当額の金円を提供すべき旨の脅迫文3通を作成し、即日宇和島郵便局から内1通を書留内容証明郵便としてV宛郵送翌昭和24年1月1日同人をして受領畏怖せしめ』たものである、との記載があり、そして右起訴状に記載された右郵送脅迫書翰の記載は後に第1審公判廷に証拠として提出された郵送書翰(押収の証1号手紙1通)の記載と殆んど同様のものであること、しかし記載形式は両者互いに異っていることを認めることができる。
一般に、起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添付し、又はその内容を引用してはならないこと刑訴256条6項の明定するところであるから、本件起訴状において郵送脅迫書翰の記載内容を表示するには例えば第1審判決事実認定の部においてなされているように少しでもこれを要約して摘記すべきである。しかし、起訴状には訴因を明示して公訴事実を記載すべく、訴因を明示するにはできる限り犯罪の方法をも特定して記載しなければならないことも刑訴256条の規定するところであり、そして起訴状における公訴事実の記載は具体的になすべく、恐喝罪においては、被告人が財物の交付を受ける意図をもって他人に対し害を加えるべきことの通告をした事実は犯罪構成事実に属するから、具体的にこれを記載しなければならないこというまでもない。本件公訴事実によればいわゆる郵送脅迫文書は加害の通告の主要な方法であるとみられるのに、その趣旨は婉曲暗示的であって、被告人の右書状郵送が財産的利得の意図からの加害の通告に当るか或は単に平穏な社交的質問書に過ぎないかは主としてその書翰の記載内容の解釈によって判定されるという微妙な関係のあることを窺うことができる。かような関係があって、起訴状に脅迫文書の内容を具体的に真実に適合するように要約摘示しても相当詳細にわたるのでなければその文書の趣旨が判明し難いような場合には、起訴状に脅迫文書の全文と殆んど同様の記載をしたとしても、それは要約摘示と大差なく、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞もなく、刑訴256条6項に従い『裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物の内容を引用し』たものとして起訴を無効ならしめるものと解すべきではない。」
過去問・解説
(H19 司法 第26問 ウ)
恐喝の手段として送付された脅迫状の全文を恐喝罪の公訴事実に引用するのは、起訴状一本主義に反する証拠の引用に該当するので許されることはない。
恐喝の手段として送付された脅迫状の全文を恐喝罪の公訴事実に引用するのは、起訴状一本主義に反する証拠の引用に該当するので許されることはない。
(正答)✕
(解説)
判例(最判昭33.5.20)は、「恐喝罪において、...起訴状に脅迫文書の内容を具体的に真実に適合するように要約摘示しても相当詳細にわたるのでなければその文書の趣旨が判明し難いような場合には、起訴状に脅迫文書の全文と殆んど同様の記載をしたとしても、...刑訴256条6項に従い『裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物の内容を引用し』たものとして起訴を無効ならしめるものと解すべきではない。」としている。
したがって、恐喝の手段として送付された脅迫状の全文を恐喝罪の公訴事実に引用することも許されることがある。
判例(最判昭33.5.20)は、「恐喝罪において、...起訴状に脅迫文書の内容を具体的に真実に適合するように要約摘示しても相当詳細にわたるのでなければその文書の趣旨が判明し難いような場合には、起訴状に脅迫文書の全文と殆んど同様の記載をしたとしても、...刑訴256条6項に従い『裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物の内容を引用し』たものとして起訴を無効ならしめるものと解すべきではない。」としている。
したがって、恐喝の手段として送付された脅迫状の全文を恐喝罪の公訴事実に引用することも許されることがある。
総合メモ
「犯罪行為が終った時」(253条1項)の意義 最三小決昭和63年2月29日
概要
①253条1項にいう「犯罪行為」には、刑法各本条所定の結果も含まれる。
②業務上過失致死罪の公訴時効は、被害者の受傷から死亡までの間に業務上過失傷害罪の公訴時効期間が経過したか否かにかかわらず、その死亡の時点から進行する。
②業務上過失致死罪の公訴時効は、被害者の受傷から死亡までの間に業務上過失傷害罪の公訴時効期間が経過したか否かにかかわらず、その死亡の時点から進行する。
判例
事案:いわゆる熊本水俣病事件において、被告人らが、胎児段階で水俣病を発病し、出生後12歳9か月にして同疾病により死亡した被害者に対する業務上過失致死罪に問われたところ、公訴時効の成立を主張した事案において、①253条1項の「犯罪行為」の意義、及び、②被害者が受傷後期間を経て死亡した場合における業務上過失致死罪の公訴時効の起算点が問題となった。
判旨:①「公訴時効の起算点に関する刑訴法253条1項にいう『犯罪行為』とは、刑法各本条所定の結果をも含む趣旨と解するのが相当である...。」
②「Vを被害者とする業務上過失致死罪の公訴時効は、当該犯罪の終了時である同人死亡の時点から進行を開始するのであって、出生時に同人を被害者とする業務上過失傷害罪が成立したか否か、そして、その後同罪の公訴時効期間が経過したか否かは、前記業務上過失致死罪の公訴時効完成の有無を判定するに当たっては、格別の意義を有しないものというべきである。」
判旨:①「公訴時効の起算点に関する刑訴法253条1項にいう『犯罪行為』とは、刑法各本条所定の結果をも含む趣旨と解するのが相当である...。」
②「Vを被害者とする業務上過失致死罪の公訴時効は、当該犯罪の終了時である同人死亡の時点から進行を開始するのであって、出生時に同人を被害者とする業務上過失傷害罪が成立したか否か、そして、その後同罪の公訴時効期間が経過したか否かは、前記業務上過失致死罪の公訴時効完成の有無を判定するに当たっては、格別の意義を有しないものというべきである。」
総合メモ
観念的競合の事件の公訴時効の算定 最一小判昭和41年4月21日
概要
1個の行為が数個の罪名に触れる場合における公訴の時効期間算定については、各別に論ずることなく、これを一体として観察し、その最も重い罪の刑につき定めた時効期間によるのを相当とする。
判例
事案:被告人が、選挙に際して支援者に報酬を支払い、票の取りまとめを依頼したところ、公職選挙法上の供与罪、事前運動罪に問われ、両罪は観念的競合とされた事案において、観念的競合の場合における公訴時効の算定方法が問題となった。
判旨:「刑法54条1項前段のいわゆる観念的競合は、1個の行為が数個の罪名に触れる場合に、科刑上一罪として取り扱うものであるから、公訴の時効期間算定については、各別に論ずることなく、これを一体として観察し、その最も重い罪の刑につき定めた時効期間によるを相当とする。」
判旨:「刑法54条1項前段のいわゆる観念的競合は、1個の行為が数個の罪名に触れる場合に、科刑上一罪として取り扱うものであるから、公訴の時効期間算定については、各別に論ずることなく、これを一体として観察し、その最も重い罪の刑につき定めた時効期間によるを相当とする。」
総合メモ
「犯人が国外にいる場合」(255条1項前段)の意義 最三小判昭和37年9月18日
概要
255条第1項前段は、犯人が国外にいる場合は、そのことだけで、公訴の時効はその国外にいる期間中進行を停止することを規定したものである。
判例
事案:被告人が、中華人民共和国へ、有効な旅券に出国の証印を受けないで出国していたが、この事実を捜査機関は知らなかった事案において、かかる場合にも公訴時効の進行が停止するかが問題となった。
判旨:「255条1項...前段の『犯人が国外にいる場合』は、同項後段の『犯人が逃げ隠れている』場合と異なり、公訴時効の進行停止につき、起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかったことを前提要件とするものでないことは、規定の明文上疑いを容れないところであり、また、犯人が国外にいる場合は、実際上わが国の捜査権がこれに及ばないことにかんがみると、犯人が国内において逃げ隠れている場合とは大いに事情を異にするのであって、捜査官において犯罪の発生またはその犯人を知ると否とを問わず、犯人の国外にいる期間、公訴時効の進行を停止すると解することには、十分な合理的根拠があるというべきである。」
判旨:「255条1項...前段の『犯人が国外にいる場合』は、同項後段の『犯人が逃げ隠れている』場合と異なり、公訴時効の進行停止につき、起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかったことを前提要件とするものでないことは、規定の明文上疑いを容れないところであり、また、犯人が国外にいる場合は、実際上わが国の捜査権がこれに及ばないことにかんがみると、犯人が国内において逃げ隠れている場合とは大いに事情を異にするのであって、捜査官において犯罪の発生またはその犯人を知ると否とを問わず、犯人の国外にいる期間、公訴時効の進行を停止すると解することには、十分な合理的根拠があるというべきである。」
過去問・解説
(H21 司法 第30問 5)
犯人が国外にいる場合には、時効は、その国外にいる期間その進行を停止するが、捜査機関が犯罪の発生又は犯人を知らない場合には、犯人が国外にいることだけでは、時効は、その進行を停止しない。
犯人が国外にいる場合には、時効は、その国外にいる期間その進行を停止するが、捜査機関が犯罪の発生又は犯人を知らない場合には、犯人が国外にいることだけでは、時効は、その進行を停止しない。
(正答)✕
(解説)
255条1項は、「犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかった場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。」と規定している。
