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憲法 老齢加算廃止訴訟 最三小判平成24年2月28日

概要
生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)の改定は、厚生労働大臣の裁量権の逸脱・濫用には当たらず、生活保護法3条又は8条2項に違反するものではない。
判例
事案:生活保護法では、同法8条の委任を受けて、厚生労働大臣が生活保護基準を定めるものとされている。平成16年度から3年間にわたり、厚生労働大臣が生活保護基準を改定することにより、70歳以上の者等を対象とする生活扶助の加算(老齢加算)を段階的に減額することにより、廃止した。本事件では、厚生労働大臣による老齢加算廃止を内容とする生活保護基準の改定の憲法25条適合性が主たる争点になった。
 なお、本判決は、原判決が⑤の各観点について何ら審理を尽くしていないとして、原判決の一部を破棄して同部分を原審に差し戻した。

判旨:①「生活保護法56条…にいう正当な理由がある場合とは、既に決定された保護の内容に係る不利益な変更が、同法及びこれに基づく保護基準が定めている変更、停止又は廃止の要件に適合する場合を指すものと解するのが相当である。したがって、保護基準自体が減額改定されることに基づいて保護の内容が減額決定される本件のような場合については、同条が規律するところではないというべきである。」
 ②「生活保護法3条によれば、同法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないところ、同法8条2項によれば、保護基準は、要保護者(生活保護法による保護を必要とする者をいう。)の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであるのみならず、これを超えないものでなければならない。そうすると、仮に、老齢加算の一部又は全部についてその支給の根拠となっていた高齢者の特別な需要が認められないというのであれば、老齢加算の減額又は廃止をすべきことは、同項の規定に基づく要請であるということができる。もっとも、同項にいう最低限度の生活は、抽象的かつ相対的な概念であって、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり、これを保護基準において具体化するに当たっては、国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)。したがって、保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである。」
 ③「また、老齢加算の全部についてその支給の根拠となる上記の特別な需要が認められない場合であっても、老齢加算は、一定の年齢に達すれば自動的に受給資格が生じ、老齢のため他に生計の資が得られない高齢者への生活扶助の一部として相当期間にわたり支給される性格のものであることに鑑みると、その加算の廃止は、これを含めた生活扶助が支給されることを前提として現に生活設計を立てていた被保護者に関しては、保護基準によって具体化されていたその期待的利益の喪失を来すものであることも否定し得ないところである。そうすると、上記のような場合においても、厚生労働大臣は、老齢加算の支給を受けていない者との公平や国の財政事情といった見地に基づく加算の廃止の必要性を踏まえつつ、被保護者のこのような期待的利益についても可及的に配慮する必要があるところ、その廃止の具体的な方法等について、激変緩和措置を講ずることなどを含め、上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである。」
 ④「したがって、本件改定は、〔1〕本件改定の時点において70歳以上の高齢者にはもはや老齢加算に見合う特別な需要が認められないとした厚生労働大臣の判断に上記②の見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合、あるいは、〔2〕老齢加算の廃止に際して採るべき激変緩和措置は3年間の段階的な廃止が相当であるとしつつ生活扶助基準の水準の定期的な検証を行うものとした同大臣の判断に上記③の見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合に、生活保護法8条2項に違反して違法となり、本件改定に基づく本件各決定も違法となるものというべきである。」
 ⑤「そして、老齢加算の減額又は廃止の要否の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価が前記②のような専門技術的な考察に基づいた政策的判断であることや、老齢加算の支給根拠及びその額等についてはそれまでも各種の統計や専門家の作成した資料等に基づいて高齢者の特別な需要に係る推計や加算対象世帯と一般世帯との消費構造の比較検討等がされてきた経緯等に鑑みると、同大臣の上記〔1〕の裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、主として老齢加算の廃止に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきものと解される。また、本件改定が老齢加算を一定期間内に廃止するという内容のものであることに鑑みると、同大臣の上記〔2〕の裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、本件改定に基づく生活扶助額の減額が被保護者の上記のような期待的利益の喪失を通じてその生活に看過し難い影響を及ぼすか否か等の観点から、本件改定の被保護者の生活への影響の程度やそれが上記の激変緩和措置等によって緩和される程度等について上記の統計等の客観的な数値等との合理的関連性等を含めて審査されるべきものと解される。」
 ⑥「専門委員会が中間取りまとめにおいて示した意見は、特別集計等の統計や資料等に基づき、〔1〕無職単身世帯の生活扶助相当消費支出額を比較した場合、いずれの収入階層でも70歳以上の者の需要は60ないし69歳の者のそれより少ないことが示されていたこと、〔2〕70歳以上の単身者の生活扶助額(老齢加算を除く。)の平均は、第〈1〉-5分位の同じく70歳以上の単身無職者の生活扶助相当消費支出額を上回っていたこと、〔3〕昭和59年度から平成14度までにおける生活扶助基準の改定率は、消費者物価指数及び賃金の各伸び率を上回っており、特に同7年度以降の比較では後二者がマイナスで推移しているにもかかわらずプラスとなっていたこと、〔4〕昭和58年度以降、被保護勤労者世帯の消費支出の割合は一般勤労者世帯の消費支出の7割前後で推移していたこと、〔5〕昭和55年と平成12年とを比較すると第〈1〉-10分位及び被保護勤労者世帯の平均のいずれにおいても消費支出に占める食料費の割合(エンゲル係数)が低下していることなどが勘案されたものであって、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところはない。そして、70歳以上の高齢者に老齢加算に見合う特別な需要が認められず、高齢者に係る本件改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持するに足りない程度にまで低下するものではないとした厚生労働大臣の判断は、専門委員会のこのような検討等を経た前記…の意見に沿って行われたものであり、その判断の過程及び手続に過誤、欠落があると解すべき事情はうかがわれない。
 また、前記事実関係等によれば、本件改定が老齢加算を3年間かけて段階的に減額して廃止したことも、専門委員会の前記…の意見に沿ったものであるところ、平成11年度における老齢加算のある被保護者世帯の貯蓄純増は老齢加算の額に近似した水準に達しており、老齢加算のない被保護者世帯の貯蓄純増との差額も月額で5000円を超えていたというのであるから、3年間かけて段階的に老齢加算を減額して廃止することによって被保護者世帯に対する影響は相当程度緩和されたものと評価することができる上、厚生労働省による生活扶助基準の水準の定期的な検証も前記…の意見を踏まえて生活水準の急激な低下を防止すべく配慮したものということができ、その他本件に現れた一切の事情を勘案しても、本件改定に基づく生活扶助額の減額が被保護者世帯の期待的利益の喪失を通じてその生活に看過し難い影響を及ぼしたものとまで評価することはできないというべきである。
 以上によれば、本件改定については、前記…のいずれの観点からも裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。
 したがって、本件改定は、生活保護法3条又は8条2項の規定に違反するものではないと解するのが相当である。そして、本件改定に基づいてされた本件各決定にも、これを違法と解すべき事情は認められない。」
過去問・解説
(H26 共通 第10問 ウ)
生活保護法に基づいて生活保護を受けるのは、単なる国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益ではなく、法的権利であるから、保護基準の改定(老齢加算の廃止)に基づく保護の不利益変更は、その改定自体に正当な理由がない限り違法となる。

