現在お使いのブラウザのバージョンでは、本サービスの機能をご利用いただけない可能性があります
バージョンアップを試すか、Google ChromeやMozilla Firefoxなどの最新ブラウザをお試しください

引き続き問題が発生する場合は、 お問い合わせ までご連絡ください。

表現の自由(筆記行為、アクセス権) - 解答モード

レペタ事件 最大判平成元年3月8日

ノートページ表示
概要
①憲法82条1項は、法廷で傍聴人がメモを取ることを権利として保障しているものではない。
②さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。
③筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないというべきである。
④法廷警察権の行使の要否及び執るべき措置についての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならない。
⑤報道の公共性、ひいては報道のための取材の自由に対する配慮に基づき、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することは、合理性を欠く措置ということはできず、憲法14条1項の規定に違反するものではない。
判例
事案:アメリカの弁護士Xは、日本における証券市場及びこれに関する法的規制に関する研究のために来日し、東京地方裁判所における所得税法違反被告事件の公判を傍聴し、各公判期日に先立ち担当裁判長にメモを取ることの許可を求めたところ、裁判長は傍聴人にメモを取ることを一般的に禁止していたため、Xに許可を与えなかった。なお、裁判長は、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してはメモを取ることを許可していた。
 Xは、裁判長が公判廷でメモを取ることを許可しなかった措置は憲法21条1項、82条、14条、国際人権規約B規約19条、刑事訴訟規則のそれぞれに違反するとして、国に対して国家賠償を求めて出訴した。以下では、憲法21条1項違反と憲法14条1項違反の問題についてのみ取り上げる。

判旨:①「憲法82条1項の規定は、裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定めているが、その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、各人は、裁判を傍聴することができることとなるが、右規定は、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでないことはもとより、傍聴人に対して法廷においてメモを取ることを権利として保障しているものではないことも、いうまでもないところである。」
 ②「憲法21条1項の規定は、表現の自由を保障している。そうして、各人が自由にさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていく上において欠くことのできないものであり、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも必要であって、このような情報等に接し、これを摂取する自由は、右規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところである(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁参照)。市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「人権規約」という。)19条2項の規定も、同様の趣旨にほかならない。
 筆記行為は、一般的には人の生活活動の一つであり、生活のさまざまな場面において行われ、極めて広い範囲に及んでいるから、そのすべてが憲法の保障する自由に関係するものということはできないが、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。」
 ③「裁判の公開が制度として保障されていることに伴い、傍聴人は法廷における裁判を見聞することができるのであるから、傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。もっとも、情報等の摂取を補助するためにする筆記行為の自由といえども、他者の人権と衝突する場合にはそれとの調整を図る上において、又はこれに優越する公共の利益が存在する場合にはそれを確保する必要から、一定の合理的制限を受けることがあることはやむを得ないところである。しかも、右の筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないというべきである。
 これを傍聴人のメモを取る行為についていえば、法廷は、事件を審理、裁判する場、すなわち、事実を審究し、法律を適用して、適正かつ迅速な裁判を実現すべく、裁判官及び訴訟関係人が全神経を集中すべき場であって、そこにおいて最も尊重されなければならないのは、適正かつ迅速な裁判を実現することである。傍聴人は、裁判官及び訴訟関係人と異なり、その活動を見聞する者であって、裁判に関与して何らかの積極的な活動をすることを予定されている者ではない。したがって、公正かつ円滑な訴訟の運営は、傍聴人がメモを取ることに比べれば、はるかに優越する法益であることは多言を要しないところである。してみれば、そのメモを取る行為がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然であるというべきである。適正な裁判の実現のためには、傍聴それ自体をも制限することができるとされているところでもある(刑訴規則202条、123条2項参照)。
 メモを取る行為が意を通じた傍聴人によって一斉に行われるなど、それがデモンストレーションの様相を呈する場合などは論外としても、当該事件の内容、証人、被告人の年齢や性格、傍聴人と事件との関係等の諸事情によっては、メモを取る行為そのものが、審理、裁判の場にふさわしくない雰囲気を醸し出したり、証人、被告人に不当な心理的圧迫などの影響を及ぼしたりすることがあり、ひいては公正かつ円滑な訴訟の運営が妨げられるおそれが生ずる場合のあり得ることは否定できない。しかしながら、それにもかかわらず、傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであって、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべきであり、それが憲法21条1項の規定の精神に合致するものということができる。」
 ④「法廷を主宰する裁判長(開廷をした一人の裁判官を含む。以下同じ。)には、裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対して、法廷の秩序を維持するため相当な処分をする権限が付与されている(裁判所法71条、刑訴法288条2項)。右の法廷警察権は、法廷における訴訟の運営に対する傍聴人等の妨害を抑制、排除し、適正かつ迅速な裁判の実現という憲法上の要請を満たすために裁判長に付与された権限である。しかも、裁判所の職務の執行を妨げたり、法廷の秩序を乱したりする行為は、裁判の各場面においてさまざまな形で現れ得るものであり、法廷警察権は、右の各場面において、その都度、これに即応して適切に行使されなければならないことにかんがみれば、その行使は、当該法廷の状況等を最も的確に把握し得る立場にあり、かつ、訴訟の進行に全責任をもつ裁判長の広範な裁量に委ねられて然るべきものというべきであるから、その行使の要否、執るべき措置についての裁判長の判断は、最大限に尊重されなければならないのである。」
 ⑤「憲法14条1項の規定は、各人に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくして差別することを禁止する趣旨であって、それぞれの事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではないと解すべきである…とともに、報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供するものであって、事実の報道の自由は、表現の自由を定めた憲法21条1項の規定の保障の下にあることはいうまでもなく、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由も、憲法21条の規定の精神に照らし、十分尊重に値するものである…。そうであってみれば、以上の趣旨が法廷警察権の行使に当たって配慮されることがあっても、裁判の報道の重要性に照らせば当然であり、報道の公共性、ひいては報道のための取材の自由に対する配慮に基づき、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することも、合理性を欠く措置ということはできないというべきである。本件裁判長において執った右の措置は、このような配慮に基づくものと思料されるから、合理性を欠くとまでいうことはできず、憲法14条1項の規定に違反するものではない。」
過去問・解説

