現在お使いのブラウザのバージョンでは、本サービスの機能をご利用いただけない可能性があります
バージョンアップを試すか、Google ChromeやMozilla Firefoxなどの最新ブラウザをお試しください
憲法 議員定数不均衡訴訟 最大判平成8年9月11日
概要
平成4年7月26日施行の参議院議員選挙の当時において議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対6.59の較差を生じさせていた参議院議員定数配分規定は、憲法に違反するに至っていたとはいえない。
判例
事案:平成4年7月26日施行の参議院議員選挙の当時、議員1人当たりの選挙人数に選挙区間で最大1対6.59の較差が生じていた。
判旨:「一 議会制民主主義を採る日本国憲法の下においては、国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であって、憲法は、その重要性にかんがみ、これを国民固有の権利であると規定した(15条1項)上、14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として、成年者による普通選挙を保障するとともに、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって選挙人の資格を差別してはならないものと定めている(15条3項、44条ただし書)。この選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。
しかしながら、もともと右にいう投票価値は、議会制民主主義の下において国民各自、各層の様々な利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させるための方法としての具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによって何らかの差異を生ずることを免れない性質のものである。そして、憲法は、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量にゆだねているのである。したがって、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をしんしゃくして、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであって、投票価値の平等は、原則として、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって右の投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを得ないものと解すべきである。
二 憲法は、国会を衆議院と参議院の両議院で構成するものとし(42条)、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているが、その趣旨は、衆議院と参議院とがそれぞれ特色のある機能を発揮することによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにある。右の二院制採用の趣旨を受け、参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は、参議院議員の選挙について、衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする選挙制度の仕組みを設け、参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分した。右のうち、全国選出議員については、全都道府県の区域を通じて選出されるものとしており、その結果、各選挙人の投票価値には何ら差異がない。一方、地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとしている。そして、各選挙区ごとの議員定数については、憲法が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるように配慮し、定数は偶数としその最小限を二人とする方針の下に、昭和21年当時の総人口を定数150で除して得られる数値で各選挙区の人口を除し、その結果得られた数値を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する形で2人ないし8人の偶数の議員数を配分したものであることが制定経過に徴して明らかである。昭和25年に制定された公職選挙法の14条及び別表第2の議員定数配分規定は右の参議院議員選挙法の別表の定めをそのまま引き継いだものであり、その後、沖縄返還に伴って昭和46年法律第130号により沖縄県選挙区の議員定数2人が付加された外は、平成4年7月26日施行の本件参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。)当時まで右定数配分規定に変更はなかった。なお、昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により、参議院議員選挙について拘束名簿式比例代表制が導入され、各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることとなったが、議員定数及び議員定数配分規定には何ら変更はなく、比例代表選出議員は、全都道府県を通じて選出されるものであり、各選挙人の投票価値に差異がない点においては、従来の全国選出議員と同様であり、選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたにすぎないものということができる。
右のような参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院制を採用した前記の趣旨から、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあっても、参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。したがって、公職選挙法が定めた参議院議員の選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであると断ずることはできない。憲法43条1項は、両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織すると定めるが、右規定にいう議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず、特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであって、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであることを意味し、右規定が両議院の議員の選挙制度の仕組みについて何らかの意味を有するとしても、全国をいくつかの選挙区に分けて選挙を行う場合には、常に各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまでを要求するものとは解されないし、前記のような形で参議院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるということもできない。
このように公職選挙法が採用した参議院(選挙区選出)議員についての選挙制度の仕組みが国会にゆだねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものである以上、その結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても、先に説示したとおり、これをもって直ちに右の議員定数の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準とする選挙制度の場合と比較して、一定の譲歩を免れないと解さざるを得ない。また、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の異動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであって、その決定は、種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量にゆだねられているところである。したがって、議員定数配分規定の制定又は改正の後、人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差が拡大するなどして、当初における議員定数の配分の基準及び方法と現実の配分の状況との間にそごを来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正する何らの措置も講じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は、昭和58年大法廷判決の趣旨とするところでもある。