(正答)  

(解説)
老齢加算廃止訴訟判決(最判平24.2.28)は、「保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か及び高齢者に係る改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣に…専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである」としており、「保護基準の改定(老齢加算の廃止)に基づく保護の不利益変更は、その改定自体に正当な理由がない限り違法となる。」(本肢)とは述べていない。

(R2 司法 第9問 イ)
「健康で文化的な最低限度の生活」は、抽象的かつ相対的な概念であって、その具体的内容は、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるが、老齢加算を廃止する保護基準の改定については、不利益変更であることに鑑み、厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的見地からの広範な裁量権は認められない。

(正答)  

(解説)
老齢加算廃止訴訟判決(最判平24.2.28)は、堀木訴訟判決(最大判昭57.7.7)を参照するにとどまり、その文言をそのまま引用はしておらず、堀木訴訟判決における「広い」裁量と明白の原則について明示的に言及していないため、の言及もない。生活保護の基準の不利益変更であることに鑑み、堀木訴訟判決の射程を部分的に制限し、「広い」裁量を根拠とした明白の原則は採用しなかったという読み方も可能である。しかし、司法試験委員会は、老齢加算廃止訴訟判決について、生活保護の基準の不利益変更の場面でも「広い」裁量を認めた判例であると理解している。

(R3 共通 第9問 イ)
憲法第25条の生存権を具体化する趣旨の法律として、生活保護法等の法律が制定された場合、その法律は憲法第25条と一体をなし、かかる法律の定める給付水準を正当な理由なくして引き下げることは憲法上許されない。

(正答)  

(解説)
老齢加算廃止訴訟判決(最判平24.2.28)は、「保護基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か及び高齢者に係る改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣に…専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである」としており、「法律の定める給付水準を正当な理由なくして引き下げることは憲法上許されない」(本肢)とは解していない。
総合メモ
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