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憲法 議員定数不均衡訴訟 最大判昭和60年7月17日
概要
①本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。
②本件は、一般的な法の基本原則(事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項))に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である。
②本件は、一般的な法の基本原則(事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項))に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である。
判例
事案:昭和58年12月18日に実施された衆議院議員選挙において、本件選挙当時、選挙区間における議員1人あたりの選挙人数につき最大1対4.40の較差が生じていたことが憲法14条1項に違反するかが問題となった。
判旨:「一 選挙権の平等と選挙制度
1 憲法14条1項の規定は、国会を構成する衆議院及び参議院の議員を選挙する国民固有の権利につき、選挙人資格における差別の禁止にとどまらず(44条但し書)、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解すべきである。
2 議会制民主主義の下における選挙制度は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることを目的としつつ、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、各国の実情に即して決定されるべきものであり、そこには普遍的に妥当する一定の形態が存在するというものではない。日本国憲法は、国会の両議院の議員を選挙する制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのであるから(43条、47条)、投票価値の平等は、憲法上、右選挙制度の決定のための唯一、絶対の基準となるものではなく、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。
それゆえ、国会が定めた具体的な選挙制度の仕組みの下において投票価値の不平等が存する場合に、それが憲法上の投票価値の平等の要求に反しないかどうかを判定するには、憲法上の投票価値の平等の要求と前記の選挙制度の目的とに照らし、右不平等が国会の裁量権の行使として合理性を是認し得る範囲内にとどまるものであるかどうかにつき、検討を加えなければならない。
3 衆議院議員の選挙の制度につき、公職選挙法がその制定以来いわゆる中選挙区単記投票制を採用しているのは、候補者と地域住民との密接な関係を考慮し、また、原則として選挙人の多数の意思の反映を確保しながら、少数者の意思を代表する議員の選出をも可能ならしめようとする趣旨に出たものと考えられる。このような制度の下において、選挙区割と議員定数の配分を決定するについては,選挙人数と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準であるというべきであるが、それ以外にも考慮されるべきものとして、都道府県、市町村等の行政区画、地理的状況等の諸般の事情が存在するのみならず、人口の都市集中化の現象等の社会情勢の変化を選挙区割や議員定数の配分にどのように反映させるかということも考慮されるべき要素の一つであり、このように、選挙区割と議員定数の配分の具体的決定には、種々の政策的及び技術的考慮要素があり、これらをどのように考慮して具体的決定に反映させるかについて客観的基準が存在するものでもないから、議員定数配分規定の合憲性は、結局は、国会が具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによつて決するほかはない。
右の見地に立つて考えても、公職選挙法の制定又はその改正により具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、あるいはその後の人口の異動により右のような不平等が生じ、それが国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法違反と判断されざるを得ないものというべきである。
もつとも、制定又は改正の当時合憲であつた議員定数配分規定の下における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数又は人口(この両者はおおむね比例するものとみて妨げない。)の較差がその後の人口の異動によつて拡大し、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つた場合には、そのことによつて直ちに当該議員定数配分規定が憲法に違反するとすべきものではなく、憲法上要求される合理的期間内の是正が行われないとき初めて右規定が憲法に違反するものというべきである。
4 また、議員定数配分規定そのものの違憲を理由とする選挙の効力に関する訴訟は、公職選挙法204条の規定に基づいてこれを提起することができるものと解すべきである。
二 本件議員定数配分規定の合憲性
判旨:「一 選挙権の平等と選挙制度
1 憲法14条1項の規定は、国会を構成する衆議院及び参議院の議員を選挙する国民固有の権利につき、選挙人資格における差別の禁止にとどまらず(44条但し書)、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解すべきである。
2 議会制民主主義の下における選挙制度は、国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることを目的としつつ、他方、政治における安定の要請をも考慮しながら、各国の実情に即して決定されるべきものであり、そこには普遍的に妥当する一定の形態が存在するというものではない。日本国憲法は、国会の両議院の議員を選挙する制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねているのであるから(43条、47条)、投票価値の平等は、憲法上、右選挙制度の決定のための唯一、絶対の基準となるものではなく、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。
