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個人の尊厳、幸福追求権

前科照会事件 最三小判昭和56年4月14日

概要
市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使に当たる。
判例
事案:A社からX・A社間の労働事件を受任していた弁護士は、弁護士法23条の2に基づき、所属弁護士会に対し、事件の相手方Xの前科前歴の照会の申し出を行ったところ、同弁護士会から照会を受けた区長がAの前科の存在・内容について報告・回答したことから、プライバシー侵害が問題となった。
 第一審判決は、権威ある弁護士会(公的機関)からの法律に基づく照会であることを理由としてプライバシー侵害を否定したが、第二審判決は、犯罪人名簿は一般的な身元証明や照会等に応じ使用すべきものではない、弁護士の守秘義務は弁護士が依頼者の請求により委任事務処理の状況を報告する義務(民法645条)に優先するものとは言い難いとして、プライバシー侵害を認めた。

判旨:「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであつて、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。前科等の有無が訴訟等の重要な争点となつていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法23条の2に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。本件において、原審の適法に確定したところによれば、京都弁護士会が訴外猪野愈弁護士の申出により京都市伏見区役所に照会し、同市中京区長に回付されたXの前科等の照会文書には、照会を必要とする事由としては、右照会文書に添付されていた猪野弁護士の照会申出書に「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあつたにすぎないというのであり、このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、中京区長の本件報告を過失による公権力の違法な行使にあたるとした原審の判断は、結論において正当として是認することができる。」

補足意見:「他人に知られたくない個人の情報は、それがたとえ真実に合致するものであつても、その者のプライバシーとして法律上の保護を受け、これをみだりに公開することは許されず、違法に他人のプライバシーを侵害することは不法行為を構成するものといわなければならない。このことは、私人による公開であつても、国や地方公共団体による公開であつても変わるところはない。国又は地方公共団体においては、行政上の要請など公益上の必要性から個人の情報を収集保管することがますます増大しているのであるが、それと同時に、収集された情報がみだりに公開されてプライバシーが侵害されたりすることのないように情報の管理を厳にする必要も高まつているといつてよい。近時、国又は地方公共団体の保管する情報について、それを広く公開することに対する要求もつよまつてきている。しかし、このことも個人のプライバシーの重要性を減退せしめるものではなく、個人の秘密に属する情報を保管する機関には、プライバシーを侵害しないよう格別に慎重な配慮が求められるのである。
 本件で問題とされた前科等は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、それに関する情報への接近をきわめて困難なものとし、その秘密の保護がはかられているのもそのためである。もとより前科等も完全に秘匿されるものではなく、それを公開する必要の生ずることもありうるが、公開が許されるためには、裁判のために公開される場合であつても、その公開が公正な裁判の実現のために必須のものであり、他に代わるべき立証手段がないときなどのように、プライバシーに優越する利益が存在するのでなければならず、その場合でも必要最小限の範囲に限つて公開しうるにとどまるのである。このように考えると、人の前科等の情報を保管する機関には、その秘密の保持につきとくに厳格な注意義務が課せられていると解すべきである。」(伊藤正己裁判官の補足意見)
過去問・解説
(H19 司法 第4問 イ)
学説における支配的見解は、幸福追求権を包括的基本権と把握する。しかし、実際に、幸福追求権からどのような具体的権利が導き出されるかについては、見解が分かれる。明文で規定されていない権利・自由で、最高裁判所が認めているのは、みだりに容貌等を撮影されない自由以外では、前科をみだりに公開されない自由だけである。

(正答)  

(解説)
京都府学連事件判決(最大判昭44.12.24)は、「憲法13条は、…国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。」としている。また、前科照会事件判決(最判昭56.4.14)は、憲法13条には言及していないものの、「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」としている。
もっとも、これら以外でも、例えば「北方ジャーナル」事件判決(最大判昭61.6.11)は、憲法13条を根拠として「人格権としての名誉権」を認めている。

(H28 司法 第2問 ア)
前科は人の名誉、信用に直接関わる事項であり、前科のある者もこれをみだりに公開されないという法的保護に値する利益を有するが、「裁判所に提出するため」との申出理由の記載があれば、市区町村長が弁護士法に基づく照会に応じて前科を報告することは許される。

(正答)  

(解説)
前科照会事件判決(最判昭56.4.14)は、「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」としているため、本肢前段は正しい。
しかし、本判決は、「京都弁護士会が訴外猪野愈弁護士の申出により京都市伏見区役所に照会し、同市中京区長に回付された被上告人の前科等の照会文書には、照会を必要とする事由としては、右照会文書に添付されていた猪野弁護士の照会申出書に「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあったにすぎないというのであり、このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」とし、「裁判所に提出するため」との申出理由の記載では、前科照会に応じることを認めていない。したがって、本肢後段は誤っている。

(R1 司法 第3問 イ)
何人も、前科及び犯罪経歴をみだりに公開されない自由を有するところ、前科等の有無が訴訟の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得なければ他に立証方法がない場合であっても、裁判所から市区町村長に照会することが可能であるから、市区町村長が弁護士法に基づく照会に応じて前科等につき報告することは、公権力の違法な行使として許されない。

(正答)  

(解説)
前科照会事件判決(最判昭56.4.14)は、「前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法23条の2に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではない」としているから、前科等の有無が訴訟の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得なければ他に立証方法がない場合には、市区町村長が弁護士法に基づく照会に応じて前科等につき報告することも許される。
総合メモ

