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憲法 猿払事件 最大判昭和49年11月6日 - 解答モード
概要
〇被告人の行為は、衆議院議員選挙に際して、特定の政党を支持する政治的目的を有する文書を掲示し又は配布したものであつて、その行為は、具体的な選挙における特定政党のためにする直接かつ積極的な支援活動であり、政治的偏向の強い典型的な行為というのほかなく、このような行為を放任することによる弊害は、軽微なものであるとはいえないから、国公法110条1項19号が適用される限度において同号が憲法21条及び憲法31条に違反するとはいえない。
〇公務員の政治的行為を罰則をもって禁止することは、憲法31条にも憲法21条1項にも違反しない。
判例
(ⅱ)「禁止の目的…と禁止される政治的行為との関連性」については、「右のような弊害の発生を防止するため、公務員の政治的中立性を損うおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的な関連性があるものと認められるのであつて、たとえその禁止が、公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、あるいは行政の中立的運営を直接、具体的に損う行為のみに限定されていないとしても、右の合理的な関連性が失われるものではない。」と述べている。
(ⅲ)「政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡」については、「公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎず、かつ、国公法102条1項及び規則の定める行動類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではなく、他面、禁止により得られる利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる利益に比してさらに重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。」と述べている。(ⅳ)結論として、公務員の政治活動を禁止すること自体(国公法102条1項及び規則5項3号、6項13号)は「合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものということはできない。」と述べている。
これに対し、最高裁は、次のように判示している。「原判決もこれを是認している。しかしながら、本件行為のような政治的行為が公務員によってされる場合には、当該公務員の管理職・非管理職の別、現業・非現業の別、裁量権の範囲の広狭などは、公務員の政治的中立性を維持することにより行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保しようとする法の目的を阻害する点に、差異をもたらすものではない。右各判決が、個々の公務員の担当する職務を問題とし、本件被告人の職務内容が裁量の余地のない機械的業務であることを理由として、禁止違反による弊害が小さいものであるとしている点も、有機的統一体として機能している行政組織における公務の全体の中立性が問題とされるべきものである以上、失当である。郵便や郵便貯金のような業務は、もともと、あまねく公平に、役務を提供し、利用させることを目的としているのであるから(郵便法1条、郵便貯金法1条参照)、国民全体への公平な奉仕を旨として運営されなければならないのであって、原判決の指摘するように、その業務の性質上、機械的労務が重い比重を占めるからといって、そのことのゆえに、その種の業務に従事する現業公務員を公務員の政治的中立性について例外視する理由はない。また、前述のような公務員の政治的行為の禁止の趣旨からすれば、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無、職務利用の有無などは、その政治的行為の禁止の合憲性を判断するうえにおいては、必ずしも重要な意味をもつものではない。さらに、政治的行為が労働組合活動の一環としてなされたとしても、そのことが組合員である個々の公務員の政治的行為を正当化する理由となるものではなく、また、個々の公務員に対して禁止されている政治的行為が組合活動として行われるときは、組合員に対して統制力をもつ労働組合の組織を通じて計画的に広汎に行われ、その弊害は一層増大することとなるのであつて、その禁止が解除されるべきいわれは少しもないのである。…第一審判決及び原判決は、また、本件政治的行為によつて生じる弊害が軽微であると断定し、そのことをもつてその禁止を違憲と判断する重要な根拠としている。しかしながら、本件における被告人の行為は、衆議院議員選挙に際して、特定の政党を支持する政治的目的を有する文書を掲示し又は配布したものであつて、その行為は、具体的な選挙における特定政党のためにする直接かつ積極的な支援活動であり、政治的偏向の強い典型的な行為というのほかなく、このような行為を放任することによる弊害は、軽微なものであるとはいえない。のみならず、かりに特定の政治的行為を行う者が一地方の一公務員に限られ、ために右にいう弊害が一見軽微なものであるとしても、特に国家公務員については、その所属する行政組織の機構の多くは広範囲にわたるものであるから、そのような行為が累積されることによつて現出する事態を軽視し、その弊害を過小に評価することがあつてはならない。」
過去問・解説
(H20 司法 第2問 ア)
