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憲法 特別区区長公選廃止事件 最大判昭和38年3月27日
概要
東京都の特別区の長の公選制を廃止した地方自治法281条の2第1項は、憲法93条2項に違反するものではない。
判例
事案:東京都の特別区の長の公選制を廃止した地方自治法281条の2第1項が憲法93条2項に違反するかが争われ、これに関連して、東京都の特別区が憲法93条2項にいう「地方公共団体」に含まれるかが問題となった。
判旨:「憲法は、93条2項において「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙する。」と規定している。何がここにいう地方公共団体であるかについては、何ら明示するところはないが、憲法が特に一章を設けて地方自治を保障するにいたつた所以のものは、新憲法の基調とする政治民主化の一環として、住民の日常生活に密接な関連をもつ公共的事務は、その地方の住民の手でその住民の団体が主体となつて処理する政治形態を保障せんとする趣旨に出たものである。この趣旨に徴するときは、右の地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもつているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするものというべきである。そして、かかる実体を備えた団体である以上、その実体を無視して、憲法で保障した地方自治の権能を法律を以て奪うことは、許されないものと解するを相当とする。
ひるがえつて、東京都の特別区についてこれをみるに、区は、明治11年郡区町村編制法施行以来地方団体としての長い歴史と伝統を有するものではあるが、未だ市町村のごとき完全な自治体としての地位を有していたことはなく、そうした機能を果たしたこともなかつた。かつて地方自治制度確立に伴ない、区の法人格も認められたのであるが、依然として、区長は市長の任命にかかる市の有給吏員とされ、区は課税権、起債権、自治立法権を認められず、単にその財産および営造物に関する事務その他法令により区に属する事務を処理し得るにとどまり、殊に、日華事変以後区の自治権は次第に圧縮され、昭和18年7月施行の東京都制の下においては、全く都の下部機構たるに過ぎなかつたのである。
ところが、戦後昭和21年9月東京都制の一部改正により区は、従前の事務のほか法令の定めるところに従い区に属する事務を処理し(140条)、区条例、区規則の制定権、区税および分担金の賦課徴収権が認められ(143条、157条の3ないし5)、「区ニ区長ヲ置」き「区長ハ其ノ被選挙権アル者ニ就キ選挙人ヲシテ選挙セシメ其ノ者ニ就キ之ヲ任ズ」(151条の2)とのいわゆる区長公選制を採用することとなり、翌22年4月制定された地方自治法においても、特別区は「特別地方公共団体」とし、原則として市に関する規定が適用されることとなつた(283条、附則17条)。しかし、これら法律の建前が特別区の事務、事業の上にそのまま実現されたわけでなく、政治の実際面においては、区長の公選が実施された程度で、その他は都制下におけるとさしたる変化はなく、特別区は区域内の住民に対して直接行政を執行するとはいえ、その範囲および権限において、市の場合とは著しく趣きを異にするところが少なくなかつた。このことは次に掲げる諸法律の規定に照らして、これを推認し得るに十分である。すなわち、地方自治法においても、都は条例で特別区について必要な規定を設けることができ(282条)、都知事は特別区に都吏員を配置することができることとした(同法施行令210条)ほか、同法附則2条により現に効力を有する東京都制191条の規定に基づき、都制時代に都が処理していた事務の多くのものが依然として都に留保されていた。また特別法の規定においても、法律上市に属する事務とされていながら、東京都にあつては、重要な公共事務が特別区の権限からはずされ或いは特別区全体を一つの対象として取扱い、都に市の性格と府県の性格とを併有せしめるものが、数多く認められる。その例として、警察法(昭和22年法律196号)51条、消防組織法(昭和22年法律26号)16条、地方自治施行令附則四条により適用を全面的に排除されている道路法(大正8年法律58号)および水道条例(明治23年法律9号)、児童福祉法(昭和22年法律164号)71条、教育委員会法(昭和23年法律170号)52条、地方自治法施行令(昭和22年政令16号)209条、地方財政平衡交付金法(昭和25年法律211号)21条1項等を挙げることができる。