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憲法 議員定数不均衡訴訟 最大判昭和58年4月27日
概要
昭和52年7月10日施行の参議院議員選挙の当時において議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対5.26の較差を生じさせていた参議院議員定数配分規定は、憲法に違反するに至っていたとはいえない。
判例
事案:昭和52年7月10日施行の参議院議員選挙の当時、議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対5.26の較差が生じていた。
判旨:①「議会制民主主義を採る我が憲法の下においては、国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であつて、憲法は、その重要性にかんがみ、14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として、成年者による普通選挙を保障するとともに、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて選挙人の資格を差別してはならないものとしている(15条3項、44条)。そして、この選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。
しかしながら、もともと右にいう投票価値は、議会制民主主義の下において国民各自、各層のさまざまな利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させるための方法としての具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによつてなんらかの差異を生ずることを免れない性質のものである。そして、憲法は、国会両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、どのような選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の極めて広い裁量に委ねているのである。それゆえ、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をもしんしやくして、その裁量により衆議院議員及び参議院議員それぞれについて選挙制度の仕組みを決定することができるのであつて、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認しうるものである限り、それによつて右の投票価値の平等が損なわれることとなつても、やむをえないものと解すべきである。
以上は、最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決(民集30巻3号223頁)の趣旨とするところであつて、いまこれを変更する要をみない。」
②「以上のような見地に立つて、本件についてみるのに、公職選挙法は、参議院議員の選挙については、衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする選挙制度の仕組みを設け、参議院議員を全都道府県の区域を通じて選挙される全国選出議員と都道府県を単位とする選挙区において選挙される地方選出議員とに区分している(4条2項、12条1項、2項、14条、別表第2)。そして、右地方選出議員の各選挙区ごとの議員定数を定めた本件参議院議員定数配分規定は、昭和46年法律第130号により沖縄の復帰に伴い新たに同県の地方選出議員の議員定数2人が付加されたほかは、参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)別表の定めをそのまま維持したものであつて、その制定経過に徴すれば、憲法が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し、総定数152人のうち最小限の2人を47の各選挙区に配分した上、残余の58人については人口を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する形で2人ないし6人の偶数の定数を付加配分したものであることが明らかである。
公職選挙法が参議院議員の選挙の仕組みについて右のような定めをした趣旨、目的については、結局、憲法が国会の構成について衆議院と参議院の二院制を採用し、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているところから、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあつても、参議院議員については、衆議院議員とはその選出方法を異ならせることによつてその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、前記のように参議院議員を全国選出議員と地方選出議員とに分かち、前者については、全国を一選挙区として選挙させ特別の職能的知識経験を有する者の選出を容易にすることによつて、事実上ある程度職能代表的な色彩が反映されることを図り、また、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。
そうであるとすれば、公職選挙法が参議院議員の選挙について定めた前記のような選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有する前記のような裁量的権限の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとは断じえないのであつて、その当否は、専ら立法政策の問題にとどまるものというべきである。上告人らは、両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定めた憲法43条1項の規定は参議院地方選出議員の議員定数の各選挙区への配分についても厳格な人口比例主義を唯一の基準とすべきことを要求するものであり、右のように地域代表の要素を反映した定数配分は憲法の右規定に違反する旨主張するけれども、右規定にいう議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであつて、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであるということを意味し、右規定が両議院の議員の選挙の仕組みについてなんらかの意味を有するとしても、全国を幾つかの選挙区に分けて選挙を行う場合には常に各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまで要求するものとは解されないし、前記のような形で参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといつて、これによつて選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。
このように、公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組みが国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認しうるものである以上、その結果として、各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票の価値の平等がそれだけ損なわれることとなつたとしても、先に説示したとおり、これをもつて直ちに右の議員定数の配分の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。したがつて、本件参議院議員定数配分規定は、その制定当初の人口状態の下においては、憲法に適合したものであつたということができる。」
③「昭和52年7月10日の本件参議院議員選挙の当時においては、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差が最大1対5・26に拡大し、また、選挙人数の多い選挙区の議員定数が選挙人数の少ない選挙区の議員定数よりも少なくなつているといういわゆる逆転現象が一部の選挙区においてみられたことは、原審の確定するとおりであつて、その限りでは、当初における議員定数の配分の基準及び方法と右のような現実の配分の状況との間にそごを来していることは否定しえない。
しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあつて不断に生ずる人口の異動につき、その政治的意味をどのように評価し、政治における安定の要請をも考慮しながら、これをいつどのような形で選挙区割、議員定数の配分その他の選挙制度の仕組みに反映させるべきか、また、これらの選挙制度の仕組みの変更にあたつて予想される実際上の困難や弊害をどのような方法と過程によつて解決するかなどの問題は、いずれも複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであつて、その決定は、これらの変化に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量に委ねられているところである。
