事案:猿払村の郵便局勤務の事務官Xは、昭和42年の衆議院議員選挙に際し、自身が事務局長を務める猿払地区労働組合協議会の決定に従い、日本社会党を支持する目的で、同党公認候補者の選挙用ポスター6枚を自ら公営掲示板に掲示したほか、同ポスター合計184枚の掲示方を他に依頼して配布したところ、これらの行為が人事院規則14-7第5項3号及び第6項13号に当たるとして国家公務員法違反で起訴された。
判旨:最高裁は、①政治的行為の憲法上の保障について、「憲法21条の保障する表現の自由は、民主主義国家の政治的基盤をなし、国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり、法律によつてもみだりに制限することができないものである。そして、およそ政治的行為は、行動としての面をもつほかに、政治的意見の表明としての面をも有するものであるから、その限りにおいて、憲法21条による保障を受けるものであることも、明らかである。」と述べている。
②公務員の政治的行為を禁止する目的について、「すべて公務員は、全体の奉仕者であ」るとする憲法15条2項から、「行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益にほかならないというべきである。」ということに求め、「公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであ」り、その「判断するにあたつては、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の3点から検討する」とする、合理的関連性の基準(=緩やかな基準)を採用している。
③当てはめでは、(ⅰ)「禁止の目的」について、「もし公務員の政治的行為のすべてが自由に放任されるときは、おのずから公務員の政治的中立性が損われ、ためにその職務の遂行ひいてはその属する行政機関の公務の運営に党派的偏向を招くおそれがあり、行政の中立的運営に対する国民の信頼が損われることを免れない。また、公務員の右のような党派的偏向は、逆に政治的党派の行政への不当な介入を容易にし、行政の中立的運営が歪められる可能性が一層増大するばかりでなく、そのような傾向が拡大すれば、本来政治的中立を保ちつつ一体となつて国民全体に奉仕すべき責務を負う行政組織の内部に深刻な政治的対立を醸成し、そのため行政の能率的で安定した運営は阻害され、ひいては議会制民主主義の政治過程を経て決定された国の政策の忠実な遂行にも重大な支障をきたすおそれがあり、このようなおそれは行政組織の規模の大きさに比例して拡大すべく、かくては、もはや組織の内部規律のみによつてはその弊害を防止することができない事態に立ち至るのである。したがつて、このような弊害の発生を防止し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するため、公務員の政治的中立性を損うおそれのある政治的行為を禁止することは、まさしく憲法の要請に応え、公務員を含む国民全体の共同利益を擁護するための措置にほかならないのであつて、その目的は正当なものというべきである。」と述べている。
(ⅱ)「禁止の目的…と禁止される政治的行為との関連性」については、「右のような弊害の発生を防止するため、公務員の政治的中立性を損うおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的な関連性があるものと認められるのであつて、たとえその禁止が、公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、あるいは行政の中立的運営を直接、具体的に損う行為のみに限定されていないとしても、右の合理的な関連性が失われるものではない。」と述べている。
(ⅲ)「政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡」については、「公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎず、かつ、国公法102条1項及び規則の定める行動類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではなく、他面、禁止により得られる利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる利益に比してさらに重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。」と述べている。(ⅳ)結論として、公務員の政治活動を禁止すること自体(国公法102条1項及び規則5項3号、6項13号)は「合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものということはできない。」と述べている。
④第一審判決は、「被告人の本件行為が、非管理職である現業公務員でその職務内容が機械的労務の提供にとどまるものにより、勤務時間外に、国の施設を利用することなく、かつ、職務を利用せず又はその公正を害する意図なく、労働組合活動の一環として行われたものであること」を理由として、「本件被告人の所為に、国公法110条1項19号が適用される限度において、同号が憲法21条および31条に違反するもので、これを被告人に適用することができないと云わざるを得ない」と判示している。