これについて、判例(最判昭37.9.18)は、「捜査官において犯罪の発生またはその犯人を知ると否とを問わず、犯人の国外にいる期間、公訴時効の進行を停止すると解することには、十分な合理的根拠がある…。」としている。
したがって、捜査機関が犯罪の発生又は犯人を知らない場合であっても、犯人が国外にいるのであれば、公訴時効の進行は停止する。
255条1項は、「犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかった場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。」と規定している。
これについて、判例(最判昭37.9.18)は、「捜査官において犯罪の発生またはその犯人を知ると否とを問わず、犯人の国外にいる期間、公訴時効の進行を停止すると解することには、十分な合理的根拠がある…。」としている。
したがって、捜査機関が犯罪の発生又は犯人を知らない場合であっても、犯人が国外にいるのであれば、公訴時効の進行は停止する。
総合メモ
共謀共同正犯と訴因 最三小決平成21年7月21日
概要
検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく、被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において、被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは、他に共謀共同正犯者が存在するとしても、裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許される。
判例
事案:被告人は窃盗罪の単独犯として起訴された。公判において、被告人が、他に共犯者がいる旨を主張し、現に共犯者が存在することに言及されたが、訴因通りに単独犯として犯罪事実が認定された事案において、単独犯の訴因で起訴された被告人に共謀共同正犯者が存在するとしても、訴因どおりに犯罪事実を認定することが許されるかが問題となった。
判旨:「検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく、被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において、被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは、他に共謀共同正犯者が存在するとしてもその犯罪の成否は左右されないから、裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許されると解するのが相当である。」
判旨:「検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく、被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において、被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは、他に共謀共同正犯者が存在するとしてもその犯罪の成否は左右されないから、裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許されると解するのが相当である。」
過去問・解説
(H23 共通 第29問 エ)
検察官において、共謀共同正犯者の存在に言及することなく、被告人が1人で自動二輪車を窃取したという窃盗の訴因で公訴を提起した場合、裁判所が、証拠上、他に実行行為を行っていない共謀共同正犯者が存在するとの心証を得たとしても、被告人1人の行為により犯罪構成要件の全てが満たされたと認めるときは、訴因どおりの犯罪事実を認定することができる。
検察官において、共謀共同正犯者の存在に言及することなく、被告人が1人で自動二輪車を窃取したという窃盗の訴因で公訴を提起した場合、裁判所が、証拠上、他に実行行為を行っていない共謀共同正犯者が存在するとの心証を得たとしても、被告人1人の行為により犯罪構成要件の全てが満たされたと認めるときは、訴因どおりの犯罪事実を認定することができる。
(正答)〇
(解説)
判例(最決平21.7.21)は、「検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく、被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において、被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは、…裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許される...。」としている。
判例(最決平21.7.21)は、「検察官において共謀共同正犯者の存在に言及することなく、被告人が当該犯罪を行ったとの訴因で公訴を提起した場合において、被告人1人の行為により犯罪構成要件のすべてが満たされたと認められるときは、…裁判所は訴因どおりに犯罪事実を認定することが許される...。」としている。
総合メモ
訴因の概括的記載 最一小決平成14年7月18日
概要
傷害致死罪の訴因につき、暴行態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的であっても、検察官において、当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものである以上、訴因の特定に欠けるところはない。
判例
事案:傷害致死の訴因について、暴行態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的に記載された事案において、かかる記載が訴因の特定を欠くかが問題となった。
判旨:「第1次予備的訴因は、『被告人は、単独又はA及びBと共謀の上、平成9年9月30日午後8時30分ころ、福岡市中央区所在のビジネス旅館あさひ2階7号室において、被害者に対し、その頭部等に手段不明の暴行を加え、頭蓋冠、頭蓋底骨折等の傷害を負わせ、よって、そのころ、同所において、頭蓋冠、頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡させた。』という傷害致死の訴因であり、単独犯と共同正犯のいずれであるかという点については、択一的に訴因変更請求がされたと解されるものである。
原判決によれば、第1次予備的訴因が追加された当時の証拠関係に照らすと、被害者に致死的な暴行が加えられたことは明らかであるものの、暴行態様や傷害の内容、死因等については十分な供述等が得られず、不明瞭な領域が残っていたというのである。そうすると、第1次予備的訴因は、暴行態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的なものであるにとどまるが、検察官において、当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって傷害致死の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるから、訴因の特定に欠けるところはないというべきである。」
判旨:「第1次予備的訴因は、『被告人は、単独又はA及びBと共謀の上、平成9年9月30日午後8時30分ころ、福岡市中央区所在のビジネス旅館あさひ2階7号室において、被害者に対し、その頭部等に手段不明の暴行を加え、頭蓋冠、頭蓋底骨折等の傷害を負わせ、よって、そのころ、同所において、頭蓋冠、頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡させた。』という傷害致死の訴因であり、単独犯と共同正犯のいずれであるかという点については、択一的に訴因変更請求がされたと解されるものである。
原判決によれば、第1次予備的訴因が追加された当時の証拠関係に照らすと、被害者に致死的な暴行が加えられたことは明らかであるものの、暴行態様や傷害の内容、死因等については十分な供述等が得られず、不明瞭な領域が残っていたというのである。そうすると、第1次予備的訴因は、暴行態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的なものであるにとどまるが、検察官において、当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって傷害致死の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるから、訴因の特定に欠けるところはないというべきである。」
過去問・解説
(H23 共通 第29問 ウ)
傷害致死の罪について、「被告人は、平成22年5月9日午後9時ころ、H市I区所在のJホテル7号室において、Vに対し、その頭部等に手段不明の暴行を加え、頭蓋冠、頭蓋底骨折等の傷害を負わせ、よって、そのころ、同所において、頭蓋冠、頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡させた。」という訴因とすることは、暴行態様、傷害の内容及び死因の表示が概括的なものにとどまるから、検察官において、当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって傷害致死の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものであっても、訴因の特定に欠ける。
