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人権規定の私人間効力

三菱樹脂事件 最大判昭和48年12月12日

概要
①憲法上の基本権保障規定は私人相互間の関係について適用ないしは類推適用されるものではない。
②企業者には憲法22条・29条等を根拠として雇入れの自由が認められるから、企業者が特定の思想・信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでもそれを当然に違法とすることはできず、そうである以上、企業者が労働者の採否決定にあたり労働者の思想・信条を調査することも違法ではない。
判例
事案:Xは、Y社に試用期間付きで採用されたところ、入社試験の際に学生運動・生協理事としての活動を秘匿する虚偽の申告をしたことを理由として本採用を拒否された。

判旨:①「憲法の右各規定は、同法第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。…のみならず、これらの規定の定める個人の自由や平等は、国や公共団体の統治行動に対する関係においてこそ、侵されることのない権利として保障されるべき性質のものであるけれども、私人間の関係においては、各人の有する自由と平等の権利自体が具体的場合に相互に矛盾、対立する可能性があり、このような場合におけるその対立の調整は、近代自由社会においては、原則として私的自治に委ねられ、ただ、一方の他方に対する侵害の態様、程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合にのみ、法がこれに介入しその間の調整をはかるという建前がとられているのであつて、この点において国または公共団体と個人との関係の場合とはおのずから別個の観点からの考慮を必要とし、後者についての憲法上の基本権保障規定をそのまま私人相互間の関係についても適用ないしは類推適用すべきものとすることは、決して当をえた解釈ということはできないのである。
 私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるをえない場合があり、このような場合に私的自治の名の下に優位者の支配力を無制限に認めるときは、劣位者の自由や平等を著しく侵害または制限することとなるおそれがあることは否み難いが、そのためにこのような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきであるとする見解もまた、採用することはできない。何となれば、右のような事実上の支配関係なるものは、その支配力の態様、程度、規模等においてさまざまであり、どのような場合にこれを国または公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であるばかりでなく、一方が権力の法的独占の上に立つて行なわれるものであるのに対し、他方はこのような裏付けないしは基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優劣の関係にすぎず、その間に画然たる性質上の区別が存するからである。すなわち、私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。そしてこの場合、個人の基本的な自由や平等を極めて重要な法益として尊重すべきことは当然であるが、これを絶対視することも許されず、統治行動の場合と同一の基準や観念によつてこれを律することができないことは、論をまたないところである。」
 ②「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。憲法14条の規定が私人のこのような行為を直接禁止するものでないことは前記のとおりであり、また、労働基準法3条は労働者の信条によつて賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であつて、雇入れそのものを制約する規定ではない。また、思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他これを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできない。
 右のように、企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。もとより、企業者は、一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあるから、企業者のこの種の行為が労働者の思想、信条の自由に対して影響を与える可能性がないとはいえないが、法律に別段の定めがない限り、右は企業者の法的に許された行為と解すべきである。また、企業者において、その雇傭する労働者が当該企業の中でその円滑な運営の妨げとなるような行動、態度に出るおそれのある者でないかどうかに大きな関心を抱き、そのために採否決定に先立つてその者の性向、思想等の調査を行なうことは、企業における雇傭関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようにいわゆる終身雇傭制が行なわれている社会では一層そうであることにかんがみるときは、企業活動としての合理性を欠くものということはできない。のみならず、本件において問題とされているY社の調査が、前記のように、Xの思想、信条そのものについてではなく、直接にはXの過去の行動についてされたものであり、ただその行動がXの思想、信条となんらかの関係があることを否定できないような性質のものであるこというにとどまるとすれば、なおさらこのような調査を目して違法とすることはできないのである。」

過去問・解説
(H18 司法 第3問 ア)
企業者が特定の思想、信条を有する者をそれゆえに雇い入れることを拒んでも違法ではないのであるから、企業者は入社試験の際に学生運動歴を秘匿していたことを理由に本採用を拒否することもできる。

(正答)  

(解説)
三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)は、「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである」としていることから、企業は特定の思想、信条を有していることを理由に雇入れを拒むことも違法でないといえる。
しかし他方で、本判決は、「企業者は、労働者の雇入れそのものについては、広い範囲の自由を有するけれども、いつたん労働者を雇い入れ、その者に雇傭関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない。労働基準法3条は、前記のように、労働者の労働条件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される。」とし、雇入れ後に特定の思想を理由に解雇することは雇入れの段階と異なる制約に服するとしている。

(H19 司法 第3問 エ)
私人相互間の社会的力関係から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるを得ない場合、憲法の人権規定を、私人間においても適用ないし類推適用するとする説に対しては、こうした関係は法的裏付けないしは基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優越関係にすぎず、国又は公共団体の支配が権力の法的独占に基づいて行われる場合とは性質上の相違があると指摘されている。

