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憲法 学生無年金訴訟 最二小判平成19年9月28日
概要
平成元年改正前の国民年金法における強制加入例外規定を含む20歳以上の学生に関する上記の措置及び加入等に関する区別並びに立法府が平成元年改正前において20歳以上の学生について国民年金の強制加入被保険者とするなどの措置を講じなかったことは、憲法25条、14条1項に違反しない。
判例
事案:昭和34年制定の国民年金法では、20歳以上の国民を国民年金保険料の強制徴収の対象者としていたが、20歳以上でも学生の場合は強制徴収の対象外とし、任意加入の道を開いていたところ、学生の任意加入率が極めて低く、加入しない間に障害を負った学生が国民年金法上の障害福祉年金の給付を受けられないという学生無年金者の問題が生じていた。
昭和60年改正の国民年金法でも、20歳以上の学生の取り扱いは昭和34年制定の国民年金法と同じままで、従来から20歳未満の障害者については学生も含めて無拠出の障害福祉年金を支給する旨が定められていたが、20歳以上の学生無年金者に対する救済措置は講じられなかった。
本事件では、国家賠償請求訴訟において、主として、学生無年金者の問題が遅くとも1970年代半ば頃には明らかになっていたにもかかわらず、国会が国民年金法をすみやかに改正しなかった立法不作為が憲法25条・14条1項に違反するかが問題とされた。
判旨:①「国民年金制度は、憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。もっとも、同条の趣旨にこたえて制定された法令において受給権者の範囲、支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときは別に憲法14条違反の問題を生じ得ることは否定し得ないところである(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)。
②「学生(高等学校等の生徒を含む。以下同じ。)は、夜間の学部等に在学し就労しながら教育を受ける者を除き、一般的には、20歳に達した後も稼得活動に従事せず、収入がなく、保険料負担能力を有していない。また、20歳以上の者が学生である期間は、多くの場合、数年間と短く、その間の傷病により重い障害の状態にあることとなる一般的な確率は低い上に、多くの者は卒業後は就労し、これに伴い、平成元年改正前の法の下においても、被用者年金各法等による公的年金の保障を受けることとなっていたものである。一方、国民年金の保険料は、老齢年金(昭和60年改正後は老齢基礎年金)に重きを置いて、その適正な給付と保険料負担を考慮して設定されており、被保険者が納付した保険料のうち障害年金(昭和60年改正後は障害基礎年金)の給付費用に充てられることとなる部分はわずかであるところ、20歳以上の学生にとって学生のうちから老齢、死亡に備える必要性はそれほど高くはなく、専ら障害による稼得能力の減損の危険に備えるために国民年金の被保険者となることについては、保険料納付の負担に見合う程度の実益が常にあるとまではいい難い。さらに、保険料納付義務の免除の可否は連帯納付義務者である被保険者の属する世帯の世帯主等(法88条2項)による保険料の納付が著しく困難かどうかをも考慮して判断すべきものとされていること(平成12年改正前の法90条1項ただし書)などからすれば、平成元年改正前の法の下において、学生を強制加入被保険者として一律に保険料納付義務を負わせ他の強制加入被保険者と同様に免除の可否を判断することとした場合、親などの世帯主に相応の所得がある限り、学生は免除を受けることができず、世帯主が学生の学費、生活費等の負担に加えて保険料納付の負担を負うこととなる。
他方、障害者については障害者基本法等による諸施策が講じられており、生活保護法に基づく生活保護制度も存在している。これらの事情からすれば、平成元年改正前の法が、20歳以上の学生の保険料負担能力、国民年金に加入する必要性ないし実益の程度、加入に伴い学生及び学生の属する世帯の世帯主等が負うこととなる経済的な負担等を考慮し、保険方式を基本とする国民年金制度の趣旨を踏まえて、20歳以上の学生を国民年金の強制加入被保険者として一律に保険料納付義務を課すのではなく、任意加入を認めて国民年金に加入するかどうかを20歳以上の学生の意思にゆだねることとした措置は、著しく合理性を欠くということはできず、加入等に関する区別が何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということもできない。