傷害致死の罪について、「被告人は、平成22年5月9日午後9時ころ、H市I区所在のJホテル7号室において、Vに対し、その頭部等に手段不明の暴行を加え、頭蓋冠、頭蓋底骨折等の傷害を負わせ、よって、そのころ、同所において、頭蓋冠、頭蓋底骨折に基づく外傷性脳障害又は何らかの傷害により死亡させた。」という訴因とすることは、暴行態様、傷害の内容及び死因の表示が概括的なものにとどまるから、検察官において、当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって傷害致死の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものであっても、訴因の特定に欠ける。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平14.7.18)は、本肢と同種の事案において、「暴行態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的なものであるにとどまるが、検察官において、当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって傷害致死の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるから、訴因の特定に欠けるところはないというべきである。」としている。
したがって、本肢のような訴因も、検察官において、当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって傷害致死の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものであれば、訴因の特定に欠けるところはない。
判例(最決平14.7.18)は、本肢と同種の事案において、「暴行態様、傷害の内容、死因等の表示が概括的なものであるにとどまるが、検察官において、当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって傷害致死の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるから、訴因の特定に欠けるところはないというべきである。」としている。
したがって、本肢のような訴因も、検察官において、当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって傷害致死の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものであれば、訴因の特定に欠けるところはない。
総合メモ
罰条と訴因変更 最二小決昭和53年2月16日
概要
裁判所は、訴因により公訴事実が十分に明確にされていて被告人の防禦に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで、起訴状に記載されていない罰条を適用することができる。
判例
事案:裁判所が、起訴状に記載された暴行罪の罰条の記載を変更することなく、起訴状に記載されていない暴力行為等処罰に関する法律1条の罪を適用し、有罪とした事案において、起訴状に記載されていない罰条の適用の可否が問題となった。
判旨:「起訴状における罰条の記載は、訴因をより一層特定させて被告人の防禦に遺憾のないようにするため法律上要請されているものであり、裁判所による法令の適用をその範囲内に拘束するためのものではないと解すべきである。それ故、裁判所は、訴因により公訴事実が十分に明確にされていて被告人の防禦に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで、起訴状に記載されていない罰条であってもこれを適用することができるものというべきである。」
判旨:「起訴状における罰条の記載は、訴因をより一層特定させて被告人の防禦に遺憾のないようにするため法律上要請されているものであり、裁判所による法令の適用をその範囲内に拘束するためのものではないと解すべきである。それ故、裁判所は、訴因により公訴事実が十分に明確にされていて被告人の防禦に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで、起訴状に記載されていない罰条であってもこれを適用することができるものというべきである。」
過去問・解説
(H23 共通 第29問 イ)
起訴状における訴因の記載は、裁判所が行う審判対象の範囲を画定するとともに、被告人の防御の対象を明確にする機能を有するものであり、起訴状における罰条の記載も、訴因をより一層特定させて被告人の防御に遺憾のないようにするため法律上要請されているものであるから、訴因により公訴事実が十分に明確にされ、被告人の防御に実質的な不利益が生じない場合であっても、裁判所が起訴状に記載されていない罰条を適用するためには、罰条変更の手続を経なければならない。
起訴状における訴因の記載は、裁判所が行う審判対象の範囲を画定するとともに、被告人の防御の対象を明確にする機能を有するものであり、起訴状における罰条の記載も、訴因をより一層特定させて被告人の防御に遺憾のないようにするため法律上要請されているものであるから、訴因により公訴事実が十分に明確にされ、被告人の防御に実質的な不利益が生じない場合であっても、裁判所が起訴状に記載されていない罰条を適用するためには、罰条変更の手続を経なければならない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決昭53.2.16)は、「起訴状における罰条の記載は、訴因をより一層特定させて被告人の防禦に遺憾のないようにするため法律上要請されているものであり、裁判所による法令の適用をその範囲内に拘束するためのものではないと解すべきである。それ故、裁判所は、訴因により公訴事実が十分に明確にされていて被告人の防禦に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで、起訴状に記載されていない罰条であってもこれを適用することができる…。」としている。
判例(最決昭53.2.16)は、「起訴状における罰条の記載は、訴因をより一層特定させて被告人の防禦に遺憾のないようにするため法律上要請されているものであり、裁判所による法令の適用をその範囲内に拘束するためのものではないと解すべきである。それ故、裁判所は、訴因により公訴事実が十分に明確にされていて被告人の防禦に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで、起訴状に記載されていない罰条であってもこれを適用することができる…。」としている。
総合メモ
訴因の概括的記載 最大判昭和37年11月28日
概要
犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、犯罪の日時、場所及び方法につき幅のある表示をしても、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示すという訴因特定の目的に反しない限り、その一事のみをもって、訴因の特定を欠くことにはならない。
判例
事案:訴因を密出入国の日時・方法を概括的に記載された事案において、かかる記載が訴因の特定を欠くかが問題となった。
判旨:「本件起訴状記載の公訴事実は、『被告人は、昭和27年4月頃より同33年6月下旬までの間に、有効な旅券に出国の証印を受けないで、本邦より本邦外の地域たる中国に出国したものである』というにあって、犯罪の日時を表示するに6年余の期間内とし、場所を単に本邦よりとし、その方法につき具体的な表示をしていないことは、所論のとおりである。
しかし、刑訴256条3項において、公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないと規定する所以のものは、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とするものと解されるところ、犯罪の日時、場所及び方法は、これら事項が、犯罪を構成する要素になっている場合を除き、本来は、罪となるべき事実そのものではなく、ただ訴因を特定する一手段として、できる限り具体的に表示すべきことを要請されているのであるから、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、前記法の目的を害さないかぎりの幅のある表示をしても、その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできない。
これを本件についてみるのに、検察官は、本件第1審第1回公判においての冒頭陳述において、証拠により証明すべき事実として、(1)昭和33年7月8日被告人は中国から白山丸に乗船し、同月13日本邦に帰国した事実、(2)同27年4月頃まで被告人は水俣市に居住していたが、その後所在が分らなくなった事実及び(3)被告人は出国の証印を受けていなかった事実を挙げており、これによれば検察官は、被告人が昭和27年4月頃までは本邦に在住していたが、その後所在不明となってから、日時は詳らかでないが中国に向けて不法に出国し、引き続いて本邦外にあり、同33年7月8日白山丸に乗船して帰国したものであるとして、右不法出国の事実を起訴したものとみるべきである。そして、本件密出国のように、本邦をひそかに出国してわが国と未だ国交を回復せず、外交関係を維持していない国に赴いた場合は、その出国の具体的顛末ついてこれを確認することが極めて困難であって、まさに上述の特殊事情のある場合に当るものというべく、たとえその出国の日時、場所及び方法を詳しく具体的に表示しなくても、起訴状及び右第1審第1回公判の冒頭陳述によって本件公訴が裁判所に対し審判を求めようとする対象は、おのずから明らかであり、被告人の防禦の範囲もおのずから限定されているというべきであるから、被告人の防禦に実質的の障碍を与えるおそれはない。それゆえ、所論刑訴256条3項違反の主張は、採ることを得ない。」
