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憲法 山田鉄鋼業事件 最大判昭和25年11月15日

概要
使用者側の自由権や財産権と雖も絶対無制限ではなく、労働者の団体行動権等のためある程度の制限を受けるのは当然であるが、原判決の判示する程度に、使用者側の自由意思を柳圧し、財産に対する支配を阻止することは許さるべきでないと認められる。
判例
事案:使用者の権利との関係で労働者の争議行為の限界が問題となった。

判旨:①「論旨は、原判決を以て、生産管理の本質を誤り、生産管理が争議権行使の一方法であることを否認し、争議権行使の方法を制限した違法あるものとして、非難すると共に、生産管理が労働関係調整法第7条にいわゆる「その他」の行為に中に含まれるということを論拠として、労働者が争議方法として生産管理を行うことには何等の制限を受くべきでないと主張する。しかし右の法条は争議行為の定義を掲げただけであつて、争議行為又はそれに伴う諸々の行為がすべて適法又は正当であると言つているのではない。従つて生産管理が右の「その他」の行為の中に含まれるとしても、そのことだけから生産管理を行う自由がある、と即断することはできない。具体的の争議行為の適法性の限界については、別個の観点から判断されなければならない。生産管理の概念に関する原判決の説明が妥当であるか否かは別として、本件被告人等の所為を違法のものであるとした結局の判断は正当であること後に述べるとおりである。論旨は理由がない。」
 ②「論旨は、憲法が労働者の争議権を認めたことを論拠として、従来の市民法的個人法的観点を揚棄すべきことを説き、かような立場から労働者が争議によつて使用者たる資本家の意思を抑圧してその要求を貫徹することは不当でもなく違法でもないと主張する。しかし憲法は勤労者に対して団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保障すると共に、すべての国民に対して平等権、自由権、財産権等の基本的人権を保障しているのであつて、是等諸々の基本的人権が労働者の争議権の無制限な行使の前に悉く排除されることを認めているのでもなく、後者が前者に対して絶対的優位を有することを認めているのでもない。寧ろこれ等諸々の一般的基本的人権と労働者の権利との調和をこそ期待しているのであつて、この調和を破らないことが、即ち争議権の正当性の限界である。その調和点を何処に求めるべきかは、法律制度の精神を全般的に考察して決すべきである。固より使用者側の自由権や財産権と雖も絶対無制限ではなく、労働者の団体行動権等のためある程度の制限を受けるのは当然であるが、原判決の判示する程度に、使用者側の自由意思を柳圧し、財産に対する支配を阻止することは許さるべきでないと認められる。それは労働者側の争議権を偏重して、使用者側の権利を不当に侵害し、法が求める調和を破るものだからである。論旨は理由がない。」
 ③「論旨は、生産管理が同盟罷業と性質を異にするものでないということを理由として、生産管理も同盟罷業と同様に違法性を阻却される争議行為であると主張する。しかしわが国現行の法律疾序は私有財産制度を基幹として成り立つており、企業の利益と損失とは資本家に帰する。従つて企業の経営、生産行程の指揮命令は、資本家又はその代理人たる経営担当者の権限に属する。労働者が所論のように企業者と並んで企業の担当者であるとしても、その故に当然に労働者が企業の使用収益権を有するのでもなく、経営権に対する権限を有するのでもない。従つて労働者側が企業者側の私有財産の基幹を揺がすような争議手段は許されない。なるほど同盟罷業も財産権の侵害を生ずるけれども、それは労働力の給付が債務不履行となるに過ぎない。然るに本件のようないわゆる生産管理に於ては、企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うのである。それ故に同盟罷業も生産管理も財産権の侵害である点において同様であるからとて、その相違点を無視するわけにはゆかない。前者において違法性が阻却されるからとて、後者においてもそうだという理由はない。よつて論旨は採用することができない。」
 ④「論旨は、原判決が生産サボの場合には生産管理も正当であると判示したことを捉えて、労働者は、そのような場合だけでなく、如何なる場合においても争議手段として生産管理をする自由があると主張する。しかし本件のいわゆる生産管理が生産サボの際行われたものでないことは原判決の認めているところであるから、生産サボの場合に生産管理が正当と認められるが否かは、本件に関係なきことである。本件被告人等の所為が不当であることは、他の論点について説示するとおりである。論旨は理由がない。」
 ⑤「論旨は、原判決が、本件鉄板は会社の占有を完全に離脱したものではないので、被告人等が擅にこれを工場外に搬出した行為は会社の所持を奪つたものであり、窃盗の罪責を免れない、と判示したことを非難し、生産管理の下においては占有の所持は労働者側にあり、会社は観念上間接占有を有するに過ぎないから、所持の奪取即ち窃盗はあり得ない。被告人等には占有奪取の意思もなく、不正領得の意思もなかつた、と主張する。しかし労働者側がいわゆる生産管理開始のとき工場、設備、資材等をその占有下においたのは、違法の占有であり、判示鉄板についてもそのとき会社側の占有に対して占有の侵奪があつたというべきであるが、原判決はこれを工場外に搬出したとき不法領得の実現行為があつたものと認定したのである。これを証拠に照らし合わせて考えてみても、被告人等が争議期間中の労働者の賃金支払等に充てるために売却する目的を以て、会社側の許可なくしてこれを工場外に運び出し、自己の事実上の支配内に収めた行為は、正に不法領得の意思を以て会社の所持を奪つたものというべきであつて、原判決がこれを窃盗罪にあたるものとしたのは当然である。
 原判決が、生産管理においては労働者の団体が工場、設備、資材等一切のものを接収してその占有下におくと判示し、本件においては被告人等が即に生産管理に入つたものであることを認めながら、而も他方において判示鉄板は「会社の占有を完全に離脱したものでない」と判示したのは、生産管理開始により労働者の団体が工場、設備、資材等一切のものを自己の支配下におき占有を取得したと言つても、個々の資材物件等については、それが会社構内に存置せられる以上、会社側にもなお占有が存するという趣旨に解すべきである。さすれば、原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
 ⑥「論旨(第2点及び第3点)は、生産管理は正当な争議行為であり正当な争議行為中の個々の行為は、争議目的を達成するためのものである限り、すべて労働組合法1条2項により刑法35条の適用を受けて違法性を阻却されると主張する。しかし労働組合法1条2項は、労働組合の団体交渉その他の行為について無条件に刑法36条の適用があることを規定しているのではなく、唯労働組合法所定の目的達成のために為した正当な行為についてのみ適用を認めているに過ぎない(昭和22年(れ)第319号同24年5月18日最高裁判所大法延判決参照)。如何なる争議行為を以て正当するかは、具体的に個々の争議につき、争議の目的並びに争議手段としての各個の行為の両面に亘つて、現行法秩序全体との関連において決すべきである。従つて生産管理及び生産管理中の個々の行為が、すべて当然に正当行為であるとの論旨は理由がない。(そうして本件被告人等の判示所為が正当と認められないことは、即に上村、牧野両弁護人の上告趣意について述べたとおりである。)。」
過去問・解説
(H18 司法 第4問 エ)
憲法は、勤労者の団体行動権を保障しているが、勤労者の争議権の無制限な行使を許容するものではなく、労働争議において使用者側の自由意思をはく奪し又は極度に抑圧し、あるいはその財産に対する支配を阻止し、私有財産制度の基幹を揺るがすような行為をすることは許されない。いわゆる生産管理において、労働者が、権利者の意思を排除して企業経営の権能を行うときは、正当な争議行為とはいえない。

