現在お使いのブラウザのバージョンでは、本サービスの機能をご利用いただけない可能性があります
バージョンアップを試すか、Google ChromeやMozilla Firefoxなどの最新ブラウザをお試しください
憲法 朝日訴訟 最大判昭和42年5月24日
概要
①憲法25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではなく、具体的権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によつて、はじめて与えられているというべきである。
②何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあっても、直ちに違法の問題を生ずることはない。ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法及び生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることを免れない。
判例
事案:厚生大臣が生活保護法による授権(委任)に基づき設定した生活保護基準(生活扶助額の最高額月600円)の憲法25条適合性が問題となった。
判旨:「憲法25条1項は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定している。この規定は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない(昭和23年(れ)第205号、同年9月29日大法廷判決、刑集2巻10号1235頁参照)。具体的権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によつて、はじめて与えられているというべきである。生活保護法は、「この法律の定める要件」を満たす者は、「この法律による保護」を受けることができると規定し(2条参照)、その保護は、厚生大臣の設定する基準に基づいて行なうものとしているから(8条1項参照)、右の権利は、厚生大臣が最低限度の生活水準を維持するにたりると認めて設定した保護基準による保護を受け得ることにあると解すべきである。
もとより、厚生大臣の定める保護基準は、法8条2項所定の事項を遵守したものであることを要し、結局には憲法の定める健康で文化的な最低限度の生活を維持するにたりるものでなければならない。しかし、健康で文化的な最低限度の生活なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのはもとより、多数の不確定的要素を綜合考量してはじめて決定できるものである。したがつて、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあつても、直ちに違法の問題を生ずることはない。ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない。
生活保護法によつて保障される最低限度の生活とは、健康で文化的な生活水準を維持することができるものであることを必要とし(3条参照)、保護の内容も、要保護者個人またはその世帯の実際の必要を考慮して、有効かつ適切に決定されなければならないが(9条参照)、同時に、それは最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、かつ、これをこえてはならないこととなつている(8条2項参照)。本件のような入院入所中の保護患者については、生活保護法による保護の程度に関して、長期療養という特殊の生活事情や医療目的からくる一定の制約があることに留意しなければならない。この場合に、日用品費の額の多少が病気治療の効果と無関係でなく、その額の不足は、病人に対し看過し難い影響を及ぼすことのあるのは、否定し得ないところである。しかし、患者の最低限度の需要を満たす手段として、法は、その需要に即応するとともに、保護実施の適正を期する目的から、保護の種類および範囲を定めて、これを単給または併給することとし、入院入所中の保護患者については、生活扶助のほかに給食を含む医療扶助の制度を設けているが、両制度の間にはおのずから性質上および運用上の区別があり、また、これらとは別に生業扶助の制度が存するのであるから、単に、治療効果を促進しあるいは現行医療制度や看護制度の欠陥を補うために必要であるとか、退院退所後の生活を容易にするために必要であるとかいうようなことから、それに要する費用をもつて日用品費と断定し、生活扶助基準にかような費用が計上されていないという理由で、同基準の違法を攻撃することは、許されないものといわなければならない。
さらに、本件生活扶助基準という患者の日用品に対する一般抽象的な需要測定の尺度が具体的に妥当なものであるかどうかを検討するにあたつては、日用品の消費量が各人の節約の程度、当該日用品の品質等によつて異なるのはもとより、重症患者と中・軽症患者とではその必要とする費目が異なり、特定の患者にとつてはある程度相互流用の可能性が考えられるので、単に本件基準の各費目、数量、単価を個別的に考察するだけではなく、その全体を統一的に把握すべきである。また、入院入所中の患者の日用品であつても、経常的に必要とするものと臨時例外的に必要とするものとの区別があり、臨時例外的なものを一般基準に組み入れるか、特別基準ないしは一時支給、貸与の制度に譲るかは、厚生大臣の裁量で定め得るところである。
以上のことを念頭に入れて検討すれば、原判決の確定した事実関係の下においては、本件生活扶助基準が入院入所患者の最低限度の日用品費を支弁するにたりるとした厚生大臣の認定判断は、与えられた裁量権の限界をこえまたは裁量権を濫用した違法があるものとはとうてい断定することができない。」
生活保護法によつて保障される最低限度の生活とは、健康で文化的な生活水準を維持することができるものであることを必要とし(3条参照)、保護の内容も、要保護者個人またはその世帯の実際の必要を考慮して、有効かつ適切に決定されなければならないが(9条参照)、同時に、それは最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、かつ、これをこえてはならないこととなつている(8条2項参照)。本件のような入院入所中の保護患者については、生活保護法による保護の程度に関して、長期療養という特殊の生活事情や医療目的からくる一定の制約があることに留意しなければならない。この場合に、日用品費の額の多少が病気治療の効果と無関係でなく、その額の不足は、病人に対し看過し難い影響を及ぼすことのあるのは、否定し得ないところである。しかし、患者の最低限度の需要を満たす手段として、法は、その需要に即応するとともに、保護実施の適正を期する目的から、保護の種類および範囲を定めて、これを単給または併給することとし、入院入所中の保護患者については、生活扶助のほかに給食を含む医療扶助の制度を設けているが、両制度の間にはおのずから性質上および運用上の区別があり、また、これらとは別に生業扶助の制度が存するのであるから、単に、治療効果を促進しあるいは現行医療制度や看護制度の欠陥を補うために必要であるとか、退院退所後の生活を容易にするために必要であるとかいうようなことから、それに要する費用をもつて日用品費と断定し、生活扶助基準にかような費用が計上されていないという理由で、同基準の違法を攻撃することは、許されないものといわなければならない。