判旨:「本件起訴状記載の公訴事実は、『被告人は、昭和27年4月頃より同33年6月下旬までの間に、有効な旅券に出国の証印を受けないで、本邦より本邦外の地域たる中国に出国したものである』というにあって、犯罪の日時を表示するに6年余の期間内とし、場所を単に本邦よりとし、その方法につき具体的な表示をしていないことは、所論のとおりである。
しかし、刑訴256条3項において、公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないと規定する所以のものは、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とするものと解されるところ、犯罪の日時、場所及び方法は、これら事項が、犯罪を構成する要素になっている場合を除き、本来は、罪となるべき事実そのものではなく、ただ訴因を特定する一手段として、できる限り具体的に表示すべきことを要請されているのであるから、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、前記法の目的を害さないかぎりの幅のある表示をしても、その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできない。
これを本件についてみるのに、検察官は、本件第1審第1回公判においての冒頭陳述において、証拠により証明すべき事実として、(1)昭和33年7月8日被告人は中国から白山丸に乗船し、同月13日本邦に帰国した事実、(2)同27年4月頃まで被告人は水俣市に居住していたが、その後所在が分らなくなった事実及び(3)被告人は出国の証印を受けていなかった事実を挙げており、これによれば検察官は、被告人が昭和27年4月頃までは本邦に在住していたが、その後所在不明となってから、日時は詳らかでないが中国に向けて不法に出国し、引き続いて本邦外にあり、同33年7月8日白山丸に乗船して帰国したものであるとして、右不法出国の事実を起訴したものとみるべきである。そして、本件密出国のように、本邦をひそかに出国してわが国と未だ国交を回復せず、外交関係を維持していない国に赴いた場合は、その出国の具体的顛末ついてこれを確認することが極めて困難であって、まさに上述の特殊事情のある場合に当るものというべく、たとえその出国の日時、場所及び方法を詳しく具体的に表示しなくても、起訴状及び右第1審第1回公判の冒頭陳述によって本件公訴が裁判所に対し審判を求めようとする対象は、おのずから明らかであり、被告人の防禦の範囲もおのずから限定されているというべきであるから、被告人の防禦に実質的の障碍を与えるおそれはない。それゆえ、所論刑訴256条3項違反の主張は、採ることを得ない。」
過去問・解説
(H21 司法 第32問 ア)
【事例】
Vの死体が発見され、司法解剖の結果、Vの死因が頸部圧迫による窒息であることが判明した。その後、警察は、甲及び乙が共謀してVを殺害した事実により、甲を逮捕したが、乙は逃亡してその所在が判明しなかった。甲は、取調べに対し、自分はVの殺害とは無関係である旨供述した。捜査を尽くしたところ、検察官は、甲及び乙が共謀してVを殺害し、殺害の実行行為者が甲であると認定したが、犯行日時については、「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、犯行場所については、「H市内又はその周辺」、犯行方法については、「何らかの方法で頸部を圧迫した」としか認定できなかった。そのため、検察官は、甲の勾留満期日に、以下の<公訴事実>で甲を起訴した。
<公訴事実>
被告人甲は、乙と共謀の上、平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間、H市内又はその周辺において、Vに対し、殺意をもって、何らかの方法でVの頸部を圧迫し、よって、そのころ、同所付近において、Vを頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
<公訴事実>の「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、「H市内又はその周辺」、「何らかの方法でVの頸部を圧迫し」という記載は、日時、場所、方法等の表示が概括的なものにとどまるが、検察官において、起訴当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって殺人の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるから、訴因の特定に欠けるところはない。
【事例】
Vの死体が発見され、司法解剖の結果、Vの死因が頸部圧迫による窒息であることが判明した。その後、警察は、甲及び乙が共謀してVを殺害した事実により、甲を逮捕したが、乙は逃亡してその所在が判明しなかった。甲は、取調べに対し、自分はVの殺害とは無関係である旨供述した。捜査を尽くしたところ、検察官は、甲及び乙が共謀してVを殺害し、殺害の実行行為者が甲であると認定したが、犯行日時については、「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、犯行場所については、「H市内又はその周辺」、犯行方法については、「何らかの方法で頸部を圧迫した」としか認定できなかった。そのため、検察官は、甲の勾留満期日に、以下の<公訴事実>で甲を起訴した。
<公訴事実>
被告人甲は、乙と共謀の上、平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間、H市内又はその周辺において、Vに対し、殺意をもって、何らかの方法でVの頸部を圧迫し、よって、そのころ、同所付近において、Vを頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
<公訴事実>の「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、「H市内又はその周辺」、「何らかの方法でVの頸部を圧迫し」という記載は、日時、場所、方法等の表示が概括的なものにとどまるが、検察官において、起訴当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって殺人の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるから、訴因の特定に欠けるところはない。
(正答)〇
(解説)
判例(最大判昭37.11.28)は、「刑訴256条3項において、公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないと規定する所以のものは、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とするものと解されるところ、犯罪の日時、場所及び方法は、これら事項が、犯罪を構成する要素になっている場合を除き、本来は、罪となるべき事実そのものではなく、ただ訴因を特定する一手段として、できる限り具体的に表示すべきことを要請されているのであるから、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、前記法の目的を害さないかぎりの幅のある表示をしても、その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできない。」としている。
本肢では、犯行日時、犯行場所、犯行方法が概括的な記載となっているが、Vは死亡している以上、審判対象は限定され、被告人に対する防御の範囲は示されており、検察官において、起訴当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって殺人の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるため、訴因の特定に欠けるところはない。
判例(最大判昭37.11.28)は、「刑訴256条3項において、公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない、訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないと規定する所以のものは、裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とするものと解されるところ、犯罪の日時、場所及び方法は、これら事項が、犯罪を構成する要素になっている場合を除き、本来は、罪となるべき事実そのものではなく、ただ訴因を特定する一手段として、できる限り具体的に表示すべきことを要請されているのであるから、犯罪の種類、性質等の如何により、これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には、前記法の目的を害さないかぎりの幅のある表示をしても、その一事のみを以て、罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできない。」としている。
本肢では、犯行日時、犯行場所、犯行方法が概括的な記載となっているが、Vは死亡している以上、審判対象は限定され、被告人に対する防御の範囲は示されており、検察官において、起訴当時の証拠に基づき、できる限り日時、場所、方法等をもって殺人の罪となるべき事実を特定して訴因を明示したものと認められるため、訴因の特定に欠けるところはない。
総合メモ
訴因変更の要否 最三小決平成13年4月11日
概要
① 殺害の日時・場所・方法の判示が概括的なものである上、実行行為者の判示が「A又は被告人あるいはその両名」という択一的なものであっても、その事件が被告人とAの2名の共謀による犯行であるときには、殺人罪の罪となるべき事実の判示として不十分とはいえない。