京都府学連事件 最大判昭和44年12月24日

概要
①憲法13条は、国民の私生活上の自由を保障しており、その一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有する。
②現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法13条、35条に違反しない。
判例
事案:警察官は、現行犯又は準現行犯的状況下において、証拠保全のために、本人の同意を得ることなく、犯人の容ぼう・姿態と、犯人の身辺又は被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう・姿態を写真撮影した。

判旨:「憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法2条1項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。
 そこで、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法218条2項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法13条、35条に違反しないものと解すべきである。」
過去問・解説
(H19 司法 第4問 ア)
学説における支配的見解は、幸福追求権の具体的権利性を肯定する。最高裁判所も、京都府学連事件判決において、憲法第13条が保障するプライバシーの権利の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有するものというべきである、と判示した。

(正答)  

(解説)
京都府学連事件判決(最大判昭44.12.24)は、「憲法13条は、…国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、…」としており、「みだりにその容ぼう・姿態…を撮影されない自由」について、憲法13条が規定する国民の私生活上の自由として保障されるとは述べているが、プライバシー権として保障されるとは述べていない。

(H23 共通 第3問 イ)
京都府学連事件判決(最大判昭和44年12月24日)は、個人の私生活上の自由として、何人もその承諾なしにみだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有するとし、警察官が正当な理由もないのに個人の容貌等を撮影することは、憲法第13条の趣旨に反するとした。

(正答)  

(解説)
京都府学連事件判決(最大判昭44.12.24)は、「憲法13条は、…国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。」としている。

(H25 司法 第3問 イ)
何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するから、犯罪捜査の必要上、本人の同意や令状がなくとも、警察官が犯人の容ぼう等を撮影することは一定の要件の下で許されるものの、その際に第三者が写らないようにしなければならない。

(正答)  

(解説)
京都府学連事件判決(最大判昭44.12.24)は、「憲法13条は、…国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。」とする一方で、「しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法2条1項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。」としており、犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に第三者である個人の要望・姿態が写ることが許容される場合があることを認めている。

(R1 司法 第3問 ウ)
何人も、その承諾なしに、みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するところ、現に犯罪が行われ若しくは行われた後間がないと認められる場合であって、証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつ、その撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われるときは、警察官による犯人の容ぼうの写真撮影は、憲法に違反しない。

(正答)  

(解説)
京都府学連事件判決(最大判昭44.12.24)は、「憲法13条は、…国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。」とする一方で、「次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であって、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになっても、憲法13条、35条に違反しないものと解すべきである。」としている。

(R4 予備 第2問 ア)
判例は、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有し、警察官が、正当な理由なく個人の容ぼう等を撮影することは、憲法第13条の趣旨に反し許されないが、かかる自由も無制限に保護されるわけではなく、犯罪捜査に必要な撮影をすることは許容される場合があるとしている。

(正答)  

(解説)
京都府学連事件判決(最大判昭44.12.24)は、「憲法13条は、…国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。」とする一方で、「しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法2条1項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。」としている。

(R5 司法 第1問 ア)
最高裁判所は、本人の意思に反し、かつ令状なしでなされた警察官による写真撮影行為の違法性が争われた事件において、憲法第13条は、国民の私生活上の自由が警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定したものであるとした。

(正答)  

(解説)
京都府学連事件判決(最大判昭44.12.24)は、「憲法13条は、…国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。」としている。
総合メモ

自動速度監視装置による速度違反車両運転者及び同乗者の容貌の写真撮影 最二小判昭和61年2月14日

概要
自動速度監視装置により速度違反車両の運転者及び同乗者の容ぼうを写真撮影することは、憲法13条に違反しない。
判例
事案:制限速度を超過して自動車を運転した事件において、自動速度監視装置による運転者の容貌の写真撮影は憲法13条に違反する違法な捜査ではないかが争点となった。

判旨:「速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいって緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになっても、憲法13条、21条に違反しないことは、当裁判所昭和44年12月24日大法廷判決の趣旨に徴して明らかであるから、所論は理由がなく、憲法14条、31条、35条、37条違反をいう点は、本件装置による速度違反車両の取締りは、所論のごとく、不当な差別をもたらし、違反者の防禦権を侵害しあるいは囮捜査に類似する不合理な捜査方法とは認められないから、所論はいずれも前提を欠き、適法な上告理由に当たらない。」
過去問・解説
(H28 司法 第2問 ウ)
個人の私生活上の自由の一つとして、何人もその承諾なしにみだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するが、速度違反車両の自動撮影を行う自動速度監視装置による写真撮影は、犯罪捜査の必要性・相当性があるから、本人の同意や裁判官の令状がなくても許される。

(正答)  

(解説)
判例(最判昭61.2.14)は、「速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいって緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反…しないことは、当裁判所昭和44年12月24日大法廷判決の趣旨に徴して明らかである…。」としている。
総合メモ

