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憲法 灸の適応症広告事件 最大判昭和36年2月15日 - 解答モード

概要
あん摩師・はり師・きゅう師及び柔道整復師法7条は、あん摩師等がその業務又は施術に関して同条1項各号に列挙する事項以外について広告をすることを禁止しているところ、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置であるから、憲法21条1項に違反しない。
判例
事案:あん摩師・はり師・きゅう師及び柔道整復師法7条は、あん摩師等がその業務又は施術に関して、いかなる方法を問わず、同条1項各号に列挙する事項以外について広告をすることを禁止し、広告可能な事項についても、施術者の技能・施術方法・経歴に関する事項にわたってはならないと定めている。きゅう師である被告人は、きゅうの適応症として、神経痛・リュウマチ等の病名を記載した広告ビラを配布し、同条違反として起訴された。

判旨:「論旨は、本件広告はきゆうの適応症を一般に知らしめようとしたものに過ぎないのであつて、何ら公共の福祉に反するところはないから、同条がこのような広告まで禁止する趣旨であるとすれば、同条は憲法…21条に違反し無効であると主張する。しかし本法があん摩、はり、きゆう等の業務又は施術所に関し前記のような制限を設け、いわゆる適応症の広告をも許さないゆえんのものは、もしこれを無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わす虞があり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであつて、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならない。されば同条は憲法21条に違反せず、同条違反の論旨は理由がない。」

補足意見1:「心(意思)の表現が必ずしもすべて憲法21条にいう「表現」には当らない。財産上の契約をすること、その契約の誘引としての広告をすることの如きはそれである。アメリカでは憲法上思想表現の自由、精神的活動の自由と解しこれを強く保障するが、経済的活動の自由はこの保障の外にあるものとされ、これと同じには考えられていないようである。
 本法に定めるきゆう師等の業務は一般に有償で行われるのでその限りにおいてその業務のためにする広告は一の経済的活動であり、財産獲得の手段であるから、きゆう局的には憲法上財産権の制限に関連する強い法律的制限を受けることを免れない性質のものである。この業務(医師、殊に弁護士の業務も)往々継続的無料奉仕として行われることも考えられる。しかし、それにしても専門的知識経験あることが保障されていない無資格者がこれを業として行うことは多数人の身体に手を下しその生命、健康に直接影響を与える仕事であるだけに(弁護士は人の権利、自由、人権に関する大切な仕事をする)公共の福祉のため危険であり、その業務に関する広告によつて依頼者を惹きつけるのでなく「桃李もの言わねども下おのづから蹊をなす」ように、無言の実力によつて公正な自由競争をするようにするために、法律で、これらの業務を行う者に対しその業務上の広告の内容、方法を適正に制限することは、経済的活動の自由、少くとも職業の自由の制限としてかなり大幅に憲法上許されるところであり、本法7条にいう広告の制限もかような制限に当るのである。そのいずれの項目も憲法21条の「表現の自由」の制限に当るとは考えられない。
 とはいえ、本法7条広告の制限は余りにも苛酷ではなかろうか、一般のきゆう師等の適応症を広告すること位は差支ないではないか、外科医に行かず近所の柔道整復師で間に合うことなら整復師に頼みたいと思う人には整復師の扱う適応症が広告されていた方がよいのではないか、といつたような疑問は起こる。また、本法7条が適応症の広告を禁止した法意は、きゆう師等が(善意でも)適応症の範囲を無暗に拡大して広告し、広告多ければ患者多く集まるという、不公正な方法で同業者または医師と競争し、また、重態の患者に厳密な医学的診断も経ないで無効もしくは危険な治療方法を施すようなことを防止し、医師による早期診断早期治療を促進しようとするにあるようにも思える。とすれば憲法31条に違反する背理な刑罰法規ともいえないのではないか。
 とに角、本法7条広告の禁止は憲法21条に違反しない。むしろ同条の問題ではない。だから、この禁止条項が適当か否かは国会の権限に属する立法政策の問題であろう。」(垂水克己裁判官の補足意見)
 