(H22 司法 第6問 イ)
一般人の筆記行為の自由は、報道機関の取材の自由と同様に、憲法21条の精神に照らして十分尊重に値する。したがって、一般の傍聴者が法廷でメモを取る行為と司法記者クラブ所属の報道機関の記者が法廷でメモを取る行為とを区別することには、合理的理由を見出すことはできない。

(正答)  

(解説)
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである」とするにとどまり、博多駅事件決定(最大決昭44.11.26)のように「憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値いする」とまでは述べていない。したがって、本肢前段は、「一般人の筆記行為の自由は、報道機関の取材の自由と同様に、憲法21条の精神に照らして十分尊重に値する。」としている点において、誤っている。
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「報道機関の…事実の報道の自由は、表現の自由を定めた憲法21条1項の規定の保障の下にあることはいうまでもなく、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道のための取材の自由も、憲法21条の規定の精神に照らし、十分尊重に値するものである…。」との理由から、「以上の趣旨が法廷警察権の行使に当たって配慮されることがあっても、裁判の報道の重要性に照らせば当然であり、報道の公共性、ひいては報道のための取材の自由に対する配慮に基づき、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することも、合理性を欠く措置ということはできないというべきである。」としている。したがって、本肢後段は、「一般の傍聴者が法廷でメモを取る行為と司法記者クラブ所属の報道機関の記者が法廷でメモを取る行為とを区別することには、合理的理由を見出すことはできない。」としている点において、誤っている。


(H28 予備 第3問 ウ)
法廷における筆記行為の自由は憲法21条の規定の精神に照らして尊重されるべきであるが、その制限は表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準までは要求されず、メモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には制限される。

(正答)  

(解説)
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。…傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。」とする一方で、「右の筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないというべきである。これを傍聴人のメモを取る行為についていえば、…そのメモを取る行為がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然であるというべきである。」としている。


(H29 予備 第3問 イ)
裁判の傍聴人が法廷においてメモを取ることについては、憲法21条1項の規定により憲法上の権利として保障されており、法廷警察権によってこれを制限又は禁止することは、公正かつ円滑な訴訟の運営の妨げとなるおそれがあるにとどまらず、訴訟の運営に具体的な支障が現実に生じている場合でなければ許されない。

(正答)  