(正答)  

(解説)
三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)は、「私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるをえない場合があり、このような場合に私的自治の名の下に優位者の支配力を無制限に認めるときは、劣位者の自由や平等を著しく侵害または制限することとなるおそれがあることは否み難いが、そのためにこのような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきであるとする見解もまた、採用することはできない。何となれば、右のような事実上の支配関係なるものは、その支配力の態様、程度、規模等においてさまざまであり、どのような場合にこれを国または公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であるばかりでなく、一方が権力の法的独占の上に立って行なわれるものであるのに対し、他方はこのような裏付けないしは基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優劣の関係にすぎず、その間に画然たる性質上の区別が存するからである。」として、私人間に事実上の支配関係がある場合であっても憲法の基本権保障規定は私人間に適用ないし類推適用されないとする見解に立っている。

(H21 司法 第2問 ウ)
企業者は、憲法第22条、第29条等において保障されている経済活動の自由の一環として契約締結の自由を有するから、特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒むことができる。ただし、労働者の採否決定に際し、労働者の思想、信条を調査し、その者からこれらに関連する事項についての申告を求めることは公序良俗に反し違法である。

(正答)  

(解説)
三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)は、企業者には憲法22条・29条等を根拠として雇入れの自由が認められることを理由に、「企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。」としている。したがって、本肢前段は正しい。
他方で、本判決は、「思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。」としている。したがって、労働者の採否決定に際し、労働者の思想、信条を調査し、その者からこれらに関連する事項についての申告を求めることは違法ではない。よって、本肢後段は誤りである。

(H28 共通 第1問 ア)
企業者は、雇用の自由を有するから、労働者の思想、信条を理由として雇入れを拒んでも当然に違法ということはできないが、労働者の採否決定に当たり、その思想、信条を調査し、労働者に関連事項の申告を求めることまでは許されない。

(正答)  

(解説)
三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)は、「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである」としている。

(H29 共通 第4問 ア)
企業が従業員を採用するに際して、その者の在学中における団体加入や学生運動参加の事実の有無について申告を求めることは、その事実がその者の思想・良心と全く関係ないものではないから、違法である。

(正答)  

(解説)
三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)は、「本件において問題とされている上告人の調査が、前記のように、被上告人の思想、信条そのものについてではなく、直接には被上告人の過去の行動についてされたものであり、ただその行動が被上告人の思想、信条となんらかの関係があることを否定できないような性質のものであるというにとどまるとすれば、なおさらこのような調査を目して違法とすることはできないのである。」としていることから、在学中における団体加入や学生運動参加の事実の有無について申告を求めることは、思想、信条と何らかの関係があるにすぎず、そのような事実の申告を求めることは違法でないといえる。

(R1 共通 第2問 ウ)
「私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるを得ない場合、憲法の人権規定は私人間に直接適用される」とする説について、判例は、こうした支配関係はその支配力の態様、程度、規模等において様々であり、どのような場合にこれを国又は公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であるとしている。

(正答)  

(解説)
三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)は、「私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるをえない場合があり、このような場合に私的自治の名の下に優位者の支配力を無制限に認めるときは、劣位者の自由や平等を著しく侵害または制限することとなるおそれがあることは否み難いが、そのためにこのような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきであるとする見解もまた、採用することはできない。何となれば、右のような事実上の支配関係なるものは、その支配力の態様、程度、規模等においてさまざまであり、どのような場合にこれを国または公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であるばかりでなく、一方が権力の法的独占の上に立つて行なわれるものであるのに対し、他方はこのような裏付けないしは基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優劣の関係にすぎず、その間に画然たる性質上の区別が存するからである。」としており、本肢の説を否定している。

(R3 共通 第1問 ア)
企業者は、憲法第22条、第29条等において経済活動の自由の一環として契約締結の自由を保障されているので、特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも違法ではない。それゆえ、企業者が、労働者の採否決定に際し、労働者の思想、信条を調査したり、その者から思想、信条自体の申告を求めることも、公序良俗に反しない。

(正答)  

(解説)
三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)は、「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」とした上で、そのことを理由に「企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである」としている。

(R5 司法 第2問 ア)
企業者が特定の思想、信条を有する者を、それを理由に雇い入れることを拒んでも、当然に違法とすることはできず、企業者が労働者の採否決定に当たり、その者の思想、信条を調査し、そのためにその者から関連事項について申告を求めることも違法行為とすべき理由はないが、いったん労働者を雇い入れ、その者に雇用関係上の一定の地位を与えた後では、特定の信条を有することを理由として解雇することは違法である。

(正答)  

