事案:酒税法は、酒類販売業について免許制度を定めるとともに、免許基準の一つとして「…その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」には免許を与えないとすることができると規定していた。本件では、酒類販売業の免許制度が憲法22条1項に違反するかが問題となった。
判旨:①「憲法22条1項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきであるが、職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請が強く、憲法の右規定も、特に公共の福祉に反しない限り、という留保を付している。しかし、職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その憲法22条1項適合性を一律に論ずることはできず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。そして、その合憲性の司法審査に当たっては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきであるが、右合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭があり得る。ところで、一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。
また、憲法は、租税の納税義務者、課税標準、賦課徴収の方法等については、すべて法律又は法律の定める条件によることを必要とすることのみを定め、その具体的内容は、法律の定めるところにゆだねている(30条、84条)。租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。したがって、租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである…。以上のことからすると、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限り、これを憲法22条1項の規定に違反するものということはできない。」
②「酒税法が昭和13年法律第48号による改正により、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために、このような制度を採用したことは、当初は、その必要性と合理性があったというべきであり、酒税の納税義務者とされた酒類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒類販売業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたのも、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採られた合理的な措置であったということができる。その後の社会状況の変化と租税法体系の変遷に伴い、酒税の国税全体に占める割合等が相対的に低下するに至った本件処分当時の時点においてもなお、酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性については、議論の余地があることは否定できないとしても、前記のような酒税の賦課徴収に関する仕組みがいまだ合理性を失うに至っているとはいえないと考えられることに加えて、酒税は、本来、消費者にその負担が転嫁されるべき性質の税目であること、酒類の販売業免許制度によって規制されるのが、そもそも、致酔性を有する嗜好品である性質上、販売秩序維持等の観点からもその販売について何らかの規制が行われてもやむを得ないと考えられる商品である酒類の販売の自由にとどまることをも考慮すると、当時においてなお酒類販売業免許制度を存置すべきものとした立法府の判断が、前記のような政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるとまでは断定し難い。
…本件処分の理由とされた酒税法10条10号の免許基準について検討するのに、同号は、免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合に、酒類販売業の免許を与えないことができる旨を定めるものであって、酒類製造者において酒類販売代金の回収に困難を来すおそれがあると考えられる最も典型的な場合を規定したものということができ、右基準は、酒類の販売免許制度を採用した前記のような立法目的からして合理的なものということができる。また、同号の規定が不明確で行政庁のし意的判断を許すようなものであるとも認め難い。そうすると、酒税法9条、10条10号の規定が、立法府の裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるということはできず、右規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。」
補足意見:「私は、財政目的による規制は、いわゆる警察的・消極的規制ともその性格を異にする面があり、また、いわゆる社会政策・経済政策的な積極的規制とも異なると考える。一般論として、経済的規制に対する司法審査の範囲は、規制の目的よりもそれぞれの規制を支える立法事実の確実な把握の可能性によって左右されることが多いと思っている。…そして、そのような酒税の重要性の判断及び合理的な規制の選択については、立法政策に関与する大蔵省及び立法府の良識ある専門技術的裁量が行使されるべきであると考える。」(園部逸夫裁判官の補足意見)