さらに、本件生活扶助基準という患者の日用品に対する一般抽象的な需要測定の尺度が具体的に妥当なものであるかどうかを検討するにあたつては、日用品の消費量が各人の節約の程度、当該日用品の品質等によつて異なるのはもとより、重症患者と中・軽症患者とではその必要とする費目が異なり、特定の患者にとつてはある程度相互流用の可能性が考えられるので、単に本件基準の各費目、数量、単価を個別的に考察するだけではなく、その全体を統一的に把握すべきである。また、入院入所中の患者の日用品であつても、経常的に必要とするものと臨時例外的に必要とするものとの区別があり、臨時例外的なものを一般基準に組み入れるか、特別基準ないしは一時支給、貸与の制度に譲るかは、厚生大臣の裁量で定め得るところである。
以上のことを念頭に入れて検討すれば、原判決の確定した事実関係の下においては、本件生活扶助基準が入院入所患者の最低限度の日用品費を支弁するにたりるとした厚生大臣の認定判断は、与えられた裁量権の限界をこえまたは裁量権を濫用した違法があるものとはとうてい断定することができない。」
過去問・解説
(H19 司法 第10問 イ)
憲法上の人権規定の趣旨を具体化する立法が不備な場合に、国民が直接憲法に基づいて具体的な請求をなし得るかどうかは、人権規定により異なる。法律に補償に関する規定が欠けていても直接憲法第29条第3項を根拠にして損失補償請求権が認められることがあるのに対して、生存権の場合は、憲法第25条は個々の国民に対し具体的権利を付与していないから、直接同条に基づき具体的な給付請求をすることはできない。
憲法上の人権規定の趣旨を具体化する立法が不備な場合に、国民が直接憲法に基づいて具体的な請求をなし得るかどうかは、人権規定により異なる。法律に補償に関する規定が欠けていても直接憲法第29条第3項を根拠にして損失補償請求権が認められることがあるのに対して、生存権の場合は、憲法第25条は個々の国民に対し具体的権利を付与していないから、直接同条に基づき具体的な給付請求をすることはできない。
(正答) 〇
(解説)
河川附近地制限令事件判決(最大判昭43.11.27)は、「同令4条2号による制限について同条に損失補償に関する規定がないからといつて、同条があらゆる場合について一切の損失補償を全く否定する趣旨とまでは解されず、本件被告人も、その損失を具体的に主張立証して、別途、直接憲法29条3項を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではない。」としている。
他方で、朝日訴訟判決(最大判昭42.5.24)は、「憲法25条1項は、…すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない」としている。
河川附近地制限令事件判決(最大判昭43.11.27)は、「同令4条2号による制限について同条に損失補償に関する規定がないからといつて、同条があらゆる場合について一切の損失補償を全く否定する趣旨とまでは解されず、本件被告人も、その損失を具体的に主張立証して、別途、直接憲法29条3項を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではない。」としている。
他方で、朝日訴訟判決(最大判昭42.5.24)は、「憲法25条1項は、…すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない」としている。
(H27 共通 第7問 ウ)
いわゆる朝日訴訟においては、生活保護法に基づく生活扶助を廃止するとともに医療扶助を変更する旨の保護変更決定について、これを認容した厚生大臣の裁決自体の裁量権の逸脱・濫用が争われたのではなく、生活保護法自体が憲法25条1項に違反するとして争われた。
いわゆる朝日訴訟においては、生活保護法に基づく生活扶助を廃止するとともに医療扶助を変更する旨の保護変更決定について、これを認容した厚生大臣の裁決自体の裁量権の逸脱・濫用が争われたのではなく、生活保護法自体が憲法25条1項に違反するとして争われた。
(正答) ✕
(解説)
朝日訴訟判決(最大判昭42.5.24)は、生活保護法自体の憲法25条1項違反ではなく、「本件生活扶助基準が入院入所患者の最低限度の日用品費を支弁するにたりるとした厚生大臣の認定判断」の裁量権の逸脱・濫用が争われた事案に関するものである。
朝日訴訟判決(最大判昭42.5.24)は、生活保護法自体の憲法25条1項違反ではなく、「本件生活扶助基準が入院入所患者の最低限度の日用品費を支弁するにたりるとした厚生大臣の認定判断」の裁量権の逸脱・濫用が争われた事案に関するものである。
(R5 司法 第7問 イ)
朝日訴訟判決(最大判昭和42年5月24日)は、憲法25条1項は、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではないが、厚生大臣が、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法及び生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合、違法な行為として司法審査の対象となるとした。
朝日訴訟判決(最大判昭和42年5月24日)は、憲法25条1項は、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではないが、厚生大臣が、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法及び生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合、違法な行為として司法審査の対象となるとした。
(正答) 〇
(解説)
朝日訴訟判決(最大判昭42.5.24)は、「健康で文化的な最低限度の生活なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのはもとより、多数の不確定的要素を綜合考量してはじめて決定できるものである。したがつて、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあつても、直ちに違法の問題を生ずることはない。」とする一方で、「ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない。」としている。
朝日訴訟判決(最大判昭42.5.24)は、「健康で文化的な最低限度の生活なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのはもとより、多数の不確定的要素を綜合考量してはじめて決定できるものである。したがつて、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあつても、直ちに違法の問題を生ずることはない。」とする一方で、「ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない。」としている。