(解説)
三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)は、「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである」としていることから、企業は特定の思想、信条を有していることを理由に雇入れを拒むことも違法でないといえる。
他方で、本判決は、「企業者は、労働者の雇入れそのものについては、広い範囲の自由を有するけれども、いつたん労働者を雇い入れ、その者に雇傭関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない。労働基準法3条は、前記のように、労働者の労働条件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される。」とし、雇入れ後に特定の思想を理由に解雇することは雇入れの段階と異なる制約に服するとしている。

(R6 司法 第2問 ウ)
最高裁判所は、学生運動歴等を理由とする私企業による本採用拒否の効力が争われた事件において、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害の態様、程度が社会的に許容し得る範囲にとどまる場合、憲法を適用ないし類推適用せず、私的自治に対する一般的制限規定である民法第1条、第90条等の諸規定の適切な運用によって調整を図るものとした。

(正答)  

(解説)
三菱樹脂事件判決(最大判昭48.12.12)は、「憲法上の基本権保障規定をそのまま私人相互間の関係についても適用ないしは類推適用すべきものとすることは、決して当をえた解釈ということはできないのである。」、「私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。」としており、「私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるとき」であっても憲法の基本権保障規定は私人間には適用ないし類推適用されないとする立場である。
総合メモ

百里基地訴訟 最三小判平成元年6月20日

概要
①憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」とは、公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味するところ、本件売買契約は、国が行った行為ではあるが、私人と対等の立場で行った私法上の行為であり、公権力を行使して法規範を定立するものではないから、同条項にいう「国務に関するその他の行為」には該当しない。
②憲法9条は、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではない。
③憲法9条の宣明する国際平和主義・戦争の放棄・戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によって相対化され、民法90条にいう「公の秩序」の内容の一部を形成する。
判例
事案:茨城県百里航空自衛隊基地の建設のための用地の売買契約を巡って、基地建設反対派が国の用地の購入が違憲であると主張して訴訟を提起した事案において、①「国務に関するその他の行為」(憲法98条1項)の意義、②平和主義の裁判規範性・平和主義を定める憲法規定の直接適用、③平和主義の趣旨(精神)を取り込んだ民法90条の解釈・適用が論点となった。

判旨:①「憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」とは国の行うすべての行為を意味するのであって、国が行う行為であれば、私法上の行為もこれに含まれ、したがって、被上告人国がした本件売買契約も国務に関する行為に該当するから、本件売買契約は憲法9条(前文を含む。以下同じ。)の条規に反する国務に関する行為としてその効力を有しない、というのである。しかしながら、憲法98条1項は、憲法が国の最高法規であること、すなわち、憲法が成文法の国法形式として最も強い形式的効力を有し、憲法に違反するその余の法形式の全部又は一部はその違反する限度において法規範としての本来の効力を有しないことを定めた規定であるから、同条項にいう「国務に関するその他の行為」とは、同条項に列挙された法律、命令、詔勅と同一の性質を有する国の行為、言い換えれば、公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味し、したがって、行政処分、裁判などの国の行為は、個別的・具体的ながらも公権力を行使して法規範を定立する国の行為であるから、かかる法規範を定立する限りにおいて国務に関する行為に該当するものというべきであるが、国の行為であっても、私人と対等の立場で行う国の行為は、右のような法規範の定立を伴わないから憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」に該当しないものと解すべきである。…そして、…本件売買契約は、国が行った行為ではあるが、私人と対等の立場で行った私法上の行為であり、右のような法規範の定立を伴わないことが明らかであるから、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当しないものというべきである。」
 ②「平和主義ないし平和的生存権として主張する平和とは、理念ないし目的としての抽象的概念であって、それ自体が独立して、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるものとはいえず、また、憲法9条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、国が一方当事者として関与した行為であっても、たとえば、行政活動上必要となる物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得又は国有財産の売払いのためにする契約などのように、国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。」
 ③「憲法9条は、人権規定と同様、国の基本的な法秩序を宣示した規定であるから、憲法より下位の法形式によるすべての法規の解釈適用に当たって、その指導原理となりうるものであることはいうまでもないが、憲法9条は、前判示のように私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではないから、自衛隊基地の建設という目的ないし動機が直接憲法9条の趣旨に適合するか否かを判断することによって、本件売買契約が公序良俗違反として無効となるか否かを決すべきではないのであって、自衛隊基地の建設を目的ないし動機として締結された本件売買契約を全体的に観察して私法的な価値秩序のもとにおいてその効力を否定すべきほどの反社会性を有するか否かを判断することによって、初めて公序良俗違反として無効となるか否かを決することができるものといわなければならない。すなわち、憲法9条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序とは本来関係のない優れて公法的な性格を有する規範であるから、私法的な価値秩序において、右規範がそのままの内容で民法90条にいう「公ノ秩序」の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むということはないのであって、右の規範は、私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によって相対化され、民法90条にいう「公ノ秩序」の内容の一部を形成するのであり、したがって私法的な価値秩序のもとにおいて、社会的に許容されない反社会的な行為であるとの認識が、社会の一般的な観念として確立しているか否かが、私法上の行為の効力の有無を判断する基準になるものというべきである。」
過去問・解説
(H18 司法 第10問 エ)
憲法第9条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序とは本来関係のない公法的な性格を有する規範であるから、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する作用を営むことはない。