指紋押捺拒否事件 最三小判平成7年12月15日

概要
①憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反して許されず、右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶ。しかし、右の自由も、国家権力の行使に対して無制限に保護されるものではなく、公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受けることは、憲法13条に定められているところであり、指紋押なつ制度を定めた外国人登録法14条1項及び同法18条1項8号は、憲法13条に違反しない。
②指紋押なつ制度を定めた外国人登録法14条1項及び同法18条1項8号は、憲法14条1項に違反しない。
③指紋押なつ制度を定めた外国人登録法14条1項及び同法18条1項8号は、外国人の思想、良心の自由を害するものとは認められないから、憲法19条に違反しない。
判例
事案:アメリカ合衆国国籍を有し現にハワイに在住するXは、昭和56年11月9日、当時来日し居住していた神戸市灘区において新規の外国人登録の申請をした際、外国人登録原票、登録証明書及び指紋原紙二葉に指紋の押なつをしなかったため、外国人登録法の右条項に該当するとして起訴された。
 なお、廃止前の外国人登録法では、外国人の新規登録・登録証明書の再交付などの際に指紋押捺を義務付け、指紋押捺の拒否について刑事罰を定めていたが、平成11年に指紋押捺制度は廃止され、本人確認方法として写真と署名が用いられており、さらに平成24年には外国人登録法自体が廃止され、外国人の登録と身元確認は外国人住民登録制度によることとなった。

判旨:①「指紋は、指先の紋様であり、それ自体では個人の私生活や人格、思想、信条、良心等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性がある。このような意味で、指紋の押なつ制度は、国民の私生活上の自由と密接な関連をもつものと考えられる。
 憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反して許されず、また、右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶと解される(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1222頁参照)。
 しかしながら、右の自由も、国家権力の行使に対して無制限に保護されるものではなく、公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受けることは、憲法13条に定められているところである。
 そこで、外国人登録法が定める在留外国人についての指紋押なつ制度についてみると、同制度は、昭和27年に外国人登録法(同年法律第125号)が立法された際に、同法1条の「本邦に在留する外国人の登録を実施することによって外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正な管理に資する」という目的を達成するため、戸籍制度のない外国人の人物特定につき最も確実な制度として制定されたもので、その立法目的には十分な合理性があり、かつ、必要性も肯定できるものである。また、その具体的な制度内容については、立法後累次の改正があり、立法当初2年ごとの切替え時に必要とされていた押なつ義務が、その後3年ごと、5年ごとと緩和され、昭和62年法律第102号によって原則として最初の1回のみとされ、また、昭和33年法律第3号によって在留期間一年未満の者の押なつ義務が免除されたほか、平成4年法律第66号によって永住者(出入国管理及び難民認定法別表第二上欄の永住者の在留資格をもつ者)及び特別永住者(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法に定める特別永住者)につき押なつ制度が廃止されるなど社会の状況変化に応じた改正が行われているが、本件当時の制度内容は、押なつ義務が三年に一度で、押なつ対象指紋も一指のみであり、加えて、その強制も罰則による間接強制にとどまるものであって、精神的、肉体的に過度の苦痛を伴うものとまではいえず、方法としても、一般的に許容される限度を超えない相当なものであったと認められる。
 右のような指紋押なつ制度を定めた外国人登録法14条1項、18条1項8号が憲法13条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(前記最高裁昭和44年12月24日大法廷判決、最高裁昭和29年(あ)第2777号同31年12月26日大法廷判決・刑集10巻12号1769頁)の趣旨に微し明らかであり、所論は理由がない。」
 ②「所論は、指紋押なつ制度を定めた外国人登録法の前記各条項は外国人を日本人と同一の取扱いをしない点で憲法一四条に違反すると主張する。しかしながら、在留外国人を対象とする指紋押なつ制度は、前記一のような目的、必要性、相当性が認められ、戸籍制度のない外国人については、日本人とは社会的事実関係上の差異があって、その取扱いの差異には合理的根拠があるので、外国人登録法の同条項が憲法14条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和26年(あ)第3911号同30年12月14日大法廷判決・刑集9巻13号2756頁、最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁)の趣旨に微し明らかであり、所論は理由がない。
 ③「所論は、指紋押なつ制度を定めた外国人登録法の前記各条項は外国人の思想、良心の自由を害するもので憲法19条に違反すると主張するが、指紋は指先の紋様でありそれ自体では思想,良心等個人の内心に関する情報となるものではないし、同制度の目的は在留外国人の公正な管理に資するため正確な人物特定をはかることにあるのであって、同制度が所論のいうような外国人の思想、良心の自由を害するものとは認められないから、所論は前提を欠く。」

過去問・解説
(H25 司法 第3問 ア)
国民の私生活上の自由は国家権力の行使に対して保護されるべきであるが、指紋は個人の私生活や内心に関する情報ではないので、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するとまではいえない。

(正答)  

(解説)
指紋押捺拒否事件判決(最判平7.12.15)は、「指紋の押なつ制度は、国民の私生活上の自由と密接な関連をもつものと考えられる。憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有する」としていることから、みだりに指紋押なつを強制されない自由を有するといえる。

(R3 司法 第2問 ウ)
指紋は、それ自体では個人の私生活や人格、思想、信条、良心等個人の内心に関する情報となるものではないが、何人も個人の私生活上の自由の一つとして、みだりに指紋の押なつを強制されない自由を有する。それゆえ、在留外国人の指紋押なつ制度は、国家機関が正当な理由なく指紋の押なつを強制するものであり、憲法第13条の趣旨に反し、許されない。

(正答)  

(解説)
指紋押捺拒否事件判決(最判平7.12.15)は、「憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対して保護されるべきことを規定していると解されるので、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するものというべきであり、国家機関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制することは、同条の趣旨に反して許されず、また、右の自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶと解される…。」としている。したがって、本肢前段は正しい。
しかし、本判決は、「しかしながら、右の自由も、国家権力の行使に対して無制限に保護されるものではなく、公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受けることは、憲法13条に定められているところである。」とした上で、結論として、「右のような指紋押なつ制度を定めた外国人登録法14条1項、18条1項8号が憲法13条に違反するものでない」としている。したがって、本肢後段は誤っている。
総合メモ

