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憲法 教育債務履行等請求事件 最一小判平成21年12月10日

概要
学校による生徒募集の際に説明、宣伝された教育内容等の一部が変更され、これが実施されなくなったことが、親の期待、信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するのは、当該学校において生徒が受ける教育全体の中での当該教育内容等の位置付け、当該変更の程度、当該変更の必要性、合理性等の事情に照らし、当該変更が、学校設置者や教師に上記のような裁量が認められることを考慮してもなお、社会通念上是認することができないものと認められる場合に限られるというべきである。
判例
本件は、Yが設置するA中学校又はB高等学校(以下「本件各学校」という。)に在籍していた生徒の親であるXらは、Yに対し、Yが、本件各学校の生徒を募集する際、学校案内や学校説明会等において、論語に依拠した道徳教育の実施を約束したにもかかわらず、子の入学後に同教育を廃止したことは、XらとYとの間で締結された在学契約上の債務不履行に当たり、また、Xらの学校選択の自由を侵害し、不法行為を構成するなどと主張して、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償等を求めた。
 
判旨:①「親が、学校が生徒募集の際に行った教育内容等についての説明、宣伝により、子にその説明、宣伝どおりの教育が施されるとの期待、信頼を抱いて子を当該学校に入学させたにもかかわらず、その後学校がその教育内容等を変更し、説明、宣伝どおりの教育が実施されなくなった結果、親の上記期待、信頼が損なわれた場合において、上記期待、信頼は、およそ法律上保護される利益に当たらないとして直ちに不法行為の成立を否定することは、子に対しいかなる教育を受けさせるかは親にとって重大な関心事であることや上記期待、信頼の形成が学校側の行為に直接起因することからすると、相当ではない。
 他方、上記期待、信頼は、私法上の権利といい得るような明確な実体を有するものではない。生徒募集の際に説明、宣伝された教育内容等の受け止め方やどこに重きを置くのかは、個々の親によって様々であり、すべての親が常に同じ期待、信頼を抱くものではないし、同様の期待、信頼を抱いた親であっても、ある教育内容等が変更されたことにより、その期待、信頼が損なわれたと感じるか否かは、必ずしも一様とはいえない。そうすると、特定の親が、子の入学後の教育内容等の変更により、自己の抱いていた期待、信頼が損なわれたと感じたからといって、それだけで直ちに上記変更が当該親に対する不法行為を構成するものということはできない。
 また、学校教育における教育内容等の決定は、当該学校の教育理念、生徒の実情、物的設備・施設の設置状況、教師・職員の配置状況、財政事情等の各学校固有の事情のほか、学校教育に関する諸法令や学習指導要領との適合性、社会情勢等、諸般の事情に照らし、全体としての教育的効果や特定の教育内容等の実施の可能性、相当性、必要性等を総合考慮して行われるものであって、上記決定は、学校教育に関する諸法令や学習指導要領の下において、教育専門家であり当該学校の事情にも精通する学校設置者や教師の裁量にゆだねられるべきものと考えられる。そして、教育内容等については、上記諸般の事情の変化をも踏まえ、その教育的効果等の評価、検討が不断に行われるべきであり、従前の教育内容等に対する評価の変化に応じてこれを変更することについても、学校設置者や教師に裁量が認められるべきものと考えられる。
 したがって、学校による生徒募集の際に説明、宣伝された教育内容等の一部が変更され、これが実施されなくなったことが、親の期待、信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するのは、当該学校において生徒が受ける教育全体の中での当該教育内容等の位置付け、当該変更の程度、当該変更の必要性、合理性等の事情に照らし、当該変更が、学校設置者や教師に上記のような裁量が認められることを考慮してもなお、社会通念上是認することができないものと認められる場合に限られるというべきである。
 これを本件についてみると、本件で問題とされている教育内容等の変更は、論語に依拠した道徳教育の廃止であるところ、道徳教育それ自体の重要性は否定できないとしても、一般的に、中学校や高等学校における教育全体の中で、道徳教育が他の教科とは異なる格別の重要性を持つとはいえない。また、前記事実関係によれば、本件各学校においても、論語に依拠した道徳教育がその特色となっていたとはいえ、本件道徳授業は、1回35分間の講話と感想文の作成等が、中等部からの入学者についてはその1年次に28回、高等部からの入学者についてはその1年次に14回、それぞれ行われていたにすぎず、C前校長の解任後も、LHR及び合同HRにおいては、道徳教育の行われる回数が減少し、また、論語に依拠した道徳教育は行われていないものの、学習指導要領に沿った道徳教育は引き続き行われており、本件各学校の総授業時間数及び授業項目に変更はなかったというのであって、論語に依拠した道徳教育が廃止されたほかには、本件各学校の教育理念が大きく損なわれたり、教育内容等の水準が大きく低下したことはうかがわれない。そうすると、本件における教育内容等の変更は、道徳教育について論語に依拠した独特の手法でこれを行うことを廃止したにとどまり、これが本件各学校の教育内容等の中核、根幹を変更するものとまではいえない。
 しかも、前記事実関係によれば、Yは、論語に依拠した道徳教育の中心的存在であったC前校長を急きょ解任せざるを得なくなり、その後任として適切な人材を学内から選任する時間的余裕もなかったというのであり、同教育を従前同様に継続することの支障となる事態が生じていたものということができる。そのような状況の下で、E新校長の方針に従い、同教育が廃止され、父母説明会でもE新校長から今後実施する道徳教育の方針等について説明されていたものであって、学校設置者や教師に教育内容等の変更について裁量が認められることをも考慮すると、上記廃止について、その必要性、合理性が否定されるものともいえない。 
 以上の諸事情に照らすと、Yが、本件各学校の生徒募集の際、本件道徳授業等の内容を具体的に説明し、そこで行われていた論語に依拠した道徳教育の教育的効果を強調し、積極的にこれを宣伝していたという事情を考慮しても、Yが同教育を廃止したことは、社会通念上是認することができないものであるとまではいえず、これが、Xらの期待、信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するとは認められない。」
 ②「私立中学校又は私立高等学校の各学校設置者とその生徒との間の在学関係は、在学契約に基づくものであるところ、前記に認定、判断したところからすれば、本件における教育内容等の変更が在学契約上の債務の不履行に当たるものとまですることは困難である。したがって、Xらが在学契約の当事者であるとするXらの主張を前提としても、Xらの債務不履行に基づく損害賠償請求は、理由がない。」
過去問・解説
(H30 共通 第7問 ウ)
親は、子の将来に関して最も深い関心を持ち、かつ、配慮をすべき立場にある者として、子に対する教育の自由を有しており、このような親の教育の自由は、主として家庭教育等学校外における教育や学校選択の自由にあらわれるところ、親の学校選択の自由は、特定の学校の選択を強要又は妨害された場合、その侵害が問題となり得る。

(正答)  

(解説)
判例(最判平21.12.10)は、「親は、子の将来に対して最も深い関心を持ち、かつ、配慮をすべき立場にある者として、…子の教育の自由を有すると認められ、このような親の教育の自由は、主として家庭教育等学校外における教育や学校選択の自由にあらわれるものと考えられる…。そして、親の学校選択の自由については、その性質上、特定の学校の選択を強要されたり、これを妨害されたりするなど、学校を選択する際にその侵害が問題となり得る…」としている。
総合メモ
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