(正答)  

(解説)
百里基地訴訟判決(最判平元.6.20)は、「憲法9条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、私法的な価値秩序とは本来関係のない優れて公法的な性格を有する規範であるから、私法的な価値秩序において、右規範がそのままの内容で民法90条にいう「公ノ秩序」の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むということはない…。」としている。

(H21 司法 第2問 ア)
国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場から私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、国の統治行動の場合と同一の基準や観念によってこれを律することはできないのであり、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるだけである。

(正答)  

(解説)
百里基地訴訟判決(最判平元.6.20)は、「憲法9条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、国が一方当事者として関与した行為であっても、たとえば、行政活動上必要となる物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得又は国有財産の売払いのためにする契約などのように、国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。」としている。

(H23 予備 第8問 ウ)
憲法第9条は国の基本的な法秩序を示した規定であるから、憲法より下位の法形式による全ての法規の解釈適用に当たって、その指導原理となり得るものであることはいうまでもないが、私法上の行為の効力を直接規律するものではない。

(正答)  

(解説)
百里基地訴訟判決(最判平元.6.20)は、「憲法9条は、人権規定と同様、国の基本的な法秩序を宣示した規定であるから、憲法より下位の法形式によるすべての法規の解釈適用に当たって、その指導原理となりうるものであることはいうまでもないが、憲法9条は、前判示のように私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではない」としている。

(H27 予備 第6問 イ)
国や公共団体が行う純粋な私的経済取引に基づく私法関係については、民法等の私法の規律にしたがって賠償責任の有無が判断される。

(正答)  

(解説)
百里基地訴訟判決(最判平元.6.20)は、「私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。」としているから、国や公共団体が行う純粋な私的経済取引に基づく私法関係については、民法等の私法の規律にしたがって賠償責任の有無が判断されるといえる。

(H30 司法 第14問 イ)
憲法前文が定める平和的生存権は、憲法第9条及び第3章の規定によって具体化され、裁判規範として現実的・個別的内容を持つものであるから、森林法上の保安林指定の解除処分が自衛隊の基地の建設を目的とするものである場合、周辺の住民は、同処分の取消訴訟において、平和的生存権の侵害のおそれを根拠として原告適格を有する。

(正答)  

(解説)
百里基地訴訟判決(最判平元.6.20)は、「平和主義ないし平和的生存権として主張する平和とは、理念ないし目的としての抽象的概念であって、それ自体が独立して、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるものとはいえ」ないとしているから、平和的生存権は裁判規範とはならない。

(H30 司法 第14問 ウ)
国が自衛隊の用地を取得するために私人と締結した土地売買契約は、当該契約が実質的にみて公権力の発動たる行為と何ら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法第9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるに過ぎない。

(正答)  

(解説)
百里基地訴訟判決(最判平元.6.20)は、「憲法9条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、国が一方当事者として関与した行為であっても、たとえば、行政活動上必要となる物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得又は国有財産の売払いのためにする契約などのように、国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。」としている。

(R6 予備 第8問 イ)
判例によれば、憲法第9条は、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではないため、国の私法上の行為については、実質的にみて公権力の発動たる行為と何ら変わりがないといえるような特段の事情があったとしても、同条が直接適用されることはない。

(正答)  

(解説)
百里基地訴訟判決(最判平元.6.20)は、「憲法9条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、国が一方当事者として関与した行為であっても、たとえば、行政活動上必要となる物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得又は国有財産の売払いのためにする契約などのように、国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立って、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎない。」としている。したがって、国の私法上の行為であっても、「実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情」があるのであれば、憲法9条が直接適用される余地がある。
総合メモ