早稲田大学講演会事件 最二小判平成15年9月12日

概要
①大学が講演会の主催者として学生から参加者を募る際に収集した参加申込者の学籍番号、氏名、住所及び電話番号に係る情報は、参加申込者のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。
②大学が講演会の主催者として学生から参加者を募る際に収集した参加申込者の学籍番号、氏名、住所及び電話番号に係る情報を参加申込者に無断で警察に開示した行為は、大学が開示についてあらかじめ参加申込者の承諾を求めることが困難であった特別の事情がうかがわれないという事実関係の下では、参加申込者のプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成する。
判例
事案:早稲田大学が、江沢民中華人民共和国国家主席(当時)の講演会を主催した際に、警視庁からの警備上必要であるとの求めに応じて、本人の同意を得ることなしに、講演会の参加希望者Xらが学籍番号・氏名・住所・電話番号を記入した名簿を警視庁に提出した事案において、学生のプライバシー侵害の有無が争点となった。

判旨:「本件個人情報は、早稲田大学が重要な外国国賓講演会への出席希望者をあらかじめ把握するため、学生に提供を求めたものであるところ、学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また、本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、Xらのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。
 このようなプライバシーに係る情報は、取扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある。本件講演会の主催者として参加者を募る際にXらの本件個人情報を収集した早稲田大学は、Xらの意思に基づかずにみだりにこれを他者に開示することは許されないというべきであるところ、同大学が本件個人情報を警察に開示することをあらかじめ明示した上で本件講演会参加希望者に本件名簿へ記入させるなどして開示について承諾を求めることは容易であったものと考えられ、それが困難であった特別の事情がうかがわれない本件においては、本件個人情報を開示することについてXらの同意を得る手続を執ることなく、Xらに無断で本件個人情報を警察に開示した同大学の行為は、Xらが任意に提供したプライバシーに係る情報の適切な管理についての合理的な期待を裏切るものであり、Xらのプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。原判決の説示する本件個人情報の秘匿性の程度、開示による具体的な不利益の不存在、開示の目的の正当性と必要性などの事情は、上記結論を左右するに足りない。」
過去問・解説
(H23 共通 第3問 ウ)
講演会参加者名簿提出事件判決(最判平成15年9月12日)は、大学が学生から収集した参加申込者の学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となるとし、個人の人格的な権利利益を損なうおそれがあるものであるとした。

(正答)  

(解説)
早稲田大学講演会事件判決(最判平15.9.12)は、「学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また、本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。プライバシーに係る情報は、取扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある。」としている。

(H28 司法 第2問 イ)
大学が講演会を主催する際に集めた参加学生の学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、個人の内心に関する情報ではなく、大学が個人識別を行うための単純な情報であって、秘匿の必要性が高くはないから、プライバシーに係る情報として法的保護の対象にならない。

(正答)  

(解説)
早稲田大学講演会事件判決(最判平15.9.12)は、「学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また、本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。」としていることから、学籍番号、氏名住所及び電話番号は、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。

(R3 司法 第2問 イ)
学籍番号、氏名、住所及び電話番号といった個人情報は、大学が個人識別等を行うための単純な情報である。それゆえ、このような個人情報については、プライバシーに係る情報として法的保護の対象とはならない。

(正答)  

(解説)
早稲田大学講演会事件判決(最判平15.9.12)は、「学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また、本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである。」としていることから、学籍番号、氏名住所及び電話番号は、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。
総合メモ

住基ネット事件 最一小判平成20年3月6日

概要
住民基本台帳ネットワークシステムにより行政機関が住民の本人確認情報を収集、管理又は利用する行為は、当該住民がこれに同意していないとしても、憲法13条の保障する個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではない。
判例
事案:住民基本台帳法改正により、氏名・生年月日・性別・住所の4情報に、住民票コード(無作為に作成された10桁の数字及び1桁の検査数字を組み合わせた数列)及び転入・出生等の変更情報を加えた本人確認情報を、市町村・都道府県・国の機関等で共有してその確認ができるネットワークシステム(=住基ネット)が構築された(従前は、住民基本台帳の情報はこれを保有する当該市町村においてのみ利用されていた)。本件では、行政機関が住基ネットにてこれらの個人情報を収集・管理・利用等することが、憲法13条の保障するプライバシー権を侵害しないかが問題となった。

