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憲法 神奈川県臨時特例企業税事件 最大判平成25年3月21日
概要
①普通地方公共団体は、地方自治の不可欠の要素として、国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されている(憲法92条、94条参照)。
②普通地方公共団体が課することができる租税の税目・課税客体・課税標準・税率その他の事項については、憲法上、租税法律主義(憲法84条)の原則の下で、法律において地方自治の本旨を踏まえてその準則を定めることが予定されている。そのため、これらの事項について法律により準則が定められている場合には、普通地方公共団体の課税権は、これに従ってその範囲内で行使されなければならない。
③特例企業税を定める本件条例の規定は、地方税法の定める欠損金の繰越控除の適用を一部遮断することをその趣旨、目的とするもので、特例企業税の課税によって各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果を生ずる内容のものであり、各事業年度間の所得の金額と欠損金額の平準化を図り法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から欠損金の繰越控除の必要的な適用を定める同法の規定との関係において、その趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものであって、法人事業税に関する同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し、違法、無効である。
③特例企業税を定める本件条例の規定は、地方税法の定める欠損金の繰越控除の適用を一部遮断することをその趣旨、目的とするもので、特例企業税の課税によって各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果を生ずる内容のものであり、各事業年度間の所得の金額と欠損金額の平準化を図り法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から欠損金の繰越控除の必要的な適用を定める同法の規定との関係において、その趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものであって、法人事業税に関する同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し、違法、無効である。
判例
事案:地方税たる法人事業税の課税については前年度以前の欠損金額が繰越控除されるため、単年度黒字の法人であっても、神奈川県の行政サービスを享受しているにもかかわらず税負担を免れるものが出てきたため、神奈川県は、「外形標準課税が導入されるまでの間の臨時特例措置として、県の行政サービスを享受し、かつ当該事業年度において利益が発生していながら、欠損金の繰越控除により相応の税負担をしていない法人に対し、担税力に見合う一定の税負担を求める」趣旨で、条例により、地方税法4条3項に基づく法定外普通税として、一定の法人の事業活動に対し、法人事業税において繰越控除される欠損金額に相当する所得の金額を課税標準として、税率を2~3%とする臨時特例企業税を創設した。
判旨:「地方自治法14条1項は、普通地方公共団体は法令に違反しない限りにおいて同法1条1項の事務に関し条例を制定することができると規定しているから、普通地方公共団体の制定する条例が国の法令に違反する場合には効力を有しないことは明らかであるが、条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない(最高裁昭和48年(あ)第910号同50年9月10日大法廷判決・刑集19巻8号489頁)。
普通地方公共団体は、地方自治の本旨に従い、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有するものであり(憲法91条、94条)、その本旨に従ってこれらを行うためにはその財源を自ら調達する権能を有することが必要であることからすると、普通地方公共団体は、地方自治の不可欠の要素として、その区域内における当該普通地方公共団体の役務の提供等を受ける個人又は法人に対して国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されているものと解される。しかるところ、憲法は、普通地方公共団体の課税権の具体的内容について規定しておらず、普通地方公共団体の組織及び運営に関する事項は法律でこれを定めるものとし(91条)、普通地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができるものとしていること(94条)、さらに、租税の賦課については国民の税負担全体の程度や国と地方の間ないし普通地方公共団体相互間の財源の配分等の観点からの調整が必要であることに照らせば、普通地方公共団体が課することができる租税の税目、課税客体、課税標準、税率その他の事項については、憲法上、租税法律主義(84条)の原則の下で、法律において地方自治の本旨を踏まえてその準則を定めることが予定されており、これらの事項について法律において準則が定められた場合には、普通地方公共団体の課税権は、これに従ってその範囲内で行使されなければならない。
法人税法の規定する欠損金の繰越控除は、所得の金額の計算が人為的に設けられた期間である事業年度を区切りとして行われるため、複数の事業年度の通算では同額の所得の金額が発生している法人の間であっても、ある事業年度には所得の金額が発生し別の事業年度には欠損金額が発生した法人は、各事業年度に平均的に所得の金額が発生した法人よりも税負担が過重となる場合が生ずることから、各事業年度間の所得の金額と欠損金額を平準化することによってその緩和を図り、事業年度ごとの所得の金額の変動の大小にかかわらず法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から設けられた制度であると解される(最高裁昭和39年(行ツ)第31号同43年5月1日第一小法廷判決・民集11巻5号1067頁参照)。
…平成15年法改正前においては、法人事業税の課税標準は原則として各事業年度の所得によるものとされ(改正前地方税法71条の11)、その所得の計算につき、同法又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、当該各事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によって算定するものとされており(同法71条の14第1項本文)、平成15年法改正後においては、法人事業税の所得割の課税標準は各事業年度の所得によるものとされ(地方税法71条の1第1項1号イ、71条の11第1号ハ)、その所得の計算につき、上記と同様の例によって算定するものとされている(同法71条の13第1項本文)。また、平成15年法改正の前後を通じて、上記特別の定めとして条例等により欠損金の繰越控除の特例を設けることを許容するものと解される規定は存在しない。これらの点からすれば、法人税法の規定する欠損金の繰越控除は、平成15年法改正前においては法人事業税の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算について、平成15年法改正後においては法人事業税の所得割の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算について、いずれも必要的に適用すべきものとされていると解され、法人税法の規定の例により欠損金の繰越控除を定める地方税法の規定は、法人事業税に関する同法の強行規定であるというべきである。