昭和女子大事件 最三小判昭和49年7月19日

概要
①私立大学Yの学則の細則としての性質をもつ生活要録の規定には、の基本権保障規定は適用ないし類推適用されない。
②大学は、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによつて在学する学生を規律する包括的権能を有するのであり、Y大学が学生の思想の穏健中正を標榜する保守的傾向の私立学校であることをも勘案すれば、本件生活要録の規定は、政治的目的をもつ署名運動に学生が参加し又は政治的活動を目的とする学外の団体に学生が加入するのを放任しておくことは教育上好ましくないとするYの教育方針に基づき、このような学生の行動について届出制あるいは許可制をとることによつてこれを規制しようとする趣旨を含むものと解されるのであって、不合理なものと断定することができない。
③実社会の政治的社会的活動にあたる行為を理由として退学処分を行うことは、直ちに学生の学問の自由及び教育を受ける権利を侵害し公序良俗に違反するものでない。
④大学当局が、Xらに同大学の教育方針に従つた改善を期待しえず教育目的を達成する見込が失われたとして、Xらの前記一連の行為を「学内の秩序を乱し、その他学生としての本分に反した」ものと認めた判断は、社会通念上合理性を欠くものであるとはいいがたく、本件退学処分は、懲戒権者に認められた裁量権の範囲内にあるものとして、その効力を是認すべきである。
判例
事案:私立大学Yの学生であったXらは、昼休みや放課後を使用して政治活動を行っていたことから大学から取り調べを受け、生活要録違反を理由に補導・自宅謹慎を受けたため、これらの大学側の対応に反発して女性週刊誌に手記を寄せたほか、討論集会やラジオ番組において大学側の対応を批判する発言を行ったところ、一連の行動が学則の退学事由に該当するとして大学から退学処分を受けた。本件では、①私立大学が定めた学生の署名運動の届出制を内容とする生活要録が憲法違反、②生活要録の合理性、③私立大学による生活要録違反を理由とする学生に対する退学処分の憲法違反、④同退学処分の違法性が問題となった。