判旨:「憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625参照)。
 そこで、住基ネットが被上告人らの上記の自由を侵害するものであるか否かについて検討するに、住基ネットによって管理、利用等される本人確認情報は、氏名、生年月日、性別及び住所から成る4情報に、住民票コード及び変更情報を加えたものにすぎない。このうち4情報は、人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり、変更情報も、転入、転出等の異動事由、異動年月日及び異動前の本人確認情報にとどまるもので、これらはいずれも、個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。これらの情報は、住基ネットが導入される以前から、住民票の記載事項として、住民基本台帳を保管する各市町村において管理、利用等されるとともに、法令に基づき必要に応じて他の行政機関等に提供され、その事務処理に利用されてきたものである。そして、住民票コードは、住基ネットによる本人確認情報の管理、利用等を目的として、都道府県知事が無作為に指定した数列の中から市町村長が一を選んで各人に割り当てたものであるから、上記目的に利用される限りにおいては、その秘匿性の程度は本人確認情報と異なるものではない。
 また、前記確定事実によれば、住基ネットによる本人確認情報の管理、利用等は、法令等の根拠に基づき、住民サービスの向上及び行政事務の効率化という正当な行政目的の範囲内で行われているものということができる。住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないこと、受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は、懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること、住基法は、都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を、指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして、本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば、住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。
 なお、原審は、〔1〕行政個人情報保護法によれば、行政機関の裁量により利用目的を変更して個人情報を保有することが許容されているし、行政機関は、法令に定める事務等の遂行に必要な限度で、かつ、相当の理由のあるときは、利用目的以外の目的のために保有個人情報を利用し又は提供することができるから、行政機関が同法の規定に基づき利用目的以外の目的のために保有個人情報を利用し又は提供する場合には、本人確認情報の目的外利用を制限する住基法30条の34に違反することにならないので、同法による目的外利用の制限は実効性がないこと、〔2〕住民が住基カードを用いて行政サービスを受けた場合、行政機関のコンピュータに残った記録を住民票コードで名寄せすることが可能であることなどを根拠として、住基ネットにより、個々の住民の多くのプライバシー情報が住民票コードを付されてデータマッチングされ、本人の予期しないときに予期しない範囲で行政機関に保有され、利用される具体的な危険が生じていると判示する。しかし、上記〔1〕については、行政個人情報保護法は、行政機関における個人情報一般についてその取扱いに関する基本的事項を定めるものであるのに対し、住基法30条の34等の本人確認情報の保護規定は、個人情報のうち住基ネットにより管理、利用等される本人確認情報につきその保護措置を講ずるために特に設けられた規定であるから、本人確認情報については、住基法中の保護規定が行政個人情報保護法の規定に優先して適用されると解すべきであって、住基法による目的外利用の禁止に実効性がないとの原審の判断は、その前提を誤るものである。また、上記〔2〕については、システム上、住基カード内に記録された住民票コード等の本人確認情報が行政サービスを提供した行政機関のコンピュータに残る仕組みになっているというような事情はうかがわれない。上記のとおり、データマッチングは本人確認情報の目的外利用に当たり、それ自体が懲戒処分の対象となるほか、データマッチングを行う目的で個人の秘密に属する事項が記録された文書等を収集する行為は刑罰の対象となり、さらに、秘密に属する個人情報を保有する行政機関の職員等が、正当な理由なくこれを他の行政機関等に提供してデータマッチングを可能にするような行為も刑罰をもって禁止されていること、現行法上、本人確認情報の提供が認められている行政事務において取り扱われる個人情報を一元的に管理することができる機関又は主体は存在しないことなどにも照らせば、住基ネットの運用によって原審がいうような具体的な危険が生じているということはできない。
 そうすると、行政機関が住基ネットにより住民である被上告人らの本人確認情報を管理、利用等する行為は、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず、当該個人がこれに同意していないとしても、憲法13条により保障された上記の自由を侵害するものではないと解するのが相当である。また、以上に述べたところからすれば、住基ネットにより被上告人らの本人確認情報が管理、利用等されることによって、自己のプライバシーに関わる情報の取扱いについて自己決定する権利ないし利益が違法に侵害されたとする被上告人らの主張にも理由がないものというべきである。以上は、前記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。」
過去問・解説
(H25 司法 第3問 ウ)
住民基本台帳ネットワークシステムにより行政機関が住民の本人確認情報を収集、管理又は利用する行為は、当該住民がこれに同意していなくとも、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を侵害するものではない。

(正答)  

(解説)
住基ネット事件判決(最判平20.3.6)は、「憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される。行政機関が住基ネットにより住民である被上告人らの本人確認情報を管理、利用等する行為は、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず、当該個人がこれに同意していないとしても、憲法13条により保障された上記の自由を侵害するものではないと解するのが相当である。」としている。

(R1 司法 第3問 ア)
何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するところ、行政機関が住民基本台帳ネットワークシステムにより個人情報を収集、管理又は利用することは、外部からの不当なアクセス等による情報漏えいの具体的な危険があるものの、正当な行政目的の範囲内において行われるものである以上、かかる自由を侵害するものではない。

(正答)  

(解説)
住基ネット事件判決(最判平20.3.6)は、「住基ネットのシステム上の欠陥等により外部から不当にアクセスされるなどして本人確認情報が容易に漏えいする具体的な危険はないこと、受領者による本人確認情報の目的外利用又は本人確認情報に関する秘密の漏えい等は、懲戒処分又は刑罰をもって禁止されていること、住基法は、都道府県に本人確認情報の保護に関する審議会を、指定情報処理機関に本人確認情報保護委員会を設置することとして、本人確認情報の適切な取扱いを担保するための制度的措置を講じていることなどに照らせば、住基ネットにシステム技術上又は法制度上の不備があり、そのために本人確認情報が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じているということもできない。」としている。したがって、本肢のうち、「行政機関が住民基本台帳ネットワークシステムにより個人情報を収集、管理又は利用することは、外部からの不当なアクセス等による情報漏えいの具体的な危険がある情報漏えいの具体的な危険がある」とする部分は誤っている。
総合メモ