② 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が明示された場合に、それと実質的に異なる認定をするには、原則として訴因変更手続を要するが、被告人に不意打ちを与えるものではなく、かつ、認定される事実が訴因に記載された事実に比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定しても違法ではない。
③ 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が被告人と明示された場合に、訴因変更手続を経ることなく実行行為者がA又は被告人あるいはその両名であると択一的に認定したことは、訴因と認定との間で共犯者の範囲に変わりがなく、被告人が1審の審理においてAとの共謀及び実行行為への関与を否定し、実行行為者は被告人である旨のAの証言につき自己の責任を被告人に転嫁するものであると主張するなどした判示の事情の下においては、違法とはいえない。
② 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が明示された場合に、それと実質的に異なる認定をするには、原則として訴因変更手続を要するが、被告人に不意打ちを与えるものではなく、かつ、認定される事実が訴因に記載された事実に比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定しても違法ではない。
③ 殺人罪の共同正犯の訴因において実行行為者が被告人と明示された場合に、訴因変更手続を経ることなく実行行為者がA又は被告人あるいはその両名であると択一的に認定したことは、訴因と認定との間で共犯者の範囲に変わりがなく、被告人が1審の審理においてAとの共謀及び実行行為への関与を否定し、実行行為者は被告人である旨のAの証言につき自己の責任を被告人に転嫁するものであると主張するなどした判示の事情の下においては、違法とはいえない。
判例
事案:殺人事件の共同正犯の事件について、裁判所が、訴因において実行行為者が明示されたにもかかわらず、実行行為者について、被告人と共犯者の択一的認定をした事案において、①殺害の日時・場所・方法の判示が概括的で実行行為者の判示が択一的であり、罪となるべき事実の判示として不十分でないか、②共同正犯の訴因において実行行為者が明示された場合に訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することの適否、及び、③共同正犯の訴因において実行行為者が被告人と明示された場合に訴因変更手続を経ることなく実行行為者を択一的に認定したことの適法性が問題となった。
判旨:①「本件のうち殺人事件についてみると、その公訴事実は、当初、『被告人は、Aと共謀の上、昭和63年7月24日ころ、青森市a所在の産業廃棄物最終処分場付近道路に停車中の普通乗用自動車内において、Bに対し、殺意をもってその頸部をベルト様のもので絞めつけ、そのころ窒息死させて殺害した』というものであったが、被告人がAとの共謀の存在と実行行為への関与を否定して、無罪を主張したことから、その点に関する証拠調べが実施されたところ、検察官が第1審係属中に訴因変更を請求したことにより、『被告人は、Aと共謀の上、前同日午後8時ころから午後9時30分ころまでの間、青森市bc丁目所在の共済会館付近から前記最終処分場に至るまでの間の道路に停車中の普通乗用自動車内において、殺意をもって、被告人が、Bの頸部を絞めつけるなどし、同所付近で窒息死させて殺害した』旨の事実に変更された。この事実につき、第1審裁判所は、審理の結果、『被告人は、Aと共謀の上、前同日午後8時ころから翌25日未明までの間に、青森市内又はその周辺に停車中の自動車内において、A又は被告人あるいはその両名において、扼殺、絞殺又はこれに類する方法でBを殺害した』旨の事実を認定し、罪となるべき事実としてその旨判示した。まず、以上のような判示が殺人罪に関する罪となるべき事実の判示として十分であるかについて検討する。...上記判示は、殺害の日時・場所・方法が概括的なものであるほか、実行行為者が『A又は被告人あるいはその両名』という択一的なものであるにとどまるが、その事件が被告人とAの2名の共謀による犯行であるというのであるから、この程度の判示であっても、殺人罪の構成要件に該当すべき具体的事実を、それが構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにしているものというべきであって、罪となるべき事実の判示として不十分とはいえないものと解される。」
②「次に、実行行為者につき第1審判決が訴因変更手続を経ずに訴因と異なる認定をしたことに違法はないかについて検討する。訴因と認定事実とを対比すると、前記のとおり、犯行の態様と結果に実質的な差異がない上、共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく、そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。そもそも、殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから、訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ、...実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。」
③「そこで、本件について検討すると、記録によれば、次のことが認められる。第1審公判においては、当初から、被告人とAとの間で被害者を殺害する旨の共謀が事前に成立していたか、両名のうち殺害行為を行った者がだれかという点が主要な争点となり、多数回の公判を重ねて証拠調べが行われた。その間、被告人は、Aとの共謀も実行行為への関与も否定したが、Aは、被告人との共謀を認めて被告人が実行行為を担当した旨証言し、被告人とAの両名で実行行為を行った旨の被告人の捜査段階における自白調書も取り調べられた。弁護人は、Aの証言及び被告人の自白調書の信用性等を争い、特に、Aの証言については、自己の責任を被告人に転嫁しようとするものであるなどと主張した。審理の結果、第1審裁判所は、被告人とAとの間で事前に共謀が成立していたと認め、その点では被告人の主張を排斥したものの、実行行為者については、被告人の主張を一部容れ、検察官の主張した被告人のみが実行行為者である旨を認定するに足りないとし、その結果、実行行為者がAのみである可能性を含む前記のような択一的認定をするにとどめた。以上によれば、第1審判決の認定は、被告人に不意打ちを与えるものとはいえず、かつ、訴因に比べて被告人にとってより不利益なものとはいえないから、実行行為者につき変更後の訴因で特定された者と異なる認定をするに当たって、更に訴因変更手続を経なかったことが違法であるとはいえない。したがって、罪となるべき事実の判示に理由不備の違法はなく、訴因変更を経ることなく実行行為者につき択一的認定をしたことに訴訟手続の法令違反はない...。」
判旨:①「本件のうち殺人事件についてみると、その公訴事実は、当初、『被告人は、Aと共謀の上、昭和63年7月24日ころ、青森市a所在の産業廃棄物最終処分場付近道路に停車中の普通乗用自動車内において、Bに対し、殺意をもってその頸部をベルト様のもので絞めつけ、そのころ窒息死させて殺害した』というものであったが、被告人がAとの共謀の存在と実行行為への関与を否定して、無罪を主張したことから、その点に関する証拠調べが実施されたところ、検察官が第1審係属中に訴因変更を請求したことにより、『被告人は、Aと共謀の上、前同日午後8時ころから午後9時30分ころまでの間、青森市bc丁目所在の共済会館付近から前記最終処分場に至るまでの間の道路に停車中の普通乗用自動車内において、殺意をもって、被告人が、Bの頸部を絞めつけるなどし、同所付近で窒息死させて殺害した』旨の事実に変更された。この事実につき、第1審裁判所は、審理の結果、『被告人は、Aと共謀の上、前同日午後8時ころから翌25日未明までの間に、青森市内又はその周辺に停車中の自動車内において、A又は被告人あるいはその両名において、扼殺、絞殺又はこれに類する方法でBを殺害した』旨の事実を認定し、罪となるべき事実としてその旨判示した。まず、以上のような判示が殺人罪に関する罪となるべき事実の判示として十分であるかについて検討する。...上記判示は、殺害の日時・場所・方法が概括的なものであるほか、実行行為者が『A又は被告人あるいはその両名』という択一的なものであるにとどまるが、その事件が被告人とAの2名の共謀による犯行であるというのであるから、この程度の判示であっても、殺人罪の構成要件に該当すべき具体的事実を、それが構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにしているものというべきであって、罪となるべき事実の判示として不十分とはいえないものと解される。」
②「次に、実行行為者につき第1審判決が訴因変更手続を経ずに訴因と異なる認定をしたことに違法はないかについて検討する。訴因と認定事実とを対比すると、前記のとおり、犯行の態様と結果に実質的な差異がない上、共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく、そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。そもそも、殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから、訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ、...実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。」