判旨:①「論旨は、要するに、学生の署名運動について事前に学校当局に届け出てその指示を受けるべきことを定めたY大学の原判示の生活要録6の6の規定は憲法15条、16条、21条に違反するものであり、また、学生が学校当局の許可を受けずに学外の団体に加入することを禁止した同要録8の13の規定は憲法19条、21条、23条、26条に違反するものであるにもかかわらず、原審が、これら要録の規定の効力を認め、これに違反したことを理由とする本件退学処分を有効と判断したのは、憲法及び法令の解釈適用を誤つたものである、と主張する。
 しかし、右生活要録の規定は、その文言に徴しても、Y大学の学生の選挙権若しくは請願権の行使又はその教育を受ける権利と直接かかわりのないものであるから、所論のうち右規定が憲法15条、16条及び26条に違反する旨の主張は、その前提において既に失当である。また、憲法19条、21条、23条等のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障することを目的とした規定であつて、専ら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものでないことは、当裁判所大法廷判例(昭和43年(オ)第932号同48年12月12日判決・裁判所時報632号4頁)の示すところである。したがつて、その趣旨に徴すれば、私立学校であるY大学の学則の細則としての性質をもつ前記生活要録の規定について直接憲法の右基本権保障規定に違反するかどうかを論ずる余地はないものというべきである。所論違憲の主張は、採用することができない。」
 ②「ところで、大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによつて在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべきである。特に私立学校においては、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針とによつて社会的存在意義が認められ、学生もそのような伝統ないし校風と教育方針のもとで教育を受けることを希望して当該大学に入学するものと考えられるのであるから、右の伝統ないし校風と教育方針を学則等において具体化し、これを実践することが当然認められるべきであり、学生としてもまた、当該大学において教育を受けるかぎり、かかる規律に服することを義務づけられるものといわなければならない。もとより、学校当局の有する右の包括的権能は無制限なものではありえず、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものであるが、具体的に学生のいかなる行動についていかなる程度、方法の規制を加えることが適切であるとするかは、それが教育上の措置に関するものであるだけに、必ずしも画一的に決することはできず、各学校の伝統ないし校風や教育方針によつてもおのずから異なることを認めざるをえないのである。これを学生の政治的活動に関していえば、大学の学生は、その年令等からみて、一個の社会人として行動しうる面を有する者であり、政治的活動の自由はこのような社会人としての学生についても重要視されるべき法益であることは、いうまでもない。しかし、他方、学生の政治的活動を学の内外を問わず全く自由に放任するときは、あるいは学生が学業を疎かにし、あるいは学内における教育及び研究の環境を乱し、本人及び他の学生に対する教育目的の達成や研究の遂行をそこなう等大学の設置目的の実現を妨げるおそれがあるのであるから、大学当局がこれらの政治的活動に対してなんらかの規制を加えること自体は十分にその合理性を首肯しうるところであるとともに、私立大学のなかでも、学生の勉学専念を特に重視しあるいは比較的保守的な校風を有する大学がその教育方針に照らし学生の政治的活動はできるだけ制限するのが教育上適当であるとの見地から、学内及び学外における学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼすこととしても、これをもつて直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない。
 そこで、この見地からY大学の前記生活要録の規定をみるに、原審の確定するように、同大学が学生の思想の穏健中正を標榜する保守的傾向の私立学校であることをも勘案すれば、右要録の規定は、政治的目的をもつ署名運動に学生が参加し又は政治的活動を目的とする学外の団体に学生が加入するのを放任しておくことは教育上好ましくないとする同大学の教育方針に基づき、このような学生の行動について届出制あるいは許可制をとることによつてこれを規制しようとする趣旨を含むものと解されるのであつて、かかる規制自体を不合理なものと断定することができないことは、上記説示のとおりである。
 してみると、右生活要録の規定そのものを無効とすることはできないとした原審の判断は相当というべきであつて、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。」
③「論旨は、要するに、本件退学処分は、Xらの学問の自由を侵害し、かつ、思想、信条を理由とする差別的取扱であるから、憲法23条、19条、14条に違反するものである、また、かかる違憲の処分によつてXらの教育を受ける権利を奪うことは憲法13条、26条にも違反するにもかかわらず、原審が右退学処分を有効と判断したのは、憲法及び法令の解釈適用を誤つたものである、と主張する。
 しかし、本件退学処分について憲法23条、19条、14条等の自由権的基本権の保障規定の違反を論ずる余地のないことは、上告理由第一章について判示したところから明らかである。したがつて、右違憲を前提とする憲法13条、26条違反の論旨も採用することができない。
 また、原審の確定したXらの生活要録違反の行為は、大学当局の許可を受けることなく、X1が左翼的政治団体である民主青年同盟(以下、民青同という。)に加入し、X2が民青同に加入の申込をし、更に、X2が大学当局に届け出ることなく学内において政治的暴力行為防止法の制定に対する反対請願の署名運動をしたというものであるが、このような実社会の政治的社会的活動にあたる行為を理由として退学処分を行うことが、直ちに学生の学問の自由及び教育を受ける権利を侵害し公序良俗に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判例(昭和31年(あ)第2973号同38年5月22日判決・刑集17巻4号370頁)の趣旨に徴して明らかであり、また、右退学処分がXらの思想、信条を理由とする差別的取扱でないことは、上告理由第三章について後に判示するとおりである。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。」
④「論旨は、要するに、大学が学生に対して退学処分を行うにあたつては、教育機関にふさわしい手続と方法により本人の反省を促す補導の過程を経由すべき法的義務があると解すべきであるのに、原審が右義務のあることを認めず、適切な補導過程を経由せずに行われた本件退学処分を懲戒権者の裁量権の範囲内にあるものとして有効と判断したのは、学校教育法11条、同法施行規則13条3項、Y大学の学則36条の解釈適用を誤つたものである、と主張する。
 思うに、大学の学生に対する懲戒処分は、教育及び研究の施設としての大学の内部規律を維持し、教育目的を達成するために認められる自律作用であつて、懲戒権者たる学長が学生の行為に対して懲戒処分を発動するにあたり、その行為が懲戒に値いするものであるかどうか、また、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決するについては、当該行為の軽重のほか、本人の性格及び平素の行状、右行為の他の学生に与える影響、懲戒処分の本人及び他の学生に及ぼす訓戒的効果、右行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要素を考慮する必要があり、これらの点の判断は、学内の事情に通暁し直接教育の衝にあたるものの合理的な裁量に任すのでなければ、適切な結果を期しがたいことは、明らかである(当裁判所昭和28年(オ)第525号同29年7月30日第三小法廷判決・民集8巻7号1463頁、同昭和28年(オ)第745号同29年7月30日第三小法廷判決・民集8巻7号150頁参照)。
 もつとも、学校教育法11条は、懲戒処分を行うことができる場合として、単に「教育上必要と認めるとき」と規定するにとどまるのに対し、これをうけた同法施行規則13条3項は、退学処分についてのみ四個の具体的な処分事由を定めており、Y大学の学則36条にも右と同旨の規定がある。これは、退学処分が、他の懲戒処分と異なり、学生の身分を剥奪する重大な措置であることにかんがみ、当該学生に改善の見込がなく、これを学外に排除することが教育上やむをえないと認められる場合にかぎつて退学処分を選択すべきであるとの趣旨において、その処分事由を限定的に列挙したものと解される。この趣旨からすれば、同法施行規則13条3項4号及びY大学の学則36条4号にいう「学校の秩序を乱し、その他学生としての本分に反した」ものとして退学処分を行うにあたつては、その要件の認定につき他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要することはもちろんであるが、退学処分の選択も前記のような諸般の要素を勘案して決定される教育的判断にほかならないことを考えれば、具体的事案において当該学生に改善の見込がなくこれを学外に排除することが教育上やむをえないかどうかを判定するについて、あらかじめ本人に反省を促すための補導を行うことが教育上必要かつ適切であるか、また、その補導をどのような方法と程度において行うべきか等については、それぞれの学校の方針に基づく学校当局の具体的かつ専門的・自律的判断に委ねざるをえないのであつて、学則等に格別の定めのないかぎり、右補導の過程を経由することが特別の場合を除いては常に退学処分を行うについての学校当局の法的義務であるとまで解するのは、相当でない。したがつて、右補導の面において欠けるところがあつたとしても、それだけで退学処分が違法となるものではなく、その点をも含めた当該事案の諸事情を総合的に観察して、その退学処分の選択が社会通念上合理性を認めることができないようなものでないかぎり、同処分は、懲戒権者の裁量権の範囲内にあるものとして、その効力を否定することはできないものというべきである。
 …以上の事実関係からすれば、Xらの前記生活要録違反の行為自体はその情状が比較的軽微なものであつたとしても、本件退学処分が右違反行為のみを理由として決定されたものでないことは、明らかである。前記…のように、Xらには生活要録違反を犯したことについて反省の実が認められず、特に大学当局ができるだけ穏便に解決すべく説諭を続けている間に、Xらが週刊誌や学外の集会等において公然と大学当局の措置を非難するような挙に出たことは、同人らがもはや同大学の教育方針に服する意思のないことを表明したものと解されてもやむをえないところであり、これらは処遇上無視しえない事情といわなければならない。もつとも、前記…の事実その他原判示にあらわれた大学当局の措置についてみると、説諭にあたつた関係教授らの言動には、Xらの感情をいたずらに刺激するようなものもないではなく、補導の方法と程度において、事件を重大視するあまり冷静、寛容及び忍耐を欠いたうらみがあるが、原審の認定するところによれば、かかる大学当局の措置がXらを反抗的態度に追いやり、外部団体との接触を深めさせる機縁になつたものとは認められないというのであつて、そうである以上、Xらの前記…のような態度、行動が主としてY大学の責に帰すべき事由に起因したものであるということはできず、大学当局が右の段階でXらに改善の見込がないと判断したことをもつて著しく軽卒であつたとすることもできない。また、Y大学がXらに対して民青同からの脱退又はそれへの加入申込の取消を要求したからといつて、それが直ちに思想、信条に対する干渉となるものではないし、それ以外に、同大学がXらの思想、信条を理由として同人らを差別的に取り扱つたものであることは、原審の認定しないところである。これらの諸点を総合して考えると、本件において、事件の発端以来退学処分に至るまでの間にY大学のとつた措置が教育的見地から批判の対象となるかどうかはともかく、大学当局が、Xらに同大学の教育方針に従つた改善を期待しえず教育目的を達成する見込が失われたとして、Xらの前記一連の行為を「学内の秩序を乱し、その他学生としての本分に反した」ものと認めた判断は、社会通念上合理性を欠くものであるとはいいがたく、結局、本件退学処分は、懲戒権者に認められた裁量権の範囲内にあるものとして、その効力を是認すべきである。」
過去問・解説
(H18 司法 第3問 エ)
憲法の自由権的基本権の保障規定は、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものでなく、私立大学には学生を規律する包括的権能が認められるが、私立大学の当該権能は、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認される。

