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憲法 明治生命保険相互会社事件 最二小判昭和40年2月5日
概要
ストライキによつて削減し得る意義における固定給とは、労働協約等に別段の定めがある場合等のほかは、拘束された勤務時間に応じて支払われる賃金としての性格を有するものであることを必要とし、単に支給金額が相当期間固定しているというだけでは足らず、また、もとより勤務した時間の長短にかかわらず完成された仕事の量に比例して支払わるべきものであつてはならない。
判例
事案:ストライキによって削減し得る固定給の内容が問題となった。
判旨:「ストライキによつて削減し得る意義における固定給とは、労働協約等に別段の定めがある場合等のほかは、拘束された勤務時間に応じて支払われる賃金としての性格を有するものであることを必要とし、単に支給金額が相当期間固定しているというだけでは足らず、また、もとより勤務した時間の長短にかかわらず完成された仕事の量に比例して支払わるべきものであつてはならないと解するのが相当である。
ところで、前記原審の確定した限りの事実関係の下においては、所論諸項目の給与のうち、勤務手当および交通費補助は、労働の対価として支給されるものではなくして、職員に対する生活補助費の性質を有することが明らかであるから、これら項目の給与は、職員が勤務に服さなかつたからといつてその割合に応ずる金額を当然には削減し得るものでないと認むべきである。次に、給料、出勤手当、功労加俸および地区主任手当についていえば、被上告人会社における勤務時間拘束の制度は、主として業務管理の手段として設けられたものであつて、そこに右各項目の給与の額を決定する絶対的基準としての意味は見いだし難く、従つてまた、これが設けられたことに対応して固定的給与を加味した給与体系が採られるにいたつたということも、この種職員の所得の安定を図る趣旨に出たものというべきであり、しかも、右係長、係長補、主任等の資格が純然たる給与の級別に過ぎず、且つ、該資格の決定がその者の過去における仕事の成績によつて行なわれる以上、給与の額は、主として、仕事の成果によつて決定されるものであつて、それが一定の資格にとどまる間その期間中における募集、集金の成果と関係なく支給されるのは、過去において完成された仕事の量に対して支払わるべき報酬を給与の平均化を図る目的で右期間に分割して支給されるというほどの意味を有するに過ぎないものと認めるのが当然であり、また、右期間中の仕事の成果が次期の給与額に直接自動的に影響を及ぼすことも否定し得ないところである。それ故、右各項目の給与は、上告人らが勤務に服した時間の長短を基準として決定された面が全然ないとはいえないにしても、その実質は、むしろ、本件ストライキの行なわれた昭和三二年六月以前における上告人らの募集、集金の成果に比例して決定されたものであつて、純然たる能率給であるかどうかは格別、少なくとも、前記意義における固定給ではない、と認むべきである。もつとも、典型的な固定給の受給者と目されている一般労働者にあつても、日常の仕事の成績を考慮してその者の昇格、格下げが決定され、これに伴ない給与の増減が招来されることは疑いを容れないところであるが、この場合には、仕事の量によつて決定さるべき資格が給与そのものの級別ではなくして職務の内容に関するものであることを看過してはならないのであつて、単に仕事の成績が給与の額に影響を及ぼすの一事をもつて、右両者の間に存する給与決定上の本質的相違を無視することは許されないものといわなければならない。
しかるに、原審が、前叙のごとく、勤務時間拘束の制度が仕事の成果に応ずる能率給の実を挙げるために設けられたものではなく、また所論諸項目の給与が一定の資格にとどまる間その期間中における募集、集金の成果と関係なく支給されるものであるということにのみ着目し、本件事案の程度では資格の昇格、格下げも勤務の質の向上または低下に伴なう昇給、減給と解して妨げないとして、たやすく、所論諸項目の給与を固定給と認め、ひいては被上告人会社が上告人らのストライキを理由として行なつた賃金の削減を違法でないと判断したことは、法令の解釈適用を誤つたか、審理不尽の違法に陥つたものというべく、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は、理由あるに帰し、原判決は、その余の上告理由について判断を加えるまでもなく、破棄を免れない。そして、本件につき、さらに審理を尽さしめる必要があるものと認め、これを原裁判所に差し戻すこととする。」
判旨:「ストライキによつて削減し得る意義における固定給とは、労働協約等に別段の定めがある場合等のほかは、拘束された勤務時間に応じて支払われる賃金としての性格を有するものであることを必要とし、単に支給金額が相当期間固定しているというだけでは足らず、また、もとより勤務した時間の長短にかかわらず完成された仕事の量に比例して支払わるべきものであつてはならないと解するのが相当である。
