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憲法 大阪市売春取締条例事件 最大判昭和37年5月30日
概要
①条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。そうしてみれば、地方自治法2条3項7号及び1号のように相当に具体的な内容の事項につき、同法14条5項のように限定された刑罰の範囲内において、条例をもって罰則を定めた場合、当該条例における罰則規定は、憲法31条に違反するものではない。
②地方自治法第14条第5項に基づく昭和25年大阪市条例第68号「街路等における売春勧誘行為等の取締条例」における罰則規定は、憲法31条に違反するものではない。
②地方自治法第14条第5項に基づく昭和25年大阪市条例第68号「街路等における売春勧誘行為等の取締条例」における罰則規定は、憲法31条に違反するものではない。
判例
事案:条例による罰則の設定について、罪刑法定主義を定める憲法31条及び命令への罰則の一般的委任を禁止する憲法73条6号但書に違反するかが問題となった。
判旨:「わが憲法の下における社会生活の法的規律は、通常、基本的なそして全国にわたり劃一的効力を持つ法律によつてなされるが、中には各地方の自然的ないし社会的状態に応じその地方の住民自身の理想に従つた規律をさせるためこれを各地方公共団体の自治に委ねる方が一層民主主義的かつ合目的的なものもあり、また、ときには、いずれの方法によつて規律しても差支えないものもあるので、憲法は、地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定めるべく(憲法92条)、これに議会を設置し、その議員、地方公共団体の長等は、その住民が直接これを選挙すべきもの(同93条)と定めた上、地方公共団体は、その事務を処理し行政を執行する等の権能を有するほか、法律の範囲内で条例を制定することができる旨を定めたのである(同94条)…。すなわち、地方公共団体の制定する条例は、憲法が特に民主主義政治組織の欠くべからざる構成として保障する地方自治の本旨に基づき(同92条)、直接憲法94条により法律の範囲内において制定する権能を認められた自治立法に外ならない。従つて条例を制定する権能もその効力も法律の認める範囲を越えることはできないけれども、法律の範囲内にあるかぎり、条例はその効力を有するものといわなければならない…。
憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によつてそれ以下の法令によつて定めることもできると解すべきで、このことは憲法73条6号但書によつても明らかである。ただ、法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであつてはならないことは、いうまでもない。ところで、地方自治法2条に規定された事項のうちで、本件に関係のあるのは3項7号及び1号に挙げられた事項であるが、これらの事項は相当に具体的な内容のものであるし、同法14条5項による罰則の範囲も限定されている。しかも、条例は、法律以下の法令といつても、上述のように、公選の議員をもつて組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であつて、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもつて組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。そうしてみれば、地方自治法2条3項7号及び1号のように相当に具体的な内容の事項につき、同法14条5項のように限定された刑罰の範囲内において、条例をもつて罰則を定めることがてきるとしたのは、憲法31条の意味において法律の定める手続によつて刑罰を科するものということができるのであつて、所論のように同条に違反するとはいえない。従つて地方自治法14条5項に基づく本件条例の右条項も憲法同条に違反するものということができない。
第一審判決認定事実に適用され原審が合憲合法とした条例は、昭和25年12月1日公布施行にかかる大阪市条例第68号街路等における売春勧誘行為等の取締条例(以下本件条例という)2条1項であつて、右条項は、売春の目的で街路その他公の場所において他人の身辺につきまとい又は誘う行為に対し5000円以下の罰金又は拘留に処すべき旨を規定するのであるところ、地方自治法2条2項、3項は風俗又は清潔を汚す行為の制限その他の保健衛生、風俗のじゆん化に関する事項を処理すること(同3項7号)ならびに、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること(同項1号)が普通地方公共団体(以下地方公共団体という)の処理する行政事務に属する旨を明定するとともに、同法14条1項、五項は、地方公共団体は法令に特別の定があるものを除く外、その条例中に、条例違反者に対し2年以下の懲役若しくは禁錮、10万円以下の罰金、拘留、科料又は没収の刑を科する旨の規定を設けることができると定めており、被告人の本件行為当時本件条例2条1項所定の事項に関し法令に特別の定がなかつたことは明らかである。
論旨は、右地方自治法14条1項、5項が法令に特別の定があるものを除く外、その条例中に条例違反者に対し前示の如き刑を科する旨の規定を設けることができるとしたのは、その授権の範囲が不特定かつ抽象的で具体的に特定されていない結果一般に条例でいかなる事項についても罰則を付することが可能となり罪刑法定主義を定めた憲法31条に違反する、と主張する。
しかし、憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によつてそれ以下の法令によつて定めることもできると解すべきで、このことは憲法73条6号但書によつても明らかである。ただ、法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであつてはならないことは、いうまでもない。ところで、地方自治法2条に規定された事項のうちで、本件に関係のあるのは3項7号及び1号に挙げられた事項であるが、これらの事項は相当に具体的な内容のものであるし、同法14条5項による罰則の範囲も限定されている。しかも、条例は、法律以下の法令といつても、上述のように、公選の議員をもつて組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であつて、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもつて組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。そうしてみれば、地方自治法2条3項7号及び1号のように相当に具体的な内容の事項につき、同法14条5項のように限定された刑罰の範囲内において、条例をもつて罰則を定めることができるとしたのは、憲法31条の意味において法律の定める手続によつて刑罰を科するものということができるのであつて、所論のように同条に違反するとはいえない。従つて地方自治法14条5項に基づく本件条例の右条項も憲法同条に違反するものということができない。」