(正答)  

(解説)
昭和女子大学事件判決(最判昭49.7.19)は、「憲法19条、21条、23条等のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障することを目的とした規定であって、専ら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものでない」、「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによつて在学する学生を規律する包括的権能を有する」とする一方で、「もとより、学校当局の有する右の包括的権能は無制限なものではありえず、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものである」としている。

(H21 司法 第2問 イ)
大学は学生を規律する包括的権能を有するが、特に、建学の精神に基づく独自の伝統と教育方針を有する私立大学においては、政治活動を目的とする学外の団体に学生が加入することについて届出制あるいは許可制を採ることで、これを規制することも社会通念上不合理なものといえない。

(正答)  

(解説)
昭和女子大学事件判決(最判昭49.7.19)は、「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによつて在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべきである。」として大学が学生を規律するための包括的権能を有することを認めた上で、「特に私立学校においては、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針とによつて社会的存在意義が認められ、学生もそのような伝統ないし校風と教育方針のもとで教育を受けることを希望して当該大学に入学するものと考えられるのであるから、右の伝統ないし校風と教育方針を学則等において具体化し、これを実践することが当然認められるべきであり、学生としてもまた、当該大学において教育を受けるかぎり、かかる規律に服することを義務づけられるものといわなければならない。…Y大学が学生の思想の穏健中正を標榜する保守的傾向の私立学校であることをも勘案すれば、右要録の規定は、政治的目的をもつ署名運動に学生が参加し又は政治的活動を目的とする学外の団体に学生が加入するのを放任しておくことは教育上好ましくないとする同大学の教育方針に基づき、このような学生の行動について届出制あるいは許可制をとることによつてこれを規制しようとする趣旨を含むものと解されるのであつて、かかる規制自体を不合理なものと断定することができない…。」としている。

