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憲法 前科照会事件 最三小判昭和56年4月14日 - 解答モード
概要
判例
第一審判決は、権威ある弁護士会(公的機関)からの法律に基づく照会であることを理由としてプライバシー侵害を否定したが、第二審判決は、犯罪人名簿は一般的な身元証明や照会等に応じ使用すべきものではない、弁護士の守秘義務は弁護士が依頼者の請求により委任事務処理の状況を報告する義務(民法645条)に優先するものとは言い難いとして、プライバシー侵害を認めた。
補足意見:「他人に知られたくない個人の情報は、それがたとえ真実に合致するものであつても、その者のプライバシーとして法律上の保護を受け、これをみだりに公開することは許されず、違法に他人のプライバシーを侵害することは不法行為を構成するものといわなければならない。このことは、私人による公開であつても、国や地方公共団体による公開であつても変わるところはない。国又は地方公共団体においては、行政上の要請など公益上の必要性から個人の情報を収集保管することがますます増大しているのであるが、それと同時に、収集された情報がみだりに公開されてプライバシーが侵害されたりすることのないように情報の管理を厳にする必要も高まつているといつてよい。近時、国又は地方公共団体の保管する情報について、それを広く公開することに対する要求もつよまつてきている。しかし、このことも個人のプライバシーの重要性を減退せしめるものではなく、個人の秘密に属する情報を保管する機関には、プライバシーを侵害しないよう格別に慎重な配慮が求められるのである。
本件で問題とされた前科等は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つであり、それに関する情報への接近をきわめて困難なものとし、その秘密の保護がはかられているのもそのためである。もとより前科等も完全に秘匿されるものではなく、それを公開する必要の生ずることもありうるが、公開が許されるためには、裁判のために公開される場合であつても、その公開が公正な裁判の実現のために必須のものであり、他に代わるべき立証手段がないときなどのように、プライバシーに優越する利益が存在するのでなければならず、その場合でも必要最小限の範囲に限つて公開しうるにとどまるのである。このように考えると、人の前科等の情報を保管する機関には、その秘密の保持につきとくに厳格な注意義務が課せられていると解すべきである。」(伊藤正己裁判官の補足意見)
過去問・解説
(H19 司法 第4問 イ)
学説における支配的見解は、幸福追求権を包括的基本権と把握する。しかし、実際に、幸福追求権からどのような具体的権利が導き出されるかについては、見解が分かれる。明文で規定されていない権利・自由で、最高裁判所が認めているのは、みだりに容貌等を撮影されない自由以外では、前科をみだりに公開されない自由だけである。
(正答) ✕
(解説)
京都府学連事件判決(最大判昭44.12.24)は、「憲法13条は、…国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。」としている。また、前科照会事件判決(最判昭56.4.14)は、憲法13条には言及していないものの、「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」としている。
もっとも、これら以外でも、例えば「北方ジャーナル」事件判決(最大判昭61.6.11)は、憲法13条を根拠として「人格権としての名誉権」を認めている。
(H28 司法 第2問 ア)
前科は人の名誉、信用に直接関わる事項であり、前科のある者もこれをみだりに公開されないという法的保護に値する利益を有するが、「裁判所に提出するため」との申出理由の記載があれば、市区町村長が弁護士法に基づく照会に応じて前科を報告することは許される。
(正答) ✕
(解説)
前科照会事件判決(最判昭56.4.14)は、「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」としているため、本肢前段は正しい。
しかし、本判決は、「京都弁護士会が訴外猪野愈弁護士の申出により京都市伏見区役所に照会し、同市中京区長に回付された被上告人の前科等の照会文書には、照会を必要とする事由としては、右照会文書に添付されていた猪野弁護士の照会申出書に「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」とあったにすぎないというのであり、このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」とし、「裁判所に提出するため」との申出理由の記載では、前科照会に応じることを認めていない。したがって、本肢後段は誤っている。
(R1 司法 第3問 イ)
何人も、前科及び犯罪経歴をみだりに公開されない自由を有するところ、前科等の有無が訴訟の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得なければ他に立証方法がない場合であっても、裁判所から市区町村長に照会することが可能であるから、市区町村長が弁護士法に基づく照会に応じて前科等につき報告することは、公権力の違法な行使として許されない。
(正答) ✕
(解説)
前科照会事件判決(最判昭56.4.14)は、「前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法23条の2に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではない」としているから、前科等の有無が訴訟の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得なければ他に立証方法がない場合には、市区町村長が弁護士法に基づく照会に応じて前科等につき報告することも許される。