それゆえ、国会が定めた具体的な選挙制度の仕組みの下において投票価値の不平等が存する場合に、それが憲法上の投票価値の平等の要求に反しないかどうかを判定するには、憲法上の投票価値の平等の要求と前記の選挙制度の目的とに照らし、右不平等が国会の裁量権の行使として合理性を是認し得る範囲内にとどまるものであるかどうかにつき、検討を加えなければならない。
3 衆議院議員の選挙の制度につき、公職選挙法がその制定以来いわゆる中選挙区単記投票制を採用しているのは、候補者と地域住民との密接な関係を考慮し、また、原則として選挙人の多数の意思の反映を確保しながら、少数者の意思を代表する議員の選出をも可能ならしめようとする趣旨に出たものと考えられる。このような制度の下において、選挙区割と議員定数の配分を決定するについては,選挙人数と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準であるというべきであるが、それ以外にも考慮されるべきものとして、都道府県、市町村等の行政区画、地理的状況等の諸般の事情が存在するのみならず、人口の都市集中化の現象等の社会情勢の変化を選挙区割や議員定数の配分にどのように反映させるかということも考慮されるべき要素の一つであり、このように、選挙区割と議員定数の配分の具体的決定には、種々の政策的及び技術的考慮要素があり、これらをどのように考慮して具体的決定に反映させるかについて客観的基準が存在するものでもないから、議員定数配分規定の合憲性は、結局は、国会が具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによつて決するほかはない。
右の見地に立つて考えても、公職選挙法の制定又はその改正により具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、あるいはその後の人口の異動により右のような不平等が生じ、それが国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法違反と判断されざるを得ないものというべきである。
もつとも、制定又は改正の当時合憲であつた議員定数配分規定の下における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数又は人口(この両者はおおむね比例するものとみて妨げない。)の較差がその後の人口の異動によつて拡大し、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つた場合には、そのことによつて直ちに当該議員定数配分規定が憲法に違反するとすべきものではなく、憲法上要求される合理的期間内の是正が行われないとき初めて右規定が憲法に違反するものというべきである。
4 また、議員定数配分規定そのものの違憲を理由とする選挙の効力に関する訴訟は、公職選挙法204条の規定に基づいてこれを提起することができるものと解すべきである。
二 本件議員定数配分規定の合憲性
1 本件選挙が依拠した公職選挙法13条1項、同法別表第1、同法附則7ないし9項の議員定数配分規定(以下「本件議員定数配分規定」という。)は、昭和50年法律第63号(以下「昭和50年改正法」という。)による改正にかかるものであるが、右改正の結果、昭和45年10月実施の国勢調査による人口に基づく選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は最大1対4.83…から1対2.92に縮小したところ、昭和55年6月施行の衆議院議員選挙当時の選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差は最大1対3.94に達し(以上につき昭和58年大法廷判決参照)、更に本件選挙当時においては、右較差が最大1対4.40に拡大するに至つたことは、原審の適法に確定するところである。
本件選挙当時の右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、選挙区の選挙人数又は人口と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされる衆議院議員の選挙の制度の下で、国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものというべきであり、また、公職選挙法制定後に行われた議員定数配分規定のいずれかの改正の際に、選挙制度の仕組みに変更を加え、その結果、投票価値の不平等が合理性を有するものと考えられるような改正が行われたものとみることができないことは、昭和58年大法廷判決の打示するとおりであつて、他に、前記投票価値の不平等を正当化すべき特別の理由を見出すことはできない。したがつて、本件選挙当時において選挙区間に存した投票価値の不平等状態は、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものというべきである。
2 選挙区間における議員一人当たりの人口又は選挙人数の較差は、昭和50年改正法による改正の結果最大1対2.92に縮小することとなつたものが、昭和55年6月の衆議院議員選挙当時においては最大1対3.94に、更に本件選挙当時においては最大1対4.40に拡大するに至つたことは前記のとおりであるが、このように右較差が拡大したのは漸次的に生じた人口の異動によるものと推認することができる。
そして、昭和50年改正法による改正の結果、従前の議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は、一応解消されたものと評価することができるものというべきであるが(昭和58年大法廷判決参照)、その後、昭和55年6月の衆議院議員選挙当時における前記1対3.94の較差は選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものであり、右選挙時を基準としてある程度以前において右較差の拡大による投票価値の不平等状態が選挙権の平等の要求に反する程度に達していたと認められることは、先に昭和58年大法廷判決の指摘したとおりである。のみならず、右選挙当時から本件選挙当時まで右較差が漸次拡大の一途をたどつていたことは、毎年九月現在の選挙人名簿登録者数などによつて周知のところである。しかるに本件において、投票価値の不平等状態が違憲の程度に達した時から本件選挙までの間に右較差の是正が何ら行われることがなかつたことは、投票価値の不平等状態が違憲の程度に達したかどうかの判定は国会の裁量権の行使として許容される範囲内のものであるかどうかという困難な点にかかるものである等のことを考慮しても、なお憲法上要求される合理的期間内の是正が行われなかつたものと評価せざるを得ない。したがつて、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。
