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憲法 三井美唄炭鉱労組事件 最大判昭和43年12月4日

概要
①憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有する。
②立候補の自由も、憲法15条1項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。
③労働組合が、統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、組合が所期の目的を達成するために、立候補を思いとどまるよう、勧告又は説得をすることは許される。しかし、当該組合員に対し、勧告又は説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分することは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法である。
判例
事案:A労働組合は、B市市議会議員選挙に際して、組合が支援する統一候補を決定したのに組合員Cが独自に立候補しようとしたため、Cに対して立候補を断念するよう再三にわたって説得を試み、その際、組合の決定に対する統制違反として組合規約により処分されることがある旨をCに示したり、その旨を機関紙に掲載してC宅に配布させたり、さらに、選挙に当選したCに対して1年間の組合員資格停止とする統制処分を行うなど、組合とCとの特殊な利害関係を利用して、選挙に関し、Cを威迫した。これらが選挙の自由妨害罪(公選法225条3号)、刑法60条に該当するとして、組合役員が起訴された。
 最高裁は、①労働組合の統制権の法的性質、②立候補の自由の憲法上の保障・重要性、③組合員の立候補の自由との関係における組合の統制権の限界について判断している。

判旨:①「労働者が憲法28条の保障する団結権に基づき労働組合を結成した場合において、その労働組合が正当な団体行動を行なうにあたり、労働組合の統一と一体化を図り、その団結力の強化を期するためには、その組合員たる個々の労働者の行動についても、組合として、合理的な範囲において、これに規制を加えることが許されなければならない(以下、これを組合の統制権とよぶ。)。およそ、組織的団体においては、一般に、その構成員に対し、その目的に即して合理的な範囲内での統制権を有するのが通例であるが、憲法上、団結権を保障されている労働組合においては、その組合員に対する組合の統制権は、一般の組織的団体のそれと異なり、労働組合の団結権を確保するために必要であり、かつ、合理的な範囲内においては、労働者の団結権保障の一環として、憲法28条の精神に由来するものということができる。この意味において、憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有するものと解すべきである。」
 ②「選挙は、本来、自由かつ公正に行なわれるべきものであり、このことは、民主主義の基盤をなす選挙制度の目的を達成するための基本的要請である。この見地から、選挙人は、自由に表明する意思によつてその代表者を選ぶことにより、自ら国家(または地方公共団体等)の意思の形成に参与するのであり、誰を選ぶかも、元来、選挙人の自由であるべきであるが、多数の選挙人の存する選挙においては、これを各選挙人の完全な自由に放任したのでは選挙の目的を達成することが困難であるため、公職選挙法は、自ら代表者になろうとする者が自由な意思で立候補し、選挙人は立候補者の中から自己の希望する代表者を選ぶという立候補制度を採用しているわけである。したがつて、もし、被選挙権を有し、選挙に立候補しようとする者がその立候補について不当に制約を受けるようなことがあれば、そのことは、ひいては、選挙人の自由な意思の表明を阻害することとなり、自由かつ公正な選挙の本旨に反することとならざるを得ない。この意味において、立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。このような見地からいえば、憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。さればこそ、公職選挙法に、選挙人に対すると同様、公職の候補者または候補者となろうとする者に対する選挙に関する自由を妨害する行為を処罰することにしているのである。(同法225条1号3号参照)。
 ③「労働組合は、その目的を達成するために必要な政治活動等を行なうことを妨げられるわけではない。したがつて、本件の地方議会議員の選挙にあたり、いわゆる統一候補を決定し、組合を挙げて選挙運動を推進することとし、統一候補以外の組合員で立候補しようとする組合員に対し、立候補を思いとどまるように勧告または説得することも、その限度においては、組合の政治活動の一環として、許されるところと考えてよい。また他面において、労働組合が、その団結を維持し、その目的を達成するために、組合員に対し、統制権を有することも、前叙のとおりである。しかし、労働組合が行使し得べき組合員に対する統制権には、当然、一定の限界が存するものといわなければならない。殊に、公職選挙における立候補の自由は、憲法15条1項の趣旨に照らし、基本的人権の一つとして、憲法の保障する重要な権利であるから、これに対する制約は、特に慎重でなければならず、組合の団結を維持するための統制権の行使に基づく制約であつても、その必要性と立候補の自由の重要性とを比較衡量して、その許否を決すべきであり、その際、政治活動に対する組合の統制権のもつ前叙のごとき性格と立候補の自由の重要性とを十分考慮する必要がある。
 A労働組合員たるCが組合の統一候補の選にもれたことから、独自に立候補する旨の意思を表示したため、…組合幹部は、Cに対し、組合の方針に従つて右選挙の立候補を断念するように再三説得したが、Cは容易にこれに応ぜず、あえて独自の立場で立候補することを明らかにしたので、ついに説得することを諦め、組合の決定に基づいて本件措置に出たというのである。このような場合には、統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、組合が所期の目的を達成するために、立候補を思いとどまるよう、勧告または説得をすることは、組合としても、当然なし得るところである。しかし、当該組合員に対し、勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」
過去問・解説
(H18 司法 第4問 イ)
労働組合の組合員に対する統制権は、労働者の団結権保障の一環として、憲法第28条の精神に由来するものであるが、労働組合が、公職選挙における統一候補を決定し、組合を挙げて選挙運動を推進している場合であっても、組合の方針に反して立候補した組合員を統制違反として処分することは、労働組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、「憲法上、団結権を保障されている労働組合においては、その組合員に対する組合の統制権は、…労働組合の団結権を確保するために必要であり、かつ、合理的な範囲内においては、労働者の団結権保障の一環として、憲法28条の精神に由来するものということができる。」とする一方で、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。

(H23 司法 第10問 ウ)
最高裁判所の判例の趣旨によれば、労働組合には組合員に対する統制権が認められるが、公職選挙において、組合がその統一候補以外の組合員の立候補に対し、統制違反を理由に組合員としての権利を停止する処分をすることは許されない。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。

(H28 司法 第9問 イ)
憲法により団結権が保障されている労働組合においては、組合の目的の範囲内にある活動であれば、その全ての活動について組合員に対して統制権を行使し得るから、労働組合が統制権に基づいて組合員を除名した処分には司法審査が及ばない。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。

(R2 予備 第6問 ウ)
判例は、団結権を確保するために労働組合の統制権を認めるが、公職選挙に当たり労働組合が統一候補を決定し、それ以外の立候補した組合員に対し、これを統制違反者として処分することは違法としている。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。

(R4 共通 第13問 イ)
労働組合は、団結権が保障されており、組合の団結を維持するための統制権の行使によって公職選挙における組合員の立候補の自由を制約することができるので、公職選挙において統一候補を擁立した場合、当該候補以外の組合員が立候補をやめなかったことを理由にその組合員を処分することができる。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有するものと解すべきである。」とする一方で、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。

(R5 共通 第8問 イ)
労働組合は、憲法第28条が団結権を保障する効果として、組合員に対する統制権を有するから、労働組合が、地方議会議員の選挙に当たり、統一候補を決定して組合を挙げて選挙運動を推進している場合に、組合の方針に反して立候補しようとする組合員に対し、立候補の取りやめを要求し、これに従わないことを統制違反として処分することは許される。

(正答)  

(解説)
三井美唄炭鉱労組事件判決(最大判昭43.12.4)は、憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、その組合員に対する統制権を有するものと解すべきである。」とする一方で、「統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、…勧告または、説得の域を超え、立候補を取りやめることを要求し、これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければならない。」としている。
総合メモ
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