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憲法 全逓名古屋中郵事件 最大判昭和52年5月4日 - 解答モード

概要
①公労法17条1項による五現業・三公社の職員の争議行為の禁止は、憲法28条に違反しない。
②公労法17条1項違反の争議行為については、労組法1条2項の適用による刑事免責が認められない。
③公労法17条1項違反の争議行為が他の法規の罰則の構成要件を充たすことがあつても、それが同盟罷業、怠業その他単なる労務不提供のような不作為を内容とする争議行為である場合には、それを違法としながらも後に判示するような限度で単純参加者についてはこれを刑罰から解放して指導的行為に出た者のみを処罰する趣旨のものであると解するのが、相当である。
判例
事案:公共企業体等労働関係法17条1項は、「職員及び組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。又職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならない」と規定している。本件では、①公労法17条1項による五現業・三公社の職員の争議行為の禁止が憲法28条に違反するか、②公労法17条1項違反の争議行為についても労組法1条2項の適用による刑事免責が認められるか、③公労法17条1項に違反する争議行為の単純参加行為につき刑事法上の処罰の阻却を認めるべき範囲が問題となった。

判旨:①「憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」、すなわち、いわゆる労働基本権を保障している。この労働基本権の保障は、憲法25条のいわゆる生存権の保障を基本理念とし、憲法27条の勤労の権利及び勤労条件に関する基準の法定の保障と相まつて勤労者の経済的地位の向上を目的とするものである。このような労働基本権の根本精神に即して考えると、国家公務員の身分を有しない三公社の職員も、その身分を有する五現業の職員も、自己の労務を提供することにより生活の資を得ている点においては、一般の勤労者と異なるところがないのであるから、共に憲法28条にいう勤労者にあたるものと解される。
 しかしながら、ここで、全農林事件判決が、非現業の国家公務員につき、これを憲法28条の勤労者にあたるとしつつも、その憲法上の地位の特殊性から労働基本権の保障が重大な制約を受けている旨を説示していることに、留意しなければならないであろう。すなわち、「公務員の場合は、その給与の財源は国の財政とも関連して主として税収によつて賄われ、私企業における労働者の利潤の分配要求のごときものとは全く異なり、その勤務条件はすべて政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならず、しかもその決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである。これを法制に即して見るに、公務員については、憲法自体がその73条4号において『法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること』は内閣の事務であると定め、その給与は法律により定められる給与準則に基づいてなされることを要し、これに基づかずにはいかなる金銭または有価物も支給することはできないとされており(国公法63条1項参照)、このように公務員の給与をはじめ、その他の勤務条件は、私企業の場合のごとく労使間の自由な交渉に基づく合意によつて定められるものではなく、原則として、国民の代表者により構成される国会の制定した法律、予算によつて定められることとなつているのである。その場合、使用者としての政府にいかなる範囲の決定権を委任するかは、まさに国会みずからが立法をもつて定めるべき労働政策の問題である。したがつて、これら公務員の勤務条件の決定に関し、政府が国会から適法な委任を受けていない事項について、公務員が政府に対し争議行為を行うことは、的はずれであつて正常なものとはいいがたく、もしこのような制度上の制約にもかかわらず、公務員による争議行為が行われるならば、使用者としての政府によつては解決できない立法問題に逢着せざるをえないこととなり、ひいては民主的に行われるべき公務員の勤務条件決定の手続過程を歪曲することともなつて、憲法の基本原則である議会制民主主義(憲法41条、83条等参照)に背馳し、国会の議決権を侵す虞れすらなしとしないのである。」これを要するに、非現業の国家公務員の場合、その勤務条件は、憲法上、国民全体の意思を代表する国会において法律、予算の形で決定すべきものとされており、労使間の自由な団体交渉に基づく合意によつて決定すべきものとはされていないので、私企業の労働者の場合のような労使による勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉権の保障はなく、右の共同決定のための団体交渉過程の一環として予定されている争議権もまた、憲法上、当然に保障されているものとはいえないのである。
 右の理は、公労法の適用を受ける五現業及び三公社の職員についても、直ちに又は基本的に妥当するものということができる。それは、五現業の職員は、現業の職務に従事している国家公務員なのであるから、勤務条件の決定に関するその憲法上の地位は上述した非現業の国家公務員のそれと異なるところはなく、また、三公社の職員も、国の全額出資によつて設立、運営させる公法人のために勤務する者であり、勤務条件の決定に関するその憲法上の地位の点では右の非現業の国家公務員のそれと基本的に同一であるからである。三公社は、このような公法人として、その法人格こそ国とは別であるが、その資産はすべて国のものであつて、憲法八三条に定める財政民主主義の原則上、その資産の処分、運用が国会の議決に基づいて行われなければならないことはいうまでもなく、その資金の支出を国会の議決を経た予算の定めるところにより行うことなどが法律によつて義務づけられた場合には、当然これに服すべきものである。そして、三公社の職員の勤務条件は、直接、間接の差はあつても、国の資産の処分、運用と密接にかかわるものであるから、これを国会の意思とは無関係に労使間の団体交渉によつて共同決定することは、憲法上許されないところといわなければならないのである。
