現在お使いのブラウザのバージョンでは、本サービスの機能をご利用いただけない可能性があります
バージョンアップを試すか、Google ChromeやMozilla Firefoxなどの最新ブラウザをお試しください
憲法 議員定数不均衡訴訟 最大判平成23年3月23日
概要
本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものではない。
判例
事案:1人別枠方式は、衆議院の小選挙区300区議席のうち、まず47都道府県に1議席ずつを別枠として割り当て、残り253議席を人口に比例して配分する方式である。これは、人口の少ない地方に比例分配より多めに議席を配分することで、過疎地域の国民の意見も十分に国政に反映させることを目的とする制度である。
本事件では、1人別枠方式の採用により投票価値の平等の実現が妨げられていることから、1人別枠方式を実施するための本件区間基準(区画審設置法)及び選挙区割りを定める公職選挙法の合憲性が問題となった。
なお、本件選挙区割りの下で生じていた選挙区間の投票価値の較差は、その当時、最大で2.304倍に達し、較差2倍以上の選挙区の数も45にまで増加していた。
判旨:①「…憲法は、…国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという基本的な要請(43条1項)の下で、…両議院の議員の各選挙制度の仕組みについて国会に広範な裁量を認めている。したがって、国会が選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが、上記のような基本的な要請や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため、上記のような裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。
憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。しかしながら、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであり、国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り、それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、やむを得ないものと解される。そして、憲法は、衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には、選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するについて、議員1人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることを求めているというべきであるが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することを許容しているものといえる。
具体的な選挙制度を定めるに当たっては、これまで、社会生活の上でも、また政治的、社会的な機能の点でも重要な単位と考えられてきた都道府県が、定数配分及び選挙区割りの基礎として考慮されてきた。衆議院議員の選挙制度においては、都道府県を定数配分の第一次的な基盤とし、具体的な選挙区は、これを細分化した市町村、その他の行政区画などが想定され、地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素が考慮されるものと考えられ、国会において、人口の変動する中で、これらの諸要素を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって、このような選挙制度の合憲性は、これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお、国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するか否かによって判断されることになる。
以上は、前掲各大法廷判決の趣旨とするところであって、これを変更する必要は認められない。」
②「…1人別枠方式が採用されており、…相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し、人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とする旨の説明がされている。しかし、この選挙制度によって選出される議員は、いずれの地域の選挙区から選出されたかを問わず、全国民を代表して国政に関与することが要請されているのであり、相対的に人口の少ない地域に対する配慮はそのような活動の中で全国的な視野から法律の制定等に当たって考慮されるべき事柄であって、地域性に係る問題のために、殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い。しかも、…1人別枠方式が前記…に述べたような選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていたことは明らかである。1人別枠方式の意義については、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮という立法時の説明にも一部うかがわれるところであるが、既に述べたような我が国の選挙制度の歴史、とりわけ人口の変動に伴う定数の削減が著しく困難であったという経緯に照らすと、新しい選挙制度を導入するに当たり、直ちに人口比例のみに基づいて各都道府県への定数の配分を行った場合には、人口の少ない県における定数が急激かつ大幅に削減されることになるため、国政における安定性、連続性の確保を図る必要があると考えられたこと、何よりもこの点への配慮なくしては選挙制度の改革の実現自体が困難であったと認められる状況の下で採られた方策であるということにあるものと解される。そうであるとすれば、1人別枠方式は、おのずからその合理性に時間的な限界があるものというべきであり、新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階においては、その合理性は失われるものというほかはない。…略…これらの事情に鑑みると、本件選挙制度は定着し、安定した運用がされるようになっていたと評価することができるのであって、もはや1人別枠方式の上記のような合理性は失われていたものというべきである。加えて、本件選挙区割りの下で生じていた選挙区間の投票価値の較差は、…その当時、最大で2.304倍に達し、較差2倍以上の選挙区の数も増加してきており、1人別枠方式がこのような選挙区間の投票価値の較差を生じさせる主要な要因となっていたのであって、その不合理性が投票価値の較差としても現れてきていたものということができる。そうすると、本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、遅くとも本件選挙時においては、その立法時の合理性が失われたにもかかわらず、投票価値の平等と相容れない作用を及ぼすものとして、それ自体、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものといわなければならない。そして、本件選挙区割りについては、本件選挙時において上記の状態にあった1人別枠方式を含む本件区割基準に基づいて定められたものである以上、これもまた、本件選挙時において、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたものというべきである。
しかしながら、前掲平成19年6月13日大法廷判決において、平成17年の総選挙の時点における1人別枠方式を含む本件区割基準及び本件選挙区割りについて、前記のようにいずれも憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていない旨の判断が示されていたことなどを考慮すると、本件選挙までの間に本件区割基準中の1人別枠方式の廃止及びこれを前提とする本件区割規定の是正がされなかったことをもって、憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったものということはできない。