補足意見2:「原判決の確定した事実関係の要旨は、被告人はきゆう業を営むものであるところ、きゆうの適応症であるとした神経痛、リヨウマチ、血の道、胃腸病等の病名を記載したビラ約7030枚を配付し以て法定の事項以外の事項について広告したというのである。
 そこで右認定の証拠となつた押収の広告ビラ…を見るに(一)大津百石町の大野灸と題し、施術所の名称、施術時間等あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法(以下単に法と略称する)第7条1項において許された広告事項の記載が存するの外(二)きゆうの適応症として数多くの疾病が記載され更にその説明が附記されている。例えば「灸の効くわけ」として、「○熱いシゲキは神経に強い反応を起し、体の内臓や神経作用が、興奮する○血のめくりが良くなり、血中のバイ菌や病の毒を消すメンエキが増へる○それ故体が軽く、気持が良くなりよく寝られる、腹がへる等は灸をした人の知る所である◎(注射や服薬で効かぬ人は灸をすると良い)」「人体に灸ツボ六百以上あり、病によつてツボが皆違ふ故ツボに、すえなければ効果はない」等の説明が附記されている。しかして右のようにきゆう業者の広告に適応症としての病名やその効能の説明が(一)の許された広告事項に併記された場合には、その広告は法第7条2項の「施術者の技能」に関する事項にわたり広告したものということができる。蓋しきゆうは何人が施術するも同様の効果を挙げ得るものではなく、それぞれの疾病に適合したツボにすえることによつて効果があるものであるから、施術者又は施術所ときゆうの適応症を広告することは、その施術者の技能を広告することになるものと解し得るからである。されば本件広告は法第7条2項に違反するものというべく、この点の原判示はやや簡略に適ぎる嫌いはあるが、要するに本件ビラの内容には適応症及びその説明の記載があつて施術者の技能に関する事項にわたる広告をした事実を認定した趣旨と解し得られるから、同法7条違反に問擬した原判決は結局相当である。
 広告の自由が憲法21条の表現の自由に含まれるものとすれば、昭和26年法律第116号による改正に当り法第7条第1項において一定事項以外の広告を原則的に禁止するような立法形式をとつたことについては論議の余地があろう。しかし、同条2項は旧法第七条の規定の趣旨をそのまま踏襲したものであつて、即ち施術者の技能、施術方法又は経歴に関する事項は、患者吸引の目的でなす、きゆう業広告の眼目であることに着眼し、これを禁止したものと見られるから、第1項の立法形式の当否にかかわりなく、独立した禁止規定として、その存在価値を有するものである。そこで本件被告人の所為が既述の如く右第2項の施術者の技能に関する広告に該当するものである以上本件においては、右第2項の禁止規定が表現の自由の合理的制限に当るかどうかを判断すれば足りるものと考えられる。ところで右第2項の立法趣旨は、技能、施術方法又は経歴に関する広告が患者を吸引するために、ややもすれば誇大虚偽に流れやすく、そのために一般大衆を惑わさせる弊害を生ずる虞れがあるから、これを禁止することにしたものと解せられる。されば右第2項の禁止規定は広告の自由に対し公共の祉福のためにする必要止むを得ない合理的制限ということができるから、憲法21条に違反するものではない。その他右規定が憲法11条ないし13条、19条に違反するとの論旨も理由がない。」(河村大助裁判官の補足意見は次のとおりである。)
過去問・解説

(R6 司法 第5問 ア)
営利的な広告であっても表現の自由の保障の対象となり、虚偽、誇大にわたる広告のみならず、あん摩、はり、きゅう等の施術の適応症に関する真実、正当な広告までをも禁止することは、憲法第21条に反し許されない。

(正答)  

(解説)
灸の適応症広告事件判決(最大判昭36.2.15)は、「広告…を無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わす虞があり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであつて、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならない。されば同条は憲法21条に違反せず、同条違反の論旨は理由がない。」としており、あん摩・はり・きゅう等の施術の適応症に関する真実・正当な広告まで禁止することも含めて憲法第21条に違反しないとの考えに立っている。

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