特に特別区の財政上の権能については、区は、前叙のごとく、昭和21年東京都制の一部改正により自主財政権が与えられ、独立して区税を賦課徴収し得ることとなつたにもかかわらず、同年の改正にかかる地方税法(昭和21年法律16号)においては、東京都の区は、ただ都の条例の定めるところにより都の課することできる税の全部または一部を区税として課することが認められているに過ぎず、さらに税目を起こして独立税を課する場合においても、都の同意を必要とする(85条の11、同条の12)と規定し、区を独立の課税権を有する地方団体としては取り扱わず、昭和25年の改正地方税法(同年法律226号)によつてもこの建前は変更されることなく(1条、734条ないし736条参照)、現在に及んでいる。かように、特別区は昭和21年9月都制の一部改正によつて自治権の拡充強化が図られたが、翌22年4月制定の地方自治法をはじめその他の法律によつてその自治権に重大な制約が加えられているのは、東京都の戦後における急速な経済の発展、文化の興隆と、住民の日常生活が、特別区の範囲を超えて他の地域に及ぶもの多く、都心と郊外の昼夜の人口差は次第に甚だしく、区の財源の偏在化も益々著しくなり、23区の存する地域全体にわたり統一と均衡と計画性のある大都市行政を実現せんとする要請に基づくものであつて、所詮、特別区が、東京都という市の性格をも併有した独立地方公共団体の一部を形成していることに基因するものというべきである。
しかして、特別区の実体が右のごときものである以上、特別区は、その長の公選制が法律によつて認められていたとはいえ、憲法制定当時においてもまた昭和27年8月地方自治法改正当時においても、憲法93条2項の地方公共団体と認めることはできない。従つて、改正地方自治法が右公選制を廃止し、これに代えて、区長は特別区の議会の議員の選挙権を有する者で年齢25年以上のものの中から特別区の議会が都知事の同意を得て選任するという方法を採用したからといつて、それは立法政策の問題にほかならず、憲法93条2項に違反するものということはできない。
されば、原判決が特別区の長の公選制を廃止した地方自治法281条の2第1項は憲法93条2項に違反して無効であると判示したのは、憲法の右条項の解釈を誤つた違法があり、論旨は理由あるに帰し、原判決は到底破棄を免かれない。」
判旨:「憲法は、93条2項において「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙する。」と規定している。何がここにいう地方公共団体であるかについては、何ら明示するところはないが、憲法が特に一章を設けて地方自治を保障するにいたつた所以のものは、新憲法の基調とする政治民主化の一環として、住民の日常生活に密接な関連をもつ公共的事務は、その地方の住民の手でその住民の団体が主体となつて処理する政治形態を保障せんとする趣旨に出たものである。この趣旨に徴するときは、右の地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもつているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするものというべきである。そして、かかる実体を備えた団体である以上、その実体を無視して、憲法で保障した地方自治の権能を法律を以て奪うことは、許されないものと解するを相当とする。
ひるがえつて、東京都の特別区についてこれをみるに、区は、明治11年郡区町村編制法施行以来地方団体としての長い歴史と伝統を有するものではあるが、未だ市町村のごとき完全な自治体としての地位を有していたことはなく、そうした機能を果たしたこともなかつた。かつて地方自治制度確立に伴ない、区の法人格も認められたのであるが、依然として、区長は市長の任命にかかる市の有給吏員とされ、区は課税権、起債権、自治立法権を認められず、単にその財産および営造物に関する事務その他法令により区に属する事務を処理し得るにとどまり、殊に、日華事変以後区の自治権は次第に圧縮され、昭和18年7月施行の東京都制の下においては、全く都の下部機構たるに過ぎなかつたのである。