三 右の見地に立って、以下、本件選挙当時の公職選挙法の14条及び別表第2の参議院(選挙区選出)議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)の合憲性について検討する。
1 昭和58年大法廷判決は、昭和52年7月10日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差1対五5.26(以下、較差に関する数値は、すべて概数である。)について、いまだ許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示し、さらに、最高裁昭和57年(行ツ)第171号同61年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事147号431頁は、昭和55年6月22日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5・37について、最高裁昭和62年(行ツ)第14号同62年9月24日第一小法廷判決・裁判集民事151号711頁は、昭和58年6月26日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5.56について、最高裁昭和62年(行ツ)第127号同63年10月21日第二小法廷判決・裁判集民事155号65頁は、昭和61年7月6日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5・85について、いずれも、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示している。しかし、その後も選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差は更に拡大の一途をたどり、原審の適法に確定したところによれば、平成4年7月26日施行の本件選挙当時においては、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が最大1対6・59にまで達していたというのである。
前記のとおり、各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまでは要求されていないにせよ、投票価値の平等の要求は、憲法14条1項に由来するものであり、国会が選挙制度の仕組みを定めるに当たって重要な考慮要素となることは否定し難いのであって、国会の立法裁量権にもおのずから一定の限界があることはいうまでもないところ、本件選挙当時の右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、極めて大きなものといわざるを得ない。また、公職選挙法が採用した前記のような選挙制度の仕組みに従い、参議院(選挙区選出)議員の全体の定数を増減しないまま選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の是正を図ることには技術的な限界があることは明らかであるが、本件選挙後に行われた平成6年法律第47号による公職選挙法の改正により、総定数を増減しないまま七選挙区で改選議員定数を四増四減する方法を採って、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の最大較差が1対4.99に是正されたことは、当裁判所に顕著である。
そうすると、本件選挙当時の前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、前記のような参議院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組み、是正の技術的限界、参議院議員のうち比例代表選出議員の選挙については各選挙人の投票価値に何らの差異もないこと等を考慮しても、右仕組みの下においてもなお投票価値の平等の有すべき重要性に照らして、もはや到底看過することができないと認められる程度に達していたものというほかはなく、これを正当化すべき特別の理由も見出せない以上、本件選挙当時、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたものと評価せざるを得ない。
2 そこで、次に、本件選挙当時、右の不平等状態が相当期間継続し、これを是正する何らの措置も講じないことが、前記のような国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えていたと断定すべきかどうかについて検討する。
昭和61年7月6日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差が1対5.85であったことは前記のとおりであるが、その後の較差の拡大による投票価値の不平等状態は、右較差の程度、推移からみて、右選挙後でその6年後の本件選挙より前の時期において到底看過することができないと認められる程度に至っていたものと推認することができる。
ところで、憲法が、二院制を採った上、参議院については、その議員の任期を6年としていわゆる半数改選制を採用し、その解散を認めないものとしている趣告にかんがみると、参議院(選挙区選出)議員については、議員定数の配分をより長期にわたって固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として合理性を有するものと解されるところであり、公職選挙法が、衆議院議員については、選挙区割及び各選挙区ごとの議員定数を定めた別表の末尾に、5年ごとに直近に行われた国勢調査の結果によって更正するのを例とする旨の定めを置いていたのに対し、参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定にはこうした定めを置いていないことも、右のような立法政策の表れとみることができる。そして、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達したかどうかの判定は、右の立法政策をふまえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限の限界にかかわる困難なものであり、かつ、右の程度に達したと解される場合においても、どのような形で改正するかについて、なお種々の政策的又は技術的な考慮要素を背景とした議論を経ることが必要となるものと考えられる。また、昭和63年10月には、前記1対5・85の較差について、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りないという前掲第二小法廷の判断が示されており、その前後を通じ、本件選挙当時まで当裁判所が参議院議員の定数配分規定につき投票価値の不平等が違憲状態にあるとの判断を示したことはなかった。
以上の事情を総合して考察すると、本件において、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程度に達した時から本件選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって、その立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難である。
3 上述したところからすると、本件選挙当時、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差等からして、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ないが、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものと断ずることはできないものというべきである。」
判旨:「一 議会制民主主義を採る日本国憲法の下においては、国権の最高機関である国会を構成する衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であって、憲法は、その重要性にかんがみ、これを国民固有の権利であると規定した(15条1項)上、14条1項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として、成年者による普通選挙を保障するとともに、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって選挙人の資格を差別してはならないものと定めている(15条3項、44条ただし書)。この選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解するのが相当である。