③「そこで、本件について検討すると、記録によれば、次のことが認められる。第1審公判においては、当初から、被告人とAとの間で被害者を殺害する旨の共謀が事前に成立していたか、両名のうち殺害行為を行った者がだれかという点が主要な争点となり、多数回の公判を重ねて証拠調べが行われた。その間、被告人は、Aとの共謀も実行行為への関与も否定したが、Aは、被告人との共謀を認めて被告人が実行行為を担当した旨証言し、被告人とAの両名で実行行為を行った旨の被告人の捜査段階における自白調書も取り調べられた。弁護人は、Aの証言及び被告人の自白調書の信用性等を争い、特に、Aの証言については、自己の責任を被告人に転嫁しようとするものであるなどと主張した。審理の結果、第1審裁判所は、被告人とAとの間で事前に共謀が成立していたと認め、その点では被告人の主張を排斥したものの、実行行為者については、被告人の主張を一部容れ、検察官の主張した被告人のみが実行行為者である旨を認定するに足りないとし、その結果、実行行為者がAのみである可能性を含む前記のような択一的認定をするにとどめた。以上によれば、第1審判決の認定は、被告人に不意打ちを与えるものとはいえず、かつ、訴因に比べて被告人にとってより不利益なものとはいえないから、実行行為者につき変更後の訴因で特定された者と異なる認定をするに当たって、更に訴因変更手続を経なかったことが違法であるとはいえない。したがって、罪となるべき事実の判示に理由不備の違法はなく、訴因変更を経ることなく実行行為者につき択一的認定をしたことに訴訟手続の法令違反はない...。」
過去問・解説
(H18 司法 第28問 1)
訴因は、裁判所に対し、審判の対象を限定するという機能を有するとともに、被告人に対し、防御の範囲を示すという機能を有するという見解は、判例と明らかに矛盾する。
訴因は、裁判所に対し、審判の対象を限定するという機能を有するとともに、被告人に対し、防御の範囲を示すという機能を有するという見解は、判例と明らかに矛盾する。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平13.4.11)は、「訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。」として、訴因が、審判の対象を限定するという機能を有することを前提としている。
また、その上で、「実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要する…。」として、訴因が、被告人に対し、防御の範囲を示すという機能を有することも否定していない。
したがって、訴因は、裁判所に対し、審判の対象を限定するという機能を有するとともに、被告人に対し、防御の範囲を示すという機能を有するという見解は、判例と明らかに矛盾するとはいえない。
判例(最決平13.4.11)は、「訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。」として、訴因が、審判の対象を限定するという機能を有することを前提としている。
また、その上で、「実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要する…。」として、訴因が、被告人に対し、防御の範囲を示すという機能を有することも否定していない。
したがって、訴因は、裁判所に対し、審判の対象を限定するという機能を有するとともに、被告人に対し、防御の範囲を示すという機能を有するという見解は、判例と明らかに矛盾するとはいえない。
(H18 司法 第28問 2)
刑事訴訟法は、訴因変更の要否の基準を直接に定めていないので、訴因制度の趣旨を踏まえつつ、訴因の果たすべき機能から、その基準を導き出すべきであるという見解は、判例と明らかに矛盾する。
刑事訴訟法は、訴因変更の要否の基準を直接に定めていないので、訴因制度の趣旨を踏まえつつ、訴因の果たすべき機能から、その基準を導き出すべきであるという見解は、判例と明らかに矛盾する。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平13.4.11)は、「審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ、...実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない…。」として、「審判対象の画定」や、「被告人の防御にとって重要な事項である」という訴因の果たすべき機能から、基準を導き出している。
したがって、刑事訴訟法は、訴因変更の要否の基準を直接に定めていないので、訴因制度の趣旨を踏まえつつ、訴因の果たすべき機能から、その基準を導き出すべきであるという見解は、判例と明らかに矛盾するとはいえない。
判例(最決平13.4.11)は、「審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ、...実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化などのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない…。」として、「審判対象の画定」や、「被告人の防御にとって重要な事項である」という訴因の果たすべき機能から、基準を導き出している。
したがって、刑事訴訟法は、訴因変更の要否の基準を直接に定めていないので、訴因制度の趣旨を踏まえつつ、訴因の果たすべき機能から、その基準を導き出すべきであるという見解は、判例と明らかに矛盾するとはいえない。
(H18 司法 第28問 3)
裁判所が、訴因の特定に不可欠な事項について、訴因の記載と実質的に異なる事実を認定しようとする場合には、常に訴因変更手続が必要であるという見解は、判例と明らかに矛盾する。
裁判所が、訴因の特定に不可欠な事項について、訴因の記載と実質的に異なる事実を認定しようとする場合には、常に訴因変更手続が必要であるという見解は、判例と明らかに矛盾する。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平13.4.11)は、「検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、...訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない…。」として、原則と例外を示している。そして、この例外は、訴因の記載と実質的に異なる事実を認定しようとしている事項が、「訴因の記載として不可欠な事項ではない」ことを前提としている。
したがって、訴因の特定に不可欠な事項について、訴因の記載と実質的に異なる事実を認定しようとする場合には、原則の考え方が常に妥当すると考えることもできるため、本肢の見解は、判例と明らかに矛盾するとはいえない。
判例(最決平13.4.11)は、「検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、...訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない…。」として、原則と例外を示している。そして、この例外は、訴因の記載と実質的に異なる事実を認定しようとしている事項が、「訴因の記載として不可欠な事項ではない」ことを前提としている。
したがって、訴因の特定に不可欠な事項について、訴因の記載と実質的に異なる事実を認定しようとする場合には、原則の考え方が常に妥当すると考えることもできるため、本肢の見解は、判例と明らかに矛盾するとはいえない。
(H18 司法 第28問 4)
共謀共同正犯の訴因において、共謀の日時、場所等が明示されていなくても、訴因の特定に欠けるところはないという立場に立ち、上記判例の論理に従えば、検察官が共謀の日時、場所を訴因に明示した場合、判決において、それと実質的に異なる認定をするには、必ずしも訴因変更手続を要しないという見解は、判例と明らかに矛盾する。
共謀共同正犯の訴因において、共謀の日時、場所等が明示されていなくても、訴因の特定に欠けるところはないという立場に立ち、上記判例の論理に従えば、検察官が共謀の日時、場所を訴因に明示した場合、判決において、それと実質的に異なる認定をするには、必ずしも訴因変更手続を要しないという見解は、判例と明らかに矛盾する。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平13.4.11)は、訴因変更について、「検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、...訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない…。」としている。
そして、共謀共同正犯の訴因において、共謀の日時、場所等が明示されていなくても、訴因の特定に欠けるところはないという立場は、共謀の日時、場所等が明示が、「訴因の記載として不可欠な事項ではない」とする立場である。
したがって、例外的に訴因変更手続を要しない場合に該当しうるといえる。
よって、判例と明らかに矛盾するとは言えない。
判例(最決平13.4.11)は、訴因変更について、「検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、...訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない…。」としている。
そして、共謀共同正犯の訴因において、共謀の日時、場所等が明示されていなくても、訴因の特定に欠けるところはないという立場は、共謀の日時、場所等が明示が、「訴因の記載として不可欠な事項ではない」とする立場である。
したがって、例外的に訴因変更手続を要しない場合に該当しうるといえる。
よって、判例と明らかに矛盾するとは言えない。
(H18 司法 第28問 5)