判旨:「わが憲法の下における社会生活の法的規律は、通常、基本的なそして全国にわたり劃一的効力を持つ法律によつてなされるが、中には各地方の自然的ないし社会的状態に応じその地方の住民自身の理想に従つた規律をさせるためこれを各地方公共団体の自治に委ねる方が一層民主主義的かつ合目的的なものもあり、また、ときには、いずれの方法によつて規律しても差支えないものもあるので、憲法は、地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定めるべく(憲法92条)、これに議会を設置し、その議員、地方公共団体の長等は、その住民が直接これを選挙すべきもの(同93条)と定めた上、地方公共団体は、その事務を処理し行政を執行する等の権能を有するほか、法律の範囲内で条例を制定することができる旨を定めたのである(同94条)…。すなわち、地方公共団体の制定する条例は、憲法が特に民主主義政治組織の欠くべからざる構成として保障する地方自治の本旨に基づき(同92条)、直接憲法94条により法律の範囲内において制定する権能を認められた自治立法に外ならない。従つて条例を制定する権能もその効力も法律の認める範囲を越えることはできないけれども、法律の範囲内にあるかぎり、条例はその効力を有するものといわなければならない…。
憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によつてそれ以下の法令によつて定めることもできると解すべきで、このことは憲法73条6号但書によつても明らかである。ただ、法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであつてはならないことは、いうまでもない。ところで、地方自治法2条に規定された事項のうちで、本件に関係のあるのは3項7号及び1号に挙げられた事項であるが、これらの事項は相当に具体的な内容のものであるし、同法14条5項による罰則の範囲も限定されている。しかも、条例は、法律以下の法令といつても、上述のように、公選の議員をもつて組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であつて、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもつて組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。そうしてみれば、地方自治法2条3項7号及び1号のように相当に具体的な内容の事項につき、同法14条5項のように限定された刑罰の範囲内において、条例をもつて罰則を定めることがてきるとしたのは、憲法31条の意味において法律の定める手続によつて刑罰を科するものということができるのであつて、所論のように同条に違反するとはいえない。従つて地方自治法14条5項に基づく本件条例の右条項も憲法同条に違反するものということができない。
第一審判決認定事実に適用され原審が合憲合法とした条例は、昭和25年12月1日公布施行にかかる大阪市条例第68号街路等における売春勧誘行為等の取締条例(以下本件条例という)2条1項であつて、右条項は、売春の目的で街路その他公の場所において他人の身辺につきまとい又は誘う行為に対し5000円以下の罰金又は拘留に処すべき旨を規定するのであるところ、地方自治法2条2項、3項は風俗又は清潔を汚す行為の制限その他の保健衛生、風俗のじゆん化に関する事項を処理すること(同3項7号)ならびに、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること(同項1号)が普通地方公共団体(以下地方公共団体という)の処理する行政事務に属する旨を明定するとともに、同法14条1項、五項は、地方公共団体は法令に特別の定があるものを除く外、その条例中に、条例違反者に対し2年以下の懲役若しくは禁錮、10万円以下の罰金、拘留、科料又は没収の刑を科する旨の規定を設けることができると定めており、被告人の本件行為当時本件条例2条1項所定の事項に関し法令に特別の定がなかつたことは明らかである。
論旨は、右地方自治法14条1項、5項が法令に特別の定があるものを除く外、その条例中に条例違反者に対し前示の如き刑を科する旨の規定を設けることができるとしたのは、その授権の範囲が不特定かつ抽象的で具体的に特定されていない結果一般に条例でいかなる事項についても罰則を付することが可能となり罪刑法定主義を定めた憲法31条に違反する、と主張する。
しかし、憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によつてそれ以下の法令によつて定めることもできると解すべきで、このことは憲法73条6号但書によつても明らかである。ただ、法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであつてはならないことは、いうまでもない。ところで、地方自治法2条に規定された事項のうちで、本件に関係のあるのは3項7号及び1号に挙げられた事項であるが、これらの事項は相当に具体的な内容のものであるし、同法14条5項による罰則の範囲も限定されている。しかも、条例は、法律以下の法令といつても、上述のように、公選の議員をもつて組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であつて、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもつて組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。そうしてみれば、地方自治法2条3項7号及び1号のように相当に具体的な内容の事項につき、同法14条5項のように限定された刑罰の範囲内において、条例をもつて罰則を定めることができるとしたのは、憲法31条の意味において法律の定める手続によつて刑罰を科するものということができるのであつて、所論のように同条に違反するとはいえない。従つて地方自治法14条5項に基づく本件条例の右条項も憲法同条に違反するものということができない。」
過去問・解説
(H21 司法 第18問 イ)
憲法第94条により、地方公共団体が条例を制定するには法律の根拠を必要とする。条例制定権の一般的な根拠を提供するのが「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる」と規定する地方自治法第14条第1項の規定である。