(正答)  

(解説)
山田鉄鋼業事件判決(最大判昭25.11.15)は、「使用者側の自由権や財産権と雖も絶対無制限ではなく、労働者の団体行動権等のためある程度の制限を受けるのは当然であるが、原判決の判示する程度に、使用者側の自由意思を柳圧し、財産に対する支配を阻止することは許さるべきでない…。」(②)「労働者側が企業者側の私有財産の基幹を揺がすような争議手段は許されない。」(③)としている。したがって、本肢前段は正しい
また、本判決は、「生産管理に於ては、企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うのである。それ故に同盟罷業も生産管理も財産権の侵害である点において同様であるからとて、その相違点を無視するわけにはゆかない。前者において違法性が阻却されるからとて、後者においてもそうだという理由はない。」(④)としている。したがって、本肢後段も正しい。

(R6 司法 第9問 ウ)
最高裁判所の判例の趣旨に照らすと、勤労者が、自らが稼働する工場の施設を占拠し、使用者の指揮、命令を排除して、自ら生産活動等の業務を遂行することは、それが社会通念上、不当に長時間に及ぶものではないとしても、正当な争議行為には当たらず、違法である。

(正答)  

(解説)
山田鉄鋼業事件判決(最大判昭25.11.15)は、「わが国現行の法律疾序は私有財産制度を基幹として成り立つており、企業の利益と損失とは資本家に帰する。従つて企業の経営、生産行程の指揮命令は、資本家又はその代理人たる経営担当者の権限に属する。労働者が所論のように企業者と並んで企業の担当者であるとしても、その故に当然に労働者が企業の使用収益権を有するのでもなく、経営権に対する権限を有するのでもない。従つて労働者側が企業者側の私有財産の基幹を揺がすような争議手段は許されない。」(③)としており、これは本肢と整合的である。
総合メモ
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