殺人の共同正犯の訴因における実行行為者の記載は、訴因の特定に不可欠な事項ではないが、いったん訴因に明示されると、常に訴因としての拘束力を有するという見解は、判例と明らかに矛盾する。
殺人の共同正犯の訴因における実行行為者の記載は、訴因の特定に不可欠な事項ではないが、いったん訴因に明示されると、常に訴因としての拘束力を有するという見解は、判例と明らかに矛盾する。
(正答)〇
(解説)
判例(最決平13.4.11)は、訴因変更の要否について、「検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、...訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない…。」としている。
したがって、判例は、訴因の特定に不可欠な事項ではない場合については、一定の例外に該当すれば訴因としての拘束力を否定する立場に立っているといえ、上記見解は、判例と明らかに矛盾する。
判例(最決平13.4.11)は、訴因変更の要否について、「検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、実行行為者の明示は、...訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない…。」としている。
したがって、判例は、訴因の特定に不可欠な事項ではない場合については、一定の例外に該当すれば訴因としての拘束力を否定する立場に立っているといえ、上記見解は、判例と明らかに矛盾する。
(H21 司法 第32問 イ)
【事例】
Vの死体が発見され、司法解剖の結果、Vの死因が頸部圧迫による窒息であることが判明した。その後、警察は、甲及び乙が共謀してVを殺害した事実により、甲を逮捕したが、乙は逃亡してその所在が判明しなかった。甲は、取調べに対し、自分はVの殺害とは無関係である旨供述した。捜査を尽くしたところ、検察官は、甲及び乙が共謀してVを殺害し、殺害の実行行為者が甲であると認定したが、犯行日時については、「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、犯行場所については、「H市内又はその周辺」、犯行方法については、「何らかの方法で頸部を圧迫した」としか認定できなかった。そのため、検察官は、甲の勾留満期日に、以下の<公訴事実>で甲を起訴した。
<公訴事実>
被告人甲は、乙と共謀の上、平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間、H市内又はその周辺において、Vに対し、殺意をもって、何らかの方法でVの頸部を圧迫し、よって、そのころ、同所付近において、Vを頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
検察官は、殺人罪の共同正犯の訴因につき、その実行行為者がだれであるかを明示しなければならないので、実行行為者を甲とする記載がない<公訴事実>は、訴因の特定に欠ける。
【事例】
Vの死体が発見され、司法解剖の結果、Vの死因が頸部圧迫による窒息であることが判明した。その後、警察は、甲及び乙が共謀してVを殺害した事実により、甲を逮捕したが、乙は逃亡してその所在が判明しなかった。甲は、取調べに対し、自分はVの殺害とは無関係である旨供述した。捜査を尽くしたところ、検察官は、甲及び乙が共謀してVを殺害し、殺害の実行行為者が甲であると認定したが、犯行日時については、「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、犯行場所については、「H市内又はその周辺」、犯行方法については、「何らかの方法で頸部を圧迫した」としか認定できなかった。そのため、検察官は、甲の勾留満期日に、以下の<公訴事実>で甲を起訴した。
<公訴事実>
被告人甲は、乙と共謀の上、平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間、H市内又はその周辺において、Vに対し、殺意をもって、何らかの方法でVの頸部を圧迫し、よって、そのころ、同所付近において、Vを頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
検察官は、殺人罪の共同正犯の訴因につき、その実行行為者がだれであるかを明示しなければならないので、実行行為者を甲とする記載がない<公訴事実>は、訴因の特定に欠ける。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平13.4.11)は、「殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられる...。」としている。
したがって、<公訴事実>に実行行為者を甲とする記載がなくとも、訴因の特定に欠けるとはいえない。
判例(最決平13.4.11)は、「殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられる...。」としている。
したがって、<公訴事実>に実行行為者を甲とする記載がなくとも、訴因の特定に欠けるとはいえない。
(H21 司法 第32問 ウ)
【事例】
Vの死体が発見され、司法解剖の結果、Vの死因が頸部圧迫による窒息であることが判明した。その後、警察は、甲及び乙が共謀してVを殺害した事実により、甲を逮捕したが、乙は逃亡してその所在が判明しなかった。甲は、取調べに対し、自分はVの殺害とは無関係である旨供述した。捜査を尽くしたところ、検察官は、甲及び乙が共謀してVを殺害し、殺害の実行行為者が甲であると認定したが、犯行日時については、「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、犯行場所については、「H市内又はその周辺」、犯行方法については、「何らかの方法で頸部を圧迫した」としか認定できなかった。そのため、検察官は、甲の勾留満期日に、以下の<公訴事実>で甲を起訴した。
<公訴事実>
被告人甲は、乙と共謀の上、平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間、H市内又はその周辺において、Vに対し、殺意をもって、何らかの方法でVの頸部を圧迫し、よって、そのころ、同所付近において、Vを頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
共謀共同正犯における共謀の日時、場所、内容等は訴因の明示に不可欠であるので、それらの記載がない<公訴事実>は、訴因の特定に欠けるため、裁判所は、検察官に釈明を求めるまでもなく、公訴棄却の判決をすることができる。
【事例】
Vの死体が発見され、司法解剖の結果、Vの死因が頸部圧迫による窒息であることが判明した。その後、警察は、甲及び乙が共謀してVを殺害した事実により、甲を逮捕したが、乙は逃亡してその所在が判明しなかった。甲は、取調べに対し、自分はVの殺害とは無関係である旨供述した。捜査を尽くしたところ、検察官は、甲及び乙が共謀してVを殺害し、殺害の実行行為者が甲であると認定したが、犯行日時については、「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、犯行場所については、「H市内又はその周辺」、犯行方法については、「何らかの方法で頸部を圧迫した」としか認定できなかった。そのため、検察官は、甲の勾留満期日に、以下の<公訴事実>で甲を起訴した。
<公訴事実>
被告人甲は、乙と共謀の上、平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間、H市内又はその周辺において、Vに対し、殺意をもって、何らかの方法でVの頸部を圧迫し、よって、そのころ、同所付近において、Vを頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
共謀共同正犯における共謀の日時、場所、内容等は訴因の明示に不可欠であるので、それらの記載がない<公訴事実>は、訴因の特定に欠けるため、裁判所は、検察官に釈明を求めるまでもなく、公訴棄却の判決をすることができる。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平13.4.11)は、「公訴事実は、…『被告人は、Aと共謀の上、前同日午後8時ころから午後9時30分ころまでの間、青森市bc丁目所在の共済会館付近から前記最終処分場に至るまでの間の道路に停車中の普通乗用自動車内において、殺意をもって、被告人が、Bの頸部を絞めつけるなどし、同所付近で窒息死させて殺害した』旨の事実に変更された。この事実につき、第1審裁判所は、審理の結果、『被告人は、Aと共謀の上、前同日午後8時ころから翌25日未明までの間に、青森市内又はその周辺に停車中の自動車内において、A又は被告人あるいはその両名において、扼殺、絞殺又はこれに類する方法でBを殺害した』旨の事実を認定し、罪となるべき事実としてその旨判示した。...上記判示は、…罪となるべき事実の判示として不十分とはいえない…。」として、単に「共謀の上」とのみ記載され、共謀の日時、場所、内容等の記載されていない訴因を前提に審理・判断を行っている。
したがって、共謀共同正犯における共謀の日時、場所、内容等は訴因の明示に不可欠なものではないと解されている。
判例(最決平13.4.11)は、「公訴事実は、…『被告人は、Aと共謀の上、前同日午後8時ころから午後9時30分ころまでの間、青森市bc丁目所在の共済会館付近から前記最終処分場に至るまでの間の道路に停車中の普通乗用自動車内において、殺意をもって、被告人が、Bの頸部を絞めつけるなどし、同所付近で窒息死させて殺害した』旨の事実に変更された。この事実につき、第1審裁判所は、審理の結果、『被告人は、Aと共謀の上、前同日午後8時ころから翌25日未明までの間に、青森市内又はその周辺に停車中の自動車内において、A又は被告人あるいはその両名において、扼殺、絞殺又はこれに類する方法でBを殺害した』旨の事実を認定し、罪となるべき事実としてその旨判示した。...上記判示は、…罪となるべき事実の判示として不十分とはいえない…。」として、単に「共謀の上」とのみ記載され、共謀の日時、場所、内容等の記載されていない訴因を前提に審理・判断を行っている。