憲法第94条により、地方公共団体が条例を制定するには法律の根拠を必要とする。条例制定権の一般的な根拠を提供するのが「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる」と規定する地方自治法第14条第1項の規定である。
(正答) ✕
(解説)
大阪市売春取締条例事件判決(最大判昭37.5.30)は、「条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。」と述べ、条例によって刑罰を定める場合には法律の根拠が必要であるとしている。しかし、「地方公共団体の制定する条例は、憲法が特に民主主義政治組織の欠くべからざる構成として保障する地方自治の本旨に基づき(同92条)、直接憲法94条により法律の範囲内において制定する権能を認められた自治立法に外ならない。」と述べており、これは、地方公共団体の条例制定権は憲法94条を直接の根拠とするものであることを意味している。
(H21 司法 第18問 ウ)
憲法第31条により刑罰及びこれを科す手続は「法律」で定める必要があるが、この「法律」には、法律に限らず、その授権を受けた下位法令も含まれる。そして、条例は住民の代表である議会が制定する自主立法として法律に類するから、法律が相当程度具体的に限定して授権している場合には、条例により刑罰及びこれを科す手続を定めることができる。
憲法第31条により刑罰及びこれを科す手続は「法律」で定める必要があるが、この「法律」には、法律に限らず、その授権を受けた下位法令も含まれる。そして、条例は住民の代表である議会が制定する自主立法として法律に類するから、法律が相当程度具体的に限定して授権している場合には、条例により刑罰及びこれを科す手続を定めることができる。
(正答) ✕
(解説)
大阪市売春取締条例事件判決(最大判昭37.5.30)は、「条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。」としており、「条例により刑罰…を科す手続を定めることができる」(本肢)とまでは述べていない。
(H27 司法 第20問 イ)
憲法上の条例制定権は当然には罰則制定権を含まず、刑罰権設定は本来国家事務であり、条例中に罰則を設けるには法律の授権が必要であるが、条例は、行政府の命令と異なり、民主的立法であり実質的に法律に準ずるもので、条例への罰則の委任は一般的・包括的委任で足りる。
憲法上の条例制定権は当然には罰則制定権を含まず、刑罰権設定は本来国家事務であり、条例中に罰則を設けるには法律の授権が必要であるが、条例は、行政府の命令と異なり、民主的立法であり実質的に法律に準ずるもので、条例への罰則の委任は一般的・包括的委任で足りる。
(正答) ✕
(解説)
大阪市売春取締条例事件判決(最大判昭37.5.30)は、「法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであつてはならないことは、いうまでもない。」とした上で、「条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。」としているから、条例への罰則の委任は一般的・包括的委任では足りない。
(R4 司法 第19問 イ)
条例は、公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、国民の公選した議員をもって組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によって刑罰を定める場合、法律による条例への委任は、一般的・包括的委任で足りる。
条例は、公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、国民の公選した議員をもって組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によって刑罰を定める場合、法律による条例への委任は、一般的・包括的委任で足りる。
(正答) ✕
(解説)
大阪市売春取締条例事件判決(最大判昭37.5.30)は、「法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであつてはならないことは、いうまでもない。」とした上で、「条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。」としているから、条例への罰則の委任は一般的・包括的委任では足りない。
(R6 司法 第18問 イ)
次の対話は、地方自治に関する教授と学生の対話である。教授の質問に対する学生の回答は正しいか。
教授.条例によって罰則を設けることは、罪刑法定主義との関係で問題はないでしょうか。また、 条例によって罰則を設けることができるとした場合、その罰則には、法律上、何らかの制限は課されているでしょうか。
学生.条例は、住民の代表機関である地方公共団体の議会の議決によって成立する民主的な立法であり、実質的には法律に準ずるものといえますから、条例によって罰則を設けることはできますし、その罰則には、法律上、特段の制限は課されていません。
次の対話は、地方自治に関する教授と学生の対話である。教授の質問に対する学生の回答は正しいか。
教授.条例によって罰則を設けることは、罪刑法定主義との関係で問題はないでしょうか。また、 条例によって罰則を設けることができるとした場合、その罰則には、法律上、何らかの制限は課されているでしょうか。
学生.条例は、住民の代表機関である地方公共団体の議会の議決によって成立する民主的な立法であり、実質的には法律に準ずるものといえますから、条例によって罰則を設けることはできますし、その罰則には、法律上、特段の制限は課されていません。
(正答) ✕
(解説)
大阪市売春取締条例事件判決(最大判昭37.5.30)は、「条例は、法律以下の法令といっても、…公選の議員をもつて組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であつて、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもつて組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものである」との理由から、「条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。」としている。しかし他方で、「条例を制定する権能もその効力も法律の認める範囲を越えることはできないけれども、法律の範囲内にあるかぎり、条例はその効力を有するものといわなければならない…。」としているから、条例によって罰則を定める場合には勿論、「法律の範囲内」(憲法94条)という制限が課される。