車内広告放送事件 最三小判昭和63年12月20日

概要
市営地下鉄の列車内における商業宣伝放送は、違法ではない。
判例
事案:大阪市交通局が運行中の列車内で拡声器装置を用いた企業等の商業宣伝放送を実施したところ、通勤のために市営地下鉄を利用するXは、商業宣伝放送は乗客に聞きたくない音の聴取を強制するものであり人格権を侵害するとして、大阪市を被告として、商業宣伝放送の差止め・損害賠償を求めて出訴した。

判旨:「原審が適法に確定した事実関係のもとにおいて、大阪市の運行する大阪市営高速鉄道(地下鉄)の列車内における本件商業宣伝放送を違法ということはでき…ない。」

補足意見:「私もまた、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人の本訴請求を棄却すべきものとした原判決は是認することができると考える。しかし、本件は、聞きたくないことを聞かない自由を法的利益としてどのように把握するか、また地下鉄の車内のようないわば閉ざされた場所における情報伝達の自由をどのように考えるかという問題にかかわるものであるから、これらの問題について若干の意見を述べておくことにしたい。
 一 原判決の説示によれば、人は、法律の規定をまつまでもなく、日常生活において見たくないものを見ず、聞きたくないものを聞かない自由を本来有しているとされる。私は、個人が他者から自己の欲しない刺戟によって心の静穏を乱されない利益を有しており、これを広い意味でのプライバシーと呼ぶことができると考えており、聞きたくない音を聞かされることは、このような心の静穏を侵害することになると考えている。このような利益が法的に保護を受ける利益としてどの程度に強固なものかについては問題があるとしても、現代社会においてそれを法的な利益とみることを妨げないのである。
 論旨(上告理由第一点)は、右の聞きたくない音を聞かない自由をもって精神的自由権に属するものとし、それが本件商業宣伝放送を行うという経済的自由権に優越するものであるにもかかわらず,原判決がそれを看過していることは憲法の解釈を誤ったものであるという。しかし、私見によれば、他者から自己の欲しない刺激によって心の静穏を害されない利益は、人格的利益として現代社会において重要なものであり、これを包括的な人権としての幸福追求権(憲法13条)に含まれると解することもできないものではないけれども、これを精神的自由権の一つとして憲法上優越的地位を有するものとすることは適当ではないと考える。それは、社会に存在する他の利益との調整が図られなければならず、個人の人格にかかわる被侵害利益としての重要性を勘案しつつも、侵害行為の態様との相関関係において違法な侵害であるかどうかを判断しなければならず、プライバシーの利益の側からみるときには、対立する利益(そこには経済的自由権も当然含まれる。)との較量にたって、その侵害を受忍しなければならないこともありうるからである。この相関関係を判断するためには、侵害行為の具体的な態様について検討を行うことが必要となる。右のような観点にたって、聞きたくない音を聞かない自由について考えてみよう。
 わが国において、騒音規制法が制定されており、工場や建設工事による騒音や自動車騒音について規制がされ、さらに深夜の騒音や拡声器による放送に係る騒音について地方公共団体が必要な措置を講ずるものとされている。しかし、一般的には、音による日常生活への侵害に対して鋭敏な感覚が欠除しており、静穏な環境の重要性に関する認識が乏しいことを否定できず、この音の加害への無関心さが音響による高い程度の生活妨害を誘発するとともに、通常これらの妨害を安易に許容する状況を生み出している。街頭や多数の人の来集する場所において、常識を外れた音量で、しかも不要と思われる情報の流されることがいかに多いかは、常に経験するところである。上告人の主張は、通常人の許容する程度のものをあえて違法とするものであり、余りに静穏の利益に敏感にすぎるといわれるかもしれないが、わが国における音による生活環境の侵害の現状をみるとき意味のある問題を提起するものといわねばなるまい。 
 しかし、法的見地からみるとき、すでにみたように、聞きたくない音によって心の静穏を害されることは、プライバシーの利益と考えられるが、本来、プライバシーは公共の場所においてはその保護が希薄とならざるをえず、受忍すべき範囲が広くなることを免れない。個人の居宅における音による侵害に対しては、プライバシーの保護の程度が高いとしても、人が公共の場所にいる限りは、プライバシーの利益は、全く失われるわけではないがきわめて制約されるものになる。したがって、一般の公共の場所にあっては、本件のような放送はプライバシーの侵害の問題を生ずるものとは考えられない。
 二 問題は、本件商業宣伝放送が公共の場所ではあるが、地下鉄の車内という乗客にとって目的地に到達するため利用せざるをえない交通機関のなかでの放送であり、これを聞くことを事実上強制されるという事実をどう考えるかという点である。これが「とらわれの聞き手」といわれる問題である。
 人が公共の交通機関を利用するときは、もとよりその意思に基づいて利用するのであり、また他の手段によって目的地に到達することも不可能ではないから、選択の自由が全くないわけではない。しかし、人は通常その交通機関を利用せざるをえないのであり、その利用をしている間に利用をやめるときには目的を達成することができない。比喩的表現であるが、その者は「とらわれ」た状態におかれているといえよう。そこで車内放送が行われるときには、その音は必然的に乗客の耳に達するのであり、それがある乗客にとって聞きたくない音量や内容のものであってもこれから逃れることができず、せいぜいその者にとってできるだけそれを聞かないよう努力することが残されているにすぎない。したがって、実際上このような「とらわれの聞き手」にとってその音を聞くことが強制されていると考えられよう。およそ表現の自由が憲法上強い保障を受けるのは、受け手の多くの表現のうちから自由に特定の表現を選んで受けとることができ、また受けとりたくない表現を自己の意思で受けとることを拒むことのできる場を前提としていると考えられる(「思想表現の自由市場」といわれるのがそれである。)。したがって、特定の表現のみが受け手に強制的に伝達されるところでは表現の自由の保障は典型的に機能するものではなく、その制約をうける範囲が大きいとされざるをえない。
 本件商業宣伝放送が憲法上の表現の自由の保障をうけるものであるかどうかには問題があるが、これを経済的自由の行使とみるときはもとより、表現の自由の行使とみるとしても、右にみたように、一般の表現行為と異なる評価をうけると解される。もとより、このように解するからといって、「とらわれの聞き手」への情報の伝達がプライバシーの利益に劣るものとして直ちに違法な侵害行為と判断されるものではない。しかし、このような聞き手の状況はプライバシーの利益との調整を考える場合に考慮される一つの要素となるというべきであり、本件の放送が一般の公共の場所においてプライバシーの侵害に当たらないとしても、それが本件のような「とらわれの聞き手」に対しては異なる評価をうけることもありうるのである。
 三 以上のような観点にたって本件をみてみると、試験放送として実施された第一審判決添付別紙(一)のような内容であるとすると違法と評価されるおそれがないとはいえないが、その後被上告人はその内容を控え目なものとし、駅周辺の企業を広告主とし、同別紙(四)の示す基準にのっとり同別紙(五)のような内容で実施するに至っているというのであり、この程度の内容の商業宣伝放送であれば、上告人が右に述べた「とらわれの聞き手」であること、さらに、本件地下鉄が地方公営企業であることを考慮にいれるとしても、なお上告人にとって受忍の範囲をこえたプライバシーの侵害であるということはできず、その論旨は採用することはできないというべきである。」(伊藤正己裁判官の補足意見)
過去問・解説
(R5 司法 第1問 ウ)
最高裁判所は、市営地下鉄内における商業宣伝放送の違法性が争われた事件において、聞きたくない音を聞かない自由は、人格的利益に含まれると解することもできないものではないが、精神的自由の一つに含まれるため、憲法第13条によって保障されるとの主張は適当でないとした。

