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憲法 厚木基地公害訴訟 最一小判平成5年2月25日
概要
自衛隊機の離着陸等の差止め及びその他の時間帯における航空機騒音の規制を民事上の請求として求めることは、不適法である。
判例
事案:厚木基地の周辺住民が、米軍機の離着陸から生じる騒音等に晒されているとして、毎日午後8時から午前8時までの自衛隊機及び米軍機の離着陸等の差止めとその他の時間の音量規制、過去及び差止実現までの損害賠償を求めた事案において、差止請求における訴えの適法性が問題となった。
判旨:「自衛隊機の運航については、自衛隊法107条1項、4項の規定により、航空機の航行の安全又は航空機の航行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定の適用が大幅に除外され、同条五項の規定により、防衛庁長官は、自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準、その航空機に乗り組んで運航に従事する者の技能に関する基準並びに自衛隊が設置する飛行場及び航空保安施設の設置及び管理に関する基準を定め、その他航空機による災害を防止し、公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならないものとされている。このことは、自衛隊機の運航の特殊性に応じて、その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るための規制を行う権限が、防衛庁長官に与えられていることを示すものである。
以上のように、防衛庁長官は、自衛隊に課せられた我が国の防衛等の任務の遂行のため自衛隊機の運航を統括し、その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るため必要な規制を行う権限を有するものとされているのであって、自衛隊機の運航は、このような防衛庁長官の権限の下において行われるものである。そして、自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音等の発生を伴うものであり、防衛庁長官は、右騒音等による周辺住民への影響にも配慮して自衛隊機の運航を規制し、統括すべきものである。しかし、自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であるから、自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使は、その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務づけるものといわなければならない。そうすると、右権限の行使は、右騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において、公権力の行使に当たる行為というべきである。
上告人らの本件自衛隊機の差止請求は、被上告人に対し、本件飛行場における一定の時間帯(毎日午後8時から翌日午前8時まで)における自衛隊機の離着陸等の差止め及びその他の時間帯(毎日午前8時から午後8時まで)における航空機騒音の規制を民事上の請求として求めるものである。しかしながら、右に説示したところに照らせば、このような請求は、必然的に防衛庁長官にゆだねられた前記のような自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるものといわなければならないから、行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることができるかはともかくとして、右差止請求は不適法というべきである。以上のとおりであるから、上告人らの本件自衛隊機の差止請求に係る訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。」
判旨:「自衛隊機の運航については、自衛隊法107条1項、4項の規定により、航空機の航行の安全又は航空機の航行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定の適用が大幅に除外され、同条五項の規定により、防衛庁長官は、自衛隊が使用する航空機の安全性及び運航に関する基準、その航空機に乗り組んで運航に従事する者の技能に関する基準並びに自衛隊が設置する飛行場及び航空保安施設の設置及び管理に関する基準を定め、その他航空機による災害を防止し、公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならないものとされている。このことは、自衛隊機の運航の特殊性に応じて、その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るための規制を行う権限が、防衛庁長官に与えられていることを示すものである。
以上のように、防衛庁長官は、自衛隊に課せられた我が国の防衛等の任務の遂行のため自衛隊機の運航を統括し、その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るため必要な規制を行う権限を有するものとされているのであって、自衛隊機の運航は、このような防衛庁長官の権限の下において行われるものである。そして、自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音等の発生を伴うものであり、防衛庁長官は、右騒音等による周辺住民への影響にも配慮して自衛隊機の運航を規制し、統括すべきものである。しかし、自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であるから、自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使は、その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務づけるものといわなければならない。そうすると、右権限の行使は、右騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において、公権力の行使に当たる行為というべきである。
上告人らの本件自衛隊機の差止請求は、被上告人に対し、本件飛行場における一定の時間帯(毎日午後8時から翌日午前8時まで)における自衛隊機の離着陸等の差止め及びその他の時間帯(毎日午前8時から午後8時まで)における航空機騒音の規制を民事上の請求として求めるものである。しかしながら、右に説示したところに照らせば、このような請求は、必然的に防衛庁長官にゆだねられた前記のような自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるものといわなければならないから、行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることができるかはともかくとして、右差止請求は不適法というべきである。以上のとおりであるから、上告人らの本件自衛隊機の差止請求に係る訴えを不適法として却下すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。」
過去問・解説
(H19 司法 第13問 イ)
最高裁判所は、自衛隊機の離着陸の差止めが求められた訴訟において、当該飛行場の設置及び航空機の配備・運用が違法か否かは、自衛隊の組織・活動の合法性に関する判断に左右されるのであるから、主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度に政治的な問題であり、純司法的な機能を使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまず、法律上の争訟に当たらないと判示した。
最高裁判所は、自衛隊機の離着陸の差止めが求められた訴訟において、当該飛行場の設置及び航空機の配備・運用が違法か否かは、自衛隊の組織・活動の合法性に関する判断に左右されるのであるから、主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係を持つ高度に政治的な問題であり、純司法的な機能を使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまず、法律上の争訟に当たらないと判示した。
(正答) ✕
(解説)
厚木基地公害訴訟判決(最判平5.2.25)は、自衛隊機の離着陸の差止めが求められた訴訟について、「このような請求は、必然的に防衛庁長官にゆだねられた前記のような自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるものといわなければならない」との理由で不適法であると解しており、統治行為論には言及していない。