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短答判例

株主総会における議決権行使の取扱い 神戸地決令和3年11月26日

概要
①株主総会において、会社が議決権行使の方法をあらかじめ定めて株主に周知し、株主がこれに同意した場合には、会社はその方法に従って議決権行使を取り扱わなければならず、投票用紙に現れていない事情を考慮して議決権行使の内容を変更することは許されない。
②株主は、事前に議決権の代理行使を委任していた場合でもこれを撤回することができ、株主本人が株主総会に出席した場合には、代理権の授与が撤回される。
③いったんされた議決権行使について、遅くとも議場閉鎖の解除後はその内容を訂正することができない。
判例
事案:会社が株主総会において、投票用紙により議決権を行使し、無記入で提出した場合には「棄権」として取り扱う旨をあらかじめ定めて株主に周知していたところ、事前に議案に賛成する旨の議決権行使書及び委任状を提出していた法人株主の代表者が株主総会に出席し、無記入の投票用紙を提出した。その後、会社が、事前に提出された委任状等や代表者の発言を考慮して当該議決権を「賛成」として取り扱ったため、①株主総会における議決権行使の方法及びその解釈、②事前に提出された委任状の効力、③いったんされた議決権行使を後から訂正することの可否が問題となった。

判旨:①「株主総会に出席した株主(以下「出席株主」という。)による議決権行使の方法について、会社法は特段の規定を設けていない。会社は、出席株主が特定の方法によって議決権を行使することを予め定めることができる。さらに、決議要件の充足が議決権行使書面等の事前の議決権行使によって明らかでない場合には、会社は、株主総会の決議方法の公正さを確保するために、出席株主による議決権行使の方法を予め定めておく必要があるが、その際会社が定める議決権行使の方法は、会社法の定める決議要件(会社法309条)の充足を客観的に判断することができ、かつ、会社が恣意的に出席株主による議決権行使の結果を操作できない仕組みでなければならない。
 本件総会において、債務者は、議場における議決権行使の方法として、正確性を期すため、本件投票用紙を用いたマークシートによる投票を採用した。また、債務者は、出席株主が本件投票用紙により行使した議決権行使の取扱いについて、〔1〕マークを記入しないまま本件投票用紙を提出した場合には「棄権」、すなわち、出席議決権数(可決要件の計算における分母)には算入するが、議案に対する賛成には含めないこととし、〔2〕本件投票用紙を提出しない場合には「不行使」、すなわち、出席議決権数にも算入しないことを定めた。その上で、債務者は、a.本件総会の議場における議決権行使の方法として、本件投票用紙を用いたマークシートによる投票を採用すること及び、b.マークを記入しないまま本件投票用紙を提出した場合又は不提出の場合に上記〔1〕〔2〕の取扱いをすることについて、出席株主に対し、受付時に渡した本件投票用紙に明記するとともに、議長が質疑応答を打ち切って議案の採決に移る際にも、議場に数か所設けられたスクリーンを併用して前提事実‥‥の内容どおり説明したものであり、これについて、出席株主から異議が述べられることはなかったことが認められる。さらに、債務者は、議決権総数を確定するため議場を閉鎖した後、出席株主に本件投票用紙への記入を促す間にも、マークシートの記入方法とマークを記入しない投票用紙の提出・不提出の取扱いについて、議場内アナウンスにより繰り返し告知していたことが認められる…。
 本件投票用紙を用いたマークシートによる投票という議決権行使の方法は、決議要件の充足が客観的に判断可能となり、かつ、会社が恣意的に出席株主による議決権行使の結果を操作することを困難にする方法と評価することができる。したがって、議長がこのような方法により議決権を行使することを出席株主に宣言したことによって、出席株主には、本件総会の議決事項については、本件投票用紙へのマークの記入及び用紙の提出・不提出という客観的な事実のみに従って決議要件の充足が判断されるという期待が生じることとなり、かかる採決方法に対し、出席株主から異議等の申出がなかったことにより、全ての出席株主が、本件投票用紙による投票以外の方法によっては議決権を行使することができないという制約に同意したものと解するのが相当である。そして、債務者が議場を閉鎖した上で出席株主に投票用紙への記載を求めた上、投票用紙の回収を行い、回収完了後に議場閉鎖を解除するという取扱いをした場合、そのようにしてなされた議決権行使の内容を後で覆すことは誰も想定していないのであり、出席株主には、公正な決議を確保するという観点から、遅くとも議場閉鎖が解除された後は、全ての株主について、いったん行われた議決権行使が撤回されたり、内容が変更・操作されたりすることはないという期待が生じることとなる。 
