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憲法 生活ほっとモーニング事件 最一小判平成16年11月25日
概要
放送事業者がした真実でない事項の放送により権利の侵害を受けた本人等は、放送事業者に対し、放送法4条1項の規定に基づく訂正又は取消しの放送を求める私法上の権利を有しない。
判例
事案:放送事業者がした真実でない事項の放送により権利の侵害を受けた被害者が、放送事業者に対し、放送法4条1項の規定に基づく訂正放送等を求める私法上の権利を有するか否かが問題となった。
判旨:「放送法…4条は、放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人(以下「被害者」と総称する。)から、放送のあった日から3か月以内に請求があったときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が真実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から1日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消しの放送(以下「訂正放送等」と総称する。)をしなければならないとし(1項)、放送事業者がその放送について真実でない事項を発見したときも、上記と同様の訂正放送等をしなければならないと定めている(1項)。そして、法56条1項は、法4条1項の規定に違反した場合の罰則を定めている。
このように、法4条1項は、真実でない事項の放送について被害者から請求があった場合に、放送事業者に対して訂正放送等を義務付けるものであるが、この請求や義務の性質については、法の全体的な枠組みと趣旨を踏まえて解釈する必要がある。憲法21条が規定する表現の自由の保障の下において、法1条は、「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること」(1号)、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」(2号)、「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」(3号)という三つの原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを法の目的とすると規定しており、法2条以下の規定は、この三つの原則を具体化したものということができる。法3条は、上記の表現の自由及び放送の自律性の保障の理念を具体化し、「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」として、放送番組編集の自由を規定している。すなわち、別に法律で定める権限に基づく場合でなければ、他からの放送番組編集への関与は許されないのである。法4条1項も、これらの規定を受けたものであって、上記の放送の自律性の保障の理念を踏まえた上で、上記の真実性の保障の理念を具体化するための規定であると解される。そして、このことに加え、法4条1項自体をみても、放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けているだけであって、訂正放送等に関する裁判所の関与を規定していないこと、同項所定の義務違反について罰則が定められていること等を併せ考えると、同項は、真実でない事項の放送がされた場合において、放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から、放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。前記のとおり、法4条1項は被害者からの訂正放送等の請求について規定しているが、同条1項の規定内容を併せ考えると、これは、同請求を、放送事業者が当該放送の真実性に関する調査及び訂正放送等を行うための端緒と位置付けているものと解するのが相当であって、これをもって、上記の私法上の請求権の根拠と解することはできない。
したがって、被害者は、放送事業者に対し、法4条1項の規定に基づく訂正放送等を求める私法上の権利を有しないというべきである。」
判旨:「放送法…4条は、放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人(以下「被害者」と総称する。)から、放送のあった日から3か月以内に請求があったときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が真実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から1日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消しの放送(以下「訂正放送等」と総称する。)をしなければならないとし(1項)、放送事業者がその放送について真実でない事項を発見したときも、上記と同様の訂正放送等をしなければならないと定めている(1項)。そして、法56条1項は、法4条1項の規定に違反した場合の罰則を定めている。
