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憲法 全逓東京中郵事件 最大判昭和41年10月26日

概要
公務員の争議行為を禁止する公共企業等労働関係法第17条1項は、憲法28条に違反しない。
判例
事案:全逓信労働組合の役員であった被告人らは、春季闘争の際、東京中央郵便局の多数の従業員に対して、勤務時間内に食い込む職場大会に参加するように説得し、38名の従業員を職場から離脱させ、郵便物不取扱罪(郵便法79条1項)の教唆罪で起訴された事案において、公務員の争議行為を禁止する公共企業等労働関係法第17条1項が憲法28条に違反するかが問題となった。

判旨:「一 憲法28条は、いわゆる労働基本権、すなわち、勤労者の団結する権利および団体交渉その他の団体行動をする権利を保障している。この労働基本権の保障の狙いは、憲法25条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立ち、一方で、憲法27条の定めるところによつて、勤労の権利および勤労条件を保障するとともに、他方で、憲法28条の定めるところによつて、経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するための手段として、その団結権、団体交渉権、争議権等を保障しようとするものである。
 このように、憲法自体が労働基本権を保障している趣旨にそくして考えれば、実定法規によつて労働基本権の制限を定めている場合にも、労働基本権保障の根本精神にそくしてその制限の意味を考察すべきであり、ことに生存権の保障を基本理念とし、財産権の保障と並んで勤労者の労働権・団結権・団体交渉権・争議権の保障をしている法体制のもとでは、これら両者の間の調和と均衡が保たれるように、実定法規の適切妥当な法解釈をしなければならない。
 右に述べた労働基本権は、たんに私企業の労働者だけについて保障されるのではなく、公共企業体の職員はもとよりのこと、国家公務員や地方公務員も、憲法28条にいう勤労者にほかならない以上、原則的には、その保障を受けるべきものと解される。「公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」とする憲法15条を根拠として、公務員に対して右の労働基本権をすべて否定するようなことは許されない。ただ、公務員またはこれに準ずる者については、後に述べるように、その担当する職務の内容に応じて、私企業における労働者と異なる制約を内包しているにとどまると解すべきである。」
「二 …右に述べたように、勤労者の団結権・団体交渉権・争議権等の労働基本権は、すべての勤労者に通じ、その生存権保障の理念に基づいて憲法28条の保障するところであるが、これらの権利であつても、もとより、何らの制約も許されない絶対的なものではないのであつて、国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当然の内在的制約として内包しているものと解釈しなければならない。しかし、具体的にどのような制約が合憲とされるかについては、諸般の条件、ことに左の諸点を考慮に入れ、慎重に決定する必要がある。
(1)労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つことを目途として決定すべきであるが、労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮すれば、その制限は、合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければならない。
(2)労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の性質が公共性の強いものであり、したがつてその職務または業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれのあるものについて、これを避けるために必要やむを得ない場合について考慮されるべきである。
(3)労働基本権の制限違反に伴う法律効果、すなわち、違反者に対して課せられる不利益については、必要な限度をこえないように、十分な配慮がなされなければならない。とくに、勤労者の争議行為等に対して刑事制裁を科することは、必要やむを得ない場合に限られるべきであり、同盟罷業、怠業のような単純な不作為を刑罰の対象とするについては、特別に慎重でなければならない。けだし、現行法上、契約上の債務の単なる不履行は、債務不履行の問題として、これに契約の解除、損害賠償責任等の民事的法律効果が伴うにとどまり、刑事上の問題としてこれに刑罰が科せられないのが原則である。このことは、人権尊重の近代的思想からも、刑事制裁は反社会性の強いもののみを対象とすべきであるとの刑事政策の理想からも、当然のことにほかならない。それは債務が雇傭契約ないし労働契約上のものである場合でも異なるところがなく、労務者がたんに労務を供給せず(罷業)もしくは不完全にしか供給しない(怠業)ことがあつても、それだけでは、一般的にいつて、刑事制裁をもつてこれに臨むべき筋合ではない。