しかしながら、もともと右にいう投票価値は、議会制民主主義の下において国民各自、各層の様々な利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させるための方法としての具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによって何らかの差異を生ずることを免れない性質のものである。そして、憲法は、国会の両議院の議員の選挙について、およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条、47条)、どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定を国会の広い裁量にゆだねているのである。したがって、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をしんしゃくして、その裁量により、衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであって、投票価値の平等は、原則として、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。それゆえ、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものである限り、それによって右の投票価値の平等が損なわれることになっても、やむを得ないものと解すべきである。
二 憲法は、国会を衆議院と参議院の両議院で構成するものとし(42条)、各議院の権限及び議員の任期等に差異を設けているが、その趣旨は、衆議院と参議院とがそれぞれ特色のある機能を発揮することによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにある。右の二院制採用の趣旨を受け、参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は、参議院議員の選挙について、衆議院議員のそれとは著しく趣を異にする選挙制度の仕組みを設け、参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分した。右のうち、全国選出議員については、全都道府県の区域を通じて選出されるものとしており、その結果、各選挙人の投票価値には何ら差異がない。一方、地方選出議員については、その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め、都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとしている。そして、各選挙区ごとの議員定数については、憲法が参議院議員は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるように配慮し、定数は偶数としその最小限を二人とする方針の下に、昭和21年当時の総人口を定数150で除して得られる数値で各選挙区の人口を除し、その結果得られた数値を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する形で2人ないし8人の偶数の議員数を配分したものであることが制定経過に徴して明らかである。昭和25年に制定された公職選挙法の14条及び別表第2の議員定数配分規定は右の参議院議員選挙法の別表の定めをそのまま引き継いだものであり、その後、沖縄返還に伴って昭和46年法律第130号により沖縄県選挙区の議員定数2人が付加された外は、平成4年7月26日施行の本件参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。)当時まで右定数配分規定に変更はなかった。なお、昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により、参議院議員選挙について拘束名簿式比例代表制が導入され、各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることとなったが、議員定数及び議員定数配分規定には何ら変更はなく、比例代表選出議員は、全都道府県を通じて選出されるものであり、各選挙人の投票価値に差異がない点においては、従来の全国選出議員と同様であり、選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたにすぎないものということができる。
右のような参議院議員の選挙制度の仕組みは、憲法が二院制を採用した前記の趣旨から、ひとしく全国民を代表する議員であるという枠の中にあっても、参議院議員の選出方法を衆議院議員のそれとは異ならせることによってその代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、参議院議員を全国選出議員ないし比例代表選出議員と地方選出議員ないし選挙区選出議員とに分け、後者については、都道府県が歴史的にも政治的、経済的、社会的にも独自の意義と実体を有し政治的に一つのまとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、これを構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものであると解することができる。したがって、公職選挙法が定めた参議院議員の選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであると断ずることはできない。憲法43条1項は、両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織すると定めるが、右規定にいう議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず、特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであって、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであることを意味し、右規定が両議院の議員の選挙制度の仕組みについて何らかの意味を有するとしても、全国をいくつかの選挙区に分けて選挙を行う場合には、常に各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまでを要求するものとは解されないし、前記のような形で参議院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといって、これによって選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるということもできない。
このように公職選挙法が採用した参議院(選挙区選出)議員についての選挙制度の仕組みが国会にゆだねられた裁量権の合理的行使として是認し得るものである以上、その結果として各選挙区に配分された議員定数とそれぞれの選挙区の選挙人数又は人口との比率に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票価値の平等がそれだけ損なわれることとなったとしても、先に説示したとおり、これをもって直ちに右の議員定数の定めが憲法14条1項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を最も重要かつ基本的な基準とする選挙制度の場合と比較して、一定の譲歩を免れないと解さざるを得ない。また、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の異動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであって、その決定は、種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量にゆだねられているところである。したがって、議員定数配分規定の制定又は改正の後、人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差が拡大するなどして、当初における議員定数の配分の基準及び方法と現実の配分の状況との間にそごを来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正する何らの措置も講じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。
以上は、昭和58年大法廷判決の趣旨とするところでもある。
三 右の見地に立って、以下、本件選挙当時の公職選挙法の14条及び別表第2の参議院(選挙区選出)議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)の合憲性について検討する。