(解説)
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。…傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。」と述べており、裁判の傍聴人が法廷においてメモを取ることについて、憲法21条1項の規定により憲法上の権利として保障されているとは解していない。したがって、本肢前段は、「裁判の傍聴人が法廷においてメモを取ることについては、憲法21条1項の規定により憲法上の権利として保障されており」としている点において、誤っている。
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「傍聴人のメモを取る行為…がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然であるというべきである。」としており、訴訟の運営に具体的な支障が現実に生じていることまでは要求していない。したがって、本肢後段も誤っている。


(R5 司法 第3問 ア)
情報摂取のためになされる筆記行為の自由は、憲法21条1項の精神に照らして尊重されるべきであって、傍聴人が法廷でメモを取る自由は、そこで見聞する裁判を認識、記憶するためになされる限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないから、その制限又は禁止に対する審査に当たっては、表現の自由に制約を加える場合に一般的に必要とされる厳格な基準が要求される。

(正答)  

(解説)
レペタ事件判決(最大判平元.3.8)は、「さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであるといわなければならない。…傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならないものというべきである。」とする一方で、「右の筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止には、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではないというべきである。これを傍聴人のメモを取る行為についていえば、…そのメモを取る行為がいささかでも法廷における公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げる場合には、それが制限又は禁止されるべきことは当然であるというべきである。」としている。

該当する過去問がありません

サンケイ新聞事件 最二小判昭和62年4月24日

ノートページ表示
概要
①私人間において、当事者の一方が情報の収集・管理・処理につき強い影響力をもつ日刊新聞紙を全国的に発行・発売する者である場合でも、憲法21条の規定から直接に、反論文掲載の請求権が他方の当事者に生ずるものでない。
②民法723条により名誉回復処分又は差止の請求権の認められる場合があることをもって、反論文掲載請求権を認めるべき実定法上の根拠とすることはできない。
③反論権の制度は、批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゆうちよさせ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に存するという意味において、民主主義社会において極めて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由に対し重大な影響を及ぼすものであるから、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しい原告主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできない。
④放送法4条の規定も、反論文掲載請求権が認められる根拠とすることはできない。
判例
事案:日本共産党(以下「X」とする)は、サンケイ新聞紙上に掲載された自由民主党を広告主とする意見広告の内容が名誉又はプライバシーを侵害するものであるとして、産業経済新聞社(以下「Y」とする)に対して反論意見広告の無料掲載を求めて出訴した。

判旨:①「憲法21条等のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、国又は地方公共団体の統治行動に対して基本的な個人の自由と平等を保障することを目的としたものであつて、私人相互の関係については、たとえ相互の力関係の相違から一方が他方に優越し事実上後者が前者の意思に服従せざるをえないようなときであつても、適用ないし類推適用されるものでないことは、当裁判所の判例…とするところであり、その趣旨とするところに徴すると、私人間において、当事者の一方が情報の収集、管理、処理につき強い影響力をもつ日刊新聞紙を全国的に発行・発売する者である場合でも、憲法21条の規定から直接に、所論のような反論文掲載の請求権が他方の当事者に生ずるものでないことは明らかというべきである。」
 ②「所論のような反論文掲載請求権は、これを認める法の明文の規定は存在しない。民法723条は、名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、「被害者ノ請求ニ因リ損害賠償ニ代ヘ又ハ損害賠償ト共ニ名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分ヲ命スルコト」ができるものとしており、また、人格権としての名誉権に基づいて、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため侵害行為の差止を請求することができる場合のあることは、当裁判所の判例…とするところであるが、右の名誉回復処分又は差止の請求権も、単に表現行為が名誉侵害を来しているというだけでは足りず、人格権としての名誉の毀損による不法行為の成立を前提としてはじめて認められるものであつて、この前提なくして条理又は人格権に基づき所論のような反論文掲載請求権を認めることは到底できないものというべきである。さらに、所論のような反論文掲載請求権は、相手方に対して自己の請求する一定の作為を求めるものであつて、単なる不作為を求めるものではなく、不作為請求を実効あらしめるために必要な限度での作為請求の範囲をも超えるものであり、民法723条により名誉回復処分又は差止の請求権の認められる場合があることをもつて、所論のような反論文掲載請求権を認めるべき実定法上の根拠とすることはできない。」
 ③「ところで、新聞の記事により名誉が侵害された場合でも、その記事による名誉毀損の不法行為が成立するとは限らず、これが成立しない場合には不法行為責任を問うことができないのである。新聞の記事に取り上げられた者が、その記事の掲載によつて名誉毀損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、自己が記事に取上げられたというだけの理由によつて、新聞を発行・販売する者に対し、当該記事に対する自己の反論文を無修正で、しかも無料で掲載することを求めることができるものとするいわゆる反論権の制度は、記事により自己の名誉を傷つけられあるいはそのプライバシーに属する事項等について誤つた報道をされたとする者にとつては、機を失せず、同じ新聞紙上に自己の反論文の掲載を受けることができ、これによつて原記事に対する自己の主張を読者に訴える途が開かれることになるのであつて、かかる制度により名誉あるいはプライバシーの保護に資するものがあることも否定し難いところである。しかしながら、この制度が認められるときは、新聞を発行・販売する者にとつては、原記事が正しく、反論文は誤りであると確信している場合でも、あるいは反論文の内容がその編集方針によれば掲載すべきでないものであつても、その掲載を強制されることになり、また、そのために本来ならば他に利用できたはずの紙面を割かなければならなくなる等の負担を強いられるのであつて、これらの負担が、批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゆうちよさせ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に存するのである。このように、反論権の制度は、民主主義社会において極めて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由…に対し重大な影響を及ぼすものであつて、たとえYの発行するサンケイ新聞などの日刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しいX主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできないものといわなければならない。」
 なお、④「放送法4条は訂正放送の制度を設けているが、放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であつて、公的な性格を有するものであり(同法44条3項ないし5項、51条等参照)、その訂正放送は、放送により権利の侵害があつたこと及び放送された事項が真実でないことが判明した場合に限られるのであり、また、放送事業者が同等の放送設備により相当の方法で訂正又は取消の放送をすべきものとしているにすぎないなど、その要件、内容等において、いわゆる反論権の制度ないし上告人主張の反論文掲載請求権とは著しく異なるものであつて、同法4条の規定も、所論のような反論文掲載請求権が認められる根拠とすることはできない。」
過去問・解説