このように、法4条1項は、真実でない事項の放送について被害者から請求があった場合に、放送事業者に対して訂正放送等を義務付けるものであるが、この請求や義務の性質については、法の全体的な枠組みと趣旨を踏まえて解釈する必要がある。憲法21条が規定する表現の自由の保障の下において、法1条は、「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること」(1号)、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」(2号)、「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」(3号)という三つの原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを法の目的とすると規定しており、法2条以下の規定は、この三つの原則を具体化したものということができる。法3条は、上記の表現の自由及び放送の自律性の保障の理念を具体化し、「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」として、放送番組編集の自由を規定している。すなわち、別に法律で定める権限に基づく場合でなければ、他からの放送番組編集への関与は許されないのである。法4条1項も、これらの規定を受けたものであって、上記の放送の自律性の保障の理念を踏まえた上で、上記の真実性の保障の理念を具体化するための規定であると解される。そして、このことに加え、法4条1項自体をみても、放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けているだけであって、訂正放送等に関する裁判所の関与を規定していないこと、同項所定の義務違反について罰則が定められていること等を併せ考えると、同項は、真実でない事項の放送がされた場合において、放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から、放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。前記のとおり、法4条1項は被害者からの訂正放送等の請求について規定しているが、同条1項の規定内容を併せ考えると、これは、同請求を、放送事業者が当該放送の真実性に関する調査及び訂正放送等を行うための端緒と位置付けているものと解するのが相当であって、これをもって、上記の私法上の請求権の根拠と解することはできない。
したがって、被害者は、放送事業者に対し、法4条1項の規定に基づく訂正放送等を求める私法上の権利を有しないというべきである。」
過去問・解説
(H26 司法 第7問 イ)
放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であって、公的な性格を有するものであり、放送による権利侵害や放送された事項が真実でないことが判明した場合に訂正放送が義務付けられているが、これは視聴者に対し反論権を認めるものではない。
放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であって、公的な性格を有するものであり、放送による権利侵害や放送された事項が真実でないことが判明した場合に訂正放送が義務付けられているが、これは視聴者に対し反論権を認めるものではない。
(正答) 〇
(解説)
生活ほっとモーニング事件判決(最判平16.11.25)は、「法4条1項自体をみても、放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けているだけであって、…被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。」としている。
また、サンケイ新聞事件判決(最判昭62.4.24)は、傍論においてであるが、「放送法4条は訂正放送の制度を設けているが、放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であつて、公的な性格を有するものであり…その訂正放送は、放送により権利の侵害があつたこと及び放送された事項が真実でないことが判明した場合に限られるのであり、また、放送事業者が同等の放送設備により相当の方法で訂正又は取消の放送をすべきものとしているにすぎないなど、その要件、内容等において、いわゆる反論権の制度ないし…反論文掲載請求権とは著しく異なるものであつて、同法4条の規定も、 所論のような反論文掲載請求権が認められる根拠とすることはできない。」としている。
生活ほっとモーニング事件判決(最判平16.11.25)は、「法4条1項自体をみても、放送をした事項が真実でないことが放送事業者に判明したときに訂正放送等を行うことを義務付けているだけであって、…被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。」としている。
また、サンケイ新聞事件判決(最判昭62.4.24)は、傍論においてであるが、「放送法4条は訂正放送の制度を設けているが、放送事業者は、限られた電波の使用の免許を受けた者であつて、公的な性格を有するものであり…その訂正放送は、放送により権利の侵害があつたこと及び放送された事項が真実でないことが判明した場合に限られるのであり、また、放送事業者が同等の放送設備により相当の方法で訂正又は取消の放送をすべきものとしているにすぎないなど、その要件、内容等において、いわゆる反論権の制度ないし…反論文掲載請求権とは著しく異なるものであつて、同法4条の規定も、 所論のような反論文掲載請求権が認められる根拠とすることはできない。」としている。
(H29 予備 第3問 ア)
放送事業者は、権利の侵害を受けた者の請求に基づく調査によって放送内容が真実でないことが判明した場合、放送法の規定により訂正放送をしなければならないが、これは、放送内容の真実性の保障及び干渉排除による表現の自由の確保の観点から、放送事業者において自律的に訂正放送を行うことを公法上の義務として定めたものである。
放送事業者は、権利の侵害を受けた者の請求に基づく調査によって放送内容が真実でないことが判明した場合、放送法の規定により訂正放送をしなければならないが、これは、放送内容の真実性の保障及び干渉排除による表現の自由の確保の観点から、放送事業者において自律的に訂正放送を行うことを公法上の義務として定めたものである。
(正答) 〇
(解説)
生活ほっとモーニング事件判決(最判平16.11.25)は、「法4条1項は…放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。」としている。
生活ほっとモーニング事件判決(最判平16.11.25)は、「法4条1項は…放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当である。」としている。