国家公務員の政治的中立性を損うおそれのある政治的行為を禁止することは、強い政治性を有する意見表明そのものを制約する規制であるが、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼の確保という国民全体の共同利益のためであれば、特定の内容の表現を禁止することも許される。
(H20 司法 第2問 イ)
国家公務員法第102条第1項は国家公務員に禁止される政治的行為の具体的定めを広く人事院規則に委任しているが、一般に公務員の政治的中立性を損うおそれのある政治的行為を禁じることは許されるのであり、同条同項はそのような行動類型の定めを委任するものであって、委任の限界を超えることにはならない。
(H20 司法 第2問 ウ)
国家公務員の具体的な政治的行為を処罰することの合憲性判断に当たっては、当該公務員の職務内容や問題となる行為の内容などを総合的に考慮すべきである。例えば機械的労務の提供を職務とする者の政治的行為により公務員の政治的中立性が害されるおそれは小さいが、他方、行われた行為が選挙に際しての特定政党への支援活動という政治的偏向の強いものであれば、結局処罰は合憲と判断される。
(H24 司法 第18問 ウ)
公務員の政治的行為の禁止を定める国家公務員法102条1項及び人事院規則14-7それ自体は憲法21条に違反しないとしても、当該公務員の行為のもたらす弊害が軽微なものについてまで一律に罰則を適用することは、必要最小限の域を超えるものであって、憲法21条及び31条に違反する。
(正答) ✕
(解説)
猿払事件判決(最大判昭49.11.6)は、「国公法102条1項及び規則5項3号、6項13号は、合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものということはできない。」としている。したがって、本肢前段は正しい。
また、本判決は、政治的行為の禁止について罰則を設けることは憲法21条及び31条に違反するかについて、「国公法110条1項19 号の罰則は、憲法21条、31条に違反するものではな…い」としている。したがって、本肢後段の「必要最小限の域を超えるものであって、憲法21条及び31条に違反する」との部分は、本判決の上記判示と矛盾する。よって、本肢後段は誤っている。
(H25 司法 第19問 ア)
判例は、精神的自由に対する制約の合憲性を経済的自由に対する制約の合憲性より厳しく審査すべきであるという二重の基準論を採用し、表現活動に対する制約については、表現内容に基づく制約だけでなく、間接的・付随的制約の合憲性についても厳格な審査を及ぼしている。
(正答) ✕
(解説)
小売市場事件判決(最大判昭47.11.22)や薬事法事件判決(最大判昭50.4.30)において、二重の基準論の理論が採用されている。これは、経済的自由の場合には、立法府の立法判断は尊重されて合理的根拠に基づく規制である限り合憲とされるが、精神的自由を規制する立法の合憲性審査の場合に厳格な審査基準が用いられるべきとする考え方である。したがって、本肢前段は正しい。
もっとも、猿払事件判決(最大判昭49.11.6)は「公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならない。国公法102条1項及び規則による公務員に対する政治的行為の禁止が右の合理的で必要やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたつては、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の3点から検討することが必要」としている。猿払事件では緩やかな基準が用いられているといえる。したがって、本肢後段の「間接的・付随的制約の合憲性についても厳格な審査を及ぼしている」との部分は、猿払事件判決の上記判示と矛盾している。
(H30 共通 第1問 ア改題)
猿払事件上告審(最大判昭和49年11月6日)は、公務員の地位のように権利主体と公権力との間に特殊な法律関係がある場合には、憲法の人権保障が原則として及ばないなどとする理論によって公務員の人権に対する制約を正当化した趣旨の判示をして、公務員の政治的意見表明の自由に対する制約を正当化している
(正答) ✕
(解説)
猿払事件判決(最大判昭49.11.6)は、「憲法21条の保障する表現の自由は、民主主義国家の政治的基盤をなし、国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり、法律によつてもみだりに制限することができないものである。そして、およそ政治的行為は、行動としての面をもつほかに、政治的意見の表明としての面をも有するものであるから、その限りにおいて、憲法21条による保障を受けるものであることも、明らかである」としている。そのうえで、「行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益にほかならない」として、「合理的で必要やむをえない」場合には国家公務員の政治的行為を禁止することも許容されるとしている。したがって、猿払事件判決は、憲法の人権保障が原則として及ばないなどとする理論によって公務員の人権に対する制約を正当化したのではない。
(H30 共通 第1問 イ改題)
猿払事件上告審(最大判昭和49年11月6日)は、国家公務員法102条1項が一定の行動類型に属する政治的行為を禁止していることに伴い生じ得る意見表明の自由の制約について、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある行動類型に属する政治的行為を禁止することに伴い意見表明の自由が制約されることになっても、そのような制約は行動の禁止に伴う限度での間接的・付随的制約にとどまるとしている。