そして、本件議員定数配分規定は、その性質上不可分の一体をなすものと解すべきであり、憲法に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである(昭和51年大法廷判決参照)。
三 本件選挙の効力
以上のように、本件議員定数配分規定は本件選挙当時全体として違憲であるが、これに基づいて行われた選挙の効力については、更に考慮を要する。
およそ公職選挙法204条の訴訟において請求認容の判決がされたときは、当該選挙は無効となり、直ちに法定期間内の再選挙が施行されて違法状態が是正されることになるのであるが、議員定数配分規定の違憲を理由とする同条の規定に基づく訴訟においては、当該選挙を無効とする判決をしても、直ちに再選挙施行の運びとなるわけではなく、憲法に適合する選挙を施行して違憲状態を是正するためには、議員定数配分規定の改正という別途の立法手続を要するのである。その意味において、かかる訴訟の判決については、一般の公職選挙法204条の訴訟のそれと別個の考慮を要するものというべきであり、かような見地からして、たとえ当該訴訟において議員定数配分規定が違憲と判断される場合においても、これに基づく選挙を常に無効とすべきものではない。すなわち、違憲の議員定数配分規定によつて選挙人の基本的権利である選挙権が制約されているという不利益など当該選挙の効力を否定しないことによる弊害、右選挙を無効とする判決の結果、議員定数配分規定の改正が当該選挙区から選出された議員が存在しない状態で行われざるを得ないなど一時的にせよ憲法の予定しない事態が現出することによつてもたらされる不都合、その他諸般の事情を総合考察し、いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則を適用して、選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合を回避することもあり得るものと解すべきである(昭和51年大法廷判決参照)。そして、右のような見地に立つて本件についてみると、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差の推移は、前判示のとおりであり、右較差が漸次拡大の傾向をたどつていたことは、それまでの人口の動態等から十分予測可能なところであつて、決して予期し難い特殊事情に基づく結果ではなかつたことは否定できないが、他方、本件議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態が違憲の程度にあることを明示した昭和58年大法廷判決の言渡から本件選挙までの期間や本件選挙当時の選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の程度等本件に現れた諸般の事情を併せ考察すると、本件は、前記の一般的な法の基本原則に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である場合に当たるものというべきである。」
四 結論
以上の次第であるから、上記判示と同様の見解の下に、本件請求を棄却した上で、当該選挙区における本件選挙が違法であることを主文において宣言した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、その余の論点を含め、すべて採用することができない。」
本件選挙当時の右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、選挙区の選挙人数又は人口と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされる衆議院議員の選挙の制度の下で、国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達していたものというべきであり、また、公職選挙法制定後に行われた議員定数配分規定のいずれかの改正の際に、選挙制度の仕組みに変更を加え、その結果、投票価値の不平等が合理性を有するものと考えられるような改正が行われたものとみることができないことは、昭和58年大法廷判決の打示するとおりであつて、他に、前記投票価値の不平等を正当化すべき特別の理由を見出すことはできない。したがつて、本件選挙当時において選挙区間に存した投票価値の不平等状態は、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものというべきである。
2 選挙区間における議員一人当たりの人口又は選挙人数の較差は、昭和50年改正法による改正の結果最大1対2.92に縮小することとなつたものが、昭和55年6月の衆議院議員選挙当時においては最大1対3.94に、更に本件選挙当時においては最大1対4.40に拡大するに至つたことは前記のとおりであるが、このように右較差が拡大したのは漸次的に生じた人口の異動によるものと推認することができる。
そして、昭和50年改正法による改正の結果、従前の議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は、一応解消されたものと評価することができるものというべきであるが(昭和58年大法廷判決参照)、その後、昭和55年6月の衆議院議員選挙当時における前記1対3.94の較差は選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものであり、右選挙時を基準としてある程度以前において右較差の拡大による投票価値の不平等状態が選挙権の平等の要求に反する程度に達していたと認められることは、先に昭和58年大法廷判決の指摘したとおりである。のみならず、右選挙当時から本件選挙当時まで右較差が漸次拡大の一途をたどつていたことは、毎年九月現在の選挙人名簿登録者数などによつて周知のところである。しかるに本件において、投票価値の不平等状態が違憲の程度に達した時から本件選挙までの間に右較差の是正が何ら行われることがなかつたことは、投票価値の不平等状態が違憲の程度に達したかどうかの判定は国会の裁量権の行使として許容される範囲内のものであるかどうかという困難な点にかかるものである等のことを考慮しても、なお憲法上要求される合理的期間内の是正が行われなかつたものと評価せざるを得ない。したがつて、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。