ところが、戦後昭和21年9月東京都制の一部改正により区は、従前の事務のほか法令の定めるところに従い区に属する事務を処理し(140条)、区条例、区規則の制定権、区税および分担金の賦課徴収権が認められ(143条、157条の3ないし5)、「区ニ区長ヲ置」き「区長ハ其ノ被選挙権アル者ニ就キ選挙人ヲシテ選挙セシメ其ノ者ニ就キ之ヲ任ズ」(151条の2)とのいわゆる区長公選制を採用することとなり、翌22年4月制定された地方自治法においても、特別区は「特別地方公共団体」とし、原則として市に関する規定が適用されることとなつた(283条、附則17条)。しかし、これら法律の建前が特別区の事務、事業の上にそのまま実現されたわけでなく、政治の実際面においては、区長の公選が実施された程度で、その他は都制下におけるとさしたる変化はなく、特別区は区域内の住民に対して直接行政を執行するとはいえ、その範囲および権限において、市の場合とは著しく趣きを異にするところが少なくなかつた。このことは次に掲げる諸法律の規定に照らして、これを推認し得るに十分である。すなわち、地方自治法においても、都は条例で特別区について必要な規定を設けることができ(282条)、都知事は特別区に都吏員を配置することができることとした(同法施行令210条)ほか、同法附則2条により現に効力を有する東京都制191条の規定に基づき、都制時代に都が処理していた事務の多くのものが依然として都に留保されていた。また特別法の規定においても、法律上市に属する事務とされていながら、東京都にあつては、重要な公共事務が特別区の権限からはずされ或いは特別区全体を一つの対象として取扱い、都に市の性格と府県の性格とを併有せしめるものが、数多く認められる。その例として、警察法(昭和22年法律196号)51条、消防組織法(昭和22年法律26号)16条、地方自治施行令附則四条により適用を全面的に排除されている道路法(大正8年法律58号)および水道条例(明治23年法律9号)、児童福祉法(昭和22年法律164号)71条、教育委員会法(昭和23年法律170号)52条、地方自治法施行令(昭和22年政令16号)209条、地方財政平衡交付金法(昭和25年法律211号)21条1項等を挙げることができる。特に特別区の財政上の権能については、区は、前叙のごとく、昭和21年東京都制の一部改正により自主財政権が与えられ、独立して区税を賦課徴収し得ることとなつたにもかかわらず、同年の改正にかかる地方税法(昭和21年法律16号)においては、東京都の区は、ただ都の条例の定めるところにより都の課することできる税の全部または一部を区税として課することが認められているに過ぎず、さらに税目を起こして独立税を課する場合においても、都の同意を必要とする(85条の11、同条の12)と規定し、区を独立の課税権を有する地方団体としては取り扱わず、昭和25年の改正地方税法(同年法律226号)によつてもこの建前は変更されることなく(1条、734条ないし736条参照)、現在に及んでいる。かように、特別区は昭和21年9月都制の一部改正によつて自治権の拡充強化が図られたが、翌22年4月制定の地方自治法をはじめその他の法律によつてその自治権に重大な制約が加えられているのは、東京都の戦後における急速な経済の発展、文化の興隆と、住民の日常生活が、特別区の範囲を超えて他の地域に及ぶもの多く、都心と郊外の昼夜の人口差は次第に甚だしく、区の財源の偏在化も益々著しくなり、23区の存する地域全体にわたり統一と均衡と計画性のある大都市行政を実現せんとする要請に基づくものであつて、所詮、特別区が、東京都という市の性格をも併有した独立地方公共団体の一部を形成していることに基因するものというべきである。
しかして、特別区の実体が右のごときものである以上、特別区は、その長の公選制が法律によつて認められていたとはいえ、憲法制定当時においてもまた昭和27年8月地方自治法改正当時においても、憲法93条2項の地方公共団体と認めることはできない。従つて、改正地方自治法が右公選制を廃止し、これに代えて、区長は特別区の議会の議員の選挙権を有する者で年齢25年以上のものの中から特別区の議会が都知事の同意を得て選任するという方法を採用したからといつて、それは立法政策の問題にほかならず、憲法93条2項に違反するものということはできない。
されば、原判決が特別区の長の公選制を廃止した地方自治法281条の2第1項は憲法93条2項に違反して無効であると判示したのは、憲法の右条項の解釈を誤つた違法があり、論旨は理由あるに帰し、原判決は到底破棄を免かれない。」
過去問・解説
(H27 司法 第20問 ア)
憲法上の「地方公共団体」とは、沿革的に見ても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等、地方自治の基本的権能を付与された地域団体であれば足り、共同体意識を持っているという社会的基盤が存在する必要はない。
憲法上の「地方公共団体」とは、沿革的に見ても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等、地方自治の基本的権能を付与された地域団体であれば足り、共同体意識を持っているという社会的基盤が存在する必要はない。
(正答) ✕
(解説)