ところで、前記原審の確定した限りの事実関係の下においては、所論諸項目の給与のうち、勤務手当および交通費補助は、労働の対価として支給されるものではなくして、職員に対する生活補助費の性質を有することが明らかであるから、これら項目の給与は、職員が勤務に服さなかつたからといつてその割合に応ずる金額を当然には削減し得るものでないと認むべきである。次に、給料、出勤手当、功労加俸および地区主任手当についていえば、被上告人会社における勤務時間拘束の制度は、主として業務管理の手段として設けられたものであつて、そこに右各項目の給与の額を決定する絶対的基準としての意味は見いだし難く、従つてまた、これが設けられたことに対応して固定的給与を加味した給与体系が採られるにいたつたということも、この種職員の所得の安定を図る趣旨に出たものというべきであり、しかも、右係長、係長補、主任等の資格が純然たる給与の級別に過ぎず、且つ、該資格の決定がその者の過去における仕事の成績によつて行なわれる以上、給与の額は、主として、仕事の成果によつて決定されるものであつて、それが一定の資格にとどまる間その期間中における募集、集金の成果と関係なく支給されるのは、過去において完成された仕事の量に対して支払わるべき報酬を給与の平均化を図る目的で右期間に分割して支給されるというほどの意味を有するに過ぎないものと認めるのが当然であり、また、右期間中の仕事の成果が次期の給与額に直接自動的に影響を及ぼすことも否定し得ないところである。それ故、右各項目の給与は、上告人らが勤務に服した時間の長短を基準として決定された面が全然ないとはいえないにしても、その実質は、むしろ、本件ストライキの行なわれた昭和三二年六月以前における上告人らの募集、集金の成果に比例して決定されたものであつて、純然たる能率給であるかどうかは格別、少なくとも、前記意義における固定給ではない、と認むべきである。もつとも、典型的な固定給の受給者と目されている一般労働者にあつても、日常の仕事の成績を考慮してその者の昇格、格下げが決定され、これに伴ない給与の増減が招来されることは疑いを容れないところであるが、この場合には、仕事の量によつて決定さるべき資格が給与そのものの級別ではなくして職務の内容に関するものであることを看過してはならないのであつて、単に仕事の成績が給与の額に影響を及ぼすの一事をもつて、右両者の間に存する給与決定上の本質的相違を無視することは許されないものといわなければならない。
しかるに、原審が、前叙のごとく、勤務時間拘束の制度が仕事の成果に応ずる能率給の実を挙げるために設けられたものではなく、また所論諸項目の給与が一定の資格にとどまる間その期間中における募集、集金の成果と関係なく支給されるものであるということにのみ着目し、本件事案の程度では資格の昇格、格下げも勤務の質の向上または低下に伴なう昇給、減給と解して妨げないとして、たやすく、所論諸項目の給与を固定給と認め、ひいては被上告人会社が上告人らのストライキを理由として行なつた賃金の削減を違法でないと判断したことは、法令の解釈適用を誤つたか、審理不尽の違法に陥つたものというべく、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は、理由あるに帰し、原判決は、その余の上告理由について判断を加えるまでもなく、破棄を免れない。そして、本件につき、さらに審理を尽さしめる必要があるものと認め、これを原裁判所に差し戻すこととする。」
過去問・解説
(H18 司法 第4問 オ)
憲法第28条の趣旨からすると、正当な争議行為については、刑事責任を問われず、また、民事上の債務不履行ないし不法行為責任を免除されると解され、ストライキを行った場合、それが正当な争議行為であると認定されれば、当該ストライキ期間中の賃金についても使用者側に請求することができる。
憲法第28条の趣旨からすると、正当な争議行為については、刑事責任を問われず、また、民事上の債務不履行ないし不法行為責任を免除されると解され、ストライキを行った場合、それが正当な争議行為であると認定されれば、当該ストライキ期間中の賃金についても使用者側に請求することができる。
(正答) ✕
(解説)
明治生命保険相互会社事件判決(最判昭40.2.5)は、「ストライキによつて削減し得る意義における固定給とは、労働協約等に別段の定めがある場合等のほかは、拘束された勤務時間に応じて支払われる賃金としての性格を有するものであることを必要とし、単に支給金額が相当期間固定しているというだけでは足らず、また、もとより勤務した時間の長短にかかわらず完成された仕事の量に比例して支払わるべきものであつてはならないと解するのが相当である。」としている。