そして、本件議員定数配分規定は、その性質上不可分の一体をなすものと解すべきであり、憲法に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである(昭和51年大法廷判決参照)。
三 本件選挙の効力
以上のように、本件議員定数配分規定は本件選挙当時全体として違憲であるが、これに基づいて行われた選挙の効力については、更に考慮を要する。
およそ公職選挙法204条の訴訟において請求認容の判決がされたときは、当該選挙は無効となり、直ちに法定期間内の再選挙が施行されて違法状態が是正されることになるのであるが、議員定数配分規定の違憲を理由とする同条の規定に基づく訴訟においては、当該選挙を無効とする判決をしても、直ちに再選挙施行の運びとなるわけではなく、憲法に適合する選挙を施行して違憲状態を是正するためには、議員定数配分規定の改正という別途の立法手続を要するのである。その意味において、かかる訴訟の判決については、一般の公職選挙法204条の訴訟のそれと別個の考慮を要するものというべきであり、かような見地からして、たとえ当該訴訟において議員定数配分規定が違憲と判断される場合においても、これに基づく選挙を常に無効とすべきものではない。すなわち、違憲の議員定数配分規定によつて選挙人の基本的権利である選挙権が制約されているという不利益など当該選挙の効力を否定しないことによる弊害、右選挙を無効とする判決の結果、議員定数配分規定の改正が当該選挙区から選出された議員が存在しない状態で行われざるを得ないなど一時的にせよ憲法の予定しない事態が現出することによつてもたらされる不都合、その他諸般の事情を総合考察し、いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則を適用して、選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合を回避することもあり得るものと解すべきである(昭和51年大法廷判決参照)。そして、右のような見地に立つて本件についてみると、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差の推移は、前判示のとおりであり、右較差が漸次拡大の傾向をたどつていたことは、それまでの人口の動態等から十分予測可能なところであつて、決して予期し難い特殊事情に基づく結果ではなかつたことは否定できないが、他方、本件議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態が違憲の程度にあることを明示した昭和58年大法廷判決の言渡から本件選挙までの期間や本件選挙当時の選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の程度等本件に現れた諸般の事情を併せ考察すると、本件は、前記の一般的な法の基本原則に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である場合に当たるものというべきである。」
四 結論
以上の次第であるから、上記判示と同様の見解の下に、本件請求を棄却した上で、当該選挙区における本件選挙が違法であることを主文において宣言した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、その余の論点を含め、すべて採用することができない。」
過去問・解説
(H24 司法 第18問 ア)
選挙権の平等に反する定数配分規定を是正するための合理的期間が経過したにもかかわらず、現行規定のままで選挙が施行された場合、判決確定により直ちに当該選挙を無効とすることが相当でないとみられるときは、選挙を無効とするがその効果は一定期間経過後に初めて発生するという内容の判決をすることも許される。
選挙権の平等に反する定数配分規定を是正するための合理的期間が経過したにもかかわらず、現行規定のままで選挙が施行された場合、判決確定により直ちに当該選挙を無効とすることが相当でないとみられるときは、選挙を無効とするがその効果は一定期間経過後に初めて発生するという内容の判決をすることも許される。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判昭60.7.17)は、「本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。そして、本件議員定数配分規定は、その性質上不可分の一体をなすものと解すべきであり、憲法に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである…。」とする一方で、「いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則を適用して、選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合を回避することもあり得るものと解すべきである…。本件は、前記の一般的な法の基本原則に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である場合に当たるものというべきである。」としている。
判例(最大判昭60.7.17)は、「本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。そして、本件議員定数配分規定は、その性質上不可分の一体をなすものと解すべきであり、憲法に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである…。」とする一方で、「いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法31条1項)の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則を適用して、選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合を回避することもあり得るものと解すべきである…。本件は、前記の一般的な法の基本原則に従い、本件選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示し、主文において右選挙の違法を宣言するにとどめ、右選挙は無効としないとするのが相当である場合に当たるものというべきである。」としている。