したがって、共謀共同正犯における共謀の日時、場所、内容等は訴因の明示に不可欠なものではないと解されている。
(H21 司法 第32問 オ)
【事例】
Vの死体が発見され、司法解剖の結果、Vの死因が頸部圧迫による窒息であることが判明した。その後、警察は、甲及び乙が共謀してVを殺害した事実により、甲を逮捕したが、乙は逃亡してその所在が判明しなかった。甲は、取調べに対し、自分はVの殺害とは無関係である旨供述した。捜査を尽くしたところ、検察官は、甲及び乙が共謀してVを殺害し、殺害の実行行為者が甲であると認定したが、犯行日時については、「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、犯行場所については、「H市内又はその周辺」、犯行方法については、「何らかの方法で頸部を圧迫した」としか認定できなかった。そのため、検察官は、甲の勾留満期日に、以下の<公訴事実>で甲を起訴した。
<公訴事実>
被告人甲は、乙と共謀の上、平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間、H市内又はその周辺において、Vに対し、殺意をもって、何らかの方法でVの頸部を圧迫し、よって、そのころ、同所付近において、Vを頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
検察官が、<公訴事実>につき、「・・・殺意をもって、被告人甲が、何らかの方法で・・・」と殺害の実行行為者を甲と特定する旨の訴因変更をした後、裁判所が、その実行行為者につき、「被告人甲又は乙あるいはその両名において」と択一的に認定するには、必ず訴因変更の手続を経なければならず、その手続を経ないで認定した場合には訴訟手続の法令違反がある。
【事例】
Vの死体が発見され、司法解剖の結果、Vの死因が頸部圧迫による窒息であることが判明した。その後、警察は、甲及び乙が共謀してVを殺害した事実により、甲を逮捕したが、乙は逃亡してその所在が判明しなかった。甲は、取調べに対し、自分はVの殺害とは無関係である旨供述した。捜査を尽くしたところ、検察官は、甲及び乙が共謀してVを殺害し、殺害の実行行為者が甲であると認定したが、犯行日時については、「平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間」、犯行場所については、「H市内又はその周辺」、犯行方法については、「何らかの方法で頸部を圧迫した」としか認定できなかった。そのため、検察官は、甲の勾留満期日に、以下の<公訴事実>で甲を起訴した。
<公訴事実>
被告人甲は、乙と共謀の上、平成〇年3月15日ころから同月18日ころまでの間、H市内又はその周辺において、Vに対し、殺意をもって、何らかの方法でVの頸部を圧迫し、よって、そのころ、同所付近において、Vを頸部圧迫により窒息死させて殺害したものである。
検察官が、<公訴事実>につき、「・・・殺意をもって、被告人甲が、何らかの方法で・・・」と殺害の実行行為者を甲と特定する旨の訴因変更をした後、裁判所が、その実行行為者につき、「被告人甲又は乙あるいはその両名において」と択一的に認定するには、必ず訴因変更の手続を経なければならず、その手続を経ないで認定した場合には訴訟手続の法令違反がある。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平13.4.11)は、「実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、…検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、…被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない…。」としている。
したがって、「殺意をもって、被告人甲が、何らかの方法で」と殺害の実行行為者を甲と特定する旨の訴因に対して、訴因変更手続を経ることなくして、裁判所が、その実行行為者につき、「被告人甲又は乙あるいはその両名において」と択一的に認定することも、許容されうる。
判例(最決平13.4.11)は、「実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、…検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、…被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではない…。」としている。
したがって、「殺意をもって、被告人甲が、何らかの方法で」と殺害の実行行為者を甲と特定する旨の訴因に対して、訴因変更手続を経ることなくして、裁判所が、その実行行為者につき、「被告人甲又は乙あるいはその両名において」と択一的に認定することも、許容されうる。
(H24 共通 第37問 エ)
【事例】
外国人である甲、乙、丙、丁及び戊は、共謀の上、平成23年4月1日、H県I市内において、被害者Vに対し、その顔面を多数回殴打するなどの暴行を加えてバッグ1個を強取したとして強盗罪によりH地方裁判所に起訴された。ちなみに、甲、乙、丙、丁及び戊は、いずれも、家庭裁判所に送致されることなく、成人として起訴された。その後、同年7月1日に開かれた第1回公判期日において、乙、丙、丁及び戊については、成人であることに間違いないことが確認されたが、甲については、18歳であることが判明した。また、同公判において、結審した。
裁判所は、甲、乙及び丙については、強盗罪の共同正犯である旨の心証を抱いたが、丁については、「公訴事実記載のとおり、甲、乙及び丙と共にVに対してその顔面を多数回殴打するなどの暴行を加えたことに間違いない。しかし、これは、Vを痛めつけるために行ったものであり、Vからバッグ1個を奪うためではない。Vからバッグ1個等財物を奪う話は誰からも聞いたこともない。」との丁の公判廷での供述のとおり、強盗罪の共謀までは認められず、前記強盗の手段である暴行につき、甲、乙及び丙と共に実行行為に関与したものとして共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律第1条違反)の共同正犯にとどまる旨の心証を抱いた。さらに、戊については、犯罪の証明がない旨の心証を抱いた。
裁判所は、丁につき、強盗罪の訴因から暴力行為等処罰に関する法律違反の罪の訴因に変更する手続を採っていないことから、有罪の言渡しをする余地はない。
【事例】
外国人である甲、乙、丙、丁及び戊は、共謀の上、平成23年4月1日、H県I市内において、被害者Vに対し、その顔面を多数回殴打するなどの暴行を加えてバッグ1個を強取したとして強盗罪によりH地方裁判所に起訴された。ちなみに、甲、乙、丙、丁及び戊は、いずれも、家庭裁判所に送致されることなく、成人として起訴された。その後、同年7月1日に開かれた第1回公判期日において、乙、丙、丁及び戊については、成人であることに間違いないことが確認されたが、甲については、18歳であることが判明した。また、同公判において、結審した。
裁判所は、甲、乙及び丙については、強盗罪の共同正犯である旨の心証を抱いたが、丁については、「公訴事実記載のとおり、甲、乙及び丙と共にVに対してその顔面を多数回殴打するなどの暴行を加えたことに間違いない。しかし、これは、Vを痛めつけるために行ったものであり、Vからバッグ1個を奪うためではない。Vからバッグ1個等財物を奪う話は誰からも聞いたこともない。」との丁の公判廷での供述のとおり、強盗罪の共謀までは認められず、前記強盗の手段である暴行につき、甲、乙及び丙と共に実行行為に関与したものとして共同暴行(暴力行為等処罰に関する法律第1条違反)の共同正犯にとどまる旨の心証を抱いた。さらに、戊については、犯罪の証明がない旨の心証を抱いた。
裁判所は、丁につき、強盗罪の訴因から暴力行為等処罰に関する法律違反の罪の訴因に変更する手続を採っていないことから、有罪の言渡しをする余地はない。
(正答)✕
(解説)
判例(最決平13.4.11)は、「検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、...少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる…認定することも違法ではない…。」としている。
暴力行為等処罰に関する法律違反の罪の訴因は強盗罪の訴因の一部を構成するものであり、訴因変更を経ずに有罪を認定したとしても、被告人にとって不利益ではなく、不意打ちを与えるものではない。
したがって、裁判所は、丁につき、強盗罪の訴因から暴力行為等処罰に関する法律違反の罪の訴因に変更する手続を採っていなくても、有罪の言渡しをする余地がある。
判例(最決平13.4.11)は、「検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。しかしながら、...少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる…認定することも違法ではない…。」としている。
暴力行為等処罰に関する法律違反の罪の訴因は強盗罪の訴因の一部を構成するものであり、訴因変更を経ずに有罪を認定したとしても、被告人にとって不利益ではなく、不意打ちを与えるものではない。
したがって、裁判所は、丁につき、強盗罪の訴因から暴力行為等処罰に関する法律違反の罪の訴因に変更する手続を採っていなくても、有罪の言渡しをする余地がある。