(H24 予備 第8問 イ)
政党は議会制民主主義を支える重要な存在であり、政党間の批判や論評は公共性の極めて強い事項である。したがって、ある政党が新聞紙上の広告で他の政党を批判した場合、それが名誉毀損に当たらない場合であっても、批判された政党は同じ新聞紙上に反論文を掲載する権利を有する。

(正答)  

(解説)
サンケイ新聞事件判決(最判昭62.4.24)は、「反論権の制度は、…批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゅうちょさせ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に存するのである。このように、反論権の制度は、民主主義社会において極めて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由…に対し重大な影響を及ぼすものであ」るとの理由から、「たとえYの発行するサンケイ新聞などの日刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しいX主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできないものといわなければならない。」としている。


(H25 司法 第6問 イ)
新聞記事において批判を加えられた者が、名誉毀損の不法行為の成否にかかわらず、無料で反論文の掲載を当該新聞に求める権利については、公的事項に関する批判的記事の掲載をちゅうちょさせるおそれがあるので、具体的な法律がない場合には、これを認めることはできない。

(正答)  

(解説)
サンケイ新聞事件判決(最判昭62.4.24)は、「反論権の制度は、…批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゅうちょさせ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に存するのである。このように、反論権の制度は、民主主義社会において極めて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由…に対し重大な影響を及ぼすものであ」るとの理由から、「たとえYの発行するサンケイ新聞などの日刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しいX主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできないものといわなければならない。」としている。


(H26 司法 第7問 イ)
放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であって、公的な性格を有するものであり、放送による権利侵害や放送された事項が真実でないことが判明した場合に訂正放送が義務付けられているが、これは視聴者に対し反論権を認めるものではない。

(正答)  

(解説)
サンケイ新聞事件判決(最判昭62.4.24)は、「放送法4条は訂正放送の制度を設けているが、放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であつて、公的な性格を有するものであり(同法44条3項ないし5項、51条等参照)、その訂正放送は、放送により権利の侵害があつたこと及び放送された事項が真実でないことが判明した場合に限られるのであり、また、放送事業者が同等の放送設備により相当の方法で訂正又は取消の放送をすべきものとしているにすぎないなど、その要件、内容等において、いわゆる反論権の制度ないし上告人主張の反論文掲載請求権とは著しく異なるものであつて、同法4条の規定も、所論のような反論文掲載請求権が認められる根拠とすることはできない。」としている。
なお、訂正放送等請求事件判決(最判平16.11.25)は、「法4条1項…は、真実でない事項の放送がされた場合において、放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から、放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。前記のとおり、法4条1項は被害者からの訂正放送等の請求について規定しているが、同条2項の規定内容を併せ考えると、これは、同請求を、放送事業者が当該放送の真実性に関する調査及び訂正放送等を行うための端緒と位置付けているものと解するのが相当であって、これをもって、上記の私法上の請求権の根拠と解することはできない。」との理由から、「被害者は、放送事業者に対し、法4条1項の規定に基づく訂正放送等を求める私法上の権利を有しないというべきである。」としている。