(正答)  

(解説)
車内広告放送事件判決(最判昭63.12.20)は、「原審が適法に確定した事実関係のもとにおいて、被上告人の運行する大阪市営高速鉄道(地下鉄)の列車内における本件商業宣伝放送を違法ということはでき」ないとするにとどまり、聞きたくない音を聞かない自由が精神的自由の一つに含まれ、憲法13条により保障されるとは述べていない。
総合メモ

グーグル検索結果削除請求事件 最三小決平成29年1月31日

概要
検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
判例
事案:Xは、逮捕から3年以上経過した時点でもインターネット検索サービスで自己の児童買春の逮捕歴が表示されることから、当該サービスを提供する検索事業者に対し、人格権に基づき検索結果の削除を命じる仮処分命令の申立てをした。

判旨:「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきである(最高裁昭和52年(オ)第323号同56年4月14日第三小法廷判決・民集35巻3号620頁、最高裁平成元年(オ)第1649号同6年2月8日第三小法廷判決・民集48巻2号149頁、最高裁平成13年(オ)第851号、同年(受)第837号同14年9月24日第三小法廷判決・裁判集民事207号243頁、最高裁平成12年(受)第1335号同15年3月14日第二小法廷判決・民集57巻3号229頁、最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照)。他方、検索事業者は、インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し、同複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し、利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供するものであるが、この情報の収集、整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの、同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。また、検索事業者による検索結果の提供は、公衆が、インターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。そして、検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ、その削除を余儀なくされるということは、上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより、検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。
 以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると、検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。 
 これを本件についてみると、Xは、本件検索結果に含まれるURLで識別されるウェブサイトに本件事実の全部又は一部を含む記事等が掲載されているとして本件検索結果の削除を求めているところ、児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は、他人にみだりに知られたくないXのプライバシーに属する事実であるものではあるが、児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また、本件検索結果はXの居住する県の名称及びXの氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると、本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。
 以上の諸事情に照らすと、Xが妻子と共に生活し、前記…の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても、本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。」

過去問・解説
(R2 司法 第2問 ア)
判決(最三小決平成29年1月31日)は、個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益が法的保護の対象となるとした上、過去に犯した罪の逮捕歴に係る事実は個人のプライバシーに属する事実に当たるものと判断した。

(正答)  

(解説)
グーグル検索結果削除請求事件決定(最決平29.1.31)は、「個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきである。」としているから、本肢前段は正しい。また、本決定は「児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は、他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実である」としているから、本肢後段も正しい。

(R2 司法 第2問 イ)
判決(最三小決平成29年1月31日)は、検索事業者の行う情報の収集、整理及び提供がプログラムにより自動的に行われることから、検索事業者が検索結果を表示することは、インターネット上の情報を媒介しているにすぎず、検索事業者自身による表現行為とはいえないとした。

(正答)  

(解説)
グーグル検索結果削除請求事件決定(最決平29.1.31)は、「検索事業者は、インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集してその複製を保存し、同複製を基にした索引を作成するなどして情報を整理し、利用者から示された一定の条件に対応する情報を同索引に基づいて検索結果として提供するものであるが、この情報の収集、整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの、同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。」としている。