これに対し、最高裁は、次のように判示している。「原判決もこれを是認している。しかしながら、本件行為のような政治的行為が公務員によってされる場合には、当該公務員の管理職・非管理職の別、現業・非現業の別、裁量権の範囲の広狭などは、公務員の政治的中立性を維持することにより行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保しようとする法の目的を阻害する点に、差異をもたらすものではない。右各判決が、個々の公務員の担当する職務を問題とし、本件被告人の職務内容が裁量の余地のない機械的業務であることを理由として、禁止違反による弊害が小さいものであるとしている点も、有機的統一体として機能している行政組織における公務の全体の中立性が問題とされるべきものである以上、失当である。郵便や郵便貯金のような業務は、もともと、あまねく公平に、役務を提供し、利用させることを目的としているのであるから(郵便法1条、郵便貯金法1条参照)、国民全体への公平な奉仕を旨として運営されなければならないのであって、原判決の指摘するように、その業務の性質上、機械的労務が重い比重を占めるからといって、そのことのゆえに、その種の業務に従事する現業公務員を公務員の政治的中立性について例外視する理由はない。また、前述のような公務員の政治的行為の禁止の趣旨からすれば、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無、職務利用の有無などは、その政治的行為の禁止の合憲性を判断するうえにおいては、必ずしも重要な意味をもつものではない。さらに、政治的行為が労働組合活動の一環としてなされたとしても、そのことが組合員である個々の公務員の政治的行為を正当化する理由となるものではなく、また、個々の公務員に対して禁止されている政治的行為が組合活動として行われるときは、組合員に対して統制力をもつ労働組合の組織を通じて計画的に広汎に行われ、その弊害は一層増大することとなるのであつて、その禁止が解除されるべきいわれは少しもないのである。…第一審判決及び原判決は、また、本件政治的行為によつて生じる弊害が軽微であると断定し、そのことをもつてその禁止を違憲と判断する重要な根拠としている。しかしながら、本件における被告人の行為は、衆議院議員選挙に際して、特定の政党を支持する政治的目的を有する文書を掲示し又は配布したものであつて、その行為は、具体的な選挙における特定政党のためにする直接かつ積極的な支援活動であり、政治的偏向の強い典型的な行為というのほかなく、このような行為を放任することによる弊害は、軽微なものであるとはいえない。のみならず、かりに特定の政治的行為を行う者が一地方の一公務員に限られ、ために右にいう弊害が一見軽微なものであるとしても、特に国家公務員については、その所属する行政組織の機構の多くは広範囲にわたるものであるから、そのような行為が累積されることによつて現出する事態を軽視し、その弊害を過小に評価することがあつてはならない。」
⑤公務員の政治的行為を罰則をもって禁止することの違憲性については、「…およそ刑罰は、国権の作用による最も峻厳な制裁であるから、特に基本的人権に関連する事項につき罰則を設けるには、慎重な考慮を必要とすることはいうまでもなく、刑罰規定が罪刑の均衡その他種々の観点からして著しく不合理なものであつて、とうてい許容し難いものであるときは、違憲の判断を受けなければならないのである。そして、刑罰規定は、保護法益の性質、行為の態様・結果、刑罰を必要とする理由、刑罰を法定することによりもたらされる積極的・消極的な効果・影響などの諸々の要因を考慮しつつ、国民の法意識の反映として、国民の代表機関である国会により、歴史的、現実的な社会的基盤に立つて具体的に決定されるものであり、その法定刑は、違反行為が帯びる違法性の大小を考慮して定められるべきものである。」という一般論を述べた上で、憲法31条および21条1項違反について、次のように判示している。(ⅰ)憲法31条違反については、「…その保護法益の重要性にかんがみるときは、罰則制定の要否及び法定刑についての立法機関の決定がその裁量の範囲を著しく逸脱しているものであるとは認められない。特に、本件において問題とされる規則5項3号、6項13号の政治的行為は、特定の政党を支持する政治的目的を有する文書の掲示又は配布であつて、前述したとおり、政治的行為の中でも党派的偏向の強い行動類型に属するものであり、公務員の政治的中立性を損うおそれが大きく、このような違法性の強い行為に対して国公法の定める程度の刑罰を法定したとしても、決して不合理とはいえず、したがつて、右の罰則が憲法31条に違反するものということはできない。」と述べている。(ⅱ)憲法21条1項違反については、「公務員の政治的行為の禁止が国民全体の共同利益を擁護する見地からされたものであつて、その違反行為が刑罰の対象となる違法性を帯びることが認められ、かつ、その禁止が、前述のとおり、憲法21条に違反するものではないと判断される以上、その違反行為を構成要件として罰則を法定しても、そのことが憲法21条に違反することとなる道理は、ありえない。」と述べている。さらに、(ⅲ)第一審判決・原判決が「たとえ公務員の政治的行為の禁止が憲法21条に違反しないとしても、その行為のもたらす弊害が軽微なものについてまで一律に罰則を適用することは、同条に違反する」と述べている点については、「違反行為がもたらす弊害の大小は、とりもなおさず違法性の強弱の問題にほかならないのであるから、このような見解は、違法性の程度の問題と憲法違反の有無の問題とを混同するものであつて、失当というほかはない。」と述べている。
⑥人事院規則への委任の許容性については、「政治的行為の定めを人事院規則に委任する国公法102条1項が、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を具体的に定めることを委任するものであることは、同条項の合理的な解釈により理解しうるところである。そして、そのような政治的行為が、公務員組織の内部秩序を維持する見地から課される懲戒処分を根拠づけるに足りるものであるとともに、国民全体の共同利益を擁護する見地から科される刑罰を根拠づける違法性を帯びるものであることは、すでに述べたとおりであるから、右条項は、それが同法82条による懲戒処分及び同法110条1項19号による刑罰の対象となる政治的行為の定めを一様に委任するものであるからといって、そのことの故に、憲法の許容する委任の限度を超えることになるものではない。」と述べている。