(H28 共通 第1問 イ)
大学は、その設置目的を達成するため、必要な事項を定めて学生を規律する権能を有するから、私立大学が、その伝統、校風や教育方針に鑑み、学内外における学生の政治的活動につき、かなり広範な規律を及ぼしても、直ちに不合理ということはできない。

(正答)  

(解説)
昭和女子大学事件判決(最判昭49.7.19)は、「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによつて在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべきである。」として大学が学生を規律するための包括的権能を有することを認めた上で、「特に私立学校においては、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針とによつて社会的存在意義が認められ、学生もそのような伝統ないし校風と教育方針のもとで教育を受けることを希望して当該大学に入学するものと考えられるのであるから、右の伝統ないし校風と教育方針を学則等において具体化し、これを実践することが当然認められるべきであり、学生としてもまた、当該大学において教育を受けるかぎり、かかる規律に服することを義務づけられるものといわなければならない。…学生の政治的活動を学の内外を問わず全く自由に放任するときは、あるいは学生が学業を疎かにし、あるいは学内における教育及び研究の環境を乱し、本人及び他の学生に対する教育目的の達成や研究の遂行をそこなう等大学の設置目的の実現を妨げるおそれがあるのであるから、大学当局がこれらの政治的活動に対してなんらかの規制を加えること自体は十分にその合理性を首肯しうるところであるとともに、私立大学のなかでも、学生の勉学専念を特に重視しあるいは比較的保守的な校風を有する大学がその教育方針に照らし学生の政治的活動はできるだけ制限するのが教育上適当であるとの見地から、学内及び学外における学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼすこととしても、これをもつて直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない。」としている。

(R3 予備 第1問 イ)
大学は、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによって在学する学生を規律する包括的権能を有する。それゆえ、比較的保守的な校風を有する私立大学が、学内外を問わず学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼしても、これをもって直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない。

(正答)  

(解説)
昭和女子大学事件判決(最判昭49.7.19)は、「大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによつて在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべきである。」として大学が学生を規律するための包括的権能を有することを認めた上で、「特に私立学校においては、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針とによつて社会的存在意義が認められ、学生もそのような伝統ないし校風と教育方針のもとで教育を受けることを希望して当該大学に入学するものと考えられるのであるから、右の伝統ないし校風と教育方針を学則等において具体化し、これを実践することが当然認められるべきであり、学生としてもまた、当該大学において教育を受けるかぎり、かかる規律に服することを義務づけられるものといわなければならない。…学生の政治的活動を学の内外を問わず全く自由に放任するときは、あるいは学生が学業を疎かにし、あるいは学内における教育及び研究の環境を乱し、本人及び他の学生に対する教育目的の達成や研究の遂行をそこなう等大学の設置目的の実現を妨げるおそれがあるのであるから、大学当局がこれらの政治的活動に対してなんらかの規制を加えること自体は十分にその合理性を首肯しうるところであるとともに、私立大学のなかでも、学生の勉学専念を特に重視しあるいは比較的保守的な校風を有する大学がその教育方針に照らし学生の政治的活動はできるだけ制限するのが教育上適当であるとの見地から、学内及び学外における学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼすこととしても、これをもつて直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない。」としている。

(R6 司法 第2問 イ)
最高裁判所は、私立大学学生が大学当局の許可なく学外団体に加入したことに起因する退学処分の効力が争われた事件において、大学が学内外を問わず学生の政治的活動につき広範な規律を及ぼすとしても不合理とはいえないが、退学処分に際しては、教育機関にふさわしい適切な手続と方法により反省を促す過程を経る法的義務があるとした。

(正答)  

(解説)
昭和女子大事件判決(最判昭49.7.19)は、「事件の発端以来退学処分に至るまでの間にY大学のとつた措置が教育的見地から批判の対象となるかどうかはともかく、大学当局が、Xらに同大学の教育方針に従つた改善を期待しえず教育目的を達成する見込が失われたとして、Xらの前記一連の行為を「学内の秩序を乱し、その他学生としての本分に反した」ものと認めた判断は、社会通念上合理性を欠くものであるとはいいがたく、結局、本件退学処分は、懲戒権者に認められた裁量権の範囲内にあるものとして、その効力を是認すべきである。」としており、「退学処分に際しては、教育機関にふさわしい適切な手続と方法により反省を促す過程を経る法的義務がある」(本肢)とはしていない。
総合メモ