確かに、加入等に関する区別によって、前記のとおり、保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち20歳以上の学生とそれ以外の者との間に障害基礎年金等の受給に関し差異が生じていたところではあるが、いわゆる拠出制の年金である障害基礎年金等の受給に関し保険料の拠出に関する要件を緩和するかどうか、どの程度緩和するかは、国民年金事業の財政及び国の財政事情にも密接に関連する事項であって、立法府は、これらの事項の決定について広範な裁量を有するというべきであるから、上記の点は上記判断を左右するものとはいえない。
そうすると、平成元年改正前の法における強制加入例外規定を含む20歳以上の学生に関する上記の措置及び加入等に関する区別並びに立法府が平成元年改正前において20歳以上の学生について国民年金の強制加入被保険者とするなどの所論の措置を講じなかったことは、憲法25条、14条1項に違反しない。」
②「学生(高等学校等の生徒を含む。以下同じ。)は、夜間の学部等に在学し就労しながら教育を受ける者を除き、一般的には、20歳に達した後も稼得活動に従事せず、収入がなく、保険料負担能力を有していない。また、20歳以上の者が学生である期間は、多くの場合、数年間と短く、その間の傷病により重い障害の状態にあることとなる一般的な確率は低い上に、多くの者は卒業後は就労し、これに伴い、平成元年改正前の法の下においても、被用者年金各法等による公的年金の保障を受けることとなっていたものである。一方、国民年金の保険料は、老齢年金(昭和60年改正後は老齢基礎年金)に重きを置いて、その適正な給付と保険料負担を考慮して設定されており、被保険者が納付した保険料のうち障害年金(昭和60年改正後は障害基礎年金)の給付費用に充てられることとなる部分はわずかであるところ、20歳以上の学生にとって学生のうちから老齢、死亡に備える必要性はそれほど高くはなく、専ら障害による稼得能力の減損の危険に備えるために国民年金の被保険者となることについては、保険料納付の負担に見合う程度の実益が常にあるとまではいい難い。さらに、保険料納付義務の免除の可否は連帯納付義務者である被保険者の属する世帯の世帯主等(法88条2項)による保険料の納付が著しく困難かどうかをも考慮して判断すべきものとされていること(平成12年改正前の法90条1項ただし書)などからすれば、平成元年改正前の法の下において、学生を強制加入被保険者として一律に保険料納付義務を負わせ他の強制加入被保険者と同様に免除の可否を判断することとした場合、親などの世帯主に相応の所得がある限り、学生は免除を受けることができず、世帯主が学生の学費、生活費等の負担に加えて保険料納付の負担を負うこととなる。
他方、障害者については障害者基本法等による諸施策が講じられており、生活保護法に基づく生活保護制度も存在している。これらの事情からすれば、平成元年改正前の法が、20歳以上の学生の保険料負担能力、国民年金に加入する必要性ないし実益の程度、加入に伴い学生及び学生の属する世帯の世帯主等が負うこととなる経済的な負担等を考慮し、保険方式を基本とする国民年金制度の趣旨を踏まえて、20歳以上の学生を国民年金の強制加入被保険者として一律に保険料納付義務を課すのではなく、任意加入を認めて国民年金に加入するかどうかを20歳以上の学生の意思にゆだねることとした措置は、著しく合理性を欠くということはできず、加入等に関する区別が何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということもできない。
確かに、加入等に関する区別によって、前記のとおり、保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち20歳以上の学生とそれ以外の者との間に障害基礎年金等の受給に関し差異が生じていたところではあるが、いわゆる拠出制の年金である障害基礎年金等の受給に関し保険料の拠出に関する要件を緩和するかどうか、どの程度緩和するかは、国民年金事業の財政及び国の財政事情にも密接に関連する事項であって、立法府は、これらの事項の決定について広範な裁量を有するというべきであるから、上記の点は上記判断を左右するものとはいえない。
そうすると、平成元年改正前の法における強制加入例外規定を含む20歳以上の学生に関する上記の措置及び加入等に関する区別並びに立法府が平成元年改正前において20歳以上の学生について国民年金の強制加入被保険者とするなどの所論の措置を講じなかったことは、憲法25条、14条1項に違反しない。」
過去問・解説
(H26 共通 第10問 イ)
障害基礎年金の受給に関し、保険料の拠出要件を緩和するか否かは国の財政事情等に密接に関連するから、保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち学生とそれ以外の者との間に障害基礎年金の受給に関し差異が生じていたとしても、不合理とはいえない。