(H28 司法 第6問 イ)
新聞等の記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼし、その者に対する不法行為が成立する場合には、具体的な成文法がなくても、反論権の制度として、反論文掲載請求権が認められる。

(正答)  

(解説)
サンケイ新聞事件判決(最判昭62.4.24)は、「反論権の制度は、…批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゅうちょさせ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に存するのである。このように、反論権の制度は、民主主義社会において極めて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由…に対し重大な影響を及ぼすものであ」るとの理由から、「たとえYの発行するサンケイ新聞などの日刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しいX主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできないものといわなければならない。」としている。


(R4 司法 第6問 ア)
反論権の制度が認められると、新聞記事により自己の名誉を傷つけられあるいはそのプライバシーに属する事項等について誤った報道をされたとする者にとっては、機を失せず、同じ新聞紙上に自己の反論文の掲載を受けることができ、これにより当該記事に対する自己の主張を読者に訴える途が開かれることになる。したがって、反論権の制度が名誉あるいはプライバシーの保護に資するものがあることは否定し難い。

(正答)  

(解説)
サンケイ新聞事件判決(最判昭.62.4.24)は、「新聞を発行・販売する者に対し、当該記事に対する自己の反論文を無修正で、しかも無料で掲載することを求めることができるものとするいわゆる反論権の制度は、記事により自己の名誉を傷つけられあるいはそのプライバシーに属する事項等について誤つた報道をされたとする者にとつては、機を失せず、同じ新聞紙上に自己の反論文の掲載を受けることができ、これによつて原記事に対する自己の主張を読者に訴える途が開かれることになるのであつて、かかる制度により名誉あるいはプライバシーの保護に資するものがあることも否定し難いところである」としている。


(R4 司法 第6問 イ)
反論権の制度は、民主主義社会において極めて重要な意味を持つ新聞等の表現の自由に対し重大な影響を及ぼすものである。したがって、記事を掲載した新聞が日刊全国紙であって、当該新聞による情報の提供が一般国民に対し強い影響力を持ち、当該記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼし得る場合でない限り、具体的な成文法がないのに反論権を認めることはできない。

(正答)  

(解説)
サンケイ新聞事件判決(最判昭62.4.24)は、「反論権の制度は、…批判的記事、ことに公的事項に関する批判的記事の掲載をちゅうちょさせ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険につながるおそれも多分に存するのである。このように、反論権の制度は、民主主義社会において極めて重要な意味をもつ新聞等の表現の自由…に対し重大な影響を及ぼすものであ」るとの理由から、「たとえYの発行するサンケイ新聞などの日刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力をもち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、不法行為が成立する場合にその者の保護を図ることは別論として、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しいX主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできないものといわなければならない。」と述べており、「その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、…反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しいX主張のような反論文掲載請求権をたやすく認めることはできない」としている。


(R4 司法 第6問 ウ)
放送事業者に対して、一定の場合に、放送により権利の侵害を受けた本人等からの請求に基づく訂正放送を義務付ける放送法の規定や、他人の名誉を毀損した者に対して、裁判所が「名誉を回復するのに適切な処分」を命ずることができるとする民法723条の規定は、反論権について直接規定したものではない。しかし、それらの規定は、それぞれの趣旨に鑑みれば、裁判において反論権を認める根拠となり得る。

(正答)  

(解説)
サンケイ新聞事件判決(最判昭62.4.24)は、「民法723条は、…所論のような反論文掲載請求権を認めるべき実定法上の根拠とすることはできない。」、「放送法4条は訂正放送の制度を設けているが、…所論のような反論文掲載請求権が認められる根拠とすることはできない。」としている。

該当する過去問がありません

前のカテゴリ 次のカテゴリ