したがつて、人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が拡大するなどして、当初における議員定数の配分の基準及び方法とこれらの状況との間にそごを来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正するなんらの措置を講じないことが、前記のような複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立つて行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても、その許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
これを本件についてみるのに、参議院議員の任期を6年としていわゆる半数改選制を採用し、また、参議院については解散を認めないものとするなど憲法の定める二院制の本旨にかんがみると、参議院地方選出議員については、選挙区割や議員定数の配分をより長期にわたつて固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として許容されると解されるところである。これに加えて、原審の認定する事実関係に徴すると、参議院地方選出議員の選挙について公職選挙法が採用した2人を最小限として偶数の定数配分を基本とする前記のような選挙制度の仕組みに従い、その全体の定数を増減しないまま本件参議院議員選挙当時の各選挙区の選挙人数又は人口に比例した議員定数の再配分を試みたとしても、なおかなり大きな較差が残るというのであつて、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の是正を図るにもおのずから限度があることは明らかである。そして、他方、本件参議院議員定数配分規定の下においては、前記のように、投票価値の平等の要求も、人口比例主義を基本として選挙区割及び議員定数の配分を定めた選挙制度の場合と同一に論じ難いことを考慮するときは、本件参議院議員選挙当時に選挙区間において議員一人当たりの選挙人数に前記のような較差があり、あるいはいわゆる逆転現象が一部の選挙区においてみられたとしても、それだけではいまだ前記のような許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足らないものというべきである。したがつて、国会が本件参議院議員選挙当時までに地方選出議員の議員定数の配分を是正する措置を講じなかつたことをもつて、その立法裁量権の限界を超えるものとは断じえず、右選挙当時において本件参議院議員定数配分規定が憲法に違反するに至つていたものとすることはできない。」
判旨:①「議会制民主主義を採る我が憲法の下においては、国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であつて、憲法は、その重要性にかんがみ、14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として、成年者による普通選挙を保障するとともに、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて選挙人の資格を差別してはならないものとしている(15条3項、44条)。そして、この選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。
しかしながら、もともと右にいう投票価値は、議会制民主主義の下において国民各自、各層のさまざまな利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させるための方法としての具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによつてなんらかの差異を生ずることを免れない性質のものである。そして、憲法は、国会両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、どのような選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の極めて広い裁量に委ねているのである。それゆえ、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をもしんしやくして、その裁量により衆議院議員及び参議院議員それぞれについて選挙制度の仕組みを決定することができるのであつて、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認しうるものである限り、それによつて右の投票価値の平等が損なわれることとなつても、やむをえないものと解すべきである。
以上は、最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決(民集30巻3号223頁)の趣旨とするところであつて、いまこれを変更する要をみない。」
②「以上のような見地に立つて、本件についてみるのに、公職選挙法は、参議院議員の選挙については、衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする選挙制度の仕組みを設け、参議院議員を全都道府県の区域を通じて選挙される全国選出議員と都道府県を単位とする選挙区において選挙される地方選出議員とに区分している(4条2項、12条1項、2項、14条、別表第2)。そして、右地方選出議員の各選挙区ごとの議員定数を定めた本件参議院議員定数配分規定は、昭和46年法律第130号により沖縄の復帰に伴い新たに同県の地方選出議員の議員定数2人が付加されたほかは、参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)別表の定めをそのまま維持したものであつて、その制定経過に徴すれば、憲法が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることとなるように配慮し、総定数152人のうち最小限の2人を47の各選挙区に配分した上、残余の58人については人口を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する形で2人ないし6人の偶数の定数を付加配分したものであることが明らかである。
公職選挙法が参議院議員の選挙の仕組みについて右のような定めをした趣旨、目的については、結局、憲法が国会の構成について衆議院と参議院の二院制を採用し、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているところから、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあつても、参議院議員については、衆議院議員とはその選出方法を異ならせることによつてその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、前記のように参議院議員を全国選出議員と地方選出議員とに分かち、前者については、全国を一選挙区として選挙させ特別の職能的知識経験を有する者の選出を容易にすることによつて、事実上ある程度職能代表的な色彩が反映されることを図り、また、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえうることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。
そうであるとすれば、公職選挙法が参議院議員の選挙について定めた前記のような選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有する前記のような裁量的権限の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとは断じえないのであつて、その当否は、専ら立法政策の問題にとどまるものというべきである。上告人らは、両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定めた憲法43条1項の規定は参議院地方選出議員の議員定数の各選挙区への配分についても厳格な人口比例主義を唯一の基準とすべきことを要求するものであり、右のように地域代表の要素を反映した定数配分は憲法の右規定に違反する旨主張するけれども、右規定にいう議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであつて、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであるということを意味し、右規定が両議院の議員の選挙の仕組みについてなんらかの意味を有するとしても、全国を幾つかの選挙区に分けて選挙を行う場合には常に各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまで要求するものとは解されないし、前記のような形で参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといつて、これによつて選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。