障害基礎年金の受給に関し、保険料の拠出要件を緩和するか否かは国の財政事情等に密接に関連するから、保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち学生とそれ以外の者との間に障害基礎年金の受給に関し差異が生じていたとしても、不合理とはいえない。
(正答) 〇
(解説)
学生無年金訴訟判決(最判平19.9.28)は、「いわゆる拠出制の年金である障害基礎年金等の受給に関し保険料の拠出に関する要件を緩和するかどうか、どの程度緩和するかは、国民年金事業の財政及び国の財政事情にも密接に関連する事項であって、立法府は、これらの事項の決定について広範な裁量を有するというべきである」とした上で、結論として、憲法法25条、14条1項に違反しないとしている。
学生無年金訴訟判決(最判平19.9.28)は、「いわゆる拠出制の年金である障害基礎年金等の受給に関し保険料の拠出に関する要件を緩和するかどうか、どの程度緩和するかは、国民年金事業の財政及び国の財政事情にも密接に関連する事項であって、立法府は、これらの事項の決定について広範な裁量を有するというべきである」とした上で、結論として、憲法法25条、14条1項に違反しないとしている。
(H29 共通 第10問 ア)
国民年金制度は、憲法第25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるから、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除いて、裁判所が審査判断するに適しない事柄であり、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いがあっても、憲法第14条違反の問題は生じ得ない。
国民年金制度は、憲法第25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるから、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除いて、裁判所が審査判断するに適しない事柄であり、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いがあっても、憲法第14条違反の問題は生じ得ない。
(正答) ✕
(解説)
学生無年金訴訟判決(最判平19.9.28)では、「国民年金制度は、憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。」とする一方で、「もっとも、同条の趣旨にこたえて制定された法令において受給権者の範囲、支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときは別に憲法14条違反の問題を生じ得ることは否定し得ないところである…。」としている。
学生無年金訴訟判決(最判平19.9.28)では、「国民年金制度は、憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるところ、同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。」とする一方で、「もっとも、同条の趣旨にこたえて制定された法令において受給権者の範囲、支給要件等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをするときは別に憲法14条違反の問題を生じ得ることは否定し得ないところである…。」としている。
(R2 司法 第9問 ウ)
障害基礎年金の受給に関し保険料の拠出に関する要件を緩和するかどうかは国の財政事情等にも密接に関連する事項であるが、保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち20歳以上の学生とそれ以外の者との間に障害基礎年金の受給に関し差異が生じた場合、その合憲性については、憲法第25条及び第14条の趣旨に照らし、慎重に検討する必要がある。
障害基礎年金の受給に関し保険料の拠出に関する要件を緩和するかどうかは国の財政事情等にも密接に関連する事項であるが、保険料負担能力のない20歳以上60歳未満の者のうち20歳以上の学生とそれ以外の者との間に障害基礎年金の受給に関し差異が生じた場合、その合憲性については、憲法第25条及び第14条の趣旨に照らし、慎重に検討する必要がある。
(正答) ✕
(解説)
学生無年金訴訟判決(最判平19.9.28)は、「その合憲性については、憲法第25条及び第14条の趣旨に照らし、慎重に検討する必要がある。」とは述べていない。
学生無年金訴訟判決(最判平19.9.28)は、「その合憲性については、憲法第25条及び第14条の趣旨に照らし、慎重に検討する必要がある。」とは述べていない。