特別区区長公選廃止事件判決(最大判昭38.3.27)は、「憲法…93条2項…の地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもつているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするものというべきである。」としており、「共同体意識をもつているという社会的基盤が存在」することも必要としている。
(H30 司法 第19問 ア)
「憲法が特に1章を設けて地方自治を保障するにいたったのは、新憲法の基調とする政治民主化の一環として、住民の日常生活に密接な関連をもつ公共的事務は、その地方の住民の手でその住民の団体が主体となって処理する政治形態を保障しようとする趣旨からである。この趣旨に徴するときは、憲法第93条第2項にいう地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもっているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするものというべきである。」
この判決は、憲法によって保障された地方自治がどのような性質を有するかという問題について、個人が国家に対して固有かつ不可侵の権利を持つのと同様に、地方公共団体もまた固有の前国家的な基本権を有するという立場に立つものである。
「憲法が特に1章を設けて地方自治を保障するにいたったのは、新憲法の基調とする政治民主化の一環として、住民の日常生活に密接な関連をもつ公共的事務は、その地方の住民の手でその住民の団体が主体となって処理する政治形態を保障しようとする趣旨からである。この趣旨に徴するときは、憲法第93条第2項にいう地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもっているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするものというべきである。」
この判決は、憲法によって保障された地方自治がどのような性質を有するかという問題について、個人が国家に対して固有かつ不可侵の権利を持つのと同様に、地方公共団体もまた固有の前国家的な基本権を有するという立場に立つものである。
(正答) ✕
(解説)
特別区区長公選廃止事件判決(最大判昭38.3.27)は、「憲法…93条2項…の地方公共団体といい得るためには、…現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするものというべきである。」としている。ここでは、地
(R6 司法 第18問 ウ)
次の対話は、地方自治に関する教授と学生の対話である。教授の質問に対する学生の回答は正しいか。
教授.最高裁判所の判例の趣旨に照らすと、ある地域団体が憲法第93条第2項の「地方公共団体」に該当するには、法律で地方公共団体として取り扱われていれば足りるでしょうか。また、もしそれでは足りないとすれば、他にどのような要件を満たす必要があるでしょうか。
学生.その地域団体が法律で地方公共団体として取り扱われていることに加え、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識を持っているという社会的基盤が存在するとの要件を満たせば、「地方公共団体」に該当し、その他の要件までは必要ありません。
次の対話は、地方自治に関する教授と学生の対話である。教授の質問に対する学生の回答は正しいか。
教授.最高裁判所の判例の趣旨に照らすと、ある地域団体が憲法第93条第2項の「地方公共団体」に該当するには、法律で地方公共団体として取り扱われていれば足りるでしょうか。また、もしそれでは足りないとすれば、他にどのような要件を満たす必要があるでしょうか。
学生.その地域団体が法律で地方公共団体として取り扱われていることに加え、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識を持っているという社会的基盤が存在するとの要件を満たせば、「地方公共団体」に該当し、その他の要件までは必要ありません。
(正答) ✕
(解説)
特別区区長公選廃止事件判決(最大判昭38.3.27)は、「憲法…93条2項…の地方公共団体といい得るためには、単に法律で地方公共団体として取り扱われているということだけでは足らず、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもつているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とするものというべきである。」としている。