(R2 司法 第2問 ウ)
判決(最三小決平成29年1月31日)は、プライバシーに属する事実を公表されない法的利益と、URL等の情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量し、前者の法的利益が優越することが明らかな場合には、その情報の削除を求めることができるという判断の枠組を示した。

(正答)  

(解説)
グーグル検索結果削除請求事件決定(最決平29.1.31)は、「検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」としている。
総合メモ

修徳学園高校パーマ事件 最一小判平成8年7月18日

概要
普通自動車運転免許の取得を制限しパーマをかけることを禁止する校則に違反するなどの理由で私立高等学校が生徒に対して自主退学の勧告をしたことに、違法があるとはいえない。
判例
事案:Xは、校則に違反するとして修徳高校から退学勧告されたことに対し、同校の普通自動車運転免許の取得を制限しパーマをかけることを禁止する校則が違法であると主張して訴訟を提起した。

判旨:「修徳高校女子部の、普通自動車運転免許の取得を制限し、パーマをかけることを禁止する旨の校則が憲法13条、21条、22条、26条に違反すると主張するが、憲法上のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、国又は公共団体と個人との関係を規律するものであって、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和43年(オ)第932号同48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁)の示すところである。したがって、私立学校である修徳高校の本件校則について、それが直接憲法の右基本権保障規定に違反するかどうかを論ずる余地はない。所論違憲の主張は採用することができない。
 私立学校は、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針によって教育活動を行うことを目的とし、生徒もそのような教育を受けることを希望して入学するものである。原審の適法に確定した事実によれば、(1)修徳高校は、清潔かつ質素で流行を追うことなく華美に流されない態度を保持することを教育方針とし、それを具体化するものの一つとして校則を定めている、(2)修徳高校が、本件校則により、運転免許の取得につき、一定の時期以降で、かつ、学校に届け出た場合にのみ教習の受講及び免許の取得を認めることとしているのは、交通事故から生徒の生命身体を守り、非行化を防止し、もって勉学に専念する時間を確保するためである、(3)同様に、パーマをかけることを禁止しているのも、高校生にふさわしい髪型を維持し、非行を防止するためである、というのであるから、本件校則は社会通念上不合理なものとはいえず、生徒に対してその遵守を求める本件校則は、民法1条、90条に違反するものではない。上告人は、本件校則違反前にも種々の問題行動を繰り返していたばかりでなく、平素の修学態度、言動その他の行状についても遺憾の点が少なくなかった、というのである。これらの上告人の校則違反の態様、反省の状況、平素の行状、従前の学校の指導及び措置並びに本件自主退学勧告に至る経過等を勘案すると、本件自主退学勧告に所論の違法があるとはいえない。」
過去問・解説
(R3 司法 第2問 ア)
髪型の自由は、自己決定権として憲法第13条によって保障されるものである。それゆえ、非行を防止する目的で高校生らしい髪型を維持するよう求める校則の定めが、社会通念上不合理なものとはいえないとしても、これに反した生徒を退学させることは許されない。

(正答)  

(解説)
修徳高校パーマ事件判決(最判平8.7.18)は、「学校に届け出た場合にのみ教習の受講及び免許の取得を認めることとしているのは、交通事故から生徒の生命身体を守り、非行化を防止し、もって勉学に専念する時間を確保するためである、…同様に、パーマをかけることを禁止しているのも、高校生にふさわしい髪型を維持し、非行を防止するためである、というのであるから、本件校則は社会通念上不合理なものとはいえず、生徒に対してその遵守を求める本件校則は、民法1条、90条に違反するものではない。」としている。したがって、本肢前段は正しい。
しかし、本判決は、「本件自主退学勧告に所論の違法があるとはいえない。」としているから、本肢後段は誤っている。
総合メモ

どぶろく事件 最一小判平成元年12月14日

概要
酒税法7条1項、54条1項の規定は、自己消費目的の酒類製造を処罰するものであるが、憲法31条、13条に違反しない。
判例
事案:被告人は、無許可のまま清酒及び雑酒(どぶろく)を公然と製造し、酒税法違反で起訴された。

判旨:「弁護人…の上告趣意のうち、違憲をいう点の所論は、自己消費を目的とする酒類製造は、販売を目的とする酒類製造とは異なり、これを放任しても酒税収入が減少する虞はないから、酒税法7条1項、54条1項は販売を目的とする酒類製造のみを処罰の対象とするものと解すべきであり、自己消費を目的とする酒類製造を酒税法の右各規定により処罰するのは、法益侵害の危険のない行為を処罰し、個人の酒造りの自由を合理的な理由がなく制限するものであるから、憲法31条、13条に違反するというのである。
 しかし、酒税法の右各規定は、自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり(昭和28年(あ)第3721号同30年7月29日第二小法廷判決・刑集9巻9号1972頁参照)、これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法31条、13条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁。なお、昭和34年(あ)第1516号同35年2月11日第一小法廷判決・裁判集刑事132号219頁参照)の趣旨に徴し明らかであるから、論旨は理由がない。」
過去問・解説
(R5 司法 第1問 イ)
最高裁判所は、自己消費を目的とする酒類製造を処罰することの合理性が争われた事件において、自己消費目的の酒類製造の自由は人格的生存に不可欠であるとまでは断じ難く、制約しても憲法第13条に違反するものでないとした。

(正答)  

(解説)
どぶろく事件判決(最判平元.12.14)は、「自己消費目的の酒類製造の自由」に言及しているが、これが「人格的生存に不可欠である」か否かについては言及していない。
総合メモ