このように、法人事業税の所得割の課税標準(平成15年法改正前は法人事業税の課税標準。以下同じ。)である各事業年度の所得の金額の計算においても、上記…と同様に、各事業年度間の所得の金額と欠損金額の平準化を図り、事業年度ごとの所得の金額の変動の大小にかかわらず法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から、地方税法の規定によって欠損金の繰越控除の必要的な適用が定められているものといえるのであり、このことからすれば、たとえ欠損金額の一部についてであるとしても、条例において同法の定める欠損金の繰越控除を排除することは許されず、仮に条例にこれを排除する内容の規定が設けられたとすれば、当該条例の規定は、同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し、違法、無効であるというべきである。」
過去問・解説
(H26 司法 第18問 ア)
租税の賦課は法律又は法律の定める条件によらなければならないが、条例は公選の議員で組織する議会の議決を経て制定される自治立法であるから、一定の範囲内で条例による租税の賦課徴収ができる。
租税の賦課は法律又は法律の定める条件によらなければならないが、条例は公選の議員で組織する議会の議決を経て制定される自治立法であるから、一定の範囲内で条例による租税の賦課徴収ができる。
(正答) 〇
(解説)
神奈川県臨時特例企業税事件判決(最大判平25.3.21)は、「普通地方公共団体は、地方自治の不可欠の要素として、その区域内における当該普通地方公共団体の役務の提供等を受ける個人又は法人に対して国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されているものと解される。」とした上で、「普通地方公共団体が課することができる租税の税目、課税客体、課税標準、税率その他の事項については、憲法上、租税法律主義(84条)の原則の下で、法律において地方自治の本旨を踏まえてその準則を定めることが予定されており、これらの事項について法律において準則が定められた場合には、普通地方公共団体の課税権は、これに従ってその範囲内で行使されなければならない。」としている。ここでは、地方公共団体がその課税権(及び条例制定権(憲法94条))に基づいて、一定の範囲内で条例による租税の賦課徴収ができると解されている。
(H27 司法 第20問 ウ)
地方公共団体は、地方自治の本旨に従い、その財産を管理し事務を処理し及び行政を執行する権能を有し、その遂行のためには、その財源を自ら調達する権能を有することが必要であるから、地方自治の不可欠の要素として、課税権の主体となることが憲法上予定されている。
地方公共団体は、地方自治の本旨に従い、その財産を管理し事務を処理し及び行政を執行する権能を有し、その遂行のためには、その財源を自ら調達する権能を有することが必要であるから、地方自治の不可欠の要素として、課税権の主体となることが憲法上予定されている。
(正答) 〇
(解説)
神奈川県臨時特例企業税事件判決(最大判平25.3.21)は、「普通地方公共団体は、地方自治の本旨に従い、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有するものであり(憲法91条、94条)、その本旨に従ってこれらを行うためにはその財源を自ら調達する権能を有することが必要であることからすると、普通地方公共団体は、地方自治の不可欠の要素として、その区域内における当該普通地方公共団体の役務の提供等を受ける個人又は法人に対して国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されているものと解される。」としている。
(R2 司法 第17問 イ)
判例によれば、憲法第84条に規定する租税法律主義の下では、地方公共団体が国とは別途に課税権の主体となることは憲法上予定されておらず、地方公共団体が条例により租税を賦課する場合には、租税の税目、課税客体、課税標準、税率等の事項について、法律で定められた具体的な準則に基づかなければならない。
判例によれば、憲法第84条に規定する租税法律主義の下では、地方公共団体が国とは別途に課税権の主体となることは憲法上予定されておらず、地方公共団体が条例により租税を賦課する場合には、租税の税目、課税客体、課税標準、税率等の事項について、法律で定められた具体的な準則に基づかなければならない。
(正答) ✕
(解説)
神奈川県臨時特例企業税事件判決(最大判平25.3.21)は、「普通地方公共団体は、地方自治の不可欠の要素として、その区域内における当該普通地方公共団体の役務の提供等を受ける個人又は法人に対して国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されているものと解される。」としている。
(R5 司法 第19問 ウ)
地方公共団体が、地方自治の本旨に従って、財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行するためには、その財源を自ら調達する権能が必要であるから、地方自治の不可欠の要素として、国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されており、租税の税目、課税客体、課税標準、税率等の事項について、法律で定められた具体的な準則に従う必要はない。
地方公共団体が、地方自治の本旨に従って、財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行するためには、その財源を自ら調達する権能が必要であるから、地方自治の不可欠の要素として、国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されており、租税の税目、課税客体、課税標準、税率等の事項について、法律で定められた具体的な準則に従う必要はない。
(正答) ✕
(解説)
神奈川県臨時特例企業税事件判決(最大判平25.3.21)は、「普通地方公共団体は、地方自治の本旨に従い、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有するものであり(憲法91条、94条)、その本旨に従ってこれらを行うためにはその財源を自ら調達する権能を有することが必要であることからすると、普通地方公共団体は、地方自治の不可欠の要素として、…国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されているものと解される。」とする一方で、「普通地方公共団体が課することができる租税の税目、課税客体、課税標準、税率その他の事項については、憲法上、租税法律主義(84条)の原則の下で、法律において地方自治の本旨を踏まえてその準則を定めることが予定されており、これらの事項について法律において準則が定められた場合には、普通地方公共団体の課税権は、これに従ってその範囲内で行使されなければならない。」としている。