1 昭和58年大法廷判決は、昭和52年7月10日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差1対五5.26(以下、較差に関する数値は、すべて概数である。)について、いまだ許容限度を超えて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示し、さらに、最高裁昭和57年(行ツ)第171号同61年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事147号431頁は、昭和55年6月22日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5・37について、最高裁昭和62年(行ツ)第14号同62年9月24日第一小法廷判決・裁判集民事151号711頁は、昭和58年6月26日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5.56について、最高裁昭和62年(行ツ)第127号同63年10月21日第二小法廷判決・裁判集民事155号65頁は、昭和61年7月6日施行の参議院議員選挙当時の最大較差1対5・85について、いずれも、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示している。しかし、その後も選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差は更に拡大の一途をたどり、原審の適法に確定したところによれば、平成4年7月26日施行の本件選挙当時においては、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が最大1対6・59にまで達していたというのである。
前記のとおり、各選挙区への議員定数の配分につき厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことまでは要求されていないにせよ、投票価値の平等の要求は、憲法14条1項に由来するものであり、国会が選挙制度の仕組みを定めるに当たって重要な考慮要素となることは否定し難いのであって、国会の立法裁量権にもおのずから一定の限界があることはいうまでもないところ、本件選挙当時の右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、極めて大きなものといわざるを得ない。また、公職選挙法が採用した前記のような選挙制度の仕組みに従い、参議院(選挙区選出)議員の全体の定数を増減しないまま選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差の是正を図ることには技術的な限界があることは明らかであるが、本件選挙後に行われた平成6年法律第47号による公職選挙法の改正により、総定数を増減しないまま七選挙区で改選議員定数を四増四減する方法を採って、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の最大較差が1対4.99に是正されたことは、当裁判所に顕著である。
そうすると、本件選挙当時の前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、前記のような参議院(選挙区選出)議員の選挙制度の仕組み、是正の技術的限界、参議院議員のうち比例代表選出議員の選挙については各選挙人の投票価値に何らの差異もないこと等を考慮しても、右仕組みの下においてもなお投票価値の平等の有すべき重要性に照らして、もはや到底看過することができないと認められる程度に達していたものというほかはなく、これを正当化すべき特別の理由も見出せない以上、本件選挙当時、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたものと評価せざるを得ない。
2 そこで、次に、本件選挙当時、右の不平等状態が相当期間継続し、これを是正する何らの措置も講じないことが、前記のような国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えていたと断定すべきかどうかについて検討する。
昭和61年7月6日施行の参議院議員選挙当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の最大較差が1対5.85であったことは前記のとおりであるが、その後の較差の拡大による投票価値の不平等状態は、右較差の程度、推移からみて、右選挙後でその6年後の本件選挙より前の時期において到底看過することができないと認められる程度に至っていたものと推認することができる。
ところで、憲法が、二院制を採った上、参議院については、その議員の任期を6年としていわゆる半数改選制を採用し、その解散を認めないものとしている趣告にかんがみると、参議院(選挙区選出)議員については、議員定数の配分をより長期にわたって固定し、国民の利害や意見を安定的に国会に反映させる機能をそれに持たせることとすることも、立法政策として合理性を有するものと解されるところであり、公職選挙法が、衆議院議員については、選挙区割及び各選挙区ごとの議員定数を定めた別表の末尾に、5年ごとに直近に行われた国勢調査の結果によって更正するのを例とする旨の定めを置いていたのに対し、参議院(選挙区選出)議員の定数配分規定にはこうした定めを置いていないことも、右のような立法政策の表れとみることができる。そして、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達したかどうかの判定は、右の立法政策をふまえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限の限界にかかわる困難なものであり、かつ、右の程度に達したと解される場合においても、どのような形で改正するかについて、なお種々の政策的又は技術的な考慮要素を背景とした議論を経ることが必要となるものと考えられる。また、昭和63年10月には、前記1対5・85の較差について、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りないという前掲第二小法廷の判断が示されており、その前後を通じ、本件選挙当時まで当裁判所が参議院議員の定数配分規定につき投票価値の不平等が違憲状態にあるとの判断を示したことはなかった。
以上の事情を総合して考察すると、本件において、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程度に達した時から本件選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって、その立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難である。
3 上述したところからすると、本件選挙当時、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差等からして、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ないが、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものと断ずることはできないものというべきである。」
過去問・解説
(H22 司法 第14問 ②)
議員定数不均衡訴訟事件判決(最大判平成8年9月11日)は、違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態が生じているとしたが、是正のための合理的期間は徒過していないとして、合憲とした。
議員定数不均衡訴訟事件判決(最大判平成8年9月11日)は、違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態が生じているとしたが、是正のための合理的期間は徒過していないとして、合憲とした。
(正答) 〇
(解説)
議員定数不均衡訴訟判決(最大判平8.9.11)は、「本件選挙当時、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差等からして、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ない。」とする一方で、「選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程度に達した時から本性選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって、その立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難である。」として、是正のための合理的期間は徒過していないことを理由に合憲と判断している。
議員定数不均衡訴訟判決(最大判平8.9.11)は、「本件選挙当時、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差等からして、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ない。」とする一方で、「選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程度に達した時から本性選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって、その立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難である。」として、是正のための合理的期間は徒過していないことを理由に合憲と判断している。