以上のとおりであって、本件選挙時において、本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており、同基準に従って改定された本件区割規定の定める本件選挙区割りも、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものではあるが、いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。」
③「国民の意思を適正に反映する選挙制度は、民主政治の基盤である。変化の著しい社会の中で、投票価値の平等という憲法上の要請に応えつつ、これを実現していくことは容易なことではなく、そのために立法府には幅広い裁量が認められている。しかし、1人別枠方式は、衆議院議員の選挙制度に関して戦後初めての抜本的改正を行うという経緯の下に、一定の限られた時間の中でその合理性が認められるものであり、その経緯を離れてこれを見るときは、投票価値の平等という憲法の要求するところとは相容れないものといわざるを得ない。衆議院は、その権能、議員の任期及び解散制度の存在等に鑑み、常に的確に国民の意思を反映するものであることが求められており、選挙における投票価値の平等についてもより厳格な要請があるものといわなければならない。したがって、事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に、できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別枠方式を廃止し、区画審設置法3条1項の趣旨に沿って本件区割規定を改正するなど、投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があるところである。」
過去問・解説
(H27 司法 第16問 ア)
衆議院議員選挙における1人別枠方式については、人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させるという目的は合理的であるが、その結果生じる投票価値の較差が過大であるから違憲である。
衆議院議員選挙における1人別枠方式については、人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させるという目的は合理的であるが、その結果生じる投票価値の較差が過大であるから違憲である。
(正答) ✕
(解説)
判例(最大判平23.3.23)は、「1人別枠方式…については…、相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し、人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とする旨の説明がされている。しかし、…殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い。」としており、「人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させるという目的は合理的である」(本肢)とは認めていない。
また、同判例は、「本件選挙時において、本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており、同基準に従って改定された本件区割規定の定める本件選挙区割りも、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものではあるが、いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。」としており、「投票価値の較差が過大であるから違憲である。」(本肢)とは述べていない。
判例(最大判平23.3.23)は、「1人別枠方式…については…、相対的に人口の少ない県に定数を多めに配分し、人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させることができるようにすることを目的とする旨の説明がされている。しかし、…殊更にある地域(都道府県)の選挙人と他の地域(都道府県)の選挙人との間に投票価値の不平等を生じさせるだけの合理性があるとはいい難い。」としており、「人口の少ない県に居住する国民の意思をも十分に国政に反映させるという目的は合理的である」(本肢)とは認めていない。
また、同判例は、「本件選挙時において、本件区割基準規定の定める本件区割基準のうち1人別枠方式に係る部分は、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており、同基準に従って改定された本件区割規定の定める本件選挙区割りも、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものではあるが、いずれも憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、本件区割基準規定及び本件区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできない。」としており、「投票価値の較差が過大であるから違憲である。」(本肢)とは述べていない。
(H30 共通 第13問 イ)
判例は、衆議院議員選挙におけるいわゆる1人別枠方式について、小選挙区比例代表並立制の導入に当たり、直ちに人口比例のみに基づいて定数配分を行った場合の影響に配慮するための方策であり、新選挙制度が定着し運用が安定すればその合理性は失われるとしている。
判例は、衆議院議員選挙におけるいわゆる1人別枠方式について、小選挙区比例代表並立制の導入に当たり、直ちに人口比例のみに基づいて定数配分を行った場合の影響に配慮するための方策であり、新選挙制度が定着し運用が安定すればその合理性は失われるとしている。
(正答) 〇
(解説)
判例(最大判平23.3.23)は、「1人別枠方式の意義については、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮という立法時の説明にも一部うかがわれるところであるが、既に述べたような我が国の選挙制度の歴史、とりわけ人口の変動に伴う定数の削減が著しく困難であったという経緯に照らすと、新しい選挙制度を導入するに当たり、直ちに人口比例のみに基づいて各都道府県への定数の配分を行った場合には、人口の少ない県における定数が急激かつ大幅に削減されることになるため、国政における安定性、連続性の確保を図る必要があると考えられたこと、何よりもこの点への配慮なくしては選挙制度の改革の実現自体が困難であったと認められる状況の下で採られた方策であるということにあるものと解される。そうであるとすれば、1人別枠方式は、おのずからその合理性に時間的な限界があるものというべきであり、新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階においては、その合理性は失われるものというほかはない。」としている。
判例(最大判平23.3.23)は、「1人別枠方式の意義については、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮という立法時の説明にも一部うかがわれるところであるが、既に述べたような我が国の選挙制度の歴史、とりわけ人口の変動に伴う定数の削減が著しく困難であったという経緯に照らすと、新しい選挙制度を導入するに当たり、直ちに人口比例のみに基づいて各都道府県への定数の配分を行った場合には、人口の少ない県における定数が急激かつ大幅に削減されることになるため、国政における安定性、連続性の確保を図る必要があると考えられたこと、何よりもこの点への配慮なくしては選挙制度の改革の実現自体が困難であったと認められる状況の下で採られた方策であるということにあるものと解される。そうであるとすれば、1人別枠方式は、おのずからその合理性に時間的な限界があるものというべきであり、新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階においては、その合理性は失われるものというほかはない。」としている。