このように、公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組みが国会に委ねられた裁量権の合理的行使として是認しうるものである以上、その結果として、各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票の価値の平等がそれだけ損なわれることとなつたとしても、先に説示したとおり、これをもつて直ちに右の議員定数の配分の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。したがつて、本件参議院議員定数配分規定は、その制定当初の人口状態の下においては、憲法に適合したものであつたということができる。」
③「昭和52年7月10日の本件参議院議員選挙の当時においては、選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の較差が最大1対5・26に拡大し、また、選挙人数の多い選挙区の議員定数が選挙人数の少ない選挙区の議員定数よりも少なくなつているといういわゆる逆転現象が一部の選挙区においてみられたことは、原審の確定するとおりであつて、その限りでは、当初における議員定数の配分の基準及び方法と右のような現実の配分の状況との間にそごを来していることは否定しえない。
しかしながら、社会的、経済的変化の激しい時代にあつて不断に生ずる人口の異動につき、その政治的意味をどのように評価し、政治における安定の要請をも考慮しながら、これをいつどのような形で選挙区割、議員定数の配分その他の選挙制度の仕組みに反映させるべきか、また、これらの選挙制度の仕組みの変更にあたつて予想される実際上の困難や弊害をどのような方法と過程によつて解決するかなどの問題は、いずれも複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであつて、その決定は、これらの変化に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量に委ねられているところである。
したがつて、人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が拡大するなどして、当初における議員定数の配分の基準及び方法とこれらの状況との間にそごを来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正するなんらの措置を講じないことが、前記のような複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立つて行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても、その許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
これを本件についてみるのに、参議院議員の任期を6年としていわゆる半数改選制を採用し、また、参議院については解散を認めないものとするなど憲法の定める二院制の本旨にかんがみると、参議院地方選出議員については、選挙区割や議員定数の配分をより長期にわたつて固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として許容されると解されるところである。これに加えて、原審の認定する事実関係に徴すると、参議院地方選出議員の選挙について公職選挙法が採用した2人を最小限として偶数の定数配分を基本とする前記のような選挙制度の仕組みに従い、その全体の定数を増減しないまま本件参議院議員選挙当時の各選挙区の選挙人数又は人口に比例した議員定数の再配分を試みたとしても、なおかなり大きな較差が残るというのであつて、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の是正を図るにもおのずから限度があることは明らかである。そして、他方、本件参議院議員定数配分規定の下においては、前記のように、投票価値の平等の要求も、人口比例主義を基本として選挙区割及び議員定数の配分を定めた選挙制度の場合と同一に論じ難いことを考慮するときは、本件参議院議員選挙当時に選挙区間において議員一人当たりの選挙人数に前記のような較差があり、あるいはいわゆる逆転現象が一部の選挙区においてみられたとしても、それだけではいまだ前記のような許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足らないものというべきである。したがつて、国会が本件参議院議員選挙当時までに地方選出議員の議員定数の配分を是正する措置を講じなかつたことをもつて、その立法裁量権の限界を超えるものとは断じえず、右選挙当時において本件参議院議員定数配分規定が憲法に違反するに至つていたものとすることはできない。」
過去問・解説
(H18 司法 第9問 ウ)
参議院議員の選挙区選挙については、地域代表の性質を有するという参議院の特殊性により、投票価値の平等が直接的には要求されないと解されるから、衆議院議員選挙の場合とは異なり、選挙区間における投票価値の格差が5倍を超えるような場合であっても、憲法違反とはならない。
参議院議員の選挙区選挙については、地域代表の性質を有するという参議院の特殊性により、投票価値の平等が直接的には要求されないと解されるから、衆議院議員選挙の場合とは異なり、選挙区間における投票価値の格差が5倍を超えるような場合であっても、憲法違反とはならない。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判昭58.4.27)は、「参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。…公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組み…の下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。」としているが、「参議院議員の選挙区選挙については…投票価値の平等が直接的には要求されないと解される」とまでは述べていない。
判例(最大判昭58.4.27)は、「参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。…公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組み…の下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。」としているが、「参議院議員の選挙区選挙については…投票価値の平等が直接的には要求されないと解される」とまでは述べていない。
(H22 司法 第14問 ①)
最大判昭和58年4月27日(最大較差1対5.26倍)は、地方選出議員の地方代表的性格は否定したが、半数改選制、参議院に解散を認めない二院制の本旨といった参議院議員選挙の特殊性を重視して、合憲とした。
最大判昭和58年4月27日(最大較差1対5.26倍)は、地方選出議員の地方代表的性格は否定したが、半数改選制、参議院に解散を認めない二院制の本旨といった参議院議員選挙の特殊性を重視して、合憲とした。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判昭58.4.27)は、「参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。…公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組み…の下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。」としており、地方選出議員の地方代表的性格を否定していない。
判例(最大判昭58.4.27)は、「参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない。…公職選挙法が採用した参議院地方選出議員についての選挙の仕組み…の下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえないのである。」としており、地方選出議員の地方代表的性格を否定していない。