 ……以上の理由により、公労法17条1項による争議行為の禁止は、憲法28条に違反するものではない。
 なお、上述したところは、公労法17条1項が憲法28条に違反するものではないことを憲法上の解釈として判示したにとどまるのであつて、公労法17条1項その他公務員等の労働基本権にかかわる現行法規につきその立法政策的な当否を論ずるものではない。非現業の国家公務員に関して全農林事件判決が、また非現業の地方公務員に関して岩手県教組事件判決が、そうして五現業の国家公務員及び三公社の職員に関して本判決がそれぞれ判示するところは、(イ)公務員及び三公社その他の公共的職務に従事する職員は、財政民主主義に表れている議会制民主主義の原則により、その勤務条件の決定に関し国会又は地方議会の直接、間接の判断を待たざるをえない特殊な地位に置かれていること、(ロ)そのため、これらの者は、労使による勤務条件の共同決定を内容とするような団体交渉権ひいては争議権を憲法上当然には主張することのできない立場にあること、(ハ)さらに、公務員及び三公社の職員は、その争議行為により適正な勤務条件を決定しうるような勤務上の関係にはなく、かつ、その職務は公共性を有するので、全勤労者を含めた国民全体の共同利益の保障という見地からその争議行為を禁止しても、憲法28条に違反するものとはいえないこと、に帰するのである。これを言い換えるならば、国会が、その立法、財政の権限に基づき、一定範囲の公務員その他の公共的職務に従事する職員の勤務条件に関し、職員との交渉によりこれを決定する権限を使用者としての政府その他の当局に委任し、さらにはこれらの職員に対し争議権を付与することも、憲法上の権限行使の範囲内にとどまる限り、違憲とされるわけはないのである。現行法制が、非現業の公務員、現業公務員・三公社職員、それ以外の公共的職務に従事する職員の三様に区分し、それぞれ程度を異にして労働基本権を保障しているのも、まさに右の限度における国会の立法裁量に基づくものにほかならない。」
 ②「……以上の理由により、公労法17条1項違反の争議行為についても労組法1条2項の適用があり、原則としてその刑事法上の違法性が阻却されるとした点において、東京中郵事件判決は、変更を免れないこととなるのである。」
 ③「公労法17条1項に違反する争議行為が郵便法79条1項などの罰則の構成要件に該当する場合に労組法1条2項の適用がないことは、上述したとおりであるが、そのことから直ちに、原則としてその行為を処罰するのが法律秩序全体の趣旨であると結論づけるのは、早計に失する。すなわち、罰則の構成要件に該当し、違法性があり、責任もある行為は、これを処罰するのが刑事法上の原則であるが、公労法の制定に至る立法経過とそこに表れている立法意思を仔細に検討するならば、たとい同法17条1項違反の争議行為が他の法規の罰則の構成要件を充たすことがあつても、それが同盟罷業、怠業その他単なる労務不提供のような不作為を内容とする争議行為である場合には、それを違法としながらも後に判示するような限度で単純参加者についてはこれを刑罰から解放して指導的行為に出た者のみを処罰する趣旨のものであると解するのが、相当である。
 ……公労法17条1項に違反する争議行為の単純参加行為につき刑事法上の処罰の阻却を認めるべき範囲は、処罰の阻却を認める根拠の面から、これを限定しなければならない、ということについて述べておきたい。
 まず、国公法の罰則があおり、そそのかしなどの指導的行為に処罰対象を絞つているのは、東京中郵事件判決が指摘するとおり、同盟罷業、怠業その他単なる労務不提供のような不作為を内容とする争議行為に対する刑事制裁をいかにするかを念頭に置いてのことであるので、単純参加行為に対する処罰の阻却も、そのような不作為的行為についてのみその事由があるとしなければならない。ここで単純参加行為に対する処罰の阻却を肯定するのは、もとよりその行為を適法、正当なものと認めるからではなく、違法性を阻却しないけれども、右に述べた諸般の考慮から刑事法上不処罰とするのが相当であると解されるからなのである。
 さらに、この場合の処罰の阻却は、その根拠となる立法経過からみるとき、公労法17条1項の争議行為の禁止規定が存在しなければ正当な争議行為として処罰を受けることのないような行為に限定される。けだし、政令第201号が施行される以前においては、前述のとおり、現業公務員の争議行為は許されていたが、その当時においても、違法な争議行為に対しては、それが単純参加行為であつても、争議行為として行われたものでない一般の行為に対するのと同様に、郵便法79条1項その他の罰則が適用されていたのであるから、争議行為が禁止されるようになつて、かえつてその処罰が阻却されることになつたと解するのは、明らかに不合理であるからである。」
過去問・解説
正答率 : 0.0%

(H26 予備 第7問 ウ)
非権力的な労務に従事する現業の国家公務員は憲法第28条の勤労者にほかならず、労働基本権の保障を受けるから、全体の奉仕者であることを理由として、非現業の国家公務員と同様に争議行為を全面的に禁止することは、合理的な理由を欠く。

(正答)  

(解説)
全逓名古屋中郵事件判決(最大判昭52.5.4)は、「非現業の国家公務員の場合、その勤務条件は、憲法上、国民全体の意思を代表する国会において法律、予算の形で決定すべきものとされており、労使間の自由な団体交渉に基づく合意によつて決定すべきものとはされていないので、私企業の労働者の場合のような労使による勤務条件の共同決定を内容とする団体交渉権の保障はなく、右の共同決定のための団体交渉過程の一環として予定されている争議権もまた、憲法上、当然に保障されているものとはいえないのである。右の理は、公労法の適用を受ける5現業及び3公社の職員についても、直ちに又は基本的に妥当するものということができる」として、非権力的な労務に従事する5現業の国家公務員の争議行為の全面禁止は違憲ではないとした。したがって、「非現業の国家公務員と同様に争議行為を全面的に禁止することは、合理的な理由を欠く」とする点で、本肢は誤っている。

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