(4)職務または業務の性質上からして、労働基本権を制限することがやむを得ない場合には、これに見合う代償措置が講ぜられなければならない。
 以上に述べたところは、労働基本権の制限を目的とする法律を制定する際に留意されなければならないばかりでなく、すでに制定されている法律を解釈適用するに際しても、十分に考慮されなければならない。」
「三 …略…」
「四 右のような経過をたどつてきた現行の公労法の規定について検討するに、その17条1項は、いわゆる五現業および三公社の業務に従事する職員およびその組合は、公共企業体等に対して同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができないこと、また、右職員ならびに組合の組合員および役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、もしくはあおつてはならないことを規定している。この規定は、職員等の行為がたんなる債務不履行またはそれをそそのかす等の行為であつても、それが業務の正常な運営を阻害するものであるかぎり、これを違法とするものであつて、その意味で憲法28条の保障する争議権を制限するものであることは明らかである。
 上告趣意は、公労法17条1項の規定が憲法28条および18条に違反して無効であるという。しかし、右の規定が憲法の右の法条に違反するものでないことは、すでに当裁判所の判例とするところであり(前者については、昭和26年(あ)第1688号同30年6月22日大法廷判決、刑集9巻8号1189頁、後者については、昭和24年(れ)第685号同28年4月8日大法廷判決、刑集7巻4号775頁)、公労法17条1項の規定が違憲でないとする結論そのものについては、今日でも変更の必要を認めない。その理由をすこし詳しく述べると、つぎのとおりである。
 憲法28条の保障する労働基本権は、さきに述べたように、何らの制約も許されない絶対的なものではなく、国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当然に内包しているものと解すべきである。いわゆる五現業および三公社の職員の行なう業務は、多かれ少なかれ、また、直接と間接との相違はあつても、等しく国民生活全体の利益と密接な関連を有するものであり、その業務の停廃が国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは疑いをいれない。他の業務はさておき、本件の郵便業務についていえば、その業務が独占的なものであり、かつ、国民生活全体との関連性がきわめて強いから、業務の停廃は国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあるなど、社会公共に及ぼす影響がきわめて大きいことは多言を要しない。それ故に、その業務に従事する郵政職員に対してその争議行為を禁止する規定を設け、その禁止に違反した者に対して不利益を課することにしても、その不利益が前に述べた基準に照らして必要な限度をこえない合理的なものであるかぎり、これを違憲無効ということはできない。
 この観点から公労法17条1項の定める争議行為の禁止の違反に対する制裁をみるに、公労法18条は、同17条に違反する行為をした職員は解雇されると規定し、同3条は、公共企業体等の職員に関する労働関係について、労組法の多くの規定を適用することとしながら、労働組合または組合員の損害賠償責任に関する労組法8条の規定をとくに除外するとしている。争議行為禁止違反が違法であるというのは、これらの民事責任を免れないとの意味においてである。そうして、このような意味で争議行為を禁止することについてさえも、その代償として、右の職員については、公共企業体等との紛争に関して、公共企業体等労働委員会によるあつせん、調停および仲裁の制度を設け、ことに、公益委員をもつて構成される仲裁委員会のした仲裁裁定は、労働協約と同一の効力を有し、当事者双方を拘束するとしている。そうしてみれば、公労法17条1項に違反した者に対して、右のような民事責任を伴う争議行為の禁止をすることは、憲法28条、18条に違反するものでないこと疑いをいれない。」
過去問・解説
(H19 司法 第11問 イ)
公共企業体等労働関係法における争議権規制の合憲性が争われた全逓東京中郵事件判決(最大判昭和41年10月26日)において、最高裁判所は、公務員の労働基本権を原則として保障し、比較衡量論に基づき、その制限が著しく合理性を欠き、立法府の裁量を明らかに逸脱しているか否かにより合憲性を判断するアプローチを採用した。

(正答)  

(解説)
全逓東京中郵事件判決(最大判昭41.10.26)は、「労働基本権の制限は、労働基本権を尊重確保する必要と国民生活全体の利益を維持増進する必要とを比較衡量して、両者が適正な均衡を保つことを目途として決定すべきてあるが、労働基本権が勤労者の生存権に直結し、それを保障するための重要な手段である点を考慮すれば、その制限は、合理性の認められる必要最小限度のものにとどめなければならない」としており、合憲性判断について、立法府に広い裁量を認めているとはいえない。
総合メモ
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