 以上によれば、出席株主は、本件投票用紙を用いた投票以外の方法によっては議決権を行使することはできず、債務者もそれ以外の方法による議決権行使を一部の株主に認めることはできないと解するのが相当である。また、出席株主がいったん本件投票用紙を回収箱に入れた後、その記載内容を訂正することができるとしても、それは、回収完了から議場閉鎖の解除前までに限定され、遅くとも議場閉鎖の解除後は、仮に軽微かつ形式的な誤りであったとしても訂正することができないというべきである。」
 ②「株主が会社の委任状勧誘に応じて議決権の行使を他人に委ね、会社が選んだ第三者に代理行使させることは、委任契約であるから、委任者たる株主はいつでも撤回ができる(民法651条)。このため、株主がいったん委任状勧誘に応じて事前に議決権の代理行使を委任していたとしても、当該株主本人が株主総会に出席する場合には、これにより代理権の授与が撤回され、委任状による議決権行使は無効となると解するのが相当である。そうであれば、Cが本件総会の受付で「出席」を選択した時点で、本件株主は、事前の委任状による議決権の行使を撤回したことになり、債務者も、同撤回を認めて本件株主による事前の委任状行使はなかったものとして取り扱ったものというべきである。そうすると、本件株主は、以後、事前に提出した議決権行使書及び委任状にかかわらず、Cが議場で行う議決権の行使のみによって、議案について賛否の意思を表示する権利を有し、事前の意思表示が復活することはないというべきであり、これらの事前の意思表示は、本件投票用紙による表示行為の解釈に当たっても斟酌してはならないというべきである。 
 なお、Cは、本件総会の受付に、本件株主の代表取締役社長が記名捺印した職務代行通知書を持参している。しかし、Cは、本件株主の代表取締役であり、対外的な関係において包括的な業務執行権限を有し、本件株主を代表して本件総会に出席し、議決権を行使する権限を有する者である(会社法349条4項、5項)。そして、職務代行通知書をもって、Cの上記包括的権限が制限されていることを証する文書とみることはできないから、本件株主代表取締役社長がCに交付した職務代行通知書に、全議案について賛成の議決権を行使する旨記載されているからといって、Cの代表権が賛成の議決を行うことのみに制限されたとか、Cには棄権の権限がなかったなどと解することはできない。」
 ③「債務者は、仮に本件株主による投票時の表示内容が「棄権」と取り扱われることがあるとしても、当該表示は、決議の成立までの間に賛成に訂正されたと主張する。 
 しかしながら、債務者が本件投票用紙を用いたマークシートによる投票という議決権行使の方法を選択し、議場閉鎖をして出席株主に本件投票用紙への記入をさせた以上、遅くとも議場閉鎖の解除後は議決権行使の訂正が許されないことは、前記…のとおりである。本件総会において、本件投票用紙の回収が終了し、議長が議場閉鎖を解除したのは、午後1時55分頃であるのに対し、Cが受付を訪れてマークを記入しないまま本件投票用紙を提出したことを告げ、本件株主の議決権行使の取扱いはどうなっているか聞きたいと申入れたのは、議場閉鎖が解除された後の午後3時40分頃である。上記事実によれば、集計作業の終了時間や、Cが本件投票用紙を回収箱に入れて提出する際の言動、あるいは回収担当者との間のやりとり等を検討するまでもなく、本件株主が投票時に行った「棄権」の表示行為を後から「賛成」に訂正することはできないというべきである。」
注意:本決定は、抗告審(大阪高決令3.12.7)において取り消されている点に注意を要する。
過去問・解説
全体の正答率 : 100%

(R8 予備 第20問 オ)
株主総会における議決権の行使について、株主が第三者に議決権の代理行使をさせる内容の委任状を株式会社に事前に提出した場合には、当該株主は、当該株主総会の前であっても、これを撤回することができない。

(正答)✕

(解説)
株主が第三者に議決権の代理行使を委ねることは委任契約であり、民法651条1項は、「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」と規定している。
裁判例(神戸地決令3.11.26)も、「株主が会社の委任状勧誘に応じて議決権の行使を他人に委ね、会社が選んだ第三者に代理行使させることは、委任契約であるから、委任者たる株主はいつでも撤回ができる(民法651条)。」としている。
したがって、株主が第三者に議決権の代理行使をさせる内容の委任状を株式会社に事前に提出した場合であっても、当該株